国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 その他

清水会長

大分勉強させられたという感じであるが,どうぞ,何か御意見,御発言があれば。

土谷委員

 通訳の養成のお話があったので,一言。実は私は1O年ほど前にチェコヘ行って,そこで,チェコ人の方であるが,非常に流暢(ちょう)な日本語とチェコ語の通訳をやってもらった。その彼が一つ心配していることがあって,それは何かというと,いつごろ自動翻訳あるいは自動通訳が出てくるんだろうと。私は,その方はもう中年の方であるが,あなたが生きているうちは大丈夫じゃないかと言ったわけである。これから大学院を作って通訳を養成するというようなことで,果たしてそこで養成された人は30年とか40年間通訳として食べていけるのであろうか。そういう分野の技術なり,情報技術の発達は極めてスピードが速い。そういうことは部会で検討なさったのか。だれかから意見を聞くとか,見通しについて。

水谷(第3委員会)主査

 検討していない。鳥飼委員が主導権を握って話してくださった話題であるのだが,鳥飼委員は今日は御欠席なので説明していただけず残念である。今のようなお話はどうであろうか,第3委員会の先生方。私の記憶では,今の御提言の内容にかかわるような話し合いはしていなかったと思うが。むしろ,今日,専門の先生方がいらっしやるので,浮川委員あるいは三次委員,専門領域の方から今の問題に関するような情報をちょっといただいておいて,第3委員会でそれを承った上で,今後お話合いを進めたいと思うが,どうであろうか。

清水会長

 いかがか。

水谷(第3委員会)主査

 情報関係の専門の方から……。30年もたないよとか,そういう。

三次委員

 人工知能の研究分野の中に含まれると思うが,新トランスレーション,機械翻訳と言われる分野がある。これは,文章など静的な翻訳,時間が掛かってもいいという翻訳のスタイルになるが,通訳ということになると即時性が要求されるので,またそこに大変困難な問題が出てくるんじゃないかという感じがしている。
 郵政省等で,電話の音声を自動に翻訳する――それはオンラインで翻訳する――という研究を進めているようであるが,私も,やはりこれは飽くまで研究の分野ではないかなというふうに思っている次第である。
 それから,即時性を伴わない,要するに通訳のように右から左へどんどん流れるということでない翻訳についても,分野によって随分使用語彙(い)か違うので,それに対する翻訳を適切にやるということは,対応辞書の整備が非常に大変だということを聞いている。例えば,パテント文書の翻訳ということだけでも膨大なテクニカルタームを翻訳しなければならない,スキームしなくてはならない。そういうことで,部分的には使われていると思うか,まだ実用的になっているという状態ではないんじゃないかなというふうに理解している。

水谷(第3委8会)主査

 浮川委員の方からも,是非お願いしたい。

浮川委員

 私自身もその分野はもちろん専門家ではないけれども,今はやはり翻訳に関してはインターネットの全世界への普及ということもあって,従来そこはなかなか,研究テーマとすれば全世界の大学であるとか研究機関で一生懸命研究され続けてきていると思うけれども,ひところの熱は一たん冷めたような状態にあったと思う。日本の各企業の中でも,いわゆるコンピュータメーカーの研究所でも非常に重要なテーマだったのが,その部門が縮小していったりというのがここ何年間かで起こったのであるが,現状はまた新しい流れがあるように私は理解をしている。
 一気に全世界の,本当に全世界で膨大な人たちが英語を中心とした海外の言語に,居ながらにしてアクセスができるようになったら,次に非常に,サービスモデルとして全世界に――例えば日本にそういう翻訳サイトというか,翻訳システムを置いて全世界にサービスをすること――これはアメリカでもどこでもできるわけだから,理論的には例えばヨーロッパでもどこでもいいわけで,そのビジネスモデルをみんな買って,虎(こ)視耽々(たんたん)とやろうとしている人間は結構増えているんじゃないかというふうに私は今思っている。
 そして,もう一つ,目の前で大変リアルタイムで,日本,アメリカ,ドイツのそれぞれの研究所で,特にNTTの資本をもって,奈良先端科学技術大学院大学であるとか,ATRという研究所が京都にあるけれども,そちらの方で電話を使った同時通訳,日本語でしゃべったら,ほとんどリアルタイムで向こうで英語で,そしてドイツ語で,もう1か国語,ひょっとすると中国語も加わったかと思うけれども,同時に3か国語にリアルタイムに翻訳されて,また向こうでそれに対して答えると日本語で聞こえてくるというのを,既にマスコミ等でも発表したり,デモンストレーションをしたりしている。それはまだ確かに一般会話範囲であるけれども,相当な部分がカバーできる。
 私が,実は驚いたのは,アメリカのカーネギーメロン大学に行った時に,英語とユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ,あの辺りの言語,そういうのにリアルタイムでハンドヘルドというか,小さなパソコンを使って,本当にしゃべったら即翻訳した言葉か声で出てくる。なぜそういうものをやったかといったら,御存じのようにユーゴ紛争の時にNATOを中心とした多国籍の軍隊などが入って,戦争というよりは後の治安が問題だったわけである。そうすると,そこで治安となったら,それぞれの市民といろいろな形で兵隊たちがコミュニケーションをとらないといけない。ところが,ユーゴスラビアとその言葉を理解する軍人というのは非常に限られているわけである。そこで,莫大な研究費を一斉に掛けて,正にリアルタイムで大半の会話ができるようなレベルのものを,既に私は2年以上前に見たわけである。
 そういうわけで,一般的な商用に供されているものはまだ非常に少ないけれども,技術的なものではものすごく高度なものが既に完成している。それは,相当抽象レベルの高いものまでリアルタイムで翻訳することができる。後は,それを商売にする人がどれぐらい出てくるかだけのことになっている。テクノロジー的には非常に進んでいる。

甲斐委員

 国語研究所のこれからのことについて,ちょっと申し上げようと思う。科学技術庁の開放的融合研究というのに今年度から加わっている。これは郵政省の通信総合研究所と文化庁の国立国語研究所の二つの研究所が手を組んで,そして先ほど名前が出た京都のATRなどの応援も受けている。ATRの方は,例えば電話でホテルなどに予約をするとかというようなことは自動翻訳でできているわけであるが,そういう音声言語と文字言語をつなぐための大量の語彙のデータベースを作るというようなことで,5年計画を立てて,今年度から取り組む形になっている。残念なことは,今年度,まだ予算が下りていないことである。5年後を是非期待していただきたい。
 しかし,先ほどおっしゃった自動翻訳というところに,どういう形でできるかはまだ分からないけれども,1,000万語以上の語彙を集めて,そしてそれを音声と文字という形で結んでいってというようなことをやろうとしているわけであるので,将来は幾らか見えてくるというように期待している。以上である。

水谷(第3委員会)主査

 ありがとうございました。今,伺ったお話も前提にして,今度の第3委員会では,先ほど示唆してくださったそういう問題についても話し合いなさいということをお受けしたいと思う。今度の委員会では取り扱わせていただく。

三次委員

 前に何かの時に申し上げたことがあったかもしれないが,辞書の日本語の並びのことである。特に,長音とか促音とか,そういうものが入ったときに,それぞれの流儀があるようで,言葉の配列順序が辞書会社によって完全にそろっていないのである。そういうわけで,適当な例かどうかは分からないが,ある場合は促音が先に出てくる。それから長音が先に出てくる。そういう例があるので,それは日本語の世界ではそれでよろしいと思うが,国際化ということになると,例えば出席者の名簿順だとか,語順だとか,そういう場合に日本人の方ならば問題はないけれども,配列上,例えば外国人の方の名前を仮名書きにしたときにどうなのかと。あるいは,日本語とアルファベットと混在した場合の配列順がどうなるか。ここら辺は,西洋流だとかなり割り切った配列順になるので,何かそういう標準を作ろうというような話になると,ちょっと押されてしまうのではないかなという感じがしている。そういう点も国際化の中で御検討いただければ有り難いなというふうに感じている。

前田委員

 意図がもしあるならまた別であるが,表現で,「〜と考えられる」あるいは「〜であろう」というのに対して,「〜と思う」という部分があるが,配慮して遠慮しているようなことなのであろうか。ちょっとその辺が,まとめとしてもし出される場合には,もう少し強い形で,あるいは断定できないところであれば,「〜であろう」というふうな形でまとめられた方かよろしいのではないかと思う。これは個人的な感想であるが,ちょっと「〜と思う」というのが多過きるようである。

水谷(第3委員会)主査

 発言された内容をできるだけ忠実に受けて記録するという形でやってきているので,「私はそう思う」というのはそのまま入ってきている。まとめの段階では――もう少したったらその段階に入りたいと思っているが――その時には今ある枠組み自体もちょっと修正して,再構築しなければいけないと思っているので,恐らく次回の総会でどっちになるであろうか,少なくともあと2回後の総会ではまとめの報告という形できちんとしておきたいと,そんな予想を立てている。たまたま,自分で読んでみても,これはやはり幾ら記録だとしても思い過ぎるなとは思っている。

浮川委員

 この第3委員会の報告をお聞きしたら――「日本語の国際化をめぐる問題」というのか最初の一番のテーマのように書かれているので思ったのであるけれども――そういう「問題」をめぐって,一つには日本語を使って日本の文化をもう少し理解してもらえないかというお話も出てくるし,通訳の方の問題も出る。そして,もう一方では海外で日本語がどのように使われているか,外国の人たちが日本語をどう使うかというようなテーマも入っているし,今度は外来語が入ってくる日本語そのものについての議論も中にはあると思う。
 私がお聞きするところでは議論が非常に発散的になっているのではないか,だからこそ枠組みを作ろうとしているというふうなお言葉もあったように思うけれども,例えばそこまで広がりがあるのであれば,こういった言葉が,ちょっと失礼な言い方かもしれないが,システマティックに日本語の国際化にはどのような問題点があり得るのか,どのような切りロがあり得るのかということを,非常に単純にというか,こういうこともある,こういうこともあるということを単純に書いてはどうか。問題は後で議論するとして,こういう問題点があり得るということを,一つ一つはまだ深く議論するのは後回しにして,どれぐらいのことがあるのかということを,箇条書き的にちゃんとシステマティックに出されて,その中で国語審議会とすればこうするんだと示す。政治的な意味合いを持った課題もこの概要の中にはある。しかし,それを含めてやるのか,含めないのがいいのか,また,日本語の国際化の問題についてもその取り上げ方は,外国人にしても,日本人にしても,多くの人たちが注目するところであるので,まず一番最初にシステマティックにそういうことをして,その後,国語審議会の中で,深く議論していくというのが分かりやすいんじゃないかと思うのであるけれどもいかがであろうか。もう既にやっていらっしゃるとは思うけれども。

水谷(第3委員会)主査

 いえ,むしろ逆の方向で始めたのである。逆の方向でやったこと自体はプラスであったと,実は考えている。割合,歴史的な背景,広い背景というものに今踏み込んでしまっているが,新しい枠組みを構築する場合にも,これはやはり役に立つだろうという気持ちになっている。
 問題は,これを再構築するタイミングが,次の総会のころに見当が付くか,2回目の総会のころになるか,という辺りはちょっと読めないけれども,このままではまとまった報告にはならないと思うので,一番最初に,手堅い進め方なので,おっしやったようにやろうかとも思ったのであるが,堅く出だすとそこから外へ出なくなる可能性がある。ということで広く出たわけである。参加してくださる委員の方々の持っていらっしゃる経験や知恵を,どれだけ生かしていけるかということで入ったものであるから。でも, 今おっしやってくださったことは,きちんとわきまえて進めていくことにする。

山口委員

 私は第3委員会に所属しているので,ちょっと浮川委員にお伺いしたいのであるけれども,5ぺージ目のちょうど中ほどの,「通訳の位置付けと通訳教育の重要性」というところの○の四つ目である。私自身は日本でも通訳教育を大学院レベルで行った方がいいんじゃないかと思っていたのであるが,先ほどお伺いすると,非常に高度な自動翻訳ができているということは,通訳教育を大学院レベルでしなくてもいいんじゃないかということにつながるのであろうか。そこら辺をちよっとお伺いできれば,大変参考になると思い,お願いいたしたい。

浮川委員

 お答えするのは大変難しいけれども,コンピュータも頑張っているが,人間がすることには100年たってもとても追い付かないと思うし,そういう今おっしやったような御質問に直接お答えするのはどうかと思うけれども,こういうものは必要だと私自身は思っている。教育とか,人間活動というのはもっともっと,ものすごい幅が広いものであるので,翻訳はコンピユータができるようになるといっても,本当の意味でコンピュータが何かを理解してやるわけでもないし,そこからコンピュータ自身が何かを生み出すということでもない。人間の教育というのはまた別の観点だと思う。

三次委員

 今の御意見のとおりだと思う。私は一度,国際商事仲裁協会で対立する意見を通訳の方が翻訳するという場面にぶつかったことがある。普通は,原告の方は落ち着いているから,ある程度通訳のことを考えてしゃべるのであるが,夢中になるとべらべらしゃべってしまって途切れがなくなるのである。それを受け取った日本の通訳の方が,10分間ぐらいしゃべりっ放しにしゃべって通訳されていた。あのレベルまで機械が行くというのは,ちょっと考えられないんじゃないかなと思う。しかも,その間に単に翻訳するだけではなくて感情も入れるから,そういった点はまだまだ未踏の分野は非常に多いんじゃないかなという感じを持っている。

清水会長

 まだいろいろ御意見もあるかと思うけれども,なかなか……。今日の論議を踏まえながら,また三つの委員会でお進めいただきたいと思う。今度は12月に総会をやることにしている。それでは,次に専門委員の委嘱をしたいということがあるので,課長からお願いしたい。

鎌田国語課長

 専門調査員の委嘱に関して御説明申し上げる。
 現在,第1委員会においては,先ほど井出主査より御説明いただいたとおり,敬意表現の具体的な運用の在り方について案をまとめていただくことになっているが,その素案作成に関連して,第1委員会から国立国語研究所言語行動研究部の杉戸部長に協力いただきたいとの要望が出されている。国語審議会の運営について定めた,国語審議会令においては,専門の事項を調査するため必要があるときは,審議会の意見を聞いて審議会に専門調査員を置くことができると規定してある。この専門調査員として,国語研究所の杉戸部長を発令することについて,御了解いただきたいと思う。

清水会長

 いかがであろうか。審議会令の中で,専門調査員を置くことができると。ただし,この総会の意見を聞くということになっているということである。御了承が得られれば,国立国語研究所の杉戸部長にお願いをしたいということであるが,よろしいか。
 それでは,御了解をいただいたので,そのようにさせていただく。
 それでは,次回の予定をお願いする。

鎌田国語課長

 次回の総会については,12月3日,金曜日であるが,午後2時半から同じくこの東條会館で開催する予定になっている。開催通知については,追って私ども事務局の方からお送り申し上げる。また,各委員会の10月,11月の開催予定は,お手元の参考としてお配りしてあるとおりである。これについても,追って開催通知をお送りする。

清水会長

 予定の時間をちよっと超過したけれども,これで終わりたいと思う。

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