国語施策・日本語教育

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次第 問題点整理委員会の審議について(報告)

福島会長

 前回の総会で御協議いただいたとおり,問題点整理委員会と漢字表委員会がそれぞれ発足して,審議を進めてこられたので,その御報告をお願いしたい。
 問題点整理委員会には,各方面から寄せられた意見を基に問題点を整理するという立場から,検討をしていただいたわけである。特に「目安」という問題について,従来の経緯等をお調べいただき,審議会としての共通理解を深める上で参考になるような考え方をまとめていただいたということである。両委員会の御報告を伺った上で,この問題を中心にお話し合いを願いたいと思う。
 それでは,問題点整理委員会の遠藤主査に御報告を願いたい。

遠藤主査

 ただいま福島会長からお話があったように,前回の総会での要請に従い,問題点整理委員会は,前後4回,そのうち1回は手続上のことで,実質3回の審議を行った。その審議の経過と,結論というか,総会への提案といったものをできるだけ要点をしぼって御報告申し上げたい。
 資料としては「『常用漢字表案』に関して寄せられた意見」を主として,議論の便宜上,問題を次のように四つの項目に分けて討論した。四つの項目というのは,ア漢字の字種,字数,音訓,字体等に関する問題,イ学校教育との関連についての問題,ウ人名用の漢字についての問題,エ表の性格,特に「目安」の意味についての問題である。
 まず,アの漢字の字種,字数,音訓,字体等に関する問題については,これは専門的な事項に属する問題であるので,総会で御審議をいただく前に,まず漢字表委員会で検討してもらうのがよいであろうということが,問題点整理委員会の一致した意見であった。その際に,そういうことであれば,前もって漢字表委員会に御了解を得ておくのがよいであろうということで,事務当局を通じて漢字表委員会の御了解を得るようにした。
 次に,イの学校教育との関連についてであるが,これは中間答申に「義務教育期間における漢字の指導については,……その扱いを別途の教育上の適切な措置にゆだねる。」としてある。いろいろ議論をしたが,この中間答申の考え方を変更する必要はないという点で,ほとんどの委員の意見が一致した。
 それは,学校教育用の漢字については,現に文部省の初等中等教育局に,教育用漢字調査研究協力者会議というものが設けられており,ここではある程度国語審議会の意向を考慮しながら審議が行われている模様である。しかもこの協力者会議の委員の3分の1以上が国語審議会委員であり,国語審議会の意向は,この教育用漢字調査研究協力者会議に相当反映されるものと考える。したがって,中間答申のとおりに考えてよろしいのではないかということであった。
 それから3番目のウの人名用の漢字についてであるが,これについてはかなり突っ込んだ議論をしたが,これも中間答申にある「その扱いを法務省にゆだねる。」という考え方でよいのではないかということに落ち着いた。
 この人名用の漢字についても,御存じのように,民事行政審議会が設けられて検討中であるが,この委員の中には国語審議会の委員が相当ダブッている。やはりこれも全員の中の3分の1以上が国語審議会の委員であるという状況である。そういう点から考えても,法務省としては,国語審議会の意向を無視するという気持ちはないように思われるので,これも中間答申のとおり,法務省にゆだねるとしてよろしいのではないかということであった。
 第4番目のエの表の性格,特に「目安」については一番大きな問題である。この問題について討議するために,まず国語審議会における「目安」という言葉の使用の軌跡をたどってみることにした。
 既に御存じのとおり,「目安」という言葉は,「当用漢字表」の告示文(昭和21年11月)のまえがきの第2項に,「この表は,今日の国民生活の上で,漢字の制限があまり無理がなく行われることをめやすとして選んだものである。」という形で使われている。しかし,これはただ目標とか目当てとかいう意味に使われたのであって,漢字表の性格を表す語として用いられたとは考えられない。
 「目安」という言葉が具体的に漢字表の性格とのかかわり合いを持って使われたのは第9期の「当用漢字改定音訓表」の試案(昭和45年5月)からである。
 しかし,「目安」という言葉が使われるまでに,漢字表の性格についての使用語の変化が相当あるので,それも知っておく必要があると考え,第8期以来の漢字表の性格に関する考え方を総ざらいすることとした。
 そこで,本日の資料2の「8期以来の漢字表(音訓表)の性格に関する考え方」を事務当局に作成してもらい,まずここから検討を始めた。

遠藤主査

 この資料で御覧いただくと分かるように,第8期の第69回総会(昭和43年5月)で了承された小委員会審議経過報告というものがあるが,その中で,「当用漢字表および当用漢字音訓表については,……厳格に制限的なものとせず,基準とすることが妥当と考える。」と述べ,「基準」の意味については,文章表記に当たって,なるべく当用漢字音訓表に掲げられている漢字と音訓で賄うべきであるが,これ以外の漢字や音訓の使用を禁止するものではない。漢字表及び音訓表になるべく従うという意味で,努力目標としてこれを尊重すべきだとの趣旨が述べられている。この第8期で,それまで「範囲」という言葉が使われていたのが,はっきりと「基準」という言葉に変わってきているわけである。
 ところが,第9期の第73回総会(昭和44年12月)で,当時の内閣法制次長であった吉国委員から,「基準」という言葉の法律用語としての用例についていろいろ解説があり,そういう法律用語の習慣から考えると「基準」という語を漢字表の性格と関連して使用することには少し疑義があるということを言われた。
 その影響があったものと想像されるが,第9期の74回最終総会に提出された「当用漢字改定音訓表」の試案で,初めて音訓表の性格と関連した意味での「目安」という言葉が「基準」に代わって使われたのである。
 ところが,改定音訓表の試案を公開し,公聴会,その他でいろいろ世間の意見を聴くと,「目安」という言葉の意味がはっきりしないという意見が非常に多かった。そこでそれらの意見を参考にして,見直しが行われた。
 第10期(昭和45年7月〜47年6月)に出された「当用漢字改定音訓表」の答申案の前文では,「良い文章表現のための目安として設定された。」,あるいは「運用に当たって個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである。」というような,やや詳しい解説が加えられている。こういう過程を経て,音訓表の中で「目安」という言葉が用いられたわけである。
 さて,新しい漢字表の検討が始まったのは,第11期(昭和47年11月〜49年11月)からである。この期では,漢字表の具体的検討のための基本的方針というものが決まったのであるが,その際に,音訓表で用いられた「目安」という言葉を新しい漢字表の性格を表すものとして,採用するかどうかということは,具体的な検討の進行の過程で考慮するということになった。
 新しい漢字表の性格を表現する言葉として,「当用漢字音訓表」と同じ「目安」という言葉を用いることになったのは,第12期(昭和50年1月〜52年1月)からである。第12期で一応の成案を得た「新漢字表試案」では,「目安」という言葉が,「当用漢字音訓表」で使われたのとほとんど同じうような意味でやや詳しく解説されている。この「新漢字表試案」が公表されて,各界からの意見が寄せられたことは御存じのとおりである。
 第13期(昭和52年4月〜54年3月)で,これら各界からの意見を取り入れて,「常用漢字表案」が作成された。ここでは「目安」という言葉が漢字使用の野放しに通じると受け取られるのは望ましくないという意見が多かったのにかんがみ,前文〔漢字表の性格〕の項の終わりの方に,「しかし,一般の社会生活において,相互の伝達や理解を円滑にするためには,できるだけこの表に従った漢字使用が期待される。」という一節が加えられたわけである。
 以上が国語審議会における「目安」という言葉についての大体の軌跡である。
 これらの軌跡をたどった後で,問題点整理委員会としては,「目安」という言葉の使用の仕方について,あるいはその意味について討論に入ったわけである。
 いろいろ討論が行われたが,その討論の結果を簡単にまとめると,表の性格については,「目安」が「野放し」の意味でないことが十分に伝わるよう工夫する必要があるのではないかという意見であった。そのためには,資料3の「『目安』について」という一文があるが,この趣旨──それは,字句そのままという意味ではない,字句はともかくその趣旨,内容を何らかの形で「常用漢字表案」に盛り込んではどうかということであった。
 これを一応事務当局に朗読していただく。
(上岡国語課長補佐 朗読。)

「目安について」

遠藤主査

 この「目安」の趣旨をどういう形で盛り込んだらよいか,その方法について次のような意見が出された。
 第1には,「常用漢字表案」の前文の〔常用漢字表の性格〕の項を多少訂正して,この文章の趣旨をもう少し強調するという方法があるのではないか,第2には,注のような形で,この文章の趣旨を添えてはどうか,第3には,会長談話という形式で,この文章の趣旨を発表してもらったらどうかなどである。もちろん現在の前文の〔常用漢字表の性格〕の項の文章そのままでも目安の趣旨は十分表現されているのではないかという意見も出たことを申し添える。
 以上で報告を終わるが,問題点整理委員会で提起したア・イ・ウ・エの4項目を中心にして討議を願い,総会としてのまとまった意見をお出し願えれば大変ありがたいと思う。

福島会長

 ただいまの御報告について,御質問,御意見等があるかと思うが,関連があるので,引き続き漢字表委員会の御報告を三根谷主査から伺って,その後で協議に入るようにしたい。

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