国語施策・日本語教育

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次第 前回の議事要旨の確認/今後の審議の進め方〔その1〕

福島会長

 御出席が定数に達しているので,会議を始めたいと思う。議事に入る前に,前回の第1回の総会に欠席された委員の方々がおいでになるので,御紹介したい。

石田国語課長

 それでは御紹介申し上げる。
 梅棹委員,江尻委員,楓委員,倉沢委員,下中委員,前田委員。あと八木委員が御出席の予定だが,まだお見えにならない。

福島会長

 それではこれから議事に入る。まず,前回の議事要旨の確認の件である。少し御説明すると,審議会の総会の記録としては,議事要録というものを作ることになっている。しかし今回のように,前の総会との間が短いために議事要録の作成が間に合わない場合には,別に要点を簡潔にまとめた議事要旨を作り,これによって前回の審議の状況,議論の骨子をお互いに確認して,審議の継続性を保ちたいと考えている。確認に当たっては,前もって議事要録か又は議事要旨を各委員にお送りして,御自身の発言の部分で修正を要する箇所があれば知らせていただくという方法で確認している。前回の議事要旨についても,既にお送りしたので,お手元に届いていると思うが,もしそうでない場合はお手元の黒表紙の中にとじ込んであるので御覧いただきたい。修正を要する点があれば後でお知らせいただくということで,前回の議事要旨は確認されたとして,次の議題に移りたい思うが,いかがか。(意義なし。)
 差し支えなければ,次の議題,今後の審議の進め方に移る。前回お決めいただいた運営委員会を,2月17日に開催して,今後の運営について御相談をした。それに基づいて,今後の審議の進め方を考えた。それを申し上げると,前期11期の審議会は,漢字表について具体的な検討を進め,漢字選定の方針に関する具体的観点等を取りまとめるところまで進んだ。一方,字体表については,基本問題について各委員の意見調査をして,それを集約・整理するという作業を行った。今期も引き続いて,漢字表と字体表の二つを議題として取り上げて,継続検討するということになると思う。ただ,これは前期の審議会での事項であって,新しい委員にはいろいろ御意見もあると思うので,本日はこれらに関連して,自由に全般的な御意見を拝聴することにしたい。前回の総会でも,漢字表・字体表以外にも,国語審議会として考えるべき重要な問題があるのではないかという趣旨の御意見があった。いやしくも国語審議会であるから,諮問事項以外にも国語問題全般について意見を交換して,取りまとめられるものは取りまとめるということも当然のことである。そういう問題も含めて,全般的な,審議会としてなすべきことについての御意見を伺いたい。
 漢字表並びに字体表の方も前期の委員会に引き続いて今後どういうふうに作業を進めていくかということについて御意見を伺い,その後で両委員会の今後の継続という問題についてお諮りしたいと考えている。なお具体的に言えば,漢字表は検討の途中で打ち切るという筋合いの問題でもないので,引き続き検討を進めることになるはずであると考える。その検討は,総会という段階を経て進めていくことは当然であるが,作業上の問題としては,前期同様,委員会的な形をとり,漢字表委員会で作業を継続することになると思う。
 また,11期以来,審議の中心を総会に置いているので,当面の問題にかかわらず,自由に意見を交換していただき,問題点の整理をして次の総会に臨むということを,今後とも繰り返していくのが適当だろうと考えている。そこで,問題点整理委員会も継続されることが適当であろうと考えている。
 本日自由討議という建前で,十分な御意見を伺った後,両委員会の継続その他について,具体的な御相談をしたい。なお,もし御要望があれば,前期の漢字表委員会と問題点整理委員会の実際の活動状況などについて,それぞれの主査であった岩淵委員と遠藤委員から説明していただくこともできる。
 では漢字の問題,字体の問題及びそれ以外の問題についても,御意見をちょうだいしたい。

林(四)委員

 前回最初に発言をして,ほかにも問題があるのではないかと言ったが,責任上意見を補足させていただきたい。私は別にほかに問題があると考えて言ったわけではない。建前からして,国語審議会は,いつも国民の国語生活,言語生活を最も合理的に導いていくための問題を議論していく責任があると思うので,必ずしも大臣からの諮問を待たなくても,実際の国民の生活の中にある問題点は,いつもくみ上げておく必要があるのではないかという意識を持っていて,このようなことを言ったわけである。
 私の希望をついでに言えば,もちろん11期の審議会で漢字の字種という大問題,更に字体という大問題,この二つが既に出そろっているわけであるから,それだけでも大変なので,そのほかに幾つもの問題を追いかけたらどうにもならないということはよく分かっている。だから主要目標で生産物を伴うものは当然その二つになるということは,私もそう思う。ただ,50人の委員全部がいつも漢字の問題だけを考えていなくてはならないというわけでもないだろう。11期の問題点整理委員会,10期の一般問題小委員会のような形を続けて,どういう問題があるかということを懇談の形でいつも論じ合えるような場所を作っておいてほしいと思うわけである。
 私は,この間も言ったが,ローマ字と敬語については,国民の中でいつも問題があると思う。ローマ字などはいかにも問題がないようだが,例えば鉄道の駅名その他ローマ字を見かけることは昔よりもずいぶん増えている。そういうところでは,恐らくいろんなローマ字表記が並行している現状だと思う。これに対して,何かの方策を講じておくことは必要なのではないか。もちろんローマ字は何式に統一しろなどという一つの結論に到達することまでは予想しないが,現時点ではどういうところに問題が生じているかは考えておく必要がありそうに思う。敬語にしても「これからの敬語」といういい建議がかなり前に出ていて,例えば「られ敬語」を大いに用いたいとか,二人称としては「あなた」を標準語的に用いたらよいという明確な線が出ているわけである。そういうものが果たして本当に国民の生活の中で定着しているかどうかは,やはり考えてみる必要があると思う。つまり,私は決して生産物を伴うところまでを見越してもう一つの部会を置くことを言っているわけではなく,問題をいつも見ておくための懇談会のような場所を御用意いただいたら有り難いと思っているわけである。

福島会長

 漢字表,字体表の問題の検討に並行して,例えば一般問題小委員会のような小委員会をもう一つ作るということも,もっともな意見だと思う。賛成があれば,そういう措置をとっていくことも考えたい。皆さんの意見を引き続いて伺った上で取り運びたい。関連して発言をお願いする。

遠藤委員

 前期には各委員の御意見をくみ上げるために,漢字表と字体表に関するアンケートを何回か行ったが,そのときに,必ず「その他」という項目を設けて,いま林委員が言われたような漢字表及び字体表以外のいろいろな問題についての御意見も含めて書いていただいた。そこで私は前期のアンケートの全文を,新しい委員に読んでいただくといいと思う。そうすると,いま林委員の言われたようなことや,これからいろいろ議論していくことについて,前期でどのような意見が出ているかがよく分かる。そういうことはできないものか聞きたい。

福島会長

 できないことはないと思う。事務当局の御意見はどうか。

石田国語課長

 ただいまのお話のように,問題点整理委員会で行ったアンケートの結果を,新しい委員の方々に複製をしてお送りすることはできるだろうと思う。

遠藤委員

 いま林委員から御質問があったが,漢字表及び字体表の問題だけでなく,もっと本質的な問題について議論する場を作れという御要求は,前の審議会でもあったと思う。例えば,漢字仮名交じり文の性格とか日本語の特質について議論する場が必要だという意見が相当あったかと思う。鈴木委員など盛んにそのことを主張されたように記憶している。

福島会長

 ここで,前期の審議会で設けた問題点整理委員会というものがどういう作業をしたか,遠藤委員から御説明いだきたい。

遠藤委員

 第1回目の総会でも御説明したので,重複する面も多少あるかもしれない。お手元の「第11期国語審議会審議経過日程」という資料でお分かりのように,第11期の国語審議会では総会中心主義ということで総会でなるべく多数の方から御意見をいただいて,それを基にして話を進めていくということにしたわけである。ところが,時間の制約もあり,実際問題として各委員がそれほど発言の機会をお持ちになれない場合がある。
 それで,アンケート方式によって各委員の御意見を伺うようにすればいいということになった。そこで問題点整理委員会では,総会で御議論いただいたことについて問題点を項目別に整理し,更に総会でそれらの項目でアンケートを出してよいという了承を得た上で,全委員にアンケートを出した。その回答を委員会で整理して,総会に出した。そのときは,整理したものと同時に,各委員の意見の全文も配ることを原則とした。つまり問題点整理委員会で整理したものだけではなくて,アンケートに対して寄せられた意見の全部を全委員に読んでいただいた。これによって,当面の問題のほかに,全般的な国語問題についての御意見が書いてあればそれも全委員に読んでいただいたわけである。このようなアンケートは,回答が非常に多く,多数の委員からいただいたという意味で,効果があったのではないかと考えている。
 それを何回か繰り返して,その結果を「漢字表の具体的検討のための基本的方針」というものにまとめて第87回総会にかけて,決まったわけである。しかし,そのときに,これだけではない,アンケートに書かれた意見全部をそれに付して漢字表委員会に申し送って具体的検討をお願いするのだという立場に立っていた。そして漢字表委員会の方でいろいろ御審議を願ったわけである。問題点整理委員会の方は,その後字体表の問題に移り,同じような手続で2回アンケートをとり,ほぼ問題が出尽くしたのではないかというところで前期が終わったわけである。しかし,出尽くしたといってもまだ問題がある。私はまだ本質的な問題が字体表については残っているのではないかと考えている。
 これが問題点整理委員会でやったことの概略である。私が主査をして,松村委員に副主査をお願いしてやったわけである。この委員会があってよかったのかどうかその効果については私どもよりも,むしろ前期の委員の方々に批判していただいた方がいいのではないかと思う。

福島会長

 ほかに御意見はないか。

下中委員

 11期の審議経過報告の中の基本方針5項目のうち,第2項に「漢字表は法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など一般の社会生活において使用する場合を考慮して選定するものとする。」第3項に「漢字表は,現代の国語を書き表すためのものとして考えるものとする。」とある。ここで「放送」ということが指定してあるが,漢字表を現代の国語を書き表すためのものとして考え,しかも,放送に使用する場合も考慮するというのはどういうことか。つまり,書かれたものがやがて話され,それが聞き取られるということを考慮するのか,あるいはテレビの字幕とか,放送の原稿とか,そういう場合を考慮するのか。どういう趣旨なのかお聞きしたい。

福島会長

 放送といえども,標準的な言葉に従い,また漢字の表現を伴うということで,書き加えられたのだと思うが,どなたか議論を覚えておられるか。

岩淵委員

 この文句は,問題点整理委員会で出されて,総会で議論されて,大体ここに落ち着いたものだが,ここに書いてあることは,前に音訓表を審議したときの考え方が取り上げられているように思う。前期にはそれほど詳しい議論はしなかったかもしれないが,音訓表を審議したときには私も関係したので,そのときに議論したことを御紹介すると,この新聞・雑誌・放送というのは,いわゆるマスコミのような一般の大衆を相手にするものという意味で取り上げられたと思う。つまり,法令・公用文書は国民が読むべきものであり,新聞・雑誌・放送なども一般の大衆に対して出されるものであるという考え方で,一括して取り上げられたのだと思う。放送の場合には,直接にはテレビの字幕のようなものが考えられたと思う。

下中委員

 特に大衆性という意味では,書き・読み言葉と話し言葉との関連は非常に重要だと思うので,先ほど林委員が言われたような,国語のいろいろな問題を考慮する場合に,このことを積極的に御討議いただくといいのではないかと思う。

木内委員

 今の御質問だが,これは審議のための基本方針である。この前も申し上げたかと思うが,一体今までの国語政策がどうであったか,これからはどうあるべきかということから出発すると,これは大変広範な議論になって,これを片付けてからというと,何年かかるか分からないので具体的な審議を進めていくためにできたのが,この基本方針である。だから,漢字表の審議はこれでやるが,漢字表をいよいよ出すときに一体どういう性格のものを出すかは,実際まだ決まっていない。それを今度こそ決めていただきたいということを,私は前期の最後の総会で申し上げたわけである。92回総会議事要録の最後の方に私の発言が書いてある。最初に感想を述べた後,希望として「私は今度こそ,何のため,だれのためのどういう表を作るのかという漢字表の性格論を,第12期の冒頭にとは言わないが,なるべく早い機会に決めるという態度で審議していただきたいと思う」と述べてあるのは,その点がまだ未定だからである。この「だれのため,何のための表を作るのか」ということを審議する基礎は既に十分にできていると思うので,今日始めてもいいかと思う。要領のいい審議の仕方をするためには,そこを決めてかかればよい。
 審議経過報告の中にかいてある基本方針は短いし,何といっても抽象的だから,あれでははっきりしたことは分からない。一体漢字表はだれの参考か,それを法令とか社会生活とかいうと,非常に訳が分からなくなる。特に「書き表すため」という言葉があるので,では話し言葉は違うのかとか,いろんな疑問が出るし,現代の社会生活という中には,文学もあれば歴史や古典を読むこともあるから,そういうこととの関係を考えると,「何のため」ということが非常にあいまいになる。それをはっきり決めなければ,漢字表は作れない。今までのように字数が少なかったら少し増やせばいいとか,そんなことを考える段階はもう過ぎたと思う。
 世の中も変わったし,日本語という極めてユニークな言語について,その性質,その発達の歴史というものが論じられるようになったのだから,それを踏まえた上でやってほしいというのが私の希望である。問題点整理委員会でアンケートをやるのもいいが,こうなると,今までとタイプの違った問題になるので,必ずしもアンケートがいいかどうか分からない。だれかが原案を出して,それを審議するように運んでいただいたらいいので,その点をはっきり言わないと,今のこの審議が何か隔靴掻痒(かそうよう)というか,つかみどころのないものを対象に議論しているような感じがする。

福島会長

 お話のとおり,国語審議会の現状としては,一方において,漢字表を検討していくという問題,字体表にどう取り組んでいくかという問題があることは間違いない。したがって,作業部会としての委員会が今後とも作業を継続して,その上で総会がその結論をどうつけるかという段階が必ず来ると考えている。同時に,総会自体としては,その作業に並行して,国語審議会という場で検討を加えるべき基本問題について,問題点を拾い上げるなり,若干でも解決の道を見いだすなり,あるいは将来の審議会に問題を指摘していくなり,自由に御意見を出していただくことがよいのではないかと思っている。繰り返して言えば,漢字表委員会で作業を継続すること,それから字体表についても,更に総会で御意見を伺った上で,委員会を設けるなりあるいはもっと別な方法をとるなりして,具体的な作業を出発させることは必要であろう。同時に,それに並行して,総会では国語問題について自由に意見交換をし得ると考えている。ほかに関連して御意見があれば聞かせていただきたい。

木内委員

 今言ったことの敷衍(えん)のようになるが,お話を伺っていると,漢字表と字体表は全く独立した二つの問題に見える。しかし,字体表は,漢字表の字体を決めるものだから,これは実際には一つのものである。漢字表がいわゆる性格問題――何のためにどういうものを作るかという基本的な問題の上に立ってできるときに,字体表も同時に決まるわけである。今は字体表の審議は遅れているが,字体表を含めて新しい漢字表をどう作るかということの議論は,今後お入りになった方は別として,私はもう材料としては十分に出ていると思う。だから,両方含めてこういうものを作るべきだという案が出れば審議がはかどると思う。そこにいきなり話を飛ばしては新しくお入りになった方に悪いかと思って遠慮していたが,どうも的がはっきりしない議論が続くように思うので,もしこの次の総会にでもその案を出させてもらえば,的がはっきりする。それをやれば,それ以外のことは,その中に幾らでも関連事項として入ってくる。ことに日本語というユニークな言語の性格を踏まえてやろうというのだから,あらゆる問題が入ってくる。それをもう一遍新しいメンバーを加えて審議し直し十分に論じて決めたら,漢字表そのものはすぐにできると思う。
 字体表は別だという印象がどうも強いように思うので,それはそうではないという意味で申し上げた。

福島会長

 確かに具体的な検討を相当進めたので材料もかなりそろっていることは間違いないが,すぐにできるかどうかということになると,そう簡単にもいかない。現在までに四千何百字かについて一通り検討したが,今までの結果をそのままのんでしまうわけにもいかず,また,その検討も終わっていない。しかし,どの辺で筋を引くかということは,基本的な問題に関連して判断すべき問題である。したがって,総会で,現在の1,850字では足りないのか,あるいは増やすにしてもどの辺に筋を引くかという,基本的な問題に関連しての判断ができれば,問題はかなり進捗(ちょく)することになるので,原則的な議論を交換することは,いろんな意味での進捗に貢献するわけである。自由な御発言を続けていただきたいと思う。
 なお,ついでながら申し上げるが,11期では総会は初め2か月に1回ということで始まり,途中で委員会の仕事などもお願いしたので,時間的な余裕を作る意味で3か月に1回になった。12期については,これはまた御相談であるが,1月発足以来総会はこれで2回目だが,全般的な御意見を更に活発に戦わしていただくためにも,3月にもう一度開催していただいて,そのころまでには漢字表委員会その他,委員会的な組織についても形ができると思われるので,その後は総会は2か月に1度ぐらいの間隔になっていくように私としては予測しているわけである。そして,2か年の任期の間に,漢字の字種と字体の両方取り上げることになるから,漢字表委員会のほかに,もう一つ字体表委員会というものを作るのか,あるいは木内委員のお話のように,漢字表と字体表は必ずしも別々なものではないということで,漢字表委員会の作業をしてもらいながら,同時に字体表の問題も加えていくのか,あるいは漢字表の作業が終わったところで引き続いてお願いすることになるのか,その辺は総会でこれから御相談していくわけである。それで何とか2年の終わりごろには,たとえ最終案でなくても,公表できるまでの具体案にしたい。公表した上で本決まりになるのだろうと私は思っている。
 したがって,この12期の審議会では具体的な漢字表案というものができるところまで,そしてまた字体表案についても,できるところまで進捗したいものだと考えている。漢字の字種,字体に関する問題以外に将来の国語審議会として取り上げるべき問題点を指摘していくこともそれに付け加わるかもしれないという予想をしている。
 そんなことも一応気にとめていただいて,なおいろいろ御意見をお聞かせいただきたい。

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