国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 審議事項の説明

坂本会長

 引き続き,事務局から審議事項について御説明をいただきたい。

川村文化庁長官

 先ほど文部大臣から,今期の審議会の基本的な進め方について御説明を申し上げたところであるが,若干補足させていただいて, これからの御審議の参考にしていただければと思う。よろしくお願い申し上げる。
 大臣のごあいさつの冒頭に申し上げたが,国語審議会というのは,御承知のとおり,大変に長い歴史を有する審議会である。前身となる審議会が設置されたのは昭和9年ということであり,戦前から続いている数少ない審議会の一つである。戦前の話は別として,戦後, これまで半世紀近く,非常に熱心な御審議をいただいてきた。
 戦後の時期は二つに分かれ,また,今回の19期から始まる審議会は,大きく言えば,戦後の三つ目の区切りに入るところではなかろうかと思っているわけである。
 最初は,終戦の直後,昭和21年以降,国語審議会の極めて積極的,活発な御審議により,当時として非常に画期的な一連の国語施策が実施されるようになった。その最たるものは「当用漢字表」であり「現代かなづかい」である。お手元に資料を差し上げてあるので,後ほど戦後の審議会の御活躍の様子を目次だけでも見ていただくと,そのほかにも,送りがなの問題であるとか,人名漢字であるとか,公用文を左横書きにした方がいいとか,敬語の問題であるとか,戦後の町村合併によって新しく作られる地名の書き表し方はこうした方がいいんじゃなかろうかとか,法令用語の改善とか,社会の全般にわたって,大変幅広く画期的な国語施策を,建議あるいは御答申いただくという形で進めてきていただいたわけである。それが戦後の第1期になるわけである。
 同時に,そういった新しい施策については,社会の各方面でいろんな論議や批判が生まれるようになってきた。また,それらの施策の実施の状況等を考えてみると,もう少し再検討した方がいいのではないかというふうになって,戦後ちょうど20年たったところで一つの区切りになり,昭和41年6月に,時の中村文部大臣から当審議会に対して,「国語施策の改善の具体策について」ということで,御諮問をさせていただいたわけである。先ほど坂本会長がお触れになったが, この前の18期に「外来語の表記」の御答申をいただいたのは,その41年の諮問に対する答申の一部である。41年に御諮問申し上げて以来,種々御審議をいただいて,昭和56年に「常用漢字表」の御答申をいただき,また昭和61年には「現代仮名遣い」の改定について御答申をいただいた。引き続いて「現代仮名遣い」に関連する事項として,先ほどの「外来語の表記」について御審議をいただいて,今年の2月に御答申をいただいた。こういうふうな経過があるわけで,戦後の国語施策に対する再検討というのは,ちょうど25年かかって御審議をいただいた, こういうことである。
 この戦後の第2番目の改革というのは,最初の改革,昭和21年以来の画期的な施策が, ともすれば制限的あるいは画一的に進めるということであったものを改めて,国語というものは現代社会における生き物であるから,法令とか,公用文とか,新聞雑誌等,一般の社会生活において現代の国語を書き表す場合の「目安」又は「よりどころ」とするということを基本としていただいたわけである。したがって,科学技術とか,芸術とか,その他の各種専門分野とか,個々人の表記までも規制をするものではないし,また,過去に行われた表記を否定するものではないといったように,伝統的な表記に対する配慮をもお示しいただいた。そういう「目安」又は「よりどころ」とするということが,大変特微的であったと思うわけである。
 御答申をいただいたものは,それぞれ内閣告示とか内閣訓令という形で実施に移すということで進めてまいった。そういったことで,昭和41年の諮問に対しては,一応すべて御答申をいただいたわけであるけれども,先ほど大臣からごあいさつ申し上げたように,国語の問題というのは,常にそれぞれの時代に応じて議論がなされるものであるし, またそういった活発な御議論が行われることが大変望ましいわけであるが,現在もいろいろな立場から,いろいろな問題が論議をされているということである。
 したがって,これから戦後の3番目の大きな区切りに当たって,まず一体どういう問題点があるのか,問題の所在を明らかにしていただいて,その中で,審議会として適切な対応,御論議をいただくべき問題にはどういうものがあるのか,つまり全体を見渡したような交通整理を最初にぜひお願いしたい。交通整理をしていただいた上で,個々の具体の問題に入っていただくことになるのではなかろうかと思うわけである。

川村文化庁長官

 今やや時間を取って,戦後の第1期,第2期のお話を申し上げたが,それらの問題は,主として書き表し方,表記の問題を中心に御論議をいただいてきたというふうに理解をしているわけである。
 国語をめぐる問題は,それ以外にも非常に幅が広いわけである。話し言葉の問題もあるし,若干次元の違うことであるけれども,最近,外国人の方が日本の社会に非常に多く入り込んでこられるようになって,その外国人に対して日本語教育というものをどういう形で進めたらいいのかという問題等,非常に多岐にわたっているわけである。
 私どももこの問題については,前期の審議会のときから折に触れて御意見を賜り,また新聞紙上等でもいろいろな立場から御論議をいただいているわけであるが,気が付いた点を例示的に申し上げると,一つは言葉の乱れとか,ゆれの問題がある。
 例えば,若い人の間で使われている「ヤバイ」という言葉とか,「○○とか」という言葉が非常に多いわけであるが,そういう言葉遣いの問題や,語法の問題,「見れる」とか,「着れる」とか,「食べれない」という言葉を一体どう考えるのかという問題がある。さらに,敬語の問題で申すと,「犬に御飯を上げる」というのは適切であるのかどうか,「お客様はお帰りになられました」というのは二つ重なった敬語を使っているとか,そんなことも気になるわけである。
 それから,外国語が生の形でそのまま使われるようになって,便利なのでつい「アイデンティティ」とか,「インフラストラクチャー」とか,「コンベンション」とかいう言葉を,平気で使ってしまう,こういった問題もある。そのほかに,発音やアクセントの乱れ――乱れというのかどうか,そういった問題もある。
 今申し上げたようなことが,言葉の乱れとか,ゆれということであるが,それ以外に,次元が別のことになるけれども,もう一つの問題は,ワープロをはじめとする情報機器の発達の問題である。ワープロは大変便利であって,私どもも使っているが, ワープロを使うと,書いた文章に漢字がどうしても多くなってくるわけである。ワープロに内蔵されている辞書の漢字の問題,字体の問題もある。それから,自分で実際に書く,文章を作るという能力も――このごろのワープロは進歩していて, ちゃんと作ってくれたりしてしまうので,個人の国語能力に対して何らかの影響を及ぼしているのではないかといったようなことがある。
 そんなことが,情報機器の問題として議論になるところかと思われる。
 さらに,それ以外のことで申すと,例えば方言と標準語の問題。方言がなくなりつつあるということが言われているが,そういう事態に対する理解の問題。あるいはお役所言葉とよく言われているが,私どもの官庁の用語は相変わらず難しいじゃないか,官庁用語をもう少し易しくしたらといったこともあるし,先ほど申し上げた外国人に対する日本語教育の問題などもある。
 それから,前期の最後に御指摘をいただいたことで, ローマ字表記の問題に関連するわけだが, 日本人の氏名を書き表すときに,名前が先か名字が先かということがあって, ローマ字で書くときに,「TOSIKI KAIHU」と書くのか,「KAIHU TOSIKI」と書くのかということも,少し議論をしてはどうかという御指摘もいただいた。これは前期の最後であったので,その問題は今期に引き継ぐことにしようということであった。
 以上申し上げたようなことが,今,国語について論議されていることの一端である。こういった問題点についての交通整理,どこにどういう問題があるのかということを自由な御議論の中で整理していただければと思うわけである。
 今期の審議会は,そういう整理をしていただいたものを審議経過という形でおまとめいただき,公表し,また世間で議論していただくことが必要かと思うし,また整理が進んだ段階で,先ほど大臣からも申し上げたが,特定の問題について,これはぜひ審議を深めるべきだということがあれば,その時点で改めて諮問を申し上げることもあろうかと考えている。
 また,私どもの方から諮問を申し上げるというよりも,これまでの審議会でもあったが,建議をいただく,あるいは何らかの形で審議会として提言をまとめて,世間に対して意見を述べるというふうなやり方もあろうかと思っている。それは,これからの御審議の中でおのずから方向が定まってくるであろうと思うが,戦後の国語施策の三つ目の区切りの初めということであるから,どうか自由な活発な御論議をぜひお願い申し上げたいということである。よろしくお願い申し上げる。

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