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次第・議事要録 第1委員会における審議状況について1

清水会長

 次に,今日の議事は,先ほど申し上げたように,第1委員会,第2委員会,第3委員会のそれぞれ第3回,第4回の会合を,6,7月に進めていただいたので,そこでの論議の経過の御報告をいただいて,御質疑をちょうだいしたいと思う。よろしくお願い申し上げたい。順番として第1委員会,井出委員が徳川委員の後を継がれて大変御苦労をいただいているけれども,井出主査にまず御報告をいただきたい。どうぞよろしくお願いする。

井出(第1委員会)主査

 先ほどから述べられたように,徳川委員の急な御逝去という事態に際し,私ども第1委員会は第1回,第2回と徳川主査の大きな翼の下に自由に発言をしてまいっただけに,突然ほうり出されたような,途方に暮れる思いをしたが,第3回の委員会の時に私が主査を引き継ぐことになって,何とか2回の委員会を6月21日と7月12日に行った。
 私どもは,1回,2回の委員会において,前期21期の報告内容を考え直すという徳川主査の方針の下で,敬語について,それぞれの委員の立場から自由に意見を交換した。その路線を引き継いで2回の話合いを進めるという結果になっている。
 この審議資料,今日は6ぺージあるが,前回の総会の時に「第1委員会における論議の概要−1」として述べられたことと重複している部分もあるので,特に新しいところに焦点を紋って簡単に御報告申し上げる。
 四角の中に書いてある「第22期の審議について」,これは今,私どもが立っている所を復習する意味で,ちょっと御覧いただきたいと思う。
 今期は,第21期の審議を継続して敬語及び様々な配慮の表現についての具体的な指針を出すということに取り組むことになっている。すなわち,同期報告に掲げられた,「I コミュニケーションと言葉遣い」及び「U 敬意表現の在り方」を再吟味して,適宜加筆修正を行うとともに,新たに「V 現代敬意表現の使い方」を書き加え,全体で3部構成による「現代における敬意表現の在り方」をまとめるという前提で話合いを進めている。そして,「敬意表現」という言葉を前期の審議で決めたが,それについて「敬意表現」という呼称は妥当であるのかどうかについて,更に話し合っている。
 下の○の冒頭の所だけ御覧いただきたいと思う。
 21期には敬語と言葉遣いを広い視野から見渡し,「コミュニケーションを円滑にする」ための言語表現について考え,これを敬意表現と呼ぶことにした。これでいいのか悪いのかということを,先回の総会でも御報告したので,これ以下に書かれている意見については今は省略する。ざっと御覧になって分かるように,まだ決着が付いていない。敬意表現でいいのではないか,いや違う考え方もあるのではないかということで話合いが続行されたまま,これは保留ということで一応置いておくことになっている。
 次に,2ぺージ目の真ん中に四角で囲まれている部分を御覧いただきたいと思う。
 21期の報告「現代における敬意表現の在り方」の前置き部分の加筆修正ということである。既に記述されている内容は基本的には生かすが,一層分かりやすくするために加筆修正して工夫したいと考えている。特に,昭和27年の「これからの敬語」以来40数年を経て,今,国語審議会が敬意表現の在り方を審議する意義について述べる。また,21世紀における敬意表現の在り方を展望する記述を加えるという認識を持つに至った。その具体的なものとして,次にある,〔21世紀における敬意表現の意義〕というところの○を一つずつ御紹介したいと思う。


 コミュニケーションを行う際に大切なことは,第一に伝えたい内容を明確に表現することであり,第二に丁寧に話すことである。ある内容の伝達を意図する表現行為が相手に失礼になったり誤解されたりしないために,相手や場面に配慮した表現を伴うのである。
 21世紀においても敬意表現は必要である。敬意表現は国際化・情報化の時代には不要なものとの考えもあろうが,気配りの言語表現は日本語独特ではなく,グローバルなものである。
 現代社会にも役割,地位,年功序列などに応じていろいろな人間関係がある。従来の敬語使用は組織の秩序を保ち,人間関係を円滑にする働きがあり,評価すべき面があった。21世紀においても人間関係を構築し保持していくには,時代に合った「敬意表現」が必要である。若い人も敬語は武器として必要だと思っている。
 敬意表現は必ずしも相手に対する敬意や尊重に基づくとは限らないが,国語審議会としては,良い人間関係を作るための言葉遣いとして前向きに考えていきたい。
 上下関係を温存し,敬語使用をすべての場面で強要するような会社はこれから廃れていくのではないか。若い社員も会議などでは上下の隔てなく発言することが望ましいと思う。

 最後の○の意見は,その上に書いてあるものと少し角度の違う方面での意見である。このようにいろいろな意見が出ているところで,今後,私どもはこの両方を矛盾しない形で折り合いを付けていく道を探っているわけである。

井出(第1委員会)主査

 次へ移る。「コミュニケーションと言葉遣い」(21期報告の加筆修正)についてである。

 1 現代の社会状況と言葉遣い

  • 円滑なコミュニケーシヨンとはどのようなものかについて,更に検討を深める。また,コミュニケーションを円滑にする以外の「敬意表現」の働きについても,補筆する必要があろう。

 2 様々な人間関係と言葉遣い

  •  既述された(1)〜(7)について,表現が一層適切になるよう吟味を加える。また,ポリティカル・コレクトネスにかかわる視点から加筆が必要かどうかについて議論があったが,保留になっている。

 PC――ポリティカル・コレクトネスについて,以下のような議論をした。

 欧米ではポリティカル・コレクトネス(非差別的な言葉遣い)ということが言われ,性差別等を避けるようにしている。
 PCの観点は,21期報告の「付2-(2)様々な配慮と敬意表現の例」の「話題の選択」のところにある「避けられる話題」にも関連する。何気なく使った言葉が不本意に相手を傷つけることがないよう,配慮を促す必要があるのではないか。相手を尊重することを基本に,配慮する,差別をしないということである。

 このPCについて何も書かないと,手話話者などは自分たちの存在を無視されたという 取り方をするということである。
 21期の言葉の性差について書いたことは意味があったと思うから,その延長としてPCという言葉を使うかどうかはともかく,誤解のないように項目を立てて大切に扱いたいという意見と,最後の○に見られるように,PCという意識は日本では一般的ではないと思うという意見が出ている。
 次に,〔コミュニケーションと敬意表現〕,同じようなことを繰り返しいろんな角度から言っているが,その多様性を御覧に入れたいと思う。

 その場における自分の位置付け,役割の認識に基づいた相互尊重が敬意表現の基本である。それによってコミュニケーションの円滑が図られる。
 言葉遣いが不適切であったために,不本意に誤解されたり,敵を作ってしまったりすることがある。それを避けるために敬意表現を使う。
 円滑なコミュニケーションを行うための配慮には,相手に失礼にならないように,傷つけないようにする配慮と,積極的に相手を褒めたり喜ばせたりする配慮とがある。
 仲間内での円滑なコミュニケーションには,ためロもまた有効である。ため口は敬語ではないが,広い意味の敬意表現に入ると思う。
 丁寧な言葉遣いをすることは,その人の品格を表す。
 言葉遣いはその人の人間形成にかかわる。
 言葉遣いの正しい若者に接すると,その人はきっとしつけの良い家庭で育ったのだろうと思ってしまう。

 「しつけの良い家庭」という書き方をしているが,誤解のないように,「言葉のしつけができている家庭」というふうに言い直したいと思う。
 このように,言葉遣いについて多角的な意見が出ている。

井出(第1委員会)主査

 次に,「敬意表現の在り方(21期報告)」で出されているものについて,復習したところの意見を述べさせていただきたいと思う。
 四角の中を御覧いただきたい。これは21期の報告の中での問題点の記述である。

U 敬意表現の在り方(第21期報告の加筆修正)

1 敬意表現と敬語

  (1)敬意表現の概要

  • 「敬意表現」を「談話(話の流れ)」というまとまりで考える必要がある。

  (2)敬意表現における敬語

  • 狭義の敬語の機能について,敬意表現としての敬語という観点から述べるよう再吟味する必要がある。

  (3)様々な配慮と敬意表現

  • (2)の狭い意味の敬語の機能と敬意表現全体の機能について,両者の機能のどの部分が重なり,どの部分が異なるのかを明確に述べる必要がある。

2 敬意表現の理念と標準の在り方

 ガイドラインを出す,つまり今期,Vで書くことがそのことになると思うが,そのガイドラインを出す場合,次のことを明確にする必要がある。

@ 国語審議会は言葉遣いの正しさについてどのように考えるか(一般的にはほかにどのような考え方があるか)。
A 対象:国民一般。特に学校教育,社会教育において必要とする人の参考に供する。望ましい言い方を目安として掲げる。
B 理念:現代社会の多様性を視野に入れ,談話レベルで考えることによって簡潔で効果的な敬意表現を目指す。

 また,敬意表現の適切性を判断する言語感覚をどのように養うかについて,より具体的に記述すべく,再検討する。


 このような課題について,以下のような議論があった。
 〔敬意表現を「談話」としてとらえる〕というのは先ほど述べたとおりであるので,このぺージに書かれているものは一応お目通しいただきたい。時間の関係で次のところ,5ぺージのところを御説明申し上げる。


 〔敬意表現の理念と標準の在り方〕――ここが一番はっきりと決まらなければ,次へ進めないという意識を持っているわけである。

 国語審議会のスタンスを確認し,言葉の乱れに対しては目安を示す。
 「これからの敬語」は,戦後,それまでの敬語使用を再検討し,民主主義社会にふ さわしい言葉遣いの一環として作られた。今国語審議会がまとめようとしているものは,国際化,グローバル化しつつある21世紀社会に,自分の考えを発信するための言語能力の獲得や向上を視野に入れ,その中でのあるべき敬意表現である。
 ガイドラインを出すときは,ある一つの言い方だけを標準とするのではなく,幾つかの望ましい言い方を用意してはどうか。
 標準に余り幅がありすぎるのでは意味がない。どこかで紋らなければならない。
 世論調査の結果をどのように受け止めるかが大切であろう。
 敬意表現のガイドラインを出すということは,ある意味ではどういう人間であってほしいかというところまで踏み込むことになり,責任を感じる。基本的に大切なのは,自分の立場と役割を認識し,相手の立場を思って言葉を使うことであろう。
 必要なのは相手を尊敬するかどうかではなく,相手に対する礼儀を表すことである。
 敬語の本来の機能や,形と心の問題に立ち返って,余分な敬語を使わないようにすることが大切だ。
 複雑な表現を避け,過剰な表現を削り落として,簡潔な敬意表現を志向したい。
 敬語をなくすための第一段階としての簡素化という考え方もあるが,むしろだれもが敬意表現を使っていけるように簡素化しようということである。
 敬語を使いたいが分からない人のためにガイドラインを示す。使いたくない人は使わなくてよい。
 若い人は一生懸命敬語を使おうとしている。彼らに正しい使い方を教え,手本を耳にできる環境を作ることが必要である。
 国語審議会委員の平均年齢は割に高いが,若い人の言語感覚をどれくらい理解できるか。若い人の実態を把握した上で日本語の良さを分かってもらいたいと思う。

 次のところは,前の審議経過報告での論議の概要にも出ていたので飛ばす。

井出(第1委員会)主査

 次の四角に囲まれているところは,21期の審議経過報告で「付1,付2」として書かれたものの問題を挙げてある。特に,学校教育・日本語教育のことについて御覧いただきたい。6ぺージである。

 学習指導要領も,言語感覚を磨き,国語を尊重すると言っている。
 生徒から友達言葉で話し掛けられても,気にしないようにしている方が生徒との関係がうまく行くと思っている教員も多い。
 社会に出たとき困らないよう,学校教育における敬語の教育を一層充実させるべきである。

 次の「若い人は文学作品を読まず……」というのは,前にも報告した。


 これからの子供たちが敬語を使える大人に育つべきだということであれば,それなりの工夫か必要になる。

 最後に出てまいるのは,〔敬意表現の具体例等〕ということである。
 時間もないのでまとめて申し上げると,最初の○の四つは「〜させていただきます」とか「お名前様」「コートの方」「何々したりとか」「わたし的には」など,大変耳障りな最近のあいまい表現というのであろうか,婉(えん)曲表現についての指摘である。それに対して,


 敬語のインフレ現象と過剰使用の問題をどのように整理するかということであろう。

 それから,「〜じゃないですか」について最後に二つ書かれている。


 「〜じゃないですか」と言われると反論ができず,非常に心理的な圧迫感を感じると思う。つまりこれは反論を防御する言い方である。この言い方をする人は,自分の 言ったことに「なぜですか?」などと突っ込まれるのが嫌なのであろう。
 「〜じゃないですか」は,心理的に弱い立場にいる者が話題の主導権を取るためのストラテジーとして使う言い方ではないか。そういう若い人の心理状態を理解すべきである。

 このような意見を,第3回,第4回の第1委員会で話し合ってまいった。今後,私ども は小委員会というワーキンググループを作って,少ない人数の者たちが議論すべき内容を整理しつつ,次のステップについてのたたき台を作っていくということになったので,次の委員会からはもう少し整理された形での議論ができ,次の御報告でももう少し,今日の皆様への御報告よりはまとまったものが出来上がっていくという見通しを立てている。以上である。

清水会長

 大分いろいろな問題について,多様な意見が出される中で,確かに大体方向が出ているという感じがする。
 一番最初に挙げられている「敬意表現」,前期の時には,これはうまい表現だなというふうに私も思ったけれども,いろいろ御議論もあるようで,幾つか挙げていただいている。〔21世紀における敬意表現の意義〕とか,〔PCの観点〕とか,違ったところの見方も出ているので,どうぞ御質問なり,また御意見,特に御意見などをいただければ有り難いと思う。どうぞ御自由な御発言をお願いする。また,第1委員会に御出席の先生方からも更に御発言をちょうだいしたいと思うので,どうぞ。

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