国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第1委員会における検討事項等について

坂本会長

 続いて,第1委員会からの御報告を野元主査からお願いしたい。

野元(第1)主査

 第1委員会は,前回の総会で委員の指名を受けてから,4月20日(水曜日),5月20日(金曜日)と2回会合を開いた。委員は12人であるけれども,第2回に1人欠席されたほかは全員出席ということで,出席状況は大変良く,非常に熱心に討議に当たられた。
 私は,先ほどの国語課長からの報告にあったように,第1回の会合で主査に選ばれたので,以下,2回の会合の概要を御報告し,第1委員会所属の委員も含めた全委員の方々の御意見を伺い,今後の討議の指針としたいと思っているので,よろしくお願いする。
 第1回,第2回とも,本日の資料2-1の「第1委員会における検討事項(案)」によって話し合ったので,これを基に御報告することにする。1から3までは考え方の問題で,4と5は具体的な検討事項として掲げたものとなっている。
 まず,1は「国語審議会の審議の対象となる言葉遣いの範囲,事柄について」である。この範囲,事柄については,これを定め,審議の対象を整理する必要があるということになっている。ただし,2回までの審議では,整理の方向よりは,抜けないよう広めに話し合っている。全体として,21期まで時間をかけるなら,かなり具体的なことに踏み込めるのではないかと考えている。
 第1委員会で扱う言葉遣いの範囲,事柄については,話し言葉を中心に,書き言葉をも視野に入れながら,問題になっていることを,過去から現在に至る伝統を踏まえ,現代,将来の在り方を考え,指針となる提言ができることをも目指すという考え方が,第1委員会での御意見の共通的なものであったと考える。
 昨年の4地区での国語施策懇談会の記録をキーワードに整理し,そのキーワードがどの地区で取り上げられたかという一覧表,本日の資料4を渡辺委員がお作りになったので,共通して関心を持たれている問題がどれであるか,これを参考の資料として使うことができた。ただし,四つの地域とも取り上げているキーワードと言うか,項目は,この表ではない。
 また,日本人にはどのような言語能力が求められるかということを議論すべきだという声があって,これについては,一つには敬語のような待遇性,一つには論理性が求められるのではないかということであった。
 2の「美しく豊かな言葉の普及について」は,第19期の報告にも「国語の表現は,平明,的確で,美しく,豊かなものであることが望ましい」とあるが,これは昭和47年の第10期国語審議会の建議「国語の教育の振興について」以来使われてきたものである。したがって,この検討事項には「平明」「的確」という要素も含められているものと考えるけれども,「美しさ」とか「豊かさ」は百人百様であって,何をもってそう考えるかは年代,地域,性別その他で違っている。この点について一般の人の考え方を知るために,後に述べる世論調査,アンケート調査をすることが必要であろうと考えている。
 項目として(1),(2)があるが,(1)の比重が重いので(2)と並列させることは不適当であるという意見もあったが,これに対して2の「美しく豊かな言葉の普及について」の観点からすれば,(2)もここに位置付けることができるという意見もあった。
 (1)「言語環境の整備について」は,まず言語環境とは何かということが問題になるだろう。言語環境とは,言語生活や言語発達に影響を与える文化的,社会的,教育的な環境を言う。特に言語形成期,発達期の子供たちにとって,家庭や地域社会,マスコミなど,学校だけではなく,あらゆる言語環境の及ぼす影響は非常に大きいものがある。種々の言語環境と言語発達,言語変化との相関などを調査したり,学校教育やマスコミにも要望するなどして,言語環境の整備,改善を図ることを考えたいと思っている。
 (2)の「方言の尊重のための方策について」は,19期の報告において方言の尊重が掲げられているが,その具体的な方策について,これから検討していきたいと思っている。
 3の「言葉遣いの標準の在り方」については,次のような意見が出た。
 まず,(1)の「言葉遣いの標準の現状」については,事務局から本日の資料2-5「言葉遣いの標準の現状について(稿)」というのが出されて,これに対して説明及び意見交換があった。
 (2)の「言葉遣いについて国が何らかの標準を示すことの是非」については,資料2-3のNHKの世論調査によると,国が言葉の乱れに対して特別な対策をとる必要はないという意見が60%もあって,国が積極的に対応すべきだという意見の33%を圧倒している現況をどう考えるかという問題が出された。
 一方,同じく資料2-3に出ている総理府の世論調査では,言葉が乱れているという意見が約75%あるので,国語審議会としては無視できないのではないかという意見が強かったように思う。
 言葉遣いについて国が標準を示すことの是非については,対象となる事柄とか分野,性格などによっても違っており,一概に論ずることは困難と考える。また,これは個人の価値観とか表現の自由とのかかわりもあって,大変重要な問題と考えるので,今後も委員会で十分議論したいと思っている。

野元(第1)主査

 なお,第1委員会における2回の御討議から伺ったところによると,考え方の基本を示し,必要に応じて具体例を添えるという,ごく緩やかなよりどころを示すことは,むしろ望まれているのではないかという認識もあったと私は受け止めている。
 (3)の「対象となる事柄・分野,標準の性格,標準を担保する方法」については,言葉遣いにおける適否は一人一人の言語観によって違うから,ある言い方を幾つもの中から決めるということは難しいのではないかという考え方が,会議の一般的な空気であったように思う。
 事柄として,どれを標準提示の対象とするかは,これからの審議次第であろう。
 適用分野としては,従来の表記に関する標準の場合は,法令とか公用文,新聞,雑誌,放送等,公共的な分野や教育関係などが考えられたが,言葉遣いの標準に適応分野といった概念がなじむのかどうかというところから,議論する必要があるだろうと思っている。標準の性格としては,参考程度といったものから,緩やかな目安,よりどころといった辺りが考えられるだろうと思っている。事柄や対象によっては,扱いに段階を設けてはどうかという意見も出た。
 標準を担保する方法についてであるが,言葉遣いの標準は表記に関するものとは異なっているから,内閣告示・訓令にはなじまないのではないかと思われる。今後,多様な担保の方法について検討していくことになるであろうと思う。
 4と5は具体的な項目である。
 4は敬語についてである。ここには細かい項目まで挙げてあるけれども,個々について,具体的にどうするのかについての議論はほとんどしていないというのが今までの審議の実態である。
 (1)の「敬語の範囲」,(2)の「我が国における敬語の沿革」,これらについてはほとんど討議されていない。
 (3)は「敬語の理念と役割」となっている。こう申すと少々物々しいが,これに関しては,従来,上下関係のための言葉遣いと見られがちであったけれども,むしろコミュニケーションを円滑にするため,あるいは相手との距離,すなわち親疎を表すための言葉遣いと位置付けるのが適当ではないかという意見が多いように思った。また,今の敬語は過剰であるから,適当な量で使うための指針を作ったらいいのではないかという考え方も出た。
 それから,敬語について触れながら,昭和27年の第1期国語審議会の建議として出された「これからの敬語」について何も言及しないのは,混乱を招くのではないかという指摘もあった。
 (4)の「敬語の語法」だが,19期以来,資料2-4に掲げたような敬語の語法が話題になっており,ガイドラインを求める声も高いように思う。このような語法上の問題に関して議論することが必要であろうかと思っている。
 (5)の「学校教育における敬語の扱い」については現状認識を踏まえ,今後どのようにあるべきかをこれから考えてまいりたいと思う。
 (6)の「日本語教育における敬語の扱い」は第2委員会ともかかわる問題であるが,表記以外で,難しいとされている日本語の敬語について,外国人にどの程度を求めるのか,特に初級ではどう考えるのかについて議論しておきたいということである。このことは,日本人自身にとっても日本語の根幹を考える上で有益であろうかと思う。
 5は「その他の問題について」である。「その他」とは,敬語以外に審議の対象とする問題という意味である。
 (1)の「敬語以外のいわゆる言葉の乱れやゆれについて」については,具体的にどのような事例があるかに関して,第19期報告のまとめのとき以来,多くの話題が出ている。「ら抜き言葉」とか,「あげる」と「やる」の問題,「食べる」と「食う」の問題,「とか」の問題などが指摘されてきたし,また昨年度の国語施策懇談会でもいろいろな問題点が出てきた。
 しかし,個々の語や慣用句の意味,用法の吟味は無数にある。これは国語辞典の担うべきものであるから,限りある審議時間から言って,このことは不可能であるという意見があった。第1委員会では,体系的なゆれを中心に,考え方を議論していくべきだという考えである。
 (2)の「発音・アクセントの問題について」は,(1)に述べたことと同様,個々の語について議論することはなかなか難しいだろうと思う。ある群とかグループについてある標準を示すことも,必ずしも易しくはないけれども,変化の傾向とかゆれの現状の問題点を指摘し,考え方の基本を示すことは可能ではないかと感じている。
 なお,昨年度の国語施策懇談会においても,(2)に関して多くの指摘があり,この問題について関係各位の関心が非常に高いことがうかがわれるところである。
 以上が第1委員会の討議の大要であるが,2回の会合とも副会長が出席され,御意見を賜ったことを付け加え,感謝申し上げる。
 さらに,以上のような事項を今後検討するためには,広く国民一般の意見を知る必要があり,そのために,いわゆる世論調査のほかにも,学校教育関係と海外の言語施策の実態を調査するべきであると考えて,第2委員会とともに,関係各位,事務局に準備を進められるようお願いしているところである。
 以上で第1委員会の報告を終わる。

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