国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議

坂本会長

 これから協議に入りたいと思うけれども,まず第1,第2両委員会の報告,ただいまの資料説明等について,御質問があれば伺わせていただきたいと思う。いかがか。
 時間も大分迫ってまいったので,御質問だけでなく,御意見なども御一緒にお聞かせいただければと思う。質疑と意見交換を併せて,ひとつ御協力いただきたいと思うが,いかがか。
 お話を聞いているうちに,大変広範にわたるものだから,殊にNHKの調査なども御紹介いただくと,私自身そうだったかなと思うような不見識な事態もあって,恐縮なのだけれども,お気軽に御発言いただけたらと思う。
 結論は,日本語は難しくて厄介だなという印象である。

加藤委員

 正書法,オーソグラフィーの問題が20期まで何回か取り上げられてきたように思うが,きょう御配布いただいた資料の中でも,これは後に残る文書なので,2か所ほど気が付いたことがあった。
 まず,資料2-2の下の方に「国語施策懇談会」というのがあって,「各界の有識者約20名による意見交換を行うもので,言わば」というのがあるが,この「言わば」は,強いて漢字にしようとすれば「謂わば」ではないのか。こういうのは平仮名の方がよろしかろうと思う。
 同時に,ただいま御説明のあった資料2-5である。その5ぺージ,(4)の上から6行目の「これは」は平仮名で書いてある。一番下の(6)の下から3行目は「之は」になっている。オーソグラフィーの問題は,日本では定まっていないけれども,非常に大事な問題で,少なくとも国語課においては国語課自身のオーソグラフィーを確立していただきたい。
 以上である。質問ではない。

韮澤国語課長

 先生の御指摘を受けて,これから注意してまいりたいと思う。

坂本会長

 確かに笑い事ではないと思うので,気を付けたいと思う。

江藤委員

 大変興味深い資料の御説明がいろいろあって,非常に参考になることばかりであったが,なかんずく資料2-3という世論調査,意識調査の結果には大変示唆的なことが書いてあると思う。
 資料2-3の2ぺージであるけれども,Cというところで「ことばの乱れに関して,マスコミの責任は大きい」が83.3%。これは大いに掬(きく)すべき数字であろう。確かに責任は非常にあるんじゃないかと思う。
 更に特定すると,「あなたにとって標準的な日本語とは次の中のどれでしょうか(いくつでも)」は,1位が「アナウンサーのことば」で68.5%。これは,国が介入するのに反対とか何とか言っているけれども,同時に標準を求めている。今日本人が自然に話し言葉の標準を求めるときに,アナウンサーの言葉がそのよりどころになっているというわけであるから,アナウンサーの言葉,つまりアナウンサーの責任というのは非常に大きいということになろうかと思う。
 「先生のことば」はわずか10.7%で,「作家のことば」に至っては3.0%,「役所のことば」は2.7%と惨憺(たん)たるものであって,役所は何をやっても余り関係がない。アナウンサーがやると関係がある。
 ところで,ただいま天皇・皇后両陛下が御訪米中であるが,天皇訪米に関して,NHKの午後7時のニュースのときに,女性のアナウンサーが「天皇・皇后両陛下がどこそこへ行きました」というふうな表現を使われたのである。私は非常にひっかかった。「天皇が行った」というのはいいのかもしれないが,「陛下」という敬称を付けた場合に,例えば「先生が教室に行った」というだけでもたしなめたくなるところを,どうしてこういうふうに言っているんだろう。
 アナウンサーがうっかりそう言われたのであれば,大した問題ではないかもしれないけれども,それほど影響力のあるマスコミの公共放送のNHKのアナウンサーが,一番視聴率が高いと思われる午後7時にこういうことを言っておられる。これはいかなる理由によるものであろうか。もしそこに政治的平等主義があって,「陛下」とは一応言っておくけれども,やっぱり人間だから「行く」と言ったというような,言語に対する政治的解釈がそこに入っているとすれば,皇室尊崇とか何とかいうことではないのであって,むしろ私はそれを一番問題にしたい。
 敬語の体系というのは,専門の先生方が多々おられるから,私が縷(る)々申し上げることもないのだけれども,奈良朝,平安朝,もっと前から,日本語は人称代名詞を使わずに敬語で話者を特定してきているというような非常に強固な伝統のある言語であって,それが現代語にも脈々と伝わっていると思う。そういうことを考えると,単純な政治的平等主義で「陛下が行く」というような言い方をする,むしろすべきだと考える人たちがいるとすれば,言語文化に対する浅薄な理解しか持っていないことになりはしないかというわけである。
 大変面白いと思ったのは,国語課長が説明されたフランス語の使用に関する法案を見ると,フランスは共和国であるけれども,何とフランス語使用というものを憲法が保証する,共和国憲法が保証しているわけだが,その論拠として,1539年のヴィレール・コトレのロルドナンスというものが出てくる。それから,1635年にアカデミーフランセーズが創設される。いずれも王政時代のブルボン王朝の時の勅令とかアカデミーフランセーズ設立のことをもって,現在フランス語の使用を義務付けることの論拠にしている。ここにあるのは,フランス人のフランス語という言語についての文化的なプライドと申すか,言語について文化的な遺産であるという位置付けをして,それを政治制度の改変にかかわらない持続性を持ったものとして位置付けている非常にはっきりした証拠だと思う。
 我々が言語を論ずるときには,片々たる政治的事象のゆれにとらわれずに,少なくともフランス人程度の持続性を考えていただきたい。その上で,第1,第2委員会におかれても,いろいろ御審議をいただければ大変幸いであるという私のお願いである。

坂本会長

 ただいまのテーマはNHKにかかわることであるので,私がお答えするのは不適当かと思う。私以外の委員の先生方から,今の御発言に対して反論でもあればひとつ。

中村委員

 おっしゃることはよく理解できる。政治的平衡感覚が働いているのかという点については,そういうことは働いていない。現実にどういう表現でやっているのか,調べてみるが,政治的平衡感覚,バランス感覚が働いているということはない。

坂本会長

 今のような現職の責任者の発言であるが,今の御発言を類推すれば,スクリプトが多少書き足りないところがあったのかと。
 似て非なる話であるけれども,私も最近言葉遣いで感じたのは,やはり7時のニュースの中でスポーツニュースを扱う女性――我々はアナウンサーと言うのだけれども,テレビになると,アナウンサーと言いながら,実はタレントであったり,いろいろいるものだから,バックグラウンドがラジオ時代と違って複雑になっている。
 その女性がスポーツの放送をしながら,「これでひと段落しました」というふうに読んだか言ったかした。私の頭の中には「ひと段落」というボキャブラリーはないものだから,「ひと段落」はおかしいんじゃないかと思って問い合わせたりしているのだけれども,あの人が「ひと段落」と言っていることは,別の意味で,面白いと言うとおかしいけれども,悪くはない。だから,あの人をとがめる気はないけれども,「ひと段落」と言っているのに,周りにいる連中が,放送が終わった後にでも,あれは「一段落よ」というふうに教えるぐらいの心配りをしているのかしていないのか,そこら辺の方が問題じゃないかなという憎まれロを先ほど局でしてきた。
 そういうことで,言葉遣いというのは心得なければいけないことかと思うので,今の江藤委員の御発言については,現場の責任者がああいうふうに発言したので,御了解いただきたい。
 せっかくの機会であるから,どうぞ。

吉村委員

 江藤委員がお話しになったことにちょっと関連するが,この世論調査を見ていて,要するに,言葉の乱れについて国の介入ということに対して非常に否定的な調査結果が出ている。これはNHKの調査であるが,ほかの調査でも,総理府の調査でも,こういう傾向が出ているのかどうか,事務当局の方か博識の方に伺いたい。
 もう一つ,関連して,日本と非常に対照的に,フランスはショービニスティックな法案が出かけているということで,フランスでは,言葉に関しての国の介入度がどうあるべきかということについて,NHKの調査に相応するような世論調査が既に発表になっているのかどうか,御存じの方がいらしたら,ちょっと聞きたいなと思う。

韮澤国語課長

 先生方の中でお詳しい方がおられたら補足いただきたいが,私どもが知っている範囲においては,こういった言葉に対する国の介入に関しての調査は,総理府等では項目として挙がっていないので,私どもが理解している範囲ではこのデータだけである。
 それから,フランス等でそういう調査をしているのかどうかということについては,先ほど申し上げたが,今年度,国語研究所の協力も得ながら,海外の主要国の言語政策の調査をする予定であるので,そういった中で調べていきたいと思っているが,今のところはそういう情報は持っていない。

坂本会長

 よろしいか。ほかに御質問,御意見等,御発言はないか。

石綿委員

 今の江藤委員のお話に関連して,資料2-3の2ページの調査であるけれども,一番下の「あなたにとって標準的な日本語とは次の中のどれでしょうか」というのは,1の「アナウンサーのことば」に非常にたくさんの率が上がっていて,次が「新聞」,その次が「教科書」で,あとはほとんど目ぼしいものがないという感じの結果が出ているわけである。これはNHKがやった調査で,これに答える人の意識として,NHKに対して顔を立てるというのはおかしいけれども,相手にこたえているという感じのところがあるかもしれないと思う。
 だから,これは非常に大事な調査だけれども,別な機関で,結果が偏らない形で出るような調査が欲しいような気もする。

坂本会長

 そういう御批判なり御意見があるのは当然のことだと思うので,それについて私が反論する気はさらさらないので,今の御発言に沿って,例えば国の機関でおやりになるとか,新聞協会辺りがおやりになるとか,いろんな別の組織でおやりいただくことができればいいんじゃないか。国語審議会の現在の会長の立場で御答弁すれば,そういうことになるのではないか。

加藤委員

 今出た二つの問題について,簡単に私なりの意見だけ申し上げる。
 まず第1に,フランスではこういう調査があるかという吉村委員の御質問であったけれども,社会調査屋として申すと,フランス人は世論調査というのは大変嫌いな国民である。「世論調査に来ました」と言って,はいはいと答える民族はそう多くないのであって,アメリカ人,日本人は答えるけれども,フランス人はそういう調査自体を嫌う伝統というか,社会学者として申すと,世論調査は大変やりにくいし,なじまない国である。
 第2のNHK調査というお話である。私もNHK調査のお手伝いをしたことがあるが,主体名を申すと,今御指摘があったようなことがあるので,主体がNHKであるということは調査員は言わないのが普通である。この調査がどうであったかは存じていないが,補足的に御説明だけ申し上げる。

坂本会長

 助太刀が出た。
 まだ多少時間もあるようである。せっかくの機会だから,ほかにいかがか。
 実際,国語の問題というのは本当に難しい問題かと思う。しかし,フランスというのは偉いものである。日本であんな結果を出したら,それこそえらいことになるだろうけれども。
 特に御発言がないということであれば,今御発言をいただいたことなども含めて,今後委員会として検討を続けていくということできょうの結びにして,次回の総会の予定を事務局から説明してもらうこととしたい。

韮澤国語課長

 次回の第5回の総会については,一応10月を予定している。日取りについてはまだ固まっていないので,決まり次第,御通知申し上げたいと思う。

坂本会長

 それでは,本日の総会はこれで閉会とする。

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