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次第 木内委員提案「審議を能率化するためのメモ」について
古賀副会長
次の議題に移る。木内委員から「審議を能率化するためのメモ」という提案が出ているので,まずその説明を伺うこととしたい。
木内委員
このメモは6月21日付けで書いたもので,7月26日の一般問題小委員会で審議願ったものである。その結果,これは総会の問題であるから総会に提案するようにとのことで,本日取り上げてもらったわけである。これは一つの思いついた考えを,ただメモにしたものであるが,こういう趣旨に基づいて,ここで口頭で提案させていただきたいのは,現在の一般問題小委員会のような小委員会を別に設けていただきたいということである。
木内委員
以上が提案の全文であるが,この提案にあるようなことを議論するための委員会を設けてほしいというのが,わたしの強く要望するところである。委員会を設けることはそれほどむずかしいことではない。委員会ができるのなら,それに参加してもよいというかたがたでもって組織し,その中から互選で委員長を指名すればよいことである。そしてきわめて短期に,互いに原則に関するいろんな意見を併記し,明確な意見を開陳して,そこからなるほどと思われる意見の方向にまとめあげていくふうにすれば,来年早々に設けても3月にはりっぱな結論が出るのではないかと思う。そして,その結果を総会なり部会なりに出して審議を願うというふうにもっていったらどうかと思うわけである。
古賀副会長
木内委員の提案の趣旨は,一言で申し上げると,現在の審議をもっと有効に促進する方法として,なにか委員会のようなものを設けてはどうかということであろうと思う。各委員とも,できるだけ審議を促進させるために,なにかの形で協力したいという考えに変わりはないと思うが,また一面,専心してそれにあたっているかたがたに,これほど熱心にやっているのに,なにをぐずぐずしているのだ,というような形で反映することになると,かえって審議の進行を阻害することにもなりかねないと思う。
先ほどの両部会の審議経過報告を伺ったところでは,かなりうまく進行しているようでもあり,うまくいけば今期の終わりには相当まとまったところまで実を結ばせるつもりだということ,少なくともそういう目標で努力しているということであるから,この際は,このうえともみなさんの御期待にこたえて,御勉強いただくということで,じゅうぶんではないかという気もする。が,この点についてみなさんのお考えはどうか。
木内委員
わたしの説明不足で少し誤解があるようである。現在の審議は非常に優秀だと思うし,けっしておそいとはいっていない。ただ,わたしのいう委員会は,それとは別に原則を審議するのであって,その原則の審議が決まるまで,いまの審議を中止せよというのではない。原則が決まった場合,いまの審議が非常にやりやすくなるというだけの話である。
大野委員
わたしは漢字部会に所属し,また,その中の音訓に関する小委員会にも属している。考えてみれば,昭和41年6月に諮問が出てから来年で4年になるわけで,その間,諮問の一部分に関しても報告ができないということは,国民全体に対してもわれわれの責任を果たしていないということになる。そこで,このことは部会でも申したことであるが,たとえば専門調査員を頼むなりして,とにかく来年の5月までに具体的な案を出すべきだと思う。具体的な案の出し方にもいろいろと意見はある。語い表のような形にまとめあげようという意見もあるが,とてもできそうにない。
そこで現行の音訓表にある漢字1字1字の音訓にある程度の音訓を追加しようということだけでもしておけばと思うわけであるが,これでさえ,たいへんなことである。しかし,この際,専門調査員や国立国語研究所の協力を得る等,どんな手を尽くしても,やらなければならないと思っている。これだけのことはやるということを,漢字部会として総会に対して約束したほうがよいのではないかと思う。おそらく木内委員の提案も,遅々とした部会の進み方をみて,これは考え方を改めるということで審議の促進がはかれるのではないかということだろうと思う。
古賀副会長
大野委員の発言からも,実際にその任にあるかたがたが,格段の努力で今後審議を進めていく心組みであることはじゅうぶん察知できると思う。したがって来年の3月ごろまでには,相当まとまった結果が両部会から期待できるのではないかとさえ思われる。
そのうえは,その内容を世間に公表し,反応をみたうえで5月の任期末の最終の総会で,まとまりがつくようなことも可能である。せっかく両部会ともいっしょうけんめいにやっておられることであるし,また今後もいっそう努力しようということであるから,きょうのところはそういう心組みを了解したということでよいのではないか。
時実委員
木内委員の御意見に共感を覚える。というのは,前期の初めにわたしは,まず,原則を先に論じるべきだということを主張した。しかし結果は,具体的な問題からということで,漢字とかなの両部会が設けられることとなった。わたしはかな部会に所属しているが,なかなか原則が立たない。結局ある点で妥協とか並列とか,あるいはどちらを原則にするとか,許容にするかというようになってしまう。
両部会とも非常に審議の促進をはかって,かなりのところまで問題を煮つめてきても,最終的にはやはりわりきれない面が出てくるだろうと思っている。先ほど専門調査員を依頼する話があったけれども,原則が決まっていない以上,専門家の学者がはいればはいるほど審議が混乱するように感じる。そういう意味で木内委員の発言に共感を覚えるのであるが,しかし副会長のいわれるように,せっかくここまでやってきたのだから,なんとかいまの姿で答申を出してもよいのではないかと思う。
吉国委員
結論的には副会長の考えに賛成である。木内委員の提案は,非常に深くお考えになっていることに対して心から敬意を表する。
わたし自身も,国語の問題については,原則というか,日本の国語政策を確立することが先決問題であるということに非常に共感を覚える。しかし,それが国語審議会で議論することによって,はたして決まるものかどうか。決めなければならないということと,決めうるかどうかということとはやはり別の問題であろうと思う。原則なり政策なりを根本的に検討して結論を出し,その結論を適用すればものごとは非常に簡単に決まるであろう。しかし,この原則を模索し決定するということは非常に困難な問題であるし,また,各人の思想が違う以上むずかしいことである。
そこで次善の策としては,個々の問題を通じて,また,そこにおのずから各委員の考え方が出てくるのだと思うが,その結論として出てきたものが,この国語政策の一象徴だというようにならざるを得たい。これが従来の国語審議会の審議の経過であろうと思う。ほんとうは,原則なり政策なりを確立することが先決であろうけれども,それがむずかしい以上,次善の策として,また現に次善の策にのっとって国語審議会が審議を続けている以上,副会長の提案のようにやっていくのが適当ではないかと考えるわけである。
次に,もう一つ,木内委員の提案の中に,既に第8期で結論が出たことは,文部省として実施に移すべきではないかということがあるが,第8期で結論を得たといっても,それはあくまで中間報告だと思う。国語審議会として向かうべき方向を決めただけであって,すぐに実施に移すというところまでは熟してはいないのではないか,というようにわたしどもでは受け取っている。
官庁内部として,いまただちに,これを実施の段階に移すというものではないと考えている。
長岡委員
わたしも木内委員の提案には大いに興味を感じている。いま,原則論が出たけれども,漢字,かなの両部会では,原則とはいわないが,原則というようなものを秘めてこういう整理をしているものであるから,必ずやそこにりっぱな成案が得られるものと確信し,副会長のいわれるように,まずは両部会の努力に待つということでどうか。
古賀副会長
木内委員としては,非常に意に満たないようにお感じになるかもしれないが,ここのところは,両部会ならびに一般問題小委員会で,このうえとも大いに勉強していただくことを期待するということでどうだろうか。
木内委員
前期の最初に,わたしは原則論をまず審議してほしい旨提案した。そしてその後に「戦後の国語施策の根本理念を再吟味するための提案」と題して6項目にわたる提案をした。この提案は採用するとも不採用とも決まらずに約半年過ぎたが,そのおりに丹羽委員が日本文芸家協会の決議をもって,わたしの提案を支持し,これの採択を要望した。その結果,6項目のうちの(1)と(2)について審議しようということになり,小委員会で取り上げられることとなった。しかし提案項目には,まだ(3)から(6)までが残っている。今回の提案は,その際の(3)から(6)までのことを,そのまま申し上げているにすぎない。もう一度このことをふり返っていただくことを希望するわけである。今回は,音訓についてかなり詳しく述べてあるけれども,その他についても同様に詳しくわたしの了解する限りの原則について述べてみたいと思っている。一般問題小委員会でこのことを申し述べてみたい。別の小委員会ができなくても,少しも不平はない。
古賀副会長
木内委員の提案については,一般問題小委員会でよくお話を伺うということにしておきたい。
植松委員
木内委員の原則を重視せよという意見に賛成であるが,かな部会でも,おおむね原則を強調して考えていると思う。その証拠の一つに,いままでとは違って,送りがなは活用語尾を送るということを大きな原則にして考えていこうと努力している。必ずしもそれだけではいきかねるいろいろな問題もあるが,いちおうそういう方向で目下検討を進めている。そこで,木内委員の提案の委員会は設けられないが,少なくともその趣旨は各委員とも了解しているところであるので,今後はいっそう強くそのことが部会審議に反映されていくであろうと考える。
森戸委員
国語の問題は生活に密着した問題であるので非常にむずかしく,そう急いでも無理ではないかというように思う。しかし木内委員の指摘のように,もう少し審議がはかどるようにということは,副会長のお話の方向で大賛成である。なお,現在の両部会がなんら原則がなくてやっているのかというとそうではなく,これには作業仮説というか,そういうものに基づいてやっておられるので,決して無原則でやっているとは思っていない。
ところで木内委員が指摘した原則とは,それとはもっと違った次元の原則,つまり,一種のイデオロギー的な原則が暗に示唆されているのではないかとも思われる。そうなると,これはなかなか決着のつかない問題である。
作業仮説によって,いろいろ検討して出てきた現象的結果のあとに,そういう高次の原則が出るのであればよいが,はじめから,その原則を立て,それによって万事処理するということは,非常に簡単・明快にいきそうだけれども,この国語の問題は,そういう形で処理すべき性質のものではないというように考える。結論としては副会長の発言のように,現在の形でさらに両部会におほねおりを願い,また事務当局にも大いに援助していただくということでよいと思う。
木内委員
既に具体的な研究も進み,もう高次の原則を立ててもよい時期にきたというのがわたしの考えである。だから,その時期にきたとみるかどうかの相違である。
古賀副会長
各委員が審議の結果について非常に期待しておられる発言を伺った。審議の促進のため,このうえとも御努力いただきたい。