国語施策・日本語教育

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次第 庶務報告/前回の議事要録について/人名用漢字の追加について(意見伺い)〔その1〕

福島会長

 ただいまから第99回国語審議会総会を開会する。
 初めに,事務当局から庶務報告がある。

石田国語課長

 文化庁の人事異動について御報告申し上げる。
 去る6月1日付けの文部省・文化庁の人事異動で今村文化庁次長が文部省学術国際局長に転出し,後任として柳川初等中等教育局審議官が文化庁次長に就任した。

福島会長

 柳川新次長,どうぞ。

柳川文化庁次長

 6月1日付けで次長を拝命した柳川です。よろしくお願いします。

福島会長

 それでは次に進みたい。
 去る3月19日に開催された前回総会の議事要録は前もってお手もとに差し上げてあるので,御覧いただいたことと思う。御自分の発言について修正があったら,どうぞ。後で事務当局へ御連絡いただいても結構である。(発言なし。)
 本日の議事としては,第1に人名用漢字の追加について(意見伺い),第2に漢字表委員会における字体問題の検討状況について,第3に自由討議を予定している。
 最初の人名用漢字の追加問題に関しては,法務省における検討状況などについて前回総会でも事務当局から説明があった。今回,法務省から文化庁あてに正式の依頼文書が届き,これに基づき,文化庁長官から国語審議会あてに「人名用漢字の追加について(意見伺い)」という文書が出され,先日それを受領した。この文書はお手もとに差し上げてあるとおりのものである。これらのことについて文化庁長官から説明がある。

安嶋文化庁長官

 国語審議会委員各位には,かねてから我が国の文化の基盤である国語の改善について,大変熱心に御審議いただき,心から感謝申し上げる。
 ただいま会長からお話があったように,このたび法務省から文化庁あてに「人名用漢字の追加について(依頼)」という文書が来た。先般も御報告申し上げたように,法務省では,人名用漢字の範囲の拡大について,国民の要望が非常に強いことにかんがみ,従来から種々の調査検討をしてきた。その結果,この程お手もとにあるような追加案を得て,当面これを現行の戸籍法制度のもとで早急に実施に移したいとの意向である。従来の経緯等にかんがみて,事前に国語審議会にその旨を連絡し,御了承を得たいということで文化庁に依頼してきた。
 これに対して,文化庁としては,お手もとの文書をもって今回国語審議会の御意見を伺うことにした。現在,別途「当用漢字表」の改善等について根本的な検討をいただいており,その中間ということで誠に恐縮であるが,以上のような事情を御理解の上,このことについて早速御意見をいただきたい。

福島会長

 文化庁長官から国語審議会会長あての依頼文書及び関連する資料について事務当局から説明を聞きたい。国語課長,どうぞ。

石田国語課長

 資料について御説明申し上げる。
 お手もとの資料1として,ただいま長官から御説明申し上げた「人名用漢字の追加について(意見伺い)」という文書及びそのもとになった法務省の民事局長から文化庁次長あての「人名用漢字の追加について(依頼)」という文書を差し上げてある。
 人名用漢字の追加については,これまでの総会でも何回か法務省からもらった資料をお配りしたり,あるいは前回総会では法務省の人名用漢字問題懇談会での最近の検討状況を御説明申し上げたりしたが,この程文化庁次長あての文書「記」にある28字を国民から要望ある人名用漢字として追加するのは相当であるとの結論を法務省として得た由である。
 それで,戸籍法施行規則の改正をできるだけ早く行いたいということで,従来の経緯にかんがみて,事前に国語審議会にその旨を連絡し,御了解を得たいということで依頼があったわけである。
 もう一つ,資料2として,戸籍法及び戸籍法施行規則関係の条文と「人名用漢字別表」に関する内閣告示・訓令とを差し上げてある。これは,現在の制度がどうなっているかということで,参考にお配りしたものである。
 このような現在の制度について,これまでに御説明申し上げたように,国民から人名用漢字の追加の要望が出され,法務省での検討があって,この程依頼があったということである。

福島会長

 人名用漢字の問題は,現在検討している漢字表の問題と重要な関連があることはもちろんであるが,今回は法務省からの依頼を受けて,現行の制度の中での当面の措置を講ずることについて,国語審議会としての意見を求めたわけであり,事務当局としては,なるべく早く意見を頂きたいと言っているので,本日,委員各位の御意見を伺って考えを決めたいと思っている。
 ただいま長官からも説明があったように,法務省における民事行政審議会の答申や人名用漢字問題懇談会での検討の状況からここに至ったと了解している。これは国語審議会にとってもなかなか重要な問題でもあり,同時にまた出生届の窓口で摩擦が絶えないということから法務省としての立場もよく分かるような気もする。国語審議会の本来の任務にも関係があるので,委員各位から忌憚(たん)のない御意見を頂きたい。

宇野委員

 法務省からの「人名用漢字の追加について(依頼)」の文書の中に「国民の強い要望があることにかんがみ」とあるが,私を含めて7名の国語審議会委員は人名用漢字問題懇談会に参加しているからその経緯はよく分かっているが,他の委員各位はそのことはもう御承知か。

福島会長

 そのことは前回総会でも若干の説明があった。法務省で検討する際に専門家の意見を聴くことにより,学識経験者として法務省から参加を求められた方々の中に当審議会の委員もおいでになった。資料1の終わりに法務省の人名用漢字問題懇談会に参加された委員の名前が掲げられている。そういう関連は委員各位も御承知と思うので,その建前でお話しくださって結構である。

宇野委員

 私は人名用漢字問題懇談会に委員として参加して,その会で最初に次のような念を押した。
 2,3年前,学術審議会学術用語分科会から歯学関係の用語案について,「当用漢字表」にはない字を用いているものだが,国語審議会の了承を得たいという申出があったことがある。その時に私は,国語審議会が独自に審査したものでもないものについて了承するとかしないとかいうのはおかしい,しかし,国語審議会で漢字の問題を検討している以上,何の連絡も受けないということでも困るから,こちらとしては承ったということでいいであろう,ということを発言し,その結果,学術審議会学術用語分科会へはその趣旨で回答したことがある。
 私は,先般の法務省の人名用漢字問題懇談会の席でも同趣旨のことを繰り返し述べた。つまり,この人名用漢字問題懇談会は法務大臣から私的に相談されたような形であるので,ここで出た結論は,法務大臣において処置すればいいことであって,国語審議会に了承を求めるとか何とかいうことは不必要だと思う。ただし,全然連絡なしにいきなり出されても困るから,一応国語審議会にこういうようにするからという連絡だけはする,国語審議会はそれを承ったということでやっていただきたい,ということである。それが了承されて審議が始まったわけである。
 以上のように念を押してあるので,今回このような依頼があったが,国語審議会としては,承ったといっておけばいいと思う。むしろそうしなければ,人名用漢字問題懇談会に参加した者としては,越権行為をしたことになるように思う。

福島会長

 法務省における人名用漢字問題懇談会に参加された立場からは,確かに宇野委員の御意見のとおりであろうと思うが,歯学用語の場合と強制力のある戸籍の場合とでは,同じように扱うわけにもいかないと思う。できれば,当審議会としてはこう考えるという返事をしたいと思うが,いかがであろうか。ほかに御意見があったら,どうぞ。また,法務省での人名用漢字問題懇談会に参加された他の委員の御意見もどうぞ。

鈴木委員

 法務省からの依頼の文書を7月18日開催の漢字表委員会及び本日の総会で拝見して幾つかの問題が含まれているように思う。
 一つは,法務省からの依頼の文書の理由に当たるところに「人名用漢字の範囲が昭和26年以後据(す)え置かれている」とあることについてである。
 この言い方は,物の値上げのときの言い方,大分長く据え置いたからもう上げてもいいではないかというのと同じである。このことは逆に言うと,人名用漢字は暫定的であったということを法務省としては踏まえていることになる。国語審議会としては,人名用漢字が暫定的であったかどうかということを審議しないで,その前提を認めてよいのかどうか。当審議会としては,人名用漢字は暫定的なものであるとする見解をとらないとすれば,法務省の挙げた理由の一つはなくなるわけである。
 もう一つは「その範囲の拡大について国民の強い要望がある」と書いてあることについてである。
 これは,恐らく,出生届を受け付ける窓口で,子の名前に使いたい漢字が,戸籍法施行規則に示されている漢字の中に入っていないというところから,なぜ届出の字がいけないのか,人名用漢字を制限することは憲法違反ではないか,という摩擦が非常にあり,窓口事務が繁雑で断るのに実際困るということを言っているのだと思う。しかし,制限があるときに,それを破りたいという人がいるのは,当たり前のことである。逆に制限をもっと強化しろとか,今のままでいいとかいう声は,窓口では表面に出ないわけであるから,その窓口では制限を破りたいという声が多くても,それが国民の声であると言っていいのかどうか。現在制限があるものに関して,その制限に不満であるという人間の声がただ多く聞こえるというだけでは,国民の要望ということにはならないのではないか。もし国民の声というのならば,現在法務省が定めている人名用漢字の範囲は適当と思うかどうか,子供が生まれたら,この範囲の中の漢字で満足するかどうか,といったことを数学的に正しいある程度のサンプリングでとってみるべきである。その結果,現在のものでは不満であるという声が圧倒的なら,そのときは国民の要望と言えると思う。
 以上のことから,私は法務省が言っている理由は成り立たないと思うので,この議事は消滅するのではないかと思う。非常に重大な国の政策なり国語施策なりを検討するにしては,根拠が薄弱ではないかと考える。
 これに関連しておもしろく感じていることがある。現在子供を産む人は大体20歳から40歳ぐらいまでであろうと思う。この人たちは新しい時代に育ったにもかかわらず,もし人名用漢字の範囲の拡大が文字どおり国民の要望であったとすると,漢字を増やすことが国民の要望であるということになる。つまり,昭和に生まれ,最近子供を持ったような,漢字制限時代に育った人が,現在の漢字では満足しないというのは,ある意味では,私の考えにとって都合のいい材料である。
 しかし,それもやはり国民の要望と言うわけにはいかないのではないかと思う。
 法務省の実際の問題よりももう少し本質的な漢字に対する若い人たちの受けとめ方として,漢字はめんどうであるから,自分の子供には片仮名で名を付けようという傾向は多くはない,ということは言えるかもしれない。
 これに対して,もう一つ別の見方もある。人の名前はシンボルと考えているのであって,名前に漢字が使われているからといって,それを普通の当用漢字とか,言語生活に使う漢字と同じように考えるのは間違っているのかもしれず,人の名前を一種のサインであり,たまたま漢字が似ているが,それは漢字ではないかもしれない,漢字に対する要求が多いことが若い人の漢字に対する親和感若しくは肯定を示していることであるとは言えないかもしれない,ということである。
 このような問題も実際のデータに基づいた法務省の提言は含んでいると思う。
 であるから,こういう問題を少し考えないと,時間的に迫られている,現場は急いでいる,だから,国語審議会として早く返事を出せと言われても,返事は出せないと思う。

碧海委員

 私の意見は,結論的には,理由は違うかもしれないが,宇野委員,鈴木委員に近いと思う。果たして国語審議会が法務省のことまで決める責任があるのかどうか,非常に疑問に思う。
 従来のいきさつを見ると,資料2の昭和26年5月に出ている内閣訓令では,「国語審議会の人名漢字に関する建議を採択し」とあるから,国語審議会の人名漢字に関する建議を政府が採択して告示し,訓令により法務省が取り入れるという形をとったと思う。今回,法務省民事局長から文化庁次長に対して依頼があったのは,この昭和26年の先例を考えてのことと思う。
 しかし,国語審議会が毎回こういうことが起きるたびに審議して,了承するとかしないとか,ということを言う必要があるのかどうか。あるいは,今回以後は,連絡だけはしてほしいが,後は法務省独自にやってほしいと言った方がいいのかどうか,その辺を手続上も大いに考えるべきであると思う。
 私の結論は,どちらかというと宇野委員のそれに近くて,通知はしてもらった方がいいが,法務省のことにまで国語審議会が店を広げない方がやりやすいのではないか,ということである。
 それから,マクロの方向として,漢字表を余り制限的に解さないという理解が共通の底流としてあるように思うので,国語審議会が法務省のことにまでくちばしを入れないで済むような体制になっていった方が将来はやりやすいのではないかという気がする。

福島会長

 現在検討中の漢字表の案が決まる時にはこれを制限的なものとしない,という中間的な方針の決定は,第11期の時にできており,それに基づいて現在の第12期の審議が進行しているものと私は了解している。
 したがって,前期の歯学用語の時も,制限的なものとしないという方針で漢字表の検討をしていたから,歯学医学界で特に必要とする用字用語の問題については,学術審議会学術用語分科会で適当にお考えいただきたいということで,「承っておく。」という返事がいいのではないかということになったと思う。法務省の場合も同じことであるという感じ方もできないことはないと思われる。
 漢字表は制限的なものとしないということについては,今期の考え方によっては変えることもできるが,今日までのところは,一応そう決めて進めてきたはずである,ということだけ念のため申し上げておく。
 それから鈴木委員の御意見の中に,法務省のいうことは,人名用漢字が暫定的なものであるという前提がなければ根拠がなくなるとあったが,そのとおりだと思う。
 また,あと適当な期間で新しい漢字表ができ,どのくらいの字数になるか分からないが,極端なことを言えば,その字数がかなり増えた場合には人名用漢字表は要らなくなるかもしれないということもあるので,国語審議会の結論を見定めないと,本当の意味で人名用漢字表もできるはずはないという理屈は成り立つわけである。
 しかし,当審議会の結論があと1年掛かるか2年掛かるか分からないし,当面急を要するので,この措置は現実の事務処理上必要であるという法務省の考え方であろうと思う。そして,漢字表の結論が出る段階になれば,今回の案だけでなく,前からある92字の「人名用漢字別表」も再検討される必要が当然出てくるであろう。したがって,法務省としては暫定的措置と考えているのであろうと私は思っている。
 また,鈴木委員の「人名用漢字別表」の性格に関する御発言は,「人名用漢字別表」が「当用漢字表」では間に合わないところを補充する意味での追加漢字表であるのか,あるいは人名用漢字というものは,別の性格を持っているため,別に定められたものであるのかというような問題を多分御指摘になったのであろうと思うが,どなたか,このことに関連して御発言いただきたい。

森岡委員

 私も人名用漢字問題懇談会に名前を連ねた一人であるが,それに参加した時は,宇野委員の言われたように,一応国語審議会には報告するが,国語審議会と関係のないところで,戸籍法の省令改正によって人名用漢字を増やすことができる,というように了解して漢字の選定が始まった。
 市町村の戸籍の窓口で要望のあった280字ぐらいの漢字の中で,要望件数の多かったものから順に27字を採って,28番目,29番目,30番目の3字をやめて31番目の「翠」の字を別の理由で加えた。そういうことで大体件数の多かった順に選んだと考えていいのではないかと思う。
 その28字をもし認めるならば,窓口での8割前後のトラブルはなくなるであろうということであった。国民の要望というのは,少し大げさであるとしても,全国約3,400の窓口に寄せられた要望であるから,窓口のトラブルがそれによって大部分解消するという非常に現実的な要求からきているということは言えるかと思う。
 そして,人名用漢字問題懇談会が終わってから,それを実際に行うためには,やはり昭和26年の場合と同様に内閣告示・訓令を出す必要があり,そのために国語施策という観点からどうかということを加えて,国語審議会の意見を聞くことになったと聞いている。
 私個人としては,現実的な要望であり,これぐらい増やしてもいいと思うが,恐らく,初めて御覧になる各委員は28字を積極的に否定する根拠もなければ,肯定する根拠もないと思う。人名用漢字問題懇談会に参加した者も窓口の要望であるということで,それを唯一の理由にして28字選んだわけである。
 結局,法務省としては手続上の問題になると思う。つまり,法務省への回答文書の表現の問題であると思う。
 そこで,国語審議会として,この漢字を認めるというよりも,「人名用漢字問題懇談会で相当であるとの結論を得られたことを了承する。」ぐらいの返事を出すとしたら,法務省は困るのかどうか。そのあたりの表現の具合を伺いたい。

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