国語施策・日本語教育

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次第 今後の審議の進め方〔その2〕

新井委員

 漢字表の再検討についての地ならしは,前期審議会で出来上がったのではないかと思う。そして今期の審議会ではこれを具体的に煮詰めていく段取りになると思っている。ところが,この審議会の内部で議論し合っていることは,世間には余り徹底していないきらいがある。その点,前期審議会の経過報告の最後に,「今後の審議においては,適当な段階で広く国民各層の意見を聴取するなどの方途が講じられるよう期待する。」と書いてあるのは,考え方として,非常に結構なことだと思うが,現在の当用漢字表の1,850字という数は増えるのではないか,大体2,000字ぐらいになるのではないかということが新聞その他に出ている。例えば,今月の初めごろ朝日新聞の投書欄に中学校の先生の投書が載っていて,要点だけ読んでみると,「国語審議会がまた漢字をいじくるという。よけいなことは,もうやめてほしいと思う。わたくしの場合,戦後,何回かの表記の改正のため,国語に対する自信を失ってしまった。そのつどひととおり目を通したつもりだが,すぐ忘れてしまい,いまでに,こどもたちにすら,うかつには,国語を教えることが出来ない始末である。うんぬん」と書かれている。毎日新聞にもこの問題に関連したいろいろな投書があり,その中には,当用漢字を増やしてほしいという意見も減らした方がいいという意見もある。一番多いのは,現在の当用漢字表は余りいじらないでほしいという意見である。また,国語審議会はある程度字数を増やすことに決めているようだということを先入観にしてものを言っているものがかなりの数に上がっているようである。この際,世間に向かって,この審議会は当用漢字表の再検討をしつつあるが,まだ増やすとか減らすとかいうことについては意見の一致を見ていない,第11期審議会の経過報告の中に急激な変化を来すことは避けようとあるだけだということをはっきり認識してもらいたいと思っている。

福島会長

 確かに,増やす減らすということについて何らの決定もしていない。字数については,減らすにしても増やすにしても,余り急激な変化はないということだったと思う。実際の検討の結果字数が増えることもあるだろうし,減ることもあるかもしれないが,頭から増やすというつもりで審議会が出発しているわけでもないことは間違いないと思う。

木内委員

 その点,誤解をあるといけないので申し上げるが,増やす,増やさないということは,実ははっきり論じてない。しかし,当用漢字の性格が変わることは既に明瞭(りょう)である。性格が変わるのなら,新しい性格をどう決めるかによって,今までより少ない漢字表を作るのも一案,その性格によっては大いに増えるのも一案,余り違わないようにするのも一案,大事なのは性格である。もとの漢字表は,これ以上漢字を使わないことにしよう,だんだん漢字を減らしてやめていこうという性格を持っている。だから交ぜ書きとかいろいろなことでトラブルがたくさん起こっている。ああいったことはまずいのでやめようということである。
 新しい漢字表ができれば字数が増えるだろうと世間が思う理由が,分からないと言われたが,それはむしろ当然である。というのは,一般世間ではずっと多くの漢字を使っているからである。新聞社をはじめとして,ここに書いてあるような法令・雑誌・放送,こういったものが使っている字をあげたら非常に大きなものになる。それがあるものだから,増やすと思っている。今までの,漢字を制限しこれ以上使わないことにして,なるべく減らしていこうというのをやめる。それに当用漢字表を1,850字教えたら学校教育はそれで能事終われりという考え方,これも既に変わっていると思う。事実,この方向で今まで論議してきた。だからこそ私は冒頭に性格論をすべきだと言っている。それを洗いざらいやってみて,今までの方がいい,漢字はだんだん減らしていけという人もあるかもしれない。しかし,それは二十何年やってみたことだが,世の中ではますます多く使い始めた。当用漢字には大鵬の「鵬」もなければ,麒麟児の「麒麟」もない。府県名にも茨城県の「茨」,岡山県の「岡」のように,ない字がある。これらは世の中では使っている。だから漢字表の作り方について,ばく然と素人が考えれば,これは増えると思うに決まっている。しかし増やさないのも一案である。私はこう思うので,何はさておき真っ先に性格論をやることが一番能率がいいと思う。

新井委員

 今の木内委員のお話はよく分かるが,この漢字表の問題には,前期でもたびたび論議されたように,二つの面がある。一つの面が,当用漢字表というワク,つまり,壁の中に当用漢字が入っていることである。当用漢字の壁は非常に厚い。これを言葉で言うと,制限的ということである。内閣告示・訓令の中にある「制限する必要がある」という言葉である。その壁の厚さが非常に厚いので,当用漢字の壁の外側の無数の漢字と壁の中の漢字との区別が峻(しゅん)烈になっている。壁の外の字が締め出されているというのが,現在行われている当用漢字の性格である。この壁の厚さをもっと薄くしようというのが前期の審議会の一つの結論ではないかと思う。壁を薄くするということは,壁の外の当用漢字以外の漢字も余り排斥しない,場合によってはこれをある程度使っていくという意味だろうと思う。
 もう一つの面は,壁の中にある当用漢字をどういう方面に適用し,守らせていくかという拘束力の問題である。これは第11期の審議経過報告の中では余りはっきり書いてないが,今の内閣告示・訓令では,法令,公用文書,義務教育段階における教育について,この当用漢字表を守らせるというかなりきつい拘束力を持っているものである。しかし,新聞,雑誌,その他民間のいろいろな方面においては,ただなるべく官公庁や義務教育と同じような方向にならうことが望ましいという表現が使われているにすぎない。したがって,新聞は義務教育を終わった人間ならだれにでも全部読めるように作らなくてはいけないというふうに堅苦しく考えなくてもいいのだ,自由に考えて,余り制限・拘束を新聞が自ら受けないようにしていったらいいと思っている。こういう考え方ならばそのまま当用漢字を増やすという思想にはつながっていかないと私は考えている。
 昭和21年に当用漢字ができたときから,例えば固有名詞については触れないというゆとりがあった。そのゆとりを今でも持っていいのではないか。だから新聞,雑誌などで当用漢字以外の字を使うことが度々あるにしても,当用漢字そのものは守っていくことはできるのではないか。つまり義務教育段階において教える字,読み書きできる字はこれだけでいいのだという考え方でいけるのではないか,こういうふうに私は当用漢字を理解している次第である。
 最近,世間で当用漢字以外の字がどんどん使われだしているということは,正にそのとおりと思うが,それがそのまま今の当用漢字を増やすことに短絡的につながってはいかないと考える。

福島会長

 ほかに御意見があるか。私も思い出してみると,11期の審議会ではかれこれ1年かかって原則問題,基本方針というものを決めて,それで漢字表委員会の出発にこぎつけたわけである。その原則,基本方針の中で一番顕著な点は,漢字表の性格を現行の当用漢字表のような制限的なものとはしないということである。字数は減るのか増えるのかという議論はしていない。制限的なものでない以上は,もっと字数が減っても一向に不自由はないではないかという議論も出てくるだろうし,増やしてもいいではないかという議論も出てくるだろう。審議経過報告では,字数については,現行の表と比べて急激な変化を来すことは避けようという了解の下に今後の具体的検討の結果に基づいて判断することとされている。したがって,この方針に基づいて,漢字表委員会の作業は今後ともお進めいただくのだろうと思う。
 ただし,決定をするまでには,まだ2年先があるわけであるから,引き続いて総会としては,この制限的なものとはしないという性格論,原則問題について自由に御意見の開陳をいただいても一向差し支えはないと思う。次回の総会でもこの原則問題,あるいは取り上げられていなかった問題について,伺う機会はまだあるだろうと思う。
 また,漢字表,字体表についての前期の委員会での検討について,御意見があれば,事務当局にお申し出いただきたいと思う。
 いずれにしても,総会のほか,漢字表委員会と問題点整理委員会は両方とも引き続いて設置すべきものと私は考える。そこで前期の両委員会の運営など,御承知を願った方が都合がいいかと思うので,事務当局に,漢字表委員会,問題点整理委員会が,前期はどう運営されたかというような説明をお願いしたい。

石田国語課長

 お手元に「第11期審議会における問題点整理委員会について」と「第11期審議会における漢字表委員会について」という資料を差し上げてある。
 問題点整理委員会は,総会の審議を能率的にするため,総会で出た御意見を基に問題点を整理していくということで発足したものであり,前期の第2回目の総会で設置された。そして,第1回の委員会の際に,その運営について御相談の結果決まったのが,そこにある国語審議会問題点整理委員会の審議についてという5項目である。このような一応の申合せをして委員会の作業を始めた後,漢字表に関する基本的な問題についてのアンケートを行うことになり,これを3回実施した。そして「漢字表の具体的検討のための基本的方針」がまとまった後,次に,字体表の基本的問題を取り上げることになり,それについても,アンケートを2回(うち1回は自由記述方式であった。)行った。実際の運びについては,先ほどの遠藤委員のお話のとおりである。なお,委員会には12人の委員が選ばれていた。
 もう一つの漢字表委員会は,先ほど来のお話のように,総会での協議を通じて漢字表についての具体的検討のための方針が一応まとまった段階で,その具体的検討を進める組織として置かれたものであり,総会からの付託により漢字表に関する技術的,専門的事項を検討し,適当な時期に随時総会に検討経過及び内容を報告するというものである。その運営については,運営委員会及び漢字表委員会の最初の協議の際に相談されて作られたものがそこに書いてある。また,この委員会の中には必要に応じて小委員会を設けることができるということになっており,実際にも検討資料の作成その他のための小委員会が置かれて作業が進められてきたわけである。この漢字表委員会は20人で構成され,主査には岩淵委員,副主査には志田委員が選ばれていた。
 概略は,以上のとおりである。

福島会長

 両委員会の運営は,ただいま御説明があったようなことで,11期においては進行したわけである。漢字表の問題,字体表の問題は,引き続いて今期の審議会でも継続検討されなければならないということは,御異議のないことであろうと思うので,12期も引き続いて漢字表委員会と問題点整理委員会を設けることを御提案したい。運営の方式も,前期のこの運営の方式に従って今期も運営してもらったらどうかと思っている。両委員会を設置することについて,御意見を伺いたい。漢字表に関する検討作業そのものもまだ中途でもあるし,また問題点整理委員会は前期の審議会においては,有効な御活動を願ったと思っているので,両委員会を第12期においても設置するということに御賛成を賜りたいと思う。
 御参加を頂く委員については,全委員の御希望を伺った上で,人選は会長,副会長及び運営委員会にお任せいただいて,しかるべき時期に発足するようにさせていただきたいと思う。
 特に御異議がなければ,さよう取り計らわせていただきたい。委員会の人数は,前回は12名,20名ということであったが,所属する委員以外の方の御出席,御発言も自由であるので,運営上適当な人数も更に運営委員会で御相談してみたいと思っている。前回の両委員会の御関係の方の御意見も伺って決めたいと思う。その辺も運営委員会を中心とする御判断にお任せ頂ければ有り難いと思っている。御希望いただいても,人数の関係があり,また,御希望が予定数に達しない場合,御希望を表明されなかった委員にお願いすることもあるので,御希望どおりという保証はいたしかねるが,さような点をお含みいただいた上で,両委員会に参加の御希望を事務当局に御連絡いただきたいと思う。
 両委員会の再発足,さように取り扱ってよろしいか。(異議なし。)では,さように取り計らわせていただくので,よろしくお願いする。
 なお,本日は第2回の総会であるが,原則問題についてはまだまだ御意見を伺った方がよいと思うので,次の総会は,3月ということで考えたいと思う。それから後は,前期の審議会と同じように,2か月ぐらいの間隔を置けるものと考えている。また,金曜日が都合がよろしいという方が多いようなので,これから大体金曜日ということで考えたいと思う。たまたま次回は3月21日が休日なので,3月28日の金曜日を予定させていただきたい。特に御意見があれば御発言いただきたい。よろしければ,さように決定させていただく。
 これで本日の会議は終わるわけであるが,その前に,事務当局からの報告事項をお聞き取りいただきたい。

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