国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 意見交換3

徳川委員

 このたび,初めてこの席に座っているので,見当違いのことを言うかもしれないけれども,先ほどの西尾委員の御発言があったので,ちょっと発言したくなったのであるが,今やインターネット時代ということになってくると,海外でも日本から発信したものを受信して,ディスプレーの上で見るというような時代になってくるんじゃないか。
 現在,すぐ漢字が出てくるソフトを各国の人が持っているかどうか,分からないけれども,海外の人が日本の情報も見るであろうし,あるいは中国から発信される情報もパソコンの上で見るかもしれない。そういう時代になってくると,漢字の問題も,日本人の中で,学校教育のことももちろん非常に大事だし,新聞でどういう字を使うかということも大事なことは十分分かっているけれども,広い視野の中で漢字を考える時代が,去年ぐらいから出てきたんじゃないかなというふうに思うのである。
 例えば,今,渡辺の「辺」という字の話が出たけれども,難しいので書くか,「辺」で書くかということに皆さん集中していらっしゃるけれども,例えばシンニュウの書き方も,いろんな形があると思う。そこにみんな注目して,どれが正しいとか正しくないということはどうして余り言わないのか,常識の範囲内で話題にすることだけを話題にしているのだと,漢字の問題は解決しないんじゃないかという気がしている。そんな印象である。今や本当に国際的な時代である。

清水会長

 確かに,今おっしゃったとおり,漢字国と言われる国があるわけで,その間で漢字を統一するというか,標準化までは行かないかもしれないけれども,そういうことが話題になっているようである。ISOが,日・中・韓国の漢字について基準を作るとか,作らないとか言っているけれども,そんなことも少し勉強しないといけないのかなという気がした。

井上委員

 今回初めて参加した。言葉についてはウオッチングの立場だったので,政策決定にかかわるというのは信義に反することになるかもしれないが,今回,委員に任ぜられたので,ちょっと考えた。そのことについて申し上げたいと思う。
 まず,今期の主なテーマが表記になったというのは幸いなことだと思う。昭和20年代に,話し言葉について金田一京助たちが基準を定めようとしたが,うまく行かなかったという経緯もあるわけである。
 さて,そこでワープロの字体が主なテーマになったというのも大変いいことだと思うが,これまでの御発言を引き継いだ形で,もう少し範囲を広げて考察してもいいんじゃないかという気がする。確かに国民は漢字の字体に大いに興味を持つかと思うが,それは「ら抜き」だけに興味を持つようなものであって,実際の情報機器の使用では,もう少し別のことも考慮に入れていいんじゃないかと思う。
 私が考えているのは記号をどうするかということで,例えば「ドウドウ」と言うときに,「堂々」というように「々」を使うことが行われているが,あれは漢字じゃないんだという説もあったりするので排除しようという考え方もある。一方で「カラカラ」というのは,昔,我々は平仮名の「く」の字みたいなものを使って繰り返したものであるけれども,あれもワープロでは出てこなかったりするわけである。そういう記号をどうするかということが,まずあると思う。
 それから,日本語の正書法という問題を出すと,漢字に大いにこだわるかと思うが, ローマ字表記をどうするかということがまた大きな問題ではないかと思っている。インターネットで海外の日本人とやり取りするときに困るのは,日本人同士だから,英語でやり取りするわけには行かない。向こうの方では漢字変換はできない。ローマ字でやり取りするのだが,例えば「shi」と書きたいのだけれども,ついついワープロの変換の常で「si」としてしまう。さらに,「o」の長音をどうするかということがある。現実の使用を見ると,「ou」と書くワープロつづりというのが大変普及しているが,それはかつて国語審議会が定めたものでは全く認めていない表記である。ローマ字表記については,これまで話題になっていなかったし,今回も直接提示されてはいないけれども,それは考慮に入れるべきではないかと思う。
 なぜ「ou」が普及したかというと,実を言うと,JISの字体の方にエラーがあるのであって,ローマ字を考えていない。ローマ字で,「a,i,u,e,o」すべての母音の上に棒を引くもの,または山形(^)であろうか,あれは最初から半角として入れて,登録しておけば,使えるけれども,我々が一々作字しないと,あの記号は使えないのである。それでワープロ変換の「ou」を使っていくせいもあるのだけれども,文字がないためにそれを使っているということがある。そういうことも考慮に入れて,ローマ字も考慮に入れる方がいいんじゃないかと思う。というのは,JIS規格は通産省の方でやっているのだが,通産省の方ではそういう現実の使用について十分に見渡しているとは思えないからである。
 株式会社を表す「K.K」というのは,ワープロを開発している会社がデータを集めていて,ちゃんと全角で入れてあったりするが,そのデータに偏りがあるとしか思えない。理科系の人なんかは,理科系のいろんな記号をワープロで入力するのに苦労していると思うが,この問題も字体問題の中に含めて,国語審議会で一応考慮に入れていいんじゃないかと思う。
 以上,ワープロの字体,ローマ字表記を絡めて,もう少し広げてもよろしいんじゃないかと思うが,これはもしかすると22期ぐらいに回せという案が出るかもしれない。

清水会長

 確かに,ローマ字まで入れると,これはちょっと大変かもしれない。

俵委員

 先ほど「ら抜き言葉」がすごく話題になったという新聞の記事がたくさん紹介されたけれども,私自身前期参加していて,新聞記事が出たときには,何か2年間「ら抜き」のことばっかりやっていたような気がして,そうじゃないのにという思いがあったのだけれども,今思うと,この話題というのは,報道する人や一般の人々にも大変関心の高い話題だったからこそ,こういうことになったんだなと思っている。
 「ら抜き」と報道されたことによって,若い人たちが,実は「ら抜き」というのは間違っていたんだという認識を新たにしたというか,私の身近な若い人たちの「「ら入り」の方が正しかったんだって。」というような会話も聞こえたりして,こういうふうに話題になるというか,人々の関心をつかまえられるような話題を提供していくことによって,国語の流れをサポートしていくというか,そういう形が一つの在り方なのかなというふうに感じた。
 それから,先ほどからワープロやパソコンなどの機械と日本語の話が話題になっているけれども,機械の進歩の仕方というのはすごく速いので,今機械でこれが出せないから,どうしよう,どうしようというふうなことを言うことはないと思う。むしろ私たちは,日本語としてこういうものを出してほしい,踊り字もほしいし,こういうのが必要だと思うということを機械関係の方々にお示しして,これがないと困るんだから,早く作ってくれという姿勢で行くべきではないかなというふうに感じた。機械の進歩に合わせてどうこうしていると,これが出ないから,どうしようと言っている間に出るようになってしまったりすると思う。
 だから,今の機械のことに振り回されることなく,むしろこうしてほしいという要望を私たちが出していくような姿勢がいいのではないかなと感じている。

川邊委員

 私も初めて審議会の委員になったので,まとまったお話ができないが,小学校の教育に携わっているので,今の俵委員,山川委員のお話を伺っていて,いろいろ感じさせられるところがあった。
 特に,「平明で,的確で,美しく,豊かな言葉」というのは,私たち小学校教員が,日々,学校生活あるいは国語の授業を通して心掛けなければならないし,その努力は続けているつもりだが,果たして私たちの国語の授業が,そういった生きた言葉としてカを付けていくということにおいて有効かな,どうかなということをいつも反省させられるわけである。
 「ら抜き言葉」が,審議会で2年続けてやった成果のすべてだというふうにとらえられたのは心外だというお話があった。私も審議会の経過についてはいろんなニュースで関心を持って伺っていたわけだが,国民的な話題になるということは大変有り難いことだというふうに思っていた。
 というのは,これは言葉遣いというよりは語彙(い)の問題になるかもしれないが,実は1年生に入学してきた子供の語彙について,家庭のカというのはすごいな,マザータングではないけれども,正に家庭,母親から,耳を通していろんな語を身に付けているんだなという思いがあるわけである。
 具体例で申し上げると,全校で遠足に行った。1年生から6年生,縦割りで行くわけであるが,昼休みになると自由に遊んでいる。私の周りにも何人かが寄ってきて,肩に乗ってみたり,肩をたたいてくれたり,ほっぺたを突っ付いていったりというシーンがあるわけである。ある男の子が私の膝(ひざ)の中にすぽんと入って,いろんなことを話してくれたのだが,その中に,「先生,おじいちゃんにとっても似てるんだ。」,「どこが似てるの。年がとても似てるの。」,「違う。」 というわけで目,ロ,鼻,どんどん聞いていった。その子は首を振るばかり。うーんと考え込んで,挙げ句にどういう言葉を言ったかというと,「校長先生はおじいちゃんに雰囲気が似ているんだ。」と1年生の子が言ったのである。「そう,どこが似ているというんじゃなくて,全体の感じが似ているんだね。雰囲気という言葉,いいね。」と言って褒めたわけである。
 今年入学してきた男の子が,毎朝,私の前に学級の出席簿を持ってきて,何年何組,だれの何がしです,今日はだれとだれさんがこういう訳でお休みですという報告をしてくれる。それを聞いていたら,鼻が随分じゅくじゅくと出ている。「お鼻が出ているね,かぜを引いたの。」「はい。」「じゃ校長先生のティッシュペーパーを上げよか。」と言うと,「僕,お母さんにまめにかみなさい,鼻紙を持っていきなさいと言われたから,持っています。」と言ったのである。「まめにかみなさい」とその子は言われたのである。一生懸命かみなさいとか,よくかみなさいとかいうんじゃなくて,まめに,つまりおっくうがらずに小まめにどんどん拭(ぬぐ)いなさいと。
 そういう1年生の言葉を聞いて,こういう語彙なり的確な言葉を獲得して,生活の中に,コミュニケーションの中に的確に生かしていくような子供を育てなければいけないんだな,この子が育ってきた家庭環境と同じように,学校の環境もそうならなきゃいけないなとしみじみと思わされるわけであるが,私ども学校の教員たちにとっても,参考になり,そしてまた子育てにおいて美しい言葉を子供のものにという,そういう関心を寄せている親御さんも一杯いらっしゃるわけで,そういう話題性のある,極めて明快な,そんな審議を是非お願いをしたいなというふうに思っている。

清水会長

 三つ子の魂百までじゃないけれども,日常,母親に接しているうちに,耳から入って,何となしに身に付いてしまったものというのはすごく大事なことなので,そういう意味では今お話のことはつくづく感じるものがあった。
 この際だから,これから進めていく上で参考になるお話,御意見があったら,時間もニ,三分しかないが,どうぞ伺わせていただきたいと思う。
 ここで結論を出すような問題ではないが,大体の御意見は,時代の変化に伴って,ワープロだ,パソコンだということで,パソコン文字,常用漢字以外の多くの漢字がワープロ等に入っているわけであるが,それらに対してどう考えるのかということについて,本審議会としては,先ほどちょっと話題になったように,前期の考え方の妥当性みたいなことも,ここでもう一度考え直してみると言うと語弊があるけれども,勉強してみる。
 そして,漢字の標準とでもいうか,そういったものを考えながら,ある程度許容すべきものはどの程度なのだろうかということを含めて,実例を示さないとなかなか分からないかと思うので,そういった例示なども入れた形で,漢字の字体の問題をまず大きく取り上げる。そして,できるだけ早く,答申としてまとめられるように考えたいということが,一つの主流ではないかと思う。それから,今お話があったような言葉遣いの問題は,大変難しい問題であるけれども,これも引き続き精力的に進めていくということが,主な問題じゃないかなと思うが,いかがであろうか。
 そんなことを中心にしながら,運営委員会で,それをどう進めていくかということを御審議いただいて,総会にお諮りをするという進め方でやりたいと思うが,よろしいか。
 それでは,できるだけ早い時期に,先ほどお願い申し上げた先生方で運営委員会を開かせていただいて,その後,また改めて総会の御案内を申し上げるという手順でまいりたいと思う。
 次回の総会については,事務局で日取りを決めていただいたのであるが,今度の9月17日の午後2時から4時までということで,場所は東條会館を予定されているようである。そこで第2回の総会を開かせていただきたいと思うので,改めて御案内は差し上げるということであるが,ひとつ御了承をいただいておきたいと思う。
 それでは,本日の総会はこれで終わらせていただく。

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