国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 資料説明

清水会長

 前期以来,残された課題の中で,緊急な課題は大きく二つあるのではないかという御指摘であった。
 それでは,前期の審議経過報告等について,課長の方から御説明をいただく。

大島国語課長

 説明に先立ち,先生方のお手元の封筒の中に本日付けの国語審議会委員の辞令が入っているので,確認方よろしくお願い申し上げる。
 それでは,配布資料について御説明する。
 まず,配布資料1は,「第21期国語審議会委員名簿」である。配布資料2は「文部省組織令(抄)・国語審議会令」,配布資料3は,先ほど申し合わせていただいた「審議会の傍聴等について」である。配布資料4は,「平成7年度国語施策懇談会について」というかなり分厚いものである。さらに,資料番号は振っていないけれども, お手元に「新しい時代に応じた国語施策について」,前期の審議経過報告を資料5としてお配りさせていただいている。
 主として,資料4,5について, 今期の御審議に至るまでの経過等を御説明させていただきたいと思う。
 まず最初に,資料の5,白い冊子の「新しい時代に応じた国語施策について」,時間の関係もあるので,重点的にかいつまんで御説明をさせていただく。前期から引き続き委員に御就任の先生方には, 御確認をいただくという意味合いになろうかと思う。
 まず,冊子の目次をお開きいただきたい。大きく三つの事柄について御報告いただいている。すなわち「言葉遣いに関すること」 「情報化への対応に関すること」 「国際社会への対応に関すること」である。
 1ぺージをめくっていただくと,「言葉遣いに関すること」について,まず最初に,「基本的な認識」が述べられており,3ぺージ,「基本的な認識」の(2)として,「言葉遣いの標準の在り方」についての見解をお示しになっている。その最後の段落の下から8行目辺りに,将来は,言葉遣いに関する緩やかな標準を示すことに取り組んでいく必要もあろう,ただし, 標準を示すとしても,その性格は,緩やかな目安・よりどころという程度であり,なおかつそれを必要とする人の参考に供することを旨とするにとどまるべきであろう,このような見解が示されている。
 前期国語審議会の第1委員会において,一番長く御審議をいただいたのは敬語の問題であるが,6ぺージからは,ずっとその敬語の問題を審議していただいた結果が述べられているわけである。
 7ぺージの(2),2番目の段落で,「国語審議会がかつて建議した「これからの敬語」(昭和27年)は,敬語に関する唯一のよりどころとして各方面に影響を与えてきたが,40余年を経た現在の社会状況は建議当時とは大いに異なっている。今期国語審議会は,言葉遣いにおける主要な問題として敬語の問題を取り上げ……まず「これからの敬語」の見直しを中心に論議を行って,問題点を明らかにすることに努めた。」として,以下その検討状況が書かれている。
 続いて,ずっと敬語の問題が書かれているわけであるが,10ぺージ,「その他」の問題として,まず最初に,いわゆる「ら抜き言葉」の問題を取り上げている。これが結果的には20期の報告の中で,話題の中心になったという状況である。これは後ほど御紹介をさせていただく。
 14ぺージ,二つ目の項目の「情報化への対応に関すること」であるが,先ほど長官からもお話し申し上げたように,第2委員会で一番多くの時間を掛けたのが,17ぺージから始まるワープロ等の字体の問題である。
 17ぺージの3「ワープロ等における漢字の字体の問題」ということで,最初に「混乱の現状」が書かれているわけであるが,ワープロ等に使われている漢字はJISに準拠して,第1水準.第2水準と言われている6355字,それから,現実には情報機器に搭載されていないけれども,補助漢字と言われる補充的な5801字というものがある。ワープロ等に使われる漢字の字体についての混乱は,2段目の段落に書かれているけれども,主として,昭和58年のJIS規格の改正において略字を広く導入したということによるものである。
 そして,次の段落の中ほどから「辞書や教科書と異なる略体だけが搭載され,使用者からも疑問や苦惰の声が出されている。」,そして最後の段落では,「また,改正前の規格による機種と改正後の規格による機種とが世間に並び行われている結果,各種の情報交換の場において,送り手の意図した字体が受け手に正確に伝わらない等の支障が起こり得るという状況もある。」としている。
 「字体の問題について」の考え方であるが,2番目の段落辺りに,「具体的には「」が出ないというような状況の改善を図るという問題を考える必要がある。」,「既に,JIS規格として出されている「補助漢字」をワープロ等に搭載することで, 解決を図るということも一つの方法となろう。なお,この問題については,今後,更に論議を進め国語審議会としての考えをまとめることとしたい。」とあり,続く3番目の段落では,「ただ,今回の課題の背景には,表外字全般の字体をどう考えるかという問題が存在しているのも事実であり,根本的な解決には表外字の字体そのものの検討が必要となろう。」と書かれている。
 そして,第20期の段階では,最後の部分で,考え方の例示として,「康熙字典体を本則としつつ, 略体については現行のJIS規格や新聞などで用いられているものに限って許容していくという方向も考えられる。今後, 表外字全般の字体の問題に取り組むことについて更に論議を続けることとしたい。」となっているところである。
 さらに,22ぺージにおいては,「国際社会への対応」という三つ目の項目を取り上げている。
 その内容としては,23ぺージにある「日本人の言語運用能力の在り方」,24ぺージの「日本語の国際的な広がりへの対応」ということで,世界に広がっている日本語学習者への支援や国内における日本語学習者への支援について,また,26ぺージに,「その他」の問題として,外来語の増加や日本語の中での外国語の過度の使用の問題について取り上げられ,見解が述べられている。
 このように,第20期においては. 先ほど長官からもお話し申し上げたように,広範な問題についてかなり網羅的に取り上げていただいたというふうに考えている。

大島国語課長

 時間が長くなって恐縮であるが,資料4に移る。この報告以後の動きについて御説明するための資料である。大分厚いので,これもかいつまんで御説明させていただきたいと思う。
 なお,国語施策懇談会というのは,国語審議会の審議に関して,様々な角度から識者の御意見を伺うということで平成5年度以来特に設けたものであるが,今般の施策懇談会の御説明の前に,前期報告に対する反響等について,まず簡単に御説明する。
 資料4の最後の2枚を御覧いただきたい。日本書籍出版協会から,書面で出された第20期の報告に対する意見で,そこには,第20期の報告が,「平明,的確で,美しく,豊かな」日本語を後世に残していくために,緩やかな目安の必要性を示していることには賛成するというふうなこと,それから,特に「情報化への対応に関すること」の中で,下から4行目辺りに,「JIS字体につきましては,今後の改訂にあたって,文化庁・国語審議会がより積極的に関与し,審議会における考え方の反映を図っていただくことを期待いたします。」ということが書かれている。
 この御意見の前には,主な中央紙の社説,論説のコピーを日付順にとじてある。主に,いわゆる「ら抜き言葉」について話題にしたものである。
 前をめくっていただくと,平成7年11月10日付けの読売新聞の社説で,「美しい日本語を保つために」となっており,その2段目に,「検討されたテーマは多岐にわたる。その中で最も関心を集めたのが,いれゆる「ら抜き言葉」だろう。」,そして3段目辺りに,「ら抜き言葉」の使用については,「共通語において」「改まった場で」「現時点では」という二重,三重の限定付きで審議会の結論を出しているけれども,妥当な判断だろうということを言っている。そして最後の部分で,優れて現代的な課題である「情報機器の発達と国語能力」についても,「積極的な取り組み」を是非求めたいということが書いてある。
 その前をめくっていただくと,同日付けの朝日新聞の社説があり,見出しが「「ら抜き言葉」が映す現在」。その2段目辺りで,報告がいろいろな問題を取り上げていることを述べ,「ワープロと字体の関係なども焦眉の課題の一つだ。しかし,「ら抜き言葉」だけが際立って注目されてしまった。」とし,4段目にはいろいろ年代差とか,地域差とか,そういう落差が入り交じった「ら抜き言葉」論議に関心が集まったようだということ,それはそれで結構なことで,国語審議会の報告は,飽くまで議論の材料と考えて参考にしたらいいということが書かれている。
 さらに,毎日新聞の9日付けの社説では,コピーが見づらくて恐縮であるが,一番上の終わりの辺りで,「言葉は, 古来変化してきており,「文法的に間違っているから使ってはいけない」と言っても仕方がないことだ。とはいえ,「ら抜き言葉」が正しいかと聞かれれば,否と言わざるを得ない。「認知しかねるとした点は理解できる。」,そして3段目辺りの初めには,「報告を「権威ある国の決定」ではなく,「迷った時の参考」と受け止めたい。」,そして最後に,「国語審議会の報告は,日本語を考える格好の材料として,参考にしたい。」ということが書かれている。
 さらに,めくっていただくと,9日付けの東京新聞の社説がある。「認知しかねると言われても」という見出しで,2段目辺りに,言葉は時代に応じて変化しているのであり,審議会が“未公認"にとどめたのは,いま一つ納得が行かないというようなことが書いてある。
 その次は,9日付けの産経新聞の「豊かで美しい国語を求めて」という「主張」である。最後の段の中ほどからであるが,「言葉は時代とともに変化するが,一国の文化の基礎であり,文化の伝承や創造にかかわるものである以上,利便性や機能性を重視した言語観に傾斜すべきではない。その意味で, 審議会の判断はうなずける。言葉の「ゆれ」への国の規制はなじまない。」とし,言葉遣いの標準を示すということを提言した報告書は,「緩やかな目安,よりどころという程度で……」とあるのは,「当然の指摘と言える。」と述べており,この辺りは報告についてのかなり全面的な御支持がうかがえる。
 最後であるが,文化の日に書かれた「豊かな日本語を伝えよう」という3日付けの日経の社説である。最後の段落辺りで「言葉はゆれるものであり,国の規制でゆれを止めるのは不都合である。」と中ほどに書いてあるけれども,その前には,「言葉遣いに関する規範を示すとしても,緩やかな目安,よりどころに過ぎず,必要とする人の参考にとどめるべきとも指摘している。」という部分については,特に異論は書かれていない。
 全体として,新聞報道等では各紙でニュアンスの違いはあるけれども,必要とする人の参考になるような緩やかな目安,あるいはよりどころを作っていくということについては,大方の御支持を得ているということではないかと思う。また,中にはワープロの字体の問題が焦眉の問題であるというふうな御指摘もあったところである。
 そこで,資料4の一番最初に戻っていただくわけであるけれども,国語施策懇談会はこれらの論調を踏まえ,ある程度問題点を絞って,実施したということである。
 1ぺージを御覧いただきたい。国語施策懇談会は,従来,非公開で少数の有識者の方々からの御意見をいただくという形でやってまいったけれども,今回は審議経過報告について広く一般より御意見を求めるということで,公開によって,一つは「言葉遣いの標準は立てられるか」,もう一つは「漢字字体の統一を考える」という二つのパネルディスカッションを中心として,2月29日から3月1日にかけて二日間にわたり行ったところである。
 いろいろな御意見をいただいたわけであるが,本日は時間の関係ではしょって説明をさせていただく。2ぺージ,パネルディスカッションA「言葉遣いの標準は立てられるか」の中で,筑波大学の桑原教授は国語教育学の立場から,言葉遣いの教育は,学校教育の場ではどうしても限界があるとして,御意見の最後の部分では,学校を含めて,社会全体で言葉への意識を高めていただきたいというふうなことを述べられた。
 4ぺージは,NHKの柏倉さんの御意見である。フランスのいわゆるトゥボン法,1994年にできた法律について御紹介をいただき,その背景などについても御説明をいただいたわけである。柏倉さんの部分の2段目辺りに書いてあるけれども,その法律では,フランス語を使わなければいけない範囲を決め,規定に反したときの罰則規定もあるということである。「例えば国が結ぶような契約や商標は,フランス語で言い換えられる場合にはフランス語を使わなければならない。違反すれば場合によっては罰金ということになった。」といった状況を御紹介いただいている。

大島国語課長

 5ぺージ目は井上ひさしさんの御意見である。真ん中ぐらいの4段目の段落で,話し言葉では,標準というふうなものを立てたら,かえって窮屈になって駄目なのではないかなという気がするが,ただし,是非やってほしいことは,特に小学校の時代に朗読の時間をうんと多くして,日本語の発音を徹底的にやること,あるいは教科書にも,これだけは日本人がほとんど暗記するぐらい読み込んでほしいというふうな,本当にきちっとした文章を選んでほしいとの御意見が出ている。
 こういうふうな流れの中で,6ぺージ,本審議会の委員でいらっしゃる幸田委員が,会場から,「いい文章を何も考えないで,とにかく声を出して読むこと,子供たちにも,特に小さいうちにこそ,分からないままでいいから,いい文章を声を出して読んでほしい,読ませてほしい。」という御意見をおっしゃったわけである。
 7ぺージの菊地助教授であるけれども,「お手本」が大事だろう,話し言葉であれ,書き言葉であれ,「お手本」を大事にするという習慣が欠けてきたようなところがあるのではないか,非常に残念なことだというふうな御意見であった。
 9ぺージ,これは意見発表であるが,「国際化と日本人のバイリンガル問題」というテーマで,大学入試センタ-の小野教授から御意見をいただいた。これからの日本人には日本語と英語のバイリンガル化が求められており,そのための基礎的な研究が必要だというふうなことが書かれている。それから,日本語と英語のように言語間の距離が遠い2言語を,子供の時に同時学習する場合には,言語環境に加えて学習目的や目標が重要になり,中途半端な場合はセミリンガルと呼ばれる母語を持たない人を作る危険性があるというふうな指摘もあった。
 11ぺージ,意見発表のその2では,国立国語研究所の西原部長から,日本の「文化」をどのように考えるかということで,文化というのは日本語学習と不可分のものであるということが御意見として出された。
 13ぺージ,「漢字字体の統一を考える」というパネルディスカッションの第1枚目の枠の中に入っているのは,このディスカッションで得られた,こういうふうなことを共通理解として認めていいのではないかという確認があった事柄である。
 一つは,一つの漢字の異なる字体について,代表選手を出すという形があるんじゃないか,そして,その価値は並列というふうに考えることについては共通理解が図れるのではないかということで,皆さんがうなずかれた。ただ,その後に,並列というふうに言っても,代表字体を出すということも含めて,やはり何らかの優先順位を付けざるを得ないんじゃないかという御意見がパネリストから出て,またそれについてうなずかれるという経緯の中で,こういう形で載せているわけである。
 14ぺージ,本審議会の委員にもなっていただいている小林委員から,漢字教育の立場から御意見をいただいている。その中で4番目の○,ある一つの文字について,一つの字形だけを文化的なものとしてとらえるのではなくて,広がりとしての許容や,その字が別の形になっても,その字であると判断できる「渡り」というものをキーコンセプトとして持つことが,教育の上でできていれば,どのような字体・字形であっても怖くないというふうなことをおっしゃっている。
 16ぺージでは,JISの漢字の委員会の委員長をなさっている,情報処理が御専門の東京国際大学の芝野教授による,JISと国語審議会の役割についての御意見。2番目の○にあるように,JISの立場というのは,飽くまで存在する字に対して番号を振ることであり,国語審議会のように,こういう字体が望ましい,こういう字体が正しいということを決めることができる立場ではないので, 少し方向性が違うと思うこと,JISは国語審議会とは別の方向から,あるいは逆方向からアプローチしていくことになるかと思うが,このアプローチもできる限り審議会と整合的なものにすべきだと考えている,そのような御意見であった。
 18ぺージ,出版社の編集実務に長年携わってこられた鳥飼さんからである。2番目の○の中ほど辺りからであるが,略字の類を正字として認めたら,認めた分だけ異体字が増え,極端な言い方をすると,漢字の数は2倍に膨れ上がってしまうのではないかということ,もう一つ,略字に慣れてしまうと,日常的な略字の類とこれまで行われてきた正字とが同じ意味内容を表しているんだと判断する能力が,だんだん失われてしまって,いわゆる文化的断絶のおそれがあるのではないかと述べられた。最後の○の3行目辺り以下では,字体決定の窓口を一本化するということが,非常に大切な要素としてあるんじゃないか,更に追加して言うと,国語審議会こそがその窓口を務めるべきではないだろうかというふうな御意見を述べられている。
 最後に,中国語学が御専門の東京学芸大の松岡助教授である。20ぺージの一番最初の○で,字体とか,書体とか,概念上の混乱があるんじゃないか,漢字の概念の問題の整理が必要だというふうなことをおっしゃっている。そして最後の○の最後の段落で,「また,文化庁と工業技術院とか,法務省もそうであるが,そういった幾つかの要素の乖(かい)離というか,離れていることによって,いろんな問題が起こっているということである。この乖離を超えて,国民の言語生活に役立つためには,どうあるべきかということを議論することが,大事なんじゃないかと考えているわけである。」というふうな御指摘があった。
 22ぺージ,御紹介だけであるが,付け足りとして,「平成7年度国語問題研究協議会」の記録を載せている。3枚ほどであるが,これは全国を東西2地区に分け,それぞれ小中高の国語の先生を中心に200〜300人の方がお集まりになって,国語に関する研究協議を行った際に出された御意見をまとめたものである。もしお時間があれば,参考までに後ほどお読みいただければと思う。
 以上,第20期の報告の後の動きについて,かいつまんで御説明をさせていただいた。

清水会長

 大変内容が豊富で,私,初めて見て,これは大変だなという感じである。
 前期以来の委員が半分いらっしゃるが,半数は新しくお願い申し上げたというようなことを伺っているので,質疑がいろいろおありかと思う。議事次第にあるように,質疑,意見交換という形で,ただ今申し上げたようなことについて,ひとつ各委員からの御活発な意見発表をちょうだいしたいと思う。

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