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次第・議事要録 第2委員会における論議の概要について2

小林(第2委員会)副主査

 引き続いて,資料4,その後,資料5の「JIS漢字表について」の説明が事務局の方からあるので,恐縮であるが,延々御説明申し上げるという形になる。私が資料4の御説明を申し上げるのは10分前後ぐらいと思っているが,実はこのぺーパーに書いてある,ア・イ・ウ・エの1から13までの資料については,先生方の目の前にある会議用資料集には二つしか入っていないので,ただ説明として,お聞きいただくということになる。というのは,第2委員会でもこの資料を見ているわけではなくて,今月下旬に事務局の方から各委員に資料集が届くというお話であるので, 届いたときにこれは何であるのかということを見ていただくための御案内のような気持ちでお話することにしたい。
 基本的に,資料集の中身は,プリントの「基本方針(収集の範囲)」に書かれているが,ポチ(卜」)が三つ並んでいて,「字体にかかわるものだけに絞る」「施策にかかわるものに絞る」「参考としてJIS規格も入れる」ということである。JIS規格はテーブルの上に載っている会議用の資料集が,その第1分冊である。
 私がア・イ・ウのところまでざっとお話し申し上げるわけであるが,明治・大正・昭和を通して,国の施策の中でも,字体にかかわって資料が次々に検討された上で出されているということが歴史的にあったということを前もって知っていただくためのメモ書きである。
 要するに,現在,私どもが漢字仮名交じり文で書くというときの漢字の使用をどうするかということであるので,そのことにかかわって,アの1「漢字要覧」であるが,明治41年,国語審議会の前々身になろうか, 国語調査委員会で編纂(さん)したものである。
 これの凡例を読んでみると,そこに.専門の学者を対象としたものではなく,中等教育程度において必要な範囲を知らせる目的で編纂されたものだということが書かれている。漢字問題について,漢字がどう作られたのか,その構造とか,字体の問題とか,音訓の問題とか,いろいろなことが書かれていて,その中で,字体の問題については正体と別体ということが載っていて,それを第1類,第2類というように分類してある。第1類の中では,いわゆる略字体を通用が広く,かつ久しいものは用いて妨げがないというような言い方で,例えば仏教の「仏」という字や1万円の「万」という字など,略字で使ってよいというようなものがたくさん並べてある。第2類の方は,いろいろあるが,正体の方が字画が簡易であるから,その方がよろしいだろうというようなことで第2類が分類整理されている。
 このように,「漢字要覧」というものは漢字の知識を整理して,中等教育の中で学習するときに,漢字の字体についても略体の問題が取り上げられて,説明されているというものである。
 次に,2の「漢字整理案」は,大正8年,文部省国語調査室と書かれている。この「整理案」の作成には,有名な上田萬年,芳賀矢一,服部宇之吉,林泰輔,松井簡治,岡田正之,保科孝一,諸橋轍次,後藤朝太郎等々が当たっている。
 凡例を見ていくと,その1に,「本案は尋常小学校の各種教科書に使用せる漢字2,600 余字について字形の整理を行い,その標準を定めたるものなり」というようなことが書いてある。2に,「整理の方針は簡便を主として慣用をもって活字体と手書き体との一致を図るにある」ということ,そして3には,「本案は康熙字典の字形を基として整理を行いたるものなり云々」ということが書いてあって,標準体と比べて簡単で書きやすく,慣用の久しい字体については許容体として,位置付けてあるというものである。明治・大正の時代から日常の学習のことを考えて,略体のものをたくさん挙げてあるというような公の整理案ということで出てくるわけである。
 3の「常用漢字表」は,昭和6年の臨時国語調査会から出されたもので,そこに書いてあるように,1858の字種が示されている。これは大正12年の「常用漢字表」が下敷きになっているわけである。大正12年の「常用漢字表」というのは,関東大震災があって,結局,表に出てこない形で終わってしまうものであるが,その大正12年のを見ると,趣旨として,漢字制限の立場から国民教育及び国民生活における漢字の負担を軽減しようという趣旨で,簡易字体を150余字ほど採用するということであった。それを基にして昭和の段階に入って再検討されて作られたものが,この「常用漢字表」である。
 4の「漢字字体整理案」は,昭和13年,国語審議会で作ったものであるが,これにも字体に関しては第1種文字と第2種文字というのが整理されている。第1種文字は活字体を筆写体に近づけるというので,一般に広く用いられることを希望し,将来の標準字体にしようというので,700字余りの略字体を列挙する。第2種文字は,正字と略字の両方を挙げてあり,将来的には略字の方へということもあるだろうが,現在は時期尚早だということで300字弱,やはり両方掲げられるというような形になっている。

小林(第2委員会)副主査

 5の「標準漢字表」であるが,昭和17年,この辺から戦後のものへの流れが出てくるわけである。「標準漢字表」で戦時中整理されたものの中にも,一般に使用せらるべき簡易字体ということで,略字体が並べられているというような具合である。
 こういうように,明治・大正・昭和戦前まで検討が続けられて,漢字の字種及び字体について,簡易字体というものを,日常の中あるいは学習上でということで整理して,国語審議会関係のところで検討し続けて,それを国定教科書に生かすということもあった。もっとも,いわゆる昭和7年からの「サクラ読本」では正字体中心の形ではあったが,こういう検討は続けられていたということである。
 次の6については,お手元にある小さい「国語審議会答申・建議集 会議用」の14ぺージから18ぺージに「当用漢字表」が載っているし,7については,50ぺージ以降のところに「当用漢字字体表」が載っている。そういうことで,私ども戦後ずっと使ってまいった「当用漢字表」及び「当用漢字字体表」を掲げているので,それを見ていただければ,およそのところがお分かりいただけるかと思うが,「当用漢字表」に挙げてある字種1850字を基にして,その字体をどうするかというのが「当用漢字字体表」である。
 字体の標準を掲げるときに,この「当用漢字字体表」の掲げ方は,目で追って御覧になるとお分かりになるように,俗に等線体というもので,活字を鋳造するときの基になる形,林大先生の言い方だと,基本形観念という言い方をなさっているが,こういうふうに具体的に実現した形を示したものである。活字を鋳造するときに,この等線体の形の癖が逆に活字を支配する,活字鋳造上で一つの形になってしまうということもあったようであるが,こういうもので作られているわけである。
 イの9のところに「字体整理に関する主査委員会委員長報告」とあるのは,当時の安藤主査委員長の報告なのであるが,その中のいろいろ書いてあるところに,この委員会においては,我が国における国字としての漢字使用の歴史と現状に照らして字体選定の目安をいろいろ考えていて,その考えの中心に「我が国民の読み書きを平易にし,正確にすることを目安とした」というので,略字体をたくさん取り上げるという方向を出している。
 イのところを今,一つ紹介したが,ほかにも活字字体問題について,戦後略字体の方向で整理するというような内容の資料があるので,それらも冊子にして,検討資料としてお届けすることになっている。
 それから,これは個人的なものであるが,ウのところに11,12が載っている。11は,「当用漢字字体表」等の作成に当たって大変なおカを発揮なさった林大先生の「当用漢字字体表の問題点」――もともとは,現在,国語課で出している「新ことばシリーズ」の前身である「国語シリーズ」中のもので,これも冊子の中に入っているそうである。
 もう一つ,当用漢字の字体というものが勝手に作られたものなのか,そうでないのか。過去のいわゆる「干禄字書」以降の様々な字体を整理してきた中国及び日本――江戸時代にそういうものがたくさんあるが,いわゆる漢字の異体字について整理検討してきた資料集にはいろいろなものがあるけれども,それに当たって調査なさったのが,12の「当用漢字の新字体−制定の基盤をたづねる−」という山田忠雄さんの著作である。いわゆる略字体というものが勝手に作ったものではない,ほとんどのものが歴史的な背景を持っているということを明らかにしたものである。
 そういうことで,私どもこれを読んで第2委員会で勉強することになるわけであるが,事務局から送られてくるということで,前もって私に紹介せよということであったので,ざっとお話し申し上げた。

清水会長

 ありがとうございました。

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