国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 意見交換2

浅野委員

 音声言語というものについては素人なので,山川委員や幸田委員の御意見を伺いたいのだけれども,この国語に関する世論調査の中で,乱れが気になるという中の「話し方」というのは一体何だろう,と私以前から思っているのである。敬語の使い方とか,あいさつ言葉,新語,流行語は,国語とか日本語の範疇(ちゅう)に入るのだろうけれども,「話し方」も国語なのかどうか。
 山川委員や会長はさすがNHKの御出身で,非常に聞きやすい話し方をされる。
 中日新聞の吉村委員は書く方が御専門で,話す中で「えー」とか,「あー」とか,「いー」とかが非常にたくさん入られる。発音とかアクセントというのはこの項目に入っているのだけれども,間を取るとか人間の声の調子――アメリカにはボイストレーナーみたいなのがいて,ブッシュさんは半音下げるために何か月か訓練されたということを聞いていたし,そういうエピソード的なことは,私もいろいろ資料は持っているのだけれども,「話し方」とここで答えた人たちは,日本語,国語というものと「話し方」というものとが一体どういう関係にあると考えているのか。これは個人の教養の問題なのかどうか。仲間うちで話し合うときには,私は通じさえすればいいという感じがあるし,放送で何かを伝える,会議のときに我々が何かを伝えるというときには,私としてはそれほど乱れていないのではないかと思っている。
 私の家内なんかも,放送を聞いていて,夕レントさんの言うことを,嫌だとか,呼び捨てにするのは耳障りだとか,ある野球の選手がNHKのスポーツの解説者になったときに,あの人はやたらに,えー,あー,いーというのが入るので嫌だといってチャンネルを回すが,それを乱れとしてここで答えている人がいるとすると,この審議会でも,話し方,音声言語というのがテーマになっているけれども,国語,日本語と「話し方」というのはどういう関係にあるのかなという疑問を前から持ちながら考え続けているので,専門の方に簡単に御教示いただければありがたいと思う。

坂本会長

 なかなか重要な御質問であるが,事務局の方はどうか。
 簡単に言えば,「話し方」という設問の中身,意味合いはどういうことなのかということになるのだろうけれども……。

韮澤国語課長

 この調査の「話し方」ということに限って申し上げれば,こういう問いというだけであって,それ以上は,まさに調査される方の御判断ということである。

山川委員

 お答えになるかどうか分からないけれども,どうも難しいのだが,要するに,日本語あるいは国語を使って表現する場合に,いろんな表現の仕方があると思う。22ページの「国語を美しく豊かにするための心がけ」というところで三つ挙げてもらったところ,56.7%と最も高かった「相手や場面にふわしい言葉づかいを身につける」というのは,まさにアンケートをお受けになった方々の大変なレベルの高さだと思うが,どれを使ったら一番その場面にふわしく,またその人らしく,相手にもそれが分かってもらえるか,そういう表現の仕方を選ぶ。選ぶというのは,かなり考えて選ぶのではなくて,瞬間的にそれが話せるようになるというような解釈を僕はしているのだが,それではお答えになっていないだろうか。

浅野委員

 ありがとうございます。

林(大)主査

 国語が乱れていると思う点というところに,こういうものが選択肢として並べてあったわけだから,聞かれた人は,自分なりの受け取り方というのがあって,それで答えているわけで,統計の方で,初めから「話し言葉」の意味はこういうものであるということを決めて調査したわけではないと思う。
 私,これを拝見すると,この答えを出した方々の「話し方」というものはどんなものを指しているんだろうか,もう少し具体的に調査をしてみる必要がこれからはあるんだろうと思う。ここでは,まず一応の大きな網が張られただけだろうと思うわけである。
 ただいま山川委員がおっしゃったように,「相手の立場を」というのも大きな一つだろうと思うけれども,それだけで皆さんが「話し方」と答えられたかどうかは,まだよく分からないだろうと思う。

坂本会長

 簡単に言えば,一般的には質問を受けた場合,下品な話し方とか,上品な話し方とか,上に修飾語が付く話し方というふうに――私がその質問を受けたら,「彼の話し方は品がないな。」とか,「彼の話し方は割合と品があるね。」というような,そんなニュアンスで理解することもあるわけだから,今,浅野委員が御指摘のようなことを正確にお答えするのはなかなか難しい。しかし,国語というものをテーマにする場合の設問の中に,「話し方」を入れてもいいんじゃないかとは思う。

林(大)主査

 もし調査がうまくできるならばだが,例えば「NHKの8時45分のニュースの話し方は,あなたはどう思いますか」「どの点でそれをいいと思いますか」「何か気になると思いますか」ということになってくると,具体的になると思う。息の切り継ぎは自分には合わないとか,抑揚の付け方が,変なところでぴょいと上げるとかいったような,いろんなものがあるかと思う。一人のアナウンサーの話し方というか,ニュースの仕方だけでは済まないと思うけれども,そういう具体的な意見調査というか,世論調査をやってみる必要がある。私,それが必要なような気がしている。

浅野委員

 我々の中間報告では,「言葉遣い,話し言葉,敬語,方言等に関すること」という項目にまとめてあるので,問題はないと思うが,こういう調査等の関連から言うと,「話し方」というのは非常にあいまいな表現だなということで申し上げた。ありがとうございました。

寺島委員

 例えば11ぺージに表5があるが,これは一人の人が「敬語のつかい方も気になる」「あいさつも気になる」というふうに答えられるのか。一つだけしか答えられないのか。

韮澤国語課長

 これは上に書いてあるが,三つまで挙げていただいている。

寺島委員

 「話し方」と,「話し方」の次の「敬語のつかい方」以降を,ニ段構えで聞いた方がよかったのかもしれない。「話し方」の中に答えている人も,もしかしたら,発音やアクセントが気になっているのかもしれないし,ちょっと不親切だったかもしれないなと思う。

江藤委員

 今の問題であるが,さっき山川委員が御引用になった23ぺージ,「国語を美しく豊かにするための心がけ」というところの一番上の欄をごらんいただくと,一番左に書いてある「相手や場面にふさわしい言葉づかいを身につける」というところを御指摘になったが,その次に「話し言葉における豊かな表現力を身につける」とあって,3番目に「正しい発声や発音を身につける」とある。
 大体ここに挙げられている最も望ましい「美しく豊かな国語」というのは,みんな話し言葉になっているから,「話し方」というところでくくられているものを区分けすると,こういうものが出てくる,こういう読み方ができる調査ではないだろうかと,今気が付いたので,一言付け加える。

中西(進)委員

 例えば一番基本の調査にしても,最初の「言葉づかいや話し方」の中の「話し方」が今問題になっているわけだが,その次に「敬語」「文字や表記の仕方あるいは文章の書き方」「言葉の意味・由来」「新語・流行語」,一つ飛んで「外来語・外国語」といったものが並んでいる。つまり,国語の問題というのが単語の問題に偏る傾向があるのではないかということを,私はさっきから申し上げているわけである。言葉というのは,単語をどうするかという問題ではなくて,態度――さっき私は敬語というのは身体に関する言語だろうと申したけれども,そういうものが国語のまさに問題であって,それは別の言葉で言えば,話し方,使い方になるわけである。
 だから,そういうところにこそ関心を持つべきであって,それを言語をどうしようかという事柄に置き換えていったら,「乱れている」――私どもの古典の文献で言うと,「枕草子」以来,言葉は乱れていると言い続けてきているが,そういうことをこれからも繰り返すわけであって,何ら抜本的な解決にはならない。
 我々に大事なのは,今まさに的確に問題にされた使われ方ということではないか。だから,その辺をこれからの視野に入れていただきたい。敬語の問題も,「ら抜き言葉」も,その方が大事なのではないだろうか。
 仮に敬語を知らない,全くたどたどしい外国人でも,非常に丁寧な,あるいは教養のある外国人だったら,ごくわずかの敬語で非常に丁寧な表現はできると思う。そういうところに我々の落とし穴があるんじゃないだろうかということを,私は繰り返し申し上げているわけである。
 今の「話し方」ということを問題にされたのは非常に的確であって,むしろ私の邪推かもしれないが,アンケートの内容がどうなのかということは一つの衣であって,中身は実はそういうことだったのではないかとさっきから伺っていた。

坂本会長

 そういう御指摘を国語審議会としても十分留意して今後論議を重ねるということに落ち着くのではないだろうかと,ただいまのお話を聞いて感じた次第である。
 言葉の問題として,いわゆる標準語と方言の問題も最近いろいろ議論があるようで,先般もNHKで全部方言でニュースも含めて放送するという,かなり冒険的な発想の放送もしたようだ。それはそれなりの反響もあったようで,そういうことの積み重ねというか,それが議論を呼んで,国語問題についての一つの回答の道につながるのではないだろうかと思って,私もある意味では賛成しているのだけれども。
 余計なことを言う必要もないが,そういう体験をしたので,ちょっと御紹介したわけである。

野元委員

 今,会長が方言と標準語のことを言われたので,そのことについてであるが,この世論調査の結果では「方言を大切にし,保存・継承する」ということの支持は,都市化の程度が低いほど高いということの説明が事務局からあった。これは一応非常に合理的な説明のように思うけれども,これは調査なるものの一つの性格がここに現れているような気がする。
 例えばNHKの日本語に関する調査の結果を見ると,ここでは調査はこれからの言語教育,国語教育の場合に,「方言を尊重すべきであるか」とか,「標準語の教育に力を注ぐべきであるか」とか,こういう調査をしている。ここでは都市化の程度が高いほど方言の方に傾いている。これとは全く逆なわけだ。
 この総理府の調査では,形式等を見ると,全然聞いていないようだけれども,「学歴」というのがNHKの調査にはあって,学歴の高いほど方言に傾いている。つまり,学歴が高い方,都市化の程度が高い方,これが方言に傾いているということは,その被調査者が実際の言語生活とは逆だということになるんだろうと思う。つまり,私はその調査の結果は,方言は尊重すべきだということを観念的に思っているからであって,実際の言語生活とは全く関係のない結果ではないかと思う。
 だから,こういう世論調査をいろいろ使う場合には,非常に気を付けなければならないと思う。

尾上委員

 私もいろんな世論調査をしたが,そのときに,今,野元委員のおっしゃったような有識者たろうとする答えが必ず出てくる。いわゆるpretend to beというか,自分は本当はそういうふうにしてないんだけれども,というのが必ず出てくる。例えば質問で「あなたはどんな番組がいいと思うか」と言うと,「イタリアのオペラ」だとか言って,実際は吉本興業なんかを見ていて,子供が入ってきたらばとスイッチを切り換えたりしている。(笑声)
 だけど,それはそれで,そういう意識の下でのそういう人を調査対象にしたとか,そういう環境にあったということを十分心得てやっていけばいいのではないか。
 例えば相撲が好きだ,野球が好きだという人でも,番組何とか委員会で意見を言ってみろといったら,朝から晩まで野球をやれとは言わないわけである。それだから,その調査は意味がないというのではなくて,それはそれでまた意味があるというふうに理解したらどうかなと。分かり切ったことだけれども,一言申し上げた。

野元委員

 多分尾上委員も私と同じだと思うけれども,調査は,調査した限りは真実であるということは,私も調査マンとして心得ているわけである。ただ,その調査を解釈するときに,この調査だけが正しいとは言えないのではないか。どういうワーディングの質問であったかというようなことを十分に考慮しなければいけないだろうということを申し上げたかったわけである。

北原委員

 11ぺージと12ぺージの表の読み方だが,「国語の乱れていると思う点」ということで,「話し方」が断然トップだというようなまとめがされているけれども,年齢別に見ると,若い人の方が話し方が乱れているというふうに感じている。年配の方はかなり数字が違っていて,若い人の77%とか79%に対して,60歳以上は65%。かなり大きな違いで乱れていないと考えておられるわけである。
 「敬語のつかい方」についても,年齢別に見ると,そういうことが言える。ところが,「手紙や文章の書き方」となると,余り違っていない。
 そんなことを考えると,若い人たちは余り手紙や文章を書かないで話しているので, 自分の話し方が悪いとは思っていないのかもしれないが,相手の話が手紙でなくて電話でしゃべっていてまずいとか,敬語の使い方も自分が使っているときには気にならないけれども,ほかの方のはというふうなことで,どうもこれで日本全体の現状が「話し方」が一番乱れているというふうにすぐまとめてしまうのは,問題ではないかという気がする。
 「新語・流行語」は,一番使っているはずの若い人の方が乱れているというふうに――自覚しているのかどうか知らないが,そして60歳以上の人は余り乱れていると思わない,自分の言語環境にはそういうのが入ってこないからかどうか,乱れていないということになっている。
 「あいさつの言葉」というのは,今度は逆に年齢の高い方が数字が高くなっているけれども,これは皆さん「どうもどうも」で終わっていることが思い出されて,その数字が高くなっているのかとか,年齢別の上がり方,下がり方を見ると,簡単に「話し方」がトップになっているというようなまとめ方はできないんじゃないかという気がして,一言申し上げた。

野元委員

 この調査で,男性語と女性語の使い分けについて皆さんがどう思っているかというのを大変知りたかったのだけれども,その質問は全くない。多分これはセクハラの問題などあって,危険地帯ということでこの質問をカットされたんだろうと,私もそういう質問を作る側では思うけれども,これは非常に残念な気がする。そして多分結果は,敬語よりも男性語,女性語の使い分けを支持するのが高くなっただろうと思われる。今まで私が関与した調査ではすべてそうだった。

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