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次第 改定現代仮名遣いについて

有光会長

 それでは,これから議事に入りたい。
 御覧のとおり,お手元に「改定現代仮名遣い」と答申文の案がお配りしてある。去る2月13日の第3回全員協議会でも御了承いただいたところであるが,昨日,運営委員会を開いて,御相談をし,本日この「改定現代仮名遣い」について最終的にお諮りをし,決定の上,文部大臣に答申書を提出するという運びについて確認させていただいた。
 また,これも第3回の全員協議会で御了承いただいたことであるが,当日出された御意見等を参考にして,会の終了後,私と前田副会長,林主査,松村副主査及び事務局で御相談をし,前文の中の若干の文言について調整を行った。その修正箇所について,まず林主査から御説明をいただきたい。あわせて,前文以外の主文等についても,この際,特に御説明をいただくようなことがあれば,それもお願いしたい。

林主査

 ただいまお話があったように,前の全員協議会の終了後に,会長,副会長,それから主査,副主査,事務局で御相談をし,多少の文言の修正をしたので,それをただいま申し上げる。今日お手元にあるのは修正後のものである。
 前文の2ページの上から7行目であるが,「〔「改定現代仮名遣い」の作成の経緯〕」という題目のところの2行目,右の方に,「実施されたものであるが,それ以来,」とあるが,「それ」の字を加えたわけである。それから,そこに「,」を入れてある。
 次に,この節の5行目,左の方に「批判もあり,」とあるが,ここは元は「もたらしたという意見もあり,」で,次にまた「……徹底を求める意見もあった。」とあったのを「もたらしたという批判もあり,……徹底を求める主張もあった。」というふうに訂正させていただいた。評価する意見がある一方,批判もあり,主張もあったというふうにしたわけである。
 それから,次の節へいって,「国語審議会は,……」のその3行目,どういうことを問題にしたかというところであるが,「仮名遣いの規範性や適用分野などの基本的な問題」,それから「助詞「を」「は」「へ」,「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分け,オ列長音に関するものなどの具体的な問題」,その後を,元は「及び」としてあったけれども,「及び」が何と何とを結びつけているか,ちょっと不明瞭なところがあるという御指摘があり,そこを「具体的な問題,さらに,仮名遣いと古典教育の問題など,」として「「現代かなづかい」に関する諸問題についての審議を重ねた。」というふうに総括した。訂正したのは「及び」を「さらに」に直したということである。
 それから,そのずっと下へいって,「しかし,……」というパラグラフがあるが,元は「「現代かなづかい」をより一層受け入れられやすく使いやすいものとするために,その性格,構成及び内容について,なお明確化や手直しが必要と考え」とあったが,この「必要と考え」は別の言葉に改めてはという御意見があったので,そこは「なお明確化や手直しが望ましいと考え,」というふうに訂正させていただいた。
 それから,次の「〔「改定現代仮名遣い」の性格,構成及び内容〕」の項の1行目,「この「改定現代仮名遣い」の性格,構成及び内容」,その「内容」のところに括弧をして「(改定の要点)」を付ける形にした。内容と申しても,それはこの改定の要点を述べたということであるので,そのことを注記の形で示したわけである。
 それから,次の3ページの上から5行目,(6)であるが,「この仮名遣いは,国語を書き表すのに仮名を用いる場合のよりどころ」と直したが,元は「きまり」としてあって,「きまり」という言葉を使うのは少し不適当であろうという御指摘があった。それは趣旨としては,「……場合のよりどころとして示すものであり」と言って差し支えのないものである。「きまり」という必要はない。そこで今申したように訂正をした。
 それから,「3内容」のところは,前回は「内容」とだけしてあったのを,先ほど申したのと同様にここへ括弧をして「(改定の要点)」というものを付け加えたわけである。
 それから,下の方であるが,「〔歴史的仮名遣い〕」及び「〔学校教育〕」という見出しは元は「〔その他〕」というのでくくっていた。しかし,これはそういうふうに「その他」として扱うべきものでもなかろうというお話があり,「〔歴史的仮名遣い〕」というように袖(そで)括弧に入れて独立の形にした。「〔学校教育〕」の方も同様である。
 そして,その〔歴史的仮名遣い〕の項の4行目であるが,右の方へいって「また,」とあるところに,「この仮名遣いにも歴史的仮名遣いを受け継いでいるところがあり,」という文言を,このたび入れることにした。前回のものにはこの言葉はなかったわけである。そして続く部分で,「この仮名遣いの理解を深める上で,」として,「上でも」の「も」を取り去った。そういうことである。
 前文に対する文言の修正は,以上申し上げたとおりである。
 本文,付表については,別段,修正をしていない。
 なお,ちょっと付け加えさせていただくが,前回の全員協議会の後に,ある委員から,この本文の語例の挙げ方についての御質問があったそうで,それについてちょっと触れさせていただく。
 語例の挙げ方について,どのような順で語が挙げてあるかというようなことであるが,一応,品詞別,五十音順ということを大体の目安にしているわけである。
 たくさん言葉が並んでいるところについて,申し上げると,5ページの「1直音」の例である。ここに「あさひ(朝日)」からずっと並んでいるが,上の2行は五十音順であって,その次に,「えきか(液化)」「せいがくか(声楽家)」「さんぽ(散歩)」というのが挙げてあるが,「えきか(液化)」「せいがくか(声楽家)」は,実は促音の「っ」との関係があって,促音化しない場合にはこう書くというような例をここで二つ挙げている。それから,「さんぽ(散歩)」というのは,「ぱぴぷぺぽ」の語例を挙げたものである。ここに3になって初めて出てくる撥音を含むものを挙げたのは,おかしいと言えばおかしいわけであるが,「ぱぴぷぺぽ」が頭に来るような言葉が,普通の和語の中には出てこないので,やむを得ず「さんぽ(散歩)」の例を採っているということである。
 次に,6ページの下の方で,オ列の長音に,語例が6行挙げてあるが,ここは多少歴史的仮名遣いとの関係を考慮して言葉が並んでいる。「おとうさん」「とうだい(灯台)」というのは,歴史的仮名遣いでも,もともと「とう」と書いていたたぐいである。ここには「とう」の例だけ挙げたが,同様のものとして「こう」も「そう」もある。しかし,ここではこれだけを例としている。
 それから,「わこうど(若人)」「おうむ」というのは,従来の歴史的仮名遣いだと,「わかうど」「あうむ」と書いた,ア列と「う」という形で書かれたものである。
 それから「かおう(買)」「あそぼう(遊)」,この二つは動詞で「かはう」「あそばう」と書いていたものを「かおう」「あそぼう」と書くという例である。「おはよう(早)」は「おはやう」というふうに書いていたもので,「あう」の類である。

林主査

 それから「おうぎ(扇)」「ほうる(抛)」「とう(塔)」の類は,ア列の次に「ふ」を書いていたものである。「あふぎ」「はふる」「たふ」と書いていたものである。
 それからその次の「よいでしょう」「はっぴょう(発表)」は,「せう」「ぺう」と書いていたものである。それを「しょう」「ぴょう」というふうに書くということである。
 その次の「きょう(今日)」「ちょうちょう(蝶々)」は,これは「けふ」「てふ」と書いていたたぐいというふうに分類をして,示しているわけである。理屈を申すと,そういうわけである。
 それから,7ページの下の方で,例の「ぢ」「づ」のところがあるが,二語の連合のところについて申し上げる。一番下のところは,ともかく名詞では和語から漢語へ,そして形容動詞へ,副詞へというような順で例示しているつもりである。
 次のページへいって,8ページの上の方,「ちかぢか(近々)」のたぐいであるが,「ちかぢか(近々)」のところは,重なったもの,「ちかちか」,「ちりちり」と重なっているものである。
 それから「みかづき(三日月)」は名詞の類である。「みかづき(三日月)」から「ひげづら」まで名詞である。
 それから「おこづかい(小遣)」「あいそづかし」「わしづかみ」というのは,それがずっと「みちづれ(道連)」というところまでいくが,これは動詞の連用形を名詞化したものである。
 それから,「かたづく」「こづく(小突)」のたぐいは動詞で,「つく」の類,それから「つける」の類,「つまる」の類,それから形容詞の「つよい」というような語が複合した例である。
 それから「つねづね(常々)」「つくづく」「つれづれ」は,「つ」のたぐいで重なっているものということである。そんなような順序にしてある。
 それから,その次の「なお,……」の項の例であるが,これも大体最初の2行「いなずま(稲妻)」から「みみずく」までが名詞。それから,「うなずく」から「ひざまずく」までは動詞。それから,「あせみずく」「くんずほぐれつ」「さしずめ」「なかんずく」等は形容動詞や副詞の類。それから,「うでずく」「くろずくめ」「ひとりずつ」というような,「ずく」とか「ずくめ」とか「ずつ」というのは,接尾語として考えられるもの。それから,「ゆうずう(融通)」は,一語としてまとまっている漢語の例であるというふうにして並べてある。
 あと,6のオ列の仮名に「お」を添えて書く例であるが,これも名詞,動詞,形容詞,副詞というような順序である。
 それから,その次のページの付記であるが,付記も和語の類,和語の名詞の類,その次は動詞の音便の類,それから次の二つは漢語であって,一字の漢語の例と二字結合した漢語の例というふうに挙げてある。これは,御覧いただけばお分かりいただけるわけであるが,念のため,今日までその御説明をいたしていないので,ちょっとこの際に付け加えさせていただいた。

有光会長

 前文の修正については,ただいま林主査から御説明をいただいたとおりである。ただいまの御説明について,御質問があれば,どうぞおっしゃっていただきたい。また御意見があったら,どうぞお聞かせをいただきたい。
 今日は,4年間にわたる仮名遣いの審議の最後の総会ということであるので,この機会にいろいろ御発言をいただきたいと思う。

紅野委員

 前回の全員協議会で,前文の歴史的仮名遣いのところの〔その他〕というのについて御質問申し上げたが,今回,いろいろな観点を総合的に御判断くださって〔その他〕を取っていただき,〔歴史的仮名遣い〕と〔学校教育〕とにはっきり分けて末尾に添えてくださったことは,感謝いたしたいと思う。
 ただ,もう一つ,私個人の要望のようなことになるかもわからないが,学校教育の問題と言うと,小・中・高を考えがちだが,この場合,学校教育には,大学及び大学院をもひっくるめて考えていく必要があるという感じも,文学の関係では特に強く持っている。それは〔歴史的仮名遣い〕のところで十分に書いてくださっている。すなわち,〔学校教育〕のところで,4ページの一番最後の「なお,歴史的仮名遣いの学習については,古典の指導において適切な配慮をすることが期待されるところである」とある。これで結構であるけれども,やはりちょっとまだ,大学の教育現場にいる,殊に近代文学の明治や大正の古典を取り扱っている者には── 一般国民の状況の中ではこれで十分だと思うけれども,現在,いわゆる国民の一人として,更に高度な日本の文化伝統というのを受け継いでいく,そういう構えから考えていくならば,もう一つ強くという気持ちもあるのである。しかし,先ほど林主査がおっしゃった御説明で納得させていただきたいと思う。

有光会長

 ほかに御意見はないか。
 議員懇の申入れを皆様に先ほど御報告申し上げた次第であるが,何分にも急なお申入れであったので,この件について,ここで改めて皆様と十分御討議を願って審議するという時間はない。しかし,我々は,この4年間にわたって,この議員懇のお申し入れになっておられる点も含めて,十分に審議を尽くしておると一応考えるし,また答申案の内容については大方の御賛同も既に得ておるところであるので,たとえこの答申を延期いたしても,歴史的仮名遣いを法令,公用文,新聞等の現代の一般の社会生活での正則とすべしというような考え方に転換をするということは,ちょっと考えにくいところではないだろうかと思う次第であって,せっかくのお申入れではあるけれども,当審議会としては,予定のとおりに答申をすることにいたしたいと考える次第である。この点,いかがか。
 それでは,この際,この点については皆様の御了承を得たことにさせていただく。
 なお,この際であるので,ほかにも何か御意見を伺うことができれば,そのことを後々へ記録として残してまいりたいと思う。
 それではこのあたりで,この「改定現代仮名遣い」の答申案を総会として採択することについて,お諮りをいたしたいと考えるが,いかがか。(異議なし。)
 木内委員,何か御発言があったらどうぞ。

木内委員

 私,今までたびたび,総会でも,あるいは委員会にも出て発言したことも随分ある。初めのうちは委員会にも大体出ていた。そんな関係で,いよいよこれを答申するに当たって,何か言えとおっしゃるので,申し上げるが,私の基本的な立場は,今の国語政策には反対である。しかし,反対といっても,もう直すべきときが来ているという意味で,今のままではいけないと言っているのである。
 戦後に,現に御覧のようなことをやってきたことを一概に悪いとは思わない。戦後のあのとき,あういうふうにした国語政策の出発──出発は終戦の翌年だと思うが,「現代かなづかい」の前に漢字制限があって,この二つが柱で,運ばれてきた。ああいうことをやったのは,当時としては誠にもっともであったと思うけれども,今,戦後40年たった今日としては,これを変えるべきときが来ている。
 その変え方においては,今度の案は,私は十分とはもちろん思わない。しかし事は一歩一歩進む必要があるので,いきなりぽんと変えるわけにはいかない。現状としては,随分いいところへ来たと思うから,この案に賛成しているというのが私の立場で,今更それを申し上げることもないと思うけれども,御指名があったので,それを申し上げておく。
 世の中にこれを分からせてほしいが,今の「現代かなづかい」が出たときには,ただ一方的に,これはこう書けという命令的なものであった。よくそれに世の中がついてきたというのは,それがそのときの日本の事情というものなのである。今となっては,これをある程度元に戻し,つまり改良するについても説明が要る。その前には,「現代かなづかい」はどういうものかの説明が要るわけである。それは現状を認める立場において説明をなすったわけなので,その説明は随分うまくできていると私は思う。
 その意味において,今日これが答申されることは,一つの大きな一歩を進めるものとして賛成するのだというのが私の立場であって,私の立場を,今大勢の方がおいでになる中で,私だけ申し上げるのはどうかと思ったけれども,今まで比較的どころじゃない,非常に多く発言してきたから,その意味で締めくくりとして申し上げておくのもいいかと思って,申し上げた。(拍手)

有光会長

 ほかに御発言があれば,どうぞ。
 それから,この答申文の文言についても,御異議はないか。(異議なし。)

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