2023年10月20日
切実なものが僕は好きです。
映画監督・庄司輝秋
切実なものが僕は好きです。
映画でも、文学でも、音楽でも、こどもの粘土細工でも、誰かが表現したものに触れるとき、そこに切実さがあると僕の心は動きます。その切実さというものは、一生懸命でわかりやすい時もあるし、おどけて見える時もあるし、一見、ほとんど知的な遊戯にさえみえる時もあり、カテゴリー分けをすることはできません。しかし、作品に触れるうちに、「この作者にはこの作品をつくらなければいけない切実さがあったんだな」と思えてくるものなのです。
©︎SHOJI Teruaki
『さよなら ほやマン』劇中に登場するマンガ
映画においては一部の自主制作作品、一部の信頼する作家の作品には切実なものが込められていますが、それ以外のものはルーティンワークと、狭小な映画愛、功名心などによって時に歪められているように”僕は”感じます。結局のところ、良くも悪くも自分のスタンスは作家主義ということなんだと思います。(若手映画作家を育てる文化庁のndjc:若手映画作家育成プロジェクト2012に参加し、『んで、全部、海さ流した。』を撮った経験がそう思わせているのかもしれません。)
©︎SHOJI Teruaki
『さよなら ほやマン』ロケ地・網地島(あじしま)
それでも映画の面白いところは、個人的な切実さから生まれた脚本にも関わらず、多くの人と資金が集結し、最終的には見事に外の世界に向かって発信されうる点なのです。映画館の暗闇の中で古い外国映画を観ながら、「この主人公の孤独は僕のものだ」と感じる瞬間は不思議なもので、この孤独を表現するために、多くのスタッフが遠い昔に結集し、映画がつくられたことを想像すると、自分の孤独さが決して1人のものではないと、世界からお墨付きをもらったような気持ちになるのです。
©︎SHOJI Teruaki
『さよなら ほやマン』現場写真・美晴(呉城久美)とシゲル(黒崎煌代)
2023年11月3日に、僕の初めての長編映画『さよなら ほやマン』が全国公開されます。地元・石巻で10年ぶりに映画を制作しました。自分を諦めずにもがくことの輝きを描いた映画です。主演はアフロ(MOROHA)、彼のこれまでの生き方すべてを映画にぶつけてくれました。メインプロデューサーには前作『んで、全部、海さ流した。』(ndjc2012完成作品)でお世話になった山上徹二郎氏が立ってくれました。
©︎2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
『さよなら ほやマン』現場写真・兄アキラ(アフロ)と弟シゲル
試写を見た方から「君はつくりたいものをつくったんだね」と言われました。本当にその通りだと思います。自分にとって必要な映画でした。強欲な僕に呆れつつも支えてくれた周囲の人々に心から感謝しています。
©︎2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
『さよなら ほやマン』集合写真・中央の眼鏡の男性が庄司監督
映画『さよなら ほやマン』は11月3日に公開されます。
どうか僕の切実さが、映画館の暗闇の中で、あなたの心を動かすことを願っています。
【プロフィール】
庄司輝秋(しょうじ てるあき)
映画監督、CMディレクター。1980年9月19日宮城県石巻市生まれ。東京造形大学彫刻科卒。大学卒業後、広告制作・映像制作に関わる。SSFF&ASIA2009 短編 映画『LINE』を発表。2013年、石巻を物語の地とした短編映画『んで、全部、海さ流した。』(ndjc2012作品)を単独で全国劇場公開。 『さよなら ほやマン』が商業長編映画デビュー作となる。