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議事 第1部会の報告

地名・人名のかな書きについて

第1部会報告

 今日,世間では,地名・人名をかな書きにする傾向がふえてきた。
 こういう現状にかんがみ,また,「公用文作成の要領」(昭和27.4.4内閣閣甲第16号依命通知)の4「地名の書き表わし方について」,5「人名の書き表わし方について」にかえりみて,一般に,地名・人名は,さしつかえない限り,かな書きにしてもよいのだ,という見解をはっきりさせることの必要を認める。
 ただし,かな書きにしてもよい場合をいちいち列挙することは,事実上不可能である。したがって,適用の範囲や場面は,けっきょく,当事者の判定にまたなければならないであろう。
 なお,かな書きにする場合のかなづかいは,現代かなづかいによることが望ましい。また,文章は,普通ひらがなで書かれているので,そこに地名・人名をかなで書く場合には,かたかなで書くほうが読みやすいと思われる。
(ここで,地名・人名というのは,日本の地名・人名にいちおう限定している。)

 次に刑法小委員会について述べる。この小委員会については,前の総会で中間報告をし,ご承認を得たところである。国語審議会では,法令用語の改善については,昭和29年に「法令用語改正例」というものを作り,内閣総理大臣に建議した。以来,政府では,この建議の趣旨に沿って,法令にむずかしい字句や表現をできるだけ使わないようにしているわけであるが,このたび,「改正刑法準備草案」が出たので,国語審議会では,これを材料として,もう一度法令の用字・用語の改善の問題を研究したということになるわけである。小委員会は,昨年の6月から本年の2月まで6回開いた。そして,最後に,第1部会の全体会議をして,お手もとに届けたような結論をご報告する運びとなった。この審議には,法務省刑事局から,特に高橋参事官・鈴木検事・臼井検事のご参加を得て,非常なご協力をいただいたのである。そして,法務省の刑法改正準備会が,改正刑法準備草案を作るに際しても,これまでの刑法のむずかしい用語・用字・文章をできるだけだれにもわかるやさしい表現に改めようと苦心努力を重ねられた事情を伺い,非常に敬服したのである。そして,このたび国語審議会がこれを取り上げて審議することになったことについても,非常に喜んでご協力をいただき,先方では当方の審議研究の結果をできるだけ参考にしたいというご意向のようにも,伺っている。そのようなわけで,刑法改正準備会では,今度第3読会にはいったところで,3月の末までには,いちおうの審議を終わる予定と承っているが,すでにこちらの小委員会の審議の模様を参考にして直すことを決めたことばもいくつかあるということである。たとえば,「首服」を「自首」に,「抗拒」を「改心」または「悔悟」に,「矯正」を「改善,更正」にというような例である。それで,この報告が,総会でご了承いただけたなら,さっそく事務当局の手を経て先方に送り,最も重要な審議の資料として利用していただくことになろうと思われる。また,そればかりでなく,今後の法令一般の改善についても,これが有力な参考資料となると考えられるのである。この報告は,大きく分けて,A・B二つの部分からなりたっている。Aの部分は,刑法改正準備会で作られた草案の字句・表現が現行刑法と比較して改善されていると考えられる例を掲げたものである。改善されていると考えられる部分は,このほかにも多いが,ここは例として最も典型的なものだけをあげることにした。Bの部分は,なお改善が望ましいと考えられる部分を具体的に指摘したものである。そして,代案の考えられるものは,参考のためにそれを示すことにした。中には,代案として二つ以上あげたものがある。代案を示さないで,ただ考えてほしいという意思表示するにとどめたものもある。これが,第1部会の刑法改正準備草案についての審議の結論である。この審議を進める途中,わたくしどもは,いろいろの困難にぶつかった。やさしくわかりやすい表現を考える場合にいちばん問題になったのは,法律の文章は,はっきりと指摘して,それとわかる表現でなければならないということである。また,法文に規定がなければ処罰できないたてまえであるから,ことばが違ってきたために,事がらの内容まで違ってくるというようなことでは困るわけである。また,それぞれのことばには,学説や判例などによって積み上げられてきた概念があるので,たとえば,「とばく」を「ばくち」と言いかえたのでは,もとのことばの意味内容が,そのまま移っていないというようなこともあるわけである。また,同じ文章の中での用語のつりあいの問題もあり,一方をやさしいことばとすると,ほかのほうまで直さなければならないということもある。このような点から,なかなか簡単にはいかない点も多かった。そして,理想的には,言いかえの規定を別に作る必要もあるとも考えられたのである。しかし,困難ではあっても,現在できる程度でできるだけわかりやすくすることを考えてみよう,むずかしい字で書いたものでも,ことばとしてわかるものはかな書きにしてもよいし,多少長くなっても,ていねいに表現するように考えてみようということで,いろいろ研究した。そして,いろいろ議論をした末,いちおう落ち着いたところが,この報告書である。こういうわけで,この報告書については,いろいろ細かい点で,ご意見のあるかたもあるいはおありかと思う。しかし,さきにも申したとおり,この報告書は,総会に対して,こういうことを決めたからやってほしいというような方針を打ち出したものではなく,第1部会がさきに建議した「法令用語改正例」の線に沿って,特に小委員会を設けて,改正刑法準備草案の字句や表現について具体的な研究を行なったうえの報告である。そのような意味で,これを第1部会の一つの審議成果としてご承認いただけたら幸いである。

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