国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第19期国語審議会 > 第6回総会 > 次第・議事要録

次第・議事要録 意見交換3

石井委員

 この調査で一つ残念だったのは,10代の人たちの声が反映されていないことである。16〜17の人,ハイティーンの言葉遣い,日本語に対する考え方を聞きたかったと思う。数字の危うさといっては言い過ぎだけれども,ちょっと不可解に思うところは,電車の中で女子中学生の会話を聞いていると,さっきの江藤委員のお話ではないが,例えば「ざけんなよ」とか「るせえ」とか,「おれ」「おめえ」みたいな言葉すらも女子中学生の中から出てくる。ところが,彼と彼女たちが,例えば江藤先生に向かって言う場合とか職員室では,先生に対して割と尊敬を込めた言葉を使うかもしれない。
 私たちは電車の中だけで生徒たちの言葉を耳にしていると,どうしても日本語の乱れの方に一票を投じてしまうわけである。ところが,両方を知っている場合は,乱れに手を挙げるべきか,真っ当だという方に手を挙げるべきか,非常に難しい問題が出てくると思う。だから,「乱れ」ということで数字で締めくくるのは難しい問題があるのではないかという感想を持つ。

坂本会長

 さっき御指摘の女性言葉と男性言葉というのは,日本語の一つの特微だと思うので,その点の配慮もあってしかるべきだという御指摘は,今後の勉強の仕方の中で考えていく必要があるかと思う。

林(大)主査

 今の話し方については,いろんなものが入ってきそうな気がするが,11ぺージにおける「話し方」が何%ということだけれども,これは調査の仕方を見ると,三つまで挙げてもらったと書いてあるので,「話し方」が乱れていると答えた人が,あとの二つはどこに○を付けたかということも考えておかないといけないのではないか。
 「話し方」というと,総括的なので,こっちの方はどれでもいいんだけれども,まあ,「話し方」としておけばいいというのが点数が多くなるわけで,先ほどからお話が出ているのもそういうことかと思う。
 「話し方」というと,私なんかしゃべり出し方が悪くて,皆さんがいろいろお話しになると,つい自分もしゃべりたくなって,こういう発言をするようなことになる。これも一つ問題ではないか。会議のやり方というのもどこかにあっていいかもしれない。
 どうも申し訳ない。自分ができないことをしゃべってしまうわけだけれども,そういうことも含めて,我々が言葉の問題についてどう考えたらいいかということになると思うので,私はこの調査の最後のところなどを見ると,我々国語審議会はどういうことを議論していったらいいのか,何を問題にして,どう片付けていくのか,どうしたら審議会の議論の役目が果たせるのかということを考えてみたいように思うわけである。
 26ぺージの「国や社会に何を望むか」の中に,国語審議会に何を望むかということも含まれているんだろうと思う。そうしてみると,今まで審議会がやってきたのは,主として「文字や表記の仕方の標準を示し」というところまでであったように思うけれども,そのほかの問題で我々は議論ができるのかどうか。「国語の教育をより充実してください」ということを初中局の方へ言えば,それで済むかもしれない。
 あと「家庭や社会での言葉の教育を充実させる」これはどうするのか。何を我々がお話し合いをすれば,それが実行されていくようになるのだろうかという問題はどう考えるか。それを一度私は審議会自身の問題として考えておかなきゃならないのではないかと思っているわけである。

坂本会長

 大分先生方の御意見も一つところにフォーカスが決まってきたような感じであるけれども,結論とすれば, これをどう取り進めていくかということに当然なるわけである。そうなると, この総会でそれを取りまとめていくことはなかなか困難ではないかと思うので,問題点整理委員会の先生方に御議論を重ねていただいて,この総会にもう一度お諮りいただくという考え方をとらせていただけないだろうかと思う。
 問題点整理委員会の先生方もお忙しい中,大変だと思う。一部からもっと委員の数を増やしたらどうかというような御提言も伺っているけれども,問題点整理委員会には委員以外でもこの総会の委員は御出席になってもいいことになっているので,具体的に委員の数を増やすという手段をとらずに取り進めさせていただいた方が,言い方は難しいけれども,効率的ではないかと考えているわけである。
 事務局を含めて,そういう考え方についてこの際御賛同をひとまずいただけたらいかがかと思うが,いかがか。

江藤委員

 ただいまの会長の御提案には全面的に賛成であるが,その前に,林委員が御発言になったことは大変大事なことだと思う。と申すのは,26ぺージの棒グラフを見ながら一つ申し上げたいと思うのだが,国語審議会が終戦直後からいろいろ国語政策に対する見直しを始めて,四半世紀ぐらいやってきたことは,恐らくちょうどこの棒グラフの真ん中から下のところ,「文字や表記の仕方の標準を示し,普及・啓発に努める」,つまり,14.4%という関心度が示されているところ以下のところのことをやってきたのだなあと。ところが,国民の国語に対する関心の主たるものはそうではなくて,それから上のところ,つまり,「学校での国語の教育をより充実させる」から下に来て,「方言を大切にし,保存・継承する」というところに至ることだったのではないか。
 したがって,この国語審議会が問題点整理委員会に御苦労いただきながら,問題点を整理していく場合に,単に連続的な問題意識でこの14.4%から下の方に行ってしまうというような問題点の整理のされ方ではいけないのではないか。
 この第19期国語審議会というのは,実に画期的な転換点に立っているのであって,一つの不連続というか,飛躍というか,そういう新しい視野で,この上の半分のここで国民の関心が示されている諸問題に対して交通整理をしていただきたい,このようにお願いを申し添えたいと思う。

坂本会長

 なかなか重要な御発言で,審議会会長としてはいささか忸怩(じくじ)とするけれども。

林(大)主査

 江藤委員のおっしゃったことは誠にそのとおりだと思うわけだが,ただ,その上の方のことは,どのようにしたらこの審議会でできるのかという問題である。国語審議会で取り上げて,いろんな方が乱れているのを正さなければならんというふうに言っておられるのだということを発表しても,それで終わってしまう。新聞で報道されれば終わってしまう。それも大事なことだろうとは思う。世論を高めていくのにはどうしたらいいかという問題だから,しばしばこの審議会でそれが取り上げられるということは大事なことだと思うが,毎回同じことになるのではないか。そして毎回同じことを新聞が報道すると,またかということになるのではないか。
 それを有効なものにするのにはどういう審議をしたらいいかということを実は問題点整理委員会に預けられると,ちょっと皆さん大変なんじゃなかろうかと思うので,何とかその辺を教えていただきたいものだと私は思っている。

江藤委員

 誠に林委員のお説のとおりであろうかと思う。だから,問題点整理委員会さんよ,やってくださいと言われても,そんなこと言われたって困るとおっしゃる気持ちはよく分かるのであるが,先ほどからこもごも御指摘いただいているように,26ページの上の方の設問の仕方も非常に問題で,何もこういうふうに聞いたからといって,これにこだわる必要はないと思う。便宜上この設問を利用させていただいて見ていくと,「より充実させる」とあるが,この「充実させる」とは一体何だろうかということも,これを特定すればどういう作業になるのか,どういうことに関心を持ってやるのが充実になり,国語が貧寒になるのはどういうことなのか。これは百人百様であるのか,それともある標準が見出せるのかどうかというようなことをお考えおきいただいた上で,問題点整理委員会の御議論が進めば,これは名論卓説吐き放題ということではなくなるだろうと思うわけである。
 それから,「言葉のつかい方について標準を示し,普及・啓発に努める」という第3の37.3%のところを見ると,ここでもまた標準が出ていて,言葉の使い方について標準を示すということを国語審議会がやるというのは,かなり輪郭のはっきりした作業ではなかろうかと思う。
 4番目の「言葉の意味・由来や国語の伝統を大切にし,保存・継承する」ということは,何と何を意味するのか。そういう観点に立ったときに,小中高等学校の国語教科書はどう編纂(さん)されるべきかということは,これは初中局の仕事かもしれないが,我々は官庁の行政の区分けというものをここで念頭に置いて話さなきゃならないことはないわけだろうし,味付けをしていただくのは行政の方でやっていただくのだろうと思っているので,等々を考えると,雲をつかむような話ではない。
 この設問はかなり大ざっぱなものであるけれども,それを手繰っていっても幾つかの問題点が出てくるような感じがする。それも併せて申し添えさせていただく。

坂本会長

 多少問題によって堂々巡りする嫌いがないでもないので,私も少し心配しており,また,主査の御懸念も分からなくはないけれども,やはり問題点整理委員会から発足するという方法論はひとつ御承諾いただきたいと思うので,御無理な点は重々承知しながら,お願いする次第である。ほかにいかがか。

山川委員

 何でもこれはいかん,あれはいかんということになると,いつまでもらちがあかない。言葉の教育の問題もまさにそうだろうと思う。柳田国男とか折口信夫の世界になるかもしれないが,言葉の源というものをここではっきりとみんなに分かりやすく面白く説く。私はこれを教科書にぜひ盛り込んでいただきたいと思うのである。
 言葉はもちろん時代で変わる。例えば私たちが「とにかく」「とにかく」と言うが,これはその前の時代には「ともかくも」と言っていた。その前は,芝居では弁慶のせりふなんかで「とにもかくにも」と言っている。それが今「とにかく」になってしまっている。だんだん源にさかのぼっていくと,言葉の成り立ちもその言葉の持つ意味も非常によく分かるものである。
 国語の教育というと,私は国語の時間は余り嫌いではなかったが,文法になると,とても嫌いだった。これはこの委員として恥ずかしい点だけれども,そういうことももちろん大事だけれども,どうしたら面白く言葉に関心を持ってもらえるかの方がもっと大事だと思う。
 例えば森君,林君という生徒がいたら,「森」というのはこういうことなんだよ,「林」といえばこうなんだよ,昔,村人が一人村から出ると,木を1本植えた。二人行くと二人いなくなって寂しくなるから,2本植えた。それがどんどん増えていった。それが「林」なんだ。本当は林君は「木」という字をたくさん横に書かなきゃいけないけれども,それだと大変だから,便宜上二つにしたのだ。その上にどんどん盛り上がっていったのが「森」で,森君がその辺に木を一つ植えたというふうに,何か面白く説く方法はないだろうか。そういうことを具体的に面白く教科書に盛り込んでいただきたい。
 これは3番目の「言葉の意味・由来」ということにもなるんだけれども,今までのやり方は,いかにも教育的な面白くない教え方ではなかったか。それには先生がもっともっと言葉に対して興味を持って,言葉の源というものが持つ意味というものをしっかりと把握して生徒に教えることだと思う。
 そういうことが林委員のもっと具体的に示せということの答えになるかどうか分からないけれども,そんなことも一つ入れていただきたいなと思うわけである。

坂本会長

 方法論としての今の山川委員の御発言も,確かに十分参考になる話ではないかと思う。

渡辺委員

 これからの方法ということになるわけであるが,今回の総理府のこの調査は,この審議会がこれから問いたいような問題ももちろんあるが,意図がちょっと違うわけである。そういう意味で,これは私は一つの参考として取り上げていく必要があると思う。かなり具体的に,例えば「話し方」の問題だとか「敬語」の問題が挙がってきているが,現在もそうした問題がいろいろ話題になっているわけである。
 そういう意味で,具体的に提案をするというならば,こういう問題があるよというようなことで,例えばまとめの中に入れる。入れるにしても,今回の中間まとめを基にしながら,これを参考にしてまとめをしていくということだろうと思う。総花的にすべてを挙げても,とてもこれはできる話ではないのではないか。
 今期審議会において,例えば次期の審議会でやるとすれば,こういうことが一番課題であろうというようなまとめをしていく必要があるように思う。例えば,今も26ぺージで問題になっていたけれども,2番目の「家庭や社会での言葉の教育を充実させる」というのは,40.6%の皆さんがそういう意識を持っている。じゃ,現在そうした面を担当している内容というのは一体どこの部局がやっているのかというようなことの提案をしていく必要があると思うわけである。
 この問題は,文部省で言えば生涯学習局であろう。こういうふうに基本的に生活の面を踏まえて,言葉の面まで及び教育ができるのかというようなことを具体化していく,そういう提案をこのまとめの中ではしていく必要があるのではないかと思う。

村松委員

 今の御意見に私も賛成である。問題はこの世論調査の資料の扱い方であろう。世論調査というのは,先ほどからいろいろ御意見が出ていたように,設問の方法にもよるし,こちらがなるたけ格好いい返事をしたいというふうなこともあるし,そういうことに伴う当然なゆがみが生ずる。
 ただ,それ以前に,私は,大体世論調査の結果によって国語政策を決めていっていいのかという根本的な疑問を持つ。国語問題の審議というのは,これはさっきからお話に出ている規範を決めることであって,もちろん,国語というのは時代によって違ってくるけれども,それでも国語審議会はある意味では極めて保守的な点,つまり,世の中がどんなに変わっても,これが正しいんだよということを常に言い続けていく,そういう部分を残していかなきゃいけないと思うのである。
 これはいろんな意味で参考になる世論調査ではあるが,どこまでも世論調査は参考として扱っていただきたい。これを中心にして問題を整理していただくのではなくて,どこまでも参考ということ,これを基本にしていただきたいと思う。

坂本会長

 それは先ほども申し上げたように,我々の言わば見識を問われる問題につながるわけだから,一番大事な心構えだとは思っている次第である。
 どうやら皆さんから大体御発言がいただけたと思うので,今御発言いただいたお言葉を十分参考にした上で,問題点整理委員会を開かせていただきたい。当面の総会は,来年早々ということになろうかと思う。そして問題点整理委員会の開催等については,また皆様方に御通知を差し上げ,そして御出席いただける先生方は御出席いただきたい。そういう原則を御承認いただいて,一応今日の御議論のまとめ,結論とさせていただいてよろしいか。

林(大)主査

 この世論調査の「何を望むか」という中で,12.6%,「発音・アクセントの標準を示し,普及・啓発に努める」ということがあるし,この我々の審議経過報告の一番最後にも,国語教育に関することとして,「音声言語の重視」ということが取り上げてあるわけであるが,それの具体的な問題は,今日の初等中等教育局長裁定の「音声言語の教育に関する指導資料の作成について」,そういうところである程度対応されているものと考えてよろしいと思われるが,その辺,お確かめしたい。

坂本会長

 その点はいかがか。私は今の林主査のお考えを基にして御議論いただければいいんじゃないかと思うけれども。

林(大)主査

 一足飛びに具体的な話になってしまって,私は先ほどはもっと基本的な問題を議論していただきたいと言ったのだけれども,問題点整理委員会でやるとなって,どういうふうに何を採るかということになると,問題になってくるので,一応初中局の方でこういうことが行われているから,それの方の結果を待とうということでよろしいわけか。

坂本会長

 いかがか。

林(大)主査

 実は初中局の方の音声言語の教育について,ここでもう少し皆さん方からの御注文があってもいいのではないかとひそかに思っていたわけである。音声言語といっても随分広い。音声言語として我々も取り上げた朗読の問題など,いろいろな問題があると思う。

韮澤国語課長

 今の件であるが,初中局でやっている会議は,飽くまでも教え方の指導資料をどうやって作るかというような会議なので,こちらの審議会の中間報告を具体化する一つのプロセスだというふうに理解している。また,審議会の方でも音声言語教育全体については,広く自由に御議論いただければというふうに考えている。

坂本会長

 では,そういうことで,今後の事務的な取り進め方をお許しいただくということで,多少まだ時間の余裕もあるけれども,本日はこれで閉会とさせていただきたい。

トップページへ

ページトップへ