国語施策・日本語教育

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次第 協議

坂本会長

 外来語の表記の検討に当たり,基本的な問題,また今承った限りにおいても関連するさまざまな問題がある。それを伺わせていただいたわけである。
 こういう問題については,更に共通の理解を深めていくという意味で,これから十分御協議いただきたいと思う。先ほどの村松委員の御発言についての表記委員会の先生方の御発言も承らせていただけたかと思うのであるが,そんなことも含めて,これから御質問なり,御意見の開陳なり,新しい御提案なり,何らかの形で御発言をいただければ幸いだと思うので,どうぞ御自由にひとつ御発言をいただきたいと思う。よろしくお願いする。
 村松委員,今の発言で,何かまた御質問等はないか。

村松(定)委員

 結構である。

坂本会長

 承っているうちに,会長としても頭の痛くなることばかりのような感じであるが,国語審議会の今期の問題としては非常に重要なことであるので,いかような御発言,御提言でも結構であるから,ひとつ御自由によろしくお願いする。

林(大)主査

 ちょっと補足させていただく。
 自由討議でまいったので,結論づけをしようというふうに努力しなかったということは先ほど申し上げたが,委員会の皆様方の御意見として方向が出ているのは,アルファベットやローマ字つづりで書かれている語,例えば先ほど申した「JR」や「NHK」などの問題であるが,これは外来語の表記ということでは一応外しておこう,外来語の表記という中には入れないでおこうという方向が出ているように思う。
 それから,地名・人名の表記の取扱いであるが,将来の具体的な進め方としては,一般的な外来語の方から取り上げることにして,地名・人名はとりあえず後回しで考えるという方向が出ているように見てはいるわけである。それに決めようという決議をしたわけではないが,一応そういうふうにお見受けしている。それだけちょっと付け加えておく。

坂本会長

 何か御意見はないか……。
 1の囲みの中の,Oに「『A』から『Z』までの文字を片仮名でどう書くかということを決めておけばよいのではないか。」とあるが,「ヴ」とか,そういうことはどうだったのか。

林(大)主査

 このOの御意見は,「A」は「エー」と読むか,「エイ」と読むかとか,「H」は「エッチ」と読むか「エイチ」と読むかということを決めておけばいいということである。だから「V」については,「ブイ」と言うか「ヴィー」と言うか,また「ヴェー」と書いておくか。それを決めておくと,「NTT」というときには,仮名で書けば「エヌティーティー」と書くとか,「エヌテーテー」と書くとかいうことが決まってくるだろうということである。

坂本会長

 そういうことを決めておけば電報を打つときにも使える。

林(大)主査

 電報は,ローマ字で打ってしまえばいいのではないか。

坂本会長

 国内電報はローマ字では受け付けないのではないか。

林(大)主査

 そのお話に関連して,野元委員の発言だったと思うが,企業の社名の登記の場合,アルファベットは片仮名にしなければいけないという決まりがあったのではないか。

野元委員

 そうだ。

林(大)主査

 例えば,NT何とかという会社があると,登記する場合は「エヌティー何とか会社」とローマ字の部分を片仮名で書かなければいけないわけだ。

広瀬委員

 資料の最後の6,「外来語,外国語のいわゆる氾濫の問題について。」ということについて討議がなされているが,これは外国語,外来語の氾濫を好ましいと思うか,好ましくないと思うかという価値評価の問題だとするなら私はこの国語審議会の問題ではないと思う。それは好き嫌いの問題であって,いいとか悪いとかということではなしに,使いたい人が使う,嫌な人は使わないというだけのことだと思う。
 アルファベットやローマ字使用の問題が,最後のEで「氾濫の問題にはつながるところがある。」となっているし,Dでは「外来語が氾濫するのは困るが,外国語が氾濫するのは仕方がないのかもしれない。」とあるが,困るとか,困らないとか,それを国語審議会が一つの意見として言う必要は全くないので,むしろこういうことを言ってはいけないのではないかと思う。だから,次から次へと現れる外来語,外国語をどう表記するかということを,国語審議会が追っかけて一々統一しようというようなつまらないことは,しない方がいいと思うので,私は,この四角い枠の中の6は全く問題外で,要らないことではないかと思う。

坂本会長

 今の広瀬委員の御発言についての御意見はないか……。
 氾濫の問題まで国語審議会でうんぬんする必要はないんじゃないか。また次々に現れる外来語,外国語の後追いをして検討するというのも,いささかテーマから外れているのではないかという御意見のようである。
 もし格段の御意見がなければ,表記委員会としてはどうであるか。

林(大)主査

 表記委員会としては,表記の問題が第一の問題であるから,氾濫の問題を主目標にすることはできないだろうと思う。しかし,一方では,氾濫ということをどう考えるかということは,やはりどこかで考えておかなければいけないのではないか。氾濫に対するプラス評価か,マイナス評価かという問題があるので,どっちかに決めるという必要はないかもしれないが,これをどう認めるかということは,どこかで国民的な規模で考えておく必要があるのではないか。例えば,私などはやはり外来語の氾濫を苦々しいと考える方であるが,しかし,今後は外国語はもっと入ってくるであろう,やむを得ない状況であるということは認めざるを得ないと思う。
 そういう点について,ある種の国民的合意と申すか,あるいは国語,国民教育の方向づけというようなものが,どこかで論議されてもいいのではないか。その論議する場は,今のところは国語審議会以外にないのではなかろうかと考えている。
 しかし,私どもは,表記委員会でそれを当面取り扱うことはちょっとできないだろうと考えている。

坂本会長

 したがって,この問題は国語に対する見識の問題につながることであり,表記委員会にお任せするというテーマではなさそうであるので,最終的には,総会において何らかの形で合意を得て,今日ここでということではないが,引き続きのテーマとしていくということでいかがか。

江藤委員

 今お話を承っていて,今後の審議の進め方について,多少御提案申し上げたいことがある。今,林大先生から縷々(るる)御説明があって,大変興味深く承ったわけであるが,分かりやすく申すと,ああでもあるけれども,こうでもある,こうでもないけれども,ああでもないということを御説明いただいたわけであるから,3回ぐらいだと,多分そういうことになるんだろうと思うが,ここに四角い枠で六つ,ページ数にして5ページに相わたるいろいろな御意見をざっと御説明いただいて,1時間足らずである。表記委員でないものがそれを急に伺って,さあ,どうしよう,総会で決めるんだからとおっしゃられたとしても,十分な審議が尽くせるかどうか,必ずしも保証の限りではない。
 第2回の総会で了承された国語審議会の当面の日程についてというのを拝見すると,いずれ全委員を対象とするアンケート調査が行われて,そこでフィードバックされるということになっているのであろうが,私の提案は,その委員会の名称を何と付けるかは別として,もう一つ委員会をお作りいただいて,同じことを並行審議し,総会で果たして同じことがダブって出てくるかどうかというようなチェックをしていただいたらいかがなものであろうか。
 そうすれば,全員,あるいは全員に近い者が参加して,それぞれの所見をより人数の少ない委員会で重ねて述べることができ,また両方の委員会で重複して出てきたような問題は当然重要な問題であろうし,重複して出てこない問題でも,突き合わせることによって,問題点を鋭く浮き彫りにすることもできようかと思う。
 そのようにして議論を深める時間を与えていただくことができるのかできないのか,そういうのは異例なことであって,普通国語審議会はなさらないのか,その辺のことについて,事務局の御意見を含めて,伺うことができれば,幸いである。

坂本会長

 今の江藤委員の御発言は,表記委員会という形でないもう一つ別の委員会を設けたらということであるか。

江藤委員

 表記委員会というのが一つあるから,何と呼んでもよいのだが,結局審議する事項は重なるに決まっているから,表記委員会第二委員会でも構わない。

坂本会長

 かなり重要な御提言かと思うので,事務局の方での対応をまず聞かせていただきたいと思う。

前畑文化部長

 従来の審議の進め方からすると,同一の問題を複数の委員会でやるということは例がないと承知をいたしている。ただ,いずれにしても,この審議会での審議の進め方であるので,十分御論議をいただければ,私どもとしては対応の準備はある。

坂本会長

 今の事務局の御答弁によれば,どういうふうに対応するかは,今この席でということではなしに,検討の時間をいただきたいというふうに理解したいと思うが,それで江藤委員よろしいか。

江藤委員

 結構である。

坂本会長

 それでは,もう一度その点は,事務局と私ないしは,今日は欠席しておられるが,副会長等で検討させていただいて,次回の総会に御報告するというようなことにさせていただきたいと思う。よろしくお願いする。

諏訪委員

 今,林主査から長い御説明を承って,私も江藤委員と同じような感想を抱いた。つまり,よく分からない。それで,既に2回お送りいただいている議事要旨だが,これも非常に簡単過ぎてよく分からないので,もう少し中身を詳しくしていただけると,非常にいいのではないかと思う。これはお願いである。

坂本会長

 事務局から御答弁いただくことになろうかと思うがどうか。

前畑文化部長

 ただいまの点については,私どもの方で更に工夫をさせていただく。

林(大)主査

 今日は私,多少急いだところもあって,十分な御説明ができなくて誠に申し訳ない。ここに書いてあるのが,自分の経験したところだったものだから,これで分かるつもりになっていて,大変失礼した。
 すべて分からないとおっしゃると大変であるが,問題の点について,何か御質問があれば,できるだけのお答えはいたしたいと思う。

井上(和)委員

 細かい点になるが,資料の3ページの4の(3)に「語形と表記の関係について。」とあるが,語形と表記の関係というのには,幾つかの違ったレベルの問題がありそうな気がする。例えば「高層ビル」とか,「財テク」とか,「オートメ化」とか,つまり,日本語と外来語らしいものがくっついて,どんどん成長していくというのは,一つの熟していく方向のような気がするが,そういうことについての審議はどこかでしていらっしゃるのかということを伺いたい。

林(大)主査

 その問題をとりあげて審議していただいたということは今までのところないが,今後の具体的な審議の際に,それは確かに問題になると思っている。外来語性は確かに切断と結合というか,それが自由に行われているところにあるように思うので,当然問題になることだと思う。具体的な事項についてどうしようということは,まだ何も話していない段階である。

長倉委員

 審議の進め方について,若干御質問申し上げると同時に,意見を述べさせていただきたいと思う。
 まず,この外来語の表記委員会にどういうことをお願いするかということについて,総会でもう少し具体的に用意しておいた方がよろしいのではないか。今,江藤委員のお話があって,私も,その辺がはっきりしないと,表記委員会の方にお願いしても,表記委員会でもお困りになるのではないかという気がする。例えば,氾濫の問題などは,明らかに表記委員会にお願いするよりは,この総会で十分議論して結論を出された方がよろしい問題ではないかと思う。
 これは一つの例であるが,原則を立てるかどうかということについても,原則を立てる方向で御検討いただくというようなある種の方向づけを,この総会でされて,その上で表記委員会にお願いするという方向が望ましいと思うし,あるいは地名・人名の問題についても,同じように,若干総会で議論した上でお願いするという方向が望ましいと思う。
 一つ会長にお願い申し上げたいことは,ある種の方向づけをする問題を,総会で個々に取り上げて御議論いただいて,ある種の方向が──出ない問題もあると思うが,出た場合には,その方向で表記委員会にお願いするということがあってもよろしいのではないかと思う。

坂本会長

 私も,その点は同感であるが,テーマが非常に難しいもので,つい先送りというふうなことになりがちで,その点は,反省したいと思っている。
 確かに,この国語審議会の問題は,外来語の表記ということであるから,そこから余り飛躍する形で議論することになると,堂々めぐりということにもなりかねないし,さればといって,表記の基になるいわゆる文化的な流れの問題を,ただ受け身で国語審議会がとらえるというのもやや不見識ではないかという御意見もあろうかと思うので,そういうことも含めて,次の総会に,今いろいろいただいた御意見を整理して対応したい。この席で右から左へという形でお答えすることは,いささか事柄が重要であるので,今しばらく御猶予をいただきたいと思う次第である。

江藤委員

 ただいまの長倉委員の御意見に関連して,先ほど私が申し上げたことにもつながることであるが,もう少し特定した提案をしたいと思う。
 ただいま外来語表記委員会でいろいろ御審議いただいているわけであるが,このファイルの一番最後に付いている昭和29年の国語審議会表記部会報告「外来語の表記について」には,「外国の地名・人名の書き方については,別に考慮することにした。」とある。これを生かすとすると,外来語表記委員会の中から,外国の地名・人名に関する事項を切り離して,新たな小委員会を編成していただく。そしてそこで外国の地名・人名について検討する。当然,問題は,先ほど申し上げたように,多く重なるはずである。
 そういうようにして分業体制を作っていただくとよろしいのではなかろうかと思ったので,改めて御提案させていただく。

坂本会長

 今日御説明のためにお配りした資料「外来語表記委員会での討議の概要」の中の四角で囲んだ六つの項目が,実は,前回の総会の御議論を受けて外来語の表記委員会で討議していただいた成果であったわけだが,それが非常に広範囲に,複雑多岐にわたっていることから来る多少の混乱があろうかと思うので,今日の各委員の御意見を基にして,もう一度洗い直して取り進めていくということで御了解いただきたいと思うが,いかがか。
 事務局の方で何か御発言はないか。

前畑文化部長

 委員会で御審議を進めていただいているところであるが,委員会の進め方については,前回の総会でもお申し合わせいただいて,お取決めをいただいたところである。これは主査のお気持ちもそうだと思うが,もし御都合がつけば,できるだけ会長御指名以外の方にも委員会においでいただければと思う次第である。そして,そこで十分御議論いただく場もあるいはあるのではなかろうかと考えている。

長倉委員

 それではこの六つの項目は,すべて表記委員会に御検討をお願いするというふうに了解してよろしいわけか。例えば,今までの議論でも,6の氾濫の問題等は表記委員会にお願いする問題であるかどうかという点については,若干御意見も出ている面がある。それから,先ほどの江藤委員のお話も,私,個人的には,もし切り離すならば,そうした形でできる可能性が大きいのではないかと思う。もちろん,ある段階で調整することは必要かもしれないし,歴史的な背景も,文化的な背景もある難しい問題であるから,総会として扱ってしかるべき問題は,総会で度々取り上げる必要はあるかと思うが,一応ある種のことを仮定と申すか,土台を作った上で委員会にお願いしておいて,必要があれば,総会で自由に議論するというふうなことを前提にして進めていかないと,なかなか議論が進まないと思うので,あえて申し上げているわけである。

大崎文化庁長官

 私が発言して恐縮であるが,林先生のお話を伺って感じたのは外来語表記委員会のこれまでの審議の状況というのは,いわば対象の枠組みをお作りになった作業ではなかろうか。その枠組みが,1から6までという形にまとめられたのではないかというふうに拝聴したわけである。その意味では,長倉先生が御指摘になった,何を取り上げてどう審議をするのかということについての手がかりが,六つの枠の中にあるのではないか。
 ただ,こういう六つの枠ということで十分なのか,十分ではないのか,こういう整理の仕方では不十分である,もっとこういう問題があるのではないか,ということを御審議願う段階なのではないか。先ほど広瀬先生がおっしゃったように,外来語の氾濫という問題はとりあえず別のカテゴリーにすべきではないかというような御議論が既に今日もなされているわけである。それでは,その問題をどうするかというところまでは恐らく表記委員会ではまだしておられないので,これから検討に入るということではなかろうかと思う。
 第2点は,その枠組みを決める,あるいはその中身に入ることにしても,かなり固まってからアンケートをとるということで,果たして各委員の御意向が正確に集約できるかどうかという点についての御疑問があり,いろいろ御意見を伺う方法論についての御提案があるということではなかろうかと思う。
 これについては,そういうアンケートを案がかなり固まった段階でとる以外に,御意見の集約の方法を,会長の御指示で更に詰めさせていただくということでいかがなものか。
 勝手に申し上げて恐縮である。

坂本会長

 今,長官の御発言,そのとおりかと思う。したがって,そういうことで取り進めさせていただき,アンケートなどについても,御協力いただくということになろうかと思う。
 ともかく先生方は非常に御多忙であるので,度々の御会合はいただけない,そういうことも含めて委員会も発足しているわけで,表記委員会のときに,御担当以外の委員にもできるだけ御参加いただけたらという事務局の希望もあるようであるので,この際あわせてひとつ御了解いただきたいと思うわけである。
 今日はかなり重要なテーマについての御発言をいただけたと思うので,そういうことを踏まえて,今後取り進めるということにさせていただいて,今日のところは御了解いただいたというふうに理解してよろしいか。

林(大)主査

 ただいまのお話に関連して,これは委員会として御相談した上のことでもなし,また副主査と御相談したわけでもないが,今後表記委員会をどういうふうに進めていったらいいかということについて,先ほど長倉委員や江藤委員が言われたように,何か方向づけをしていただいた方がよいと思う。我々としてとんでもない方向へ進むつもりはないが,そういうことにならないように十分御意見を伺っておきたいと考えているわけである。
 そこで,私が今もし御意見を伺おうと思うと,一つは,外来語の表記の問題に関連して,何らかの目安を立てることが必要であると考えてよろしいか,外来語について表記の目安なんて立てる必要はないんだ,自由でいいんだという御意見も十分あると思う。しかし,我々としては,表記に目安を立てる方がいいのではないかと,その方を採ろうという考えが,少くとも私にはあるが,そういう方向でよろしいかどうかということが一つ。
 それから,我々の具体的な問題に入る──その具体的な問題というのは,外来語の範囲をどういうふうに考えるかということもあるが,そのときに,表記の問題としては,原則的な問題と個別の語の問題とがあるように思う。個別の語というところに,従来の習慣という問題が非常に力強く加わってくると思うのであるが,原則というのは,日本語の中にどのような音が新たに入れられるであろうかという問題,更に,その新たに入れられるものをどのように表記したらいいかという問題である。
 そういう原則的なルールを考えることが必要ではないかと私は思っているがそういう方向で話合いを進めていいものかどうかということである。
 それから,原則ですべて押し通すというわけにはいかないで,従来の習慣によって,たばこは「タバコ」,ガスは「ガス」というふうに決まっていて,これを改めるということは到底考えられないというような慣用の問題があって,そこに個別の語の問題があろうかと思う。
 そして,原則と慣用との間をどう調和させるかということについても議論をしなければならないと考えているが,そういうことについて御意見を伺えれば幸いである。
 そして,最後の氾濫の問題は,当面我々の問題にはしないことになるだろう。それについても御承知おきいただければ幸いだと思う。

江藤委員

 今,林主査からお尋ねと申すか,御意見の開陳があったわけであるが,今伺っていて非常によく分かったのだが,目安を立てるか立てないか,原則的ルールを設けるか設けないか,どうするかと,ここでお聞きになられても,私どもとしては御返答のしようがない。というのは,外来語表記委員会におかれては,この18人の委員方が作業をしておられて,いろいろな事例について意見の交換をしておられるから,そこでかなり煮詰まった御意見が出ていて,それを集約されたことを,今,林主査がみんなにお聞きになったのだと思う。ところが,ほかの委員は作業をしていないので,どこにどういう問題点があって,目安を立てるべきか,立てざるべきか,原則的ルールとは何であるか,それが日本語に新しい音を付け加えることというふうに集約されていいものかどうかについて,十分に考えていないわけである。考えていないところで,考えておられる方が,さあ,どうするか,形式的にここでそれに対するエンドースメントを付けてくれと言われても,私どもとしては,自信を持って目安をお立ていただきたい,原則的ルールはぜひお考えいただきたいと,ここで安心して申し上げるわけにはいかない。私どもと申し上げては失礼かもしれないが,少なくとも委員である私は,それを安心して申し上げられないわけである。
 したがって,分業体制を作って,例えば,地名・人名について同じような作業をする機会をお与えいただければ,作業をした人間は,その経験の上に立って,目安ということについても,原則的ルールとは一体何を意味するのかということについても判断を下すことができる。ここには国語学者もおられるが,素人もいるわけであるから,素人は素人なりの議論もあるかもしれない。ということで,そこで初めてお尋ねを受けたときに,自信を持ってぜひお願いする,ちょっとお待ちくださいと,こう申し上げられるのではなかろうかと思うのである。
 いずれにしても,今日ここでお尋ねをいただいても,少なくとも私はお答えのしようがない。それだけ申し上げておく。

広瀬委員

 私の意見と希望を申し上げる。
 目安を作るべきか,作らざるべきかというのは,これは国語審議会で外来語の表記をどうするかということを検討する必要があるかないかという問題だと思う。目安を作る必要がないというのなら,この審議会は作業も議論もする必要はないと思うんで,また議論した挙げ句,目安は作る必要がないという結論になれば,そこで解散すればよろしいと思うので,私は目安を立てるべきだという前提でこの審議会が始まっていると了解している。
 ただし,その目安というものがどの程度の規範性というか,強制力と申すか統制力と申すか,それを持つか持たないか,どの程度のものを持つべきかという問題がその次にあるわけだが,私の意見はごくごく軽い規範性を持つべきだと思う。どちらかと聞かれれば,こちらであると思われるが,しかし,これでなくたって間違いではありませんという程度の規範性──これは大変雑な言い方だが,そういう規範性を持った目安を作る作業に私は参加しているのではないかというふうに了解している。
 それから,原則というか,ルールというか,まず枠組みを考えて,その中で原則ないしルールを立てるという作業に入るのが順序であるが,その場合の規則というか,ルールは,これは簡単にいえば二つだと思う。一つは,外国の本国で使っている原語になるべく忠実に片仮名で表記する方法,もう一つは,慣用にそのまま従う。その二つの間を右往左往して困っているのが現状ではないかと思う。
 そのどちらを採るかというのは,統一した原則はないのであって,それは,一語一語当たって検討して答えを出していく以外にないと思う。それは大変な作業のようだし,林主査の御説明で,国語辞典に出ている5〜6万語のうちの10%以下だから5,000〜6,000語だとおっしゃったが,しかし5,000〜6,000語についてすべて疑問があるわけではないので,そのごくごく一部が問題になることだと思う。
 前に送っていただいている「外来語資料集(諸案集成その3)」という本は,大変役に立つ本だが,そこに,58年3月にNHK総合放送文化研究所が作った「外来語のカナ表記」というのがあって,ここにアイウエオ順でアから始まって,普通使われている外来語の片仮名の書き方を列記している。この中で,例えば「アイシャドー」という言葉があって,「アイシャドウ」には×がついている。その次に「アイスキャンデー」は「アイスキャンディー」に×がついている。しかし「アイソトープ」には何もついていない。「アイロニー」もそうだし,「アカデミー」もそうだ。「アクセサリー」は「アクセッサリ」に×がついている。「アクセサリー」を「アクセッサリ」と書くのは,私はこの×は必要ないと思うんだが,こういうふうに見ていくと5,000〜6,000語のうち恐らくまだ10%ぐらいが問題になる語ではないかと思う。
 そこで私の希望は,5,000〜6,000の1割として,500〜600だから,それほど大した量ではないので,そういうのを列記していただいて,例えば「バ」のところを見ると,「バイオリン」として,×で「ヴァイオリン」となっているが,簡単に言えば,NHKの資料で×がついているような言葉をピックアップしていただいて,それで考える。つまり,ルールには,幹から考えるのと,花から考えるのと,二つの考え方があると思うが,枝葉から考える考え方もあっていいのではないか。最後に決まるのはやっぱり枝葉の問題だと思う。その資料をいただければ,もう一つの議論が進むのではないかと思うが,いかがか。

村松(定)委員

 最初に申し上げたことと,もう一つ確認するようなことになるが,国語審議会として,外来語の表記についてこれから改正していく,あるいはこのままでいくという根本理念として,これからの国語教育との関連は大きいと思う。そこで,小・中・高の代表の方もいらっしゃるので,その方の御意見も十分承りたいと思うのだが,私の大学でも,大学院の学生の半分は外国から来ていて,日本語の勉強をしているが,そういう人達も含めて,外来語を片仮名で表記するときの統一ということは,国際的に十分考えていかなければならない問題だと思う。
 そのときに,原語の発音に近い音にするか,あるいは40年間今まで決めてきたことを踏襲するかというようなことについて,どの程度この専門委員会の方で御検討いただいているのか,そういうことがはっきりしないと,さっき江藤委員がおっしゃったように,よく分からなくなってしまう。
 私のような年寄りは,個人的には,感傷的に「バイオリン」よりも「ヴァイオリン」の方がいいと言うけれども,40年間教育を受けた人たちをもう一度そっちへ戻す方がいいのか,それとも現在のままでいくのか,そういう基本方針を立てていただいた上で,地名・人名の委員会を作るとか,そういうことは結構であるが,そういう根本的なことをまず十分に委員会でお考えいただきたいと,もう一度念を押しておきたいと思う。

坂本会長

 大体御意見が出尽くしたかと思うが,今日御発言いただいたことは,今後の国語審議会の運営にかなり大きな影響があろうかと思うので,そういうことを少し時間をいただいて取りまとめさせていただいて,次の総会へ向かって仕事を進めたいと思う。そういうことで御了解いただけるか。
 それでは,いよいよ時間になったので,この程度に御議論はとどめさせていただいて,次の総会であるが,大体11月中に第4回の総会を開催したい。その間,9月以降3回程度委員会を開くということであるが,その委員会の運営等,今の先生方の御発言を基にしてどうするかというようなことを,事務局を中心に少し検討させていただくということで御了解いただきたいと思う。
 したがって,11月の総会の日時,場所などについては,改めて御通知申し上げるということで,本日のところはこれにて閉会とする。

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