国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 開会/庶務報告/前回の議事要録の確認

清水会長

 ただ今から第4回国語審議会総会を開会する。
 初めに,庶務報告を国語課長にお願いする。

大島国語課長

 それでは,庶務報告を申し上げる。
 昨年の12月20日付けで,国語審議会の第1委員会第1回議事要旨,第2委員会の第1回と第2回の議事要旨,並びに,本日もお出ししている「漢字字体資料集(諸案集成1)」という資料をお送りした。また,1月20日付けで「漢字字体資料集(諸案集成2・研究資料)」をお送りした。
 次に,2月4日付けで,第1委員会第2回議事要旨,第2委員会第3回議事要旨をお送りしてある。
 それから,第3回総会の議事要録は,第1委員会第3回議事要旨と第2委員会第4回議事要旨と併せて,3月3日付けでお送りしてある。
 第1委員会と第2委員会の開催状況について御報告申し上げる。前回12月10日の総会以後,第1委員会は12月16日に第2回,そして1月24日に第3回,2月26日に第4回の会合を開催した。また,第2委員会は,12月17日に第3回,1月28日に第4回,2月24日に第5回の会議を開催したところである。それぞれの委員会における論議の内容については,後ほど両主査から御説明をいただく予定である。
 それから,平成8年度の国語に関する世論調査は,敬語を中心とする言葉遣いについての調査として1月中旬に実施した。先ごろ単純集計が上がってきたところである。
 それを見ると,例えば,従来言われていることではあるが,謙譲語について,誤用とされる使い方でも気にならないという方がかなり多いという結果も出ている。
 それから,謙譲語はだんだん使われなくなったと言われているが,その中では,「〜させていただきます」という一続きの表現が,便利な謙譲表現として盛んに使われているという状況があるわけである。本来の意味が拡張されて使われていることとか,本来ならば五段活用動詞については,「休ませていただきます」のように「〜せていただきます」とすべきところを,「休まさせていただきます」と,従来の文法の感覚から言うと誤用とされる使い方をすることについて,今回の調査結果では,気にならないという方が相当増えているという,幾つかの興味深いデータも上がってきているところである。
 3月末に報告書が出来上がるので,それを委員の皆様方に郵送申し上げ,併せて記者クラブなどに発表する予定であるので,詳しい御説明は次回の総会でさせていただきたいと思う。
 次に,国語施策懇談会であるが,去る2月5日,6日に開催した。資科3を御覧いただきたい。
 1ぺージ目は,1日目の2月5日の日程である。開会のあいさつの後,第1委員会の北原主査より第1委員会の審議状況について御説明があり,「日本語と敬語」というテーマでパネルディスカッションが行われた。
 2ぺージ目をめくっていただくと,2月6日,ニ日目の日程が示してある。午前中は,第2委員会の水谷主査から第2委員会の審議状況について御説明があり,二人の方から意見発表があった。そして午後は「表外漢字の字体についての考え方」というテーマでパネルディスカッションがあった。
 更にめくっていただくと,パネルディスカッションにおいて各パネリストから出た意見の概要,あるいは提出されたレジュメがある。初めに,パネルディスカッションAから,各パネリストの御意見の幾つかを簡単に御紹介させていただきたいと思う。
 まず,国立国語研究所の杉戸さんから,敬語の調査を通して感じられた基本的な三つの事柄を挙げて,特に,「敬語の基本は使い分けにあると考えていいのではないか。国語審議会には,人間関係や場面に応じた使い分けのルールを示してもらいたい。」というような御意見が出された。
 それから,文法を研究なさっている青山学院大学の近藤さんからは,例えば,「敬語の中で尊敬語と謙譲語に取り違えの誤りが生じやすいのは,日本語の主語と目的語は非常に似通った性格を持っていて行き来しやすい,そういう性格があるからではないか。」というお話もあった。
 NHKの加賀美さんからは,「敬語は,その一言で相手を思う気持ちが表現できるという合理性と日本的な優しさの文化という両面を持っており,大切なものである。」という御発言,また,「敬語の本質というのは相手を大事にすることである。それを前提に,若い人のためにもルールを示した方がいい。また一方では,必ずしもルールにとらわれないで,それを自在に,場合によっては壊すという感性も必要なのではないか。」という御発言があった。
 文教大学の遠藤さんは,外国人に対する日本語教育に長年携わっていらした経験から,「外国人に敬語を教えるのは大変難しい。敬語のうまい,下手ということで人を差別するというふうなことに使われる状況だと困る。さらには,敬語というのは絵という中身に対する額縁のようなものではないか。すばらしい絵なら額緑はなくてもいいし,絵がないのに額緑だけあっても意味がない。」というような御発言もあった。

大島国語課長

 日本語以外の言語の敬語的表現について研究されてきた日本女子大学の井出さんは,敬語の功績の面として,「敬語の繊細な使い分けがその場の人間相互の信頼感を作り出し,組織の求心力となったことが,日本の経済発展の一翼を担ったのではないか。」という御発言をなさった。一方では,「相手への思いやりを,敬語を含む決まり文句で表す習慣がない多くの国の人と付き合う上では,その時にふさわしい創造的な思いやりの表現を工夫することが大切である。」ということもおっしゃっている。それから,「相手を思いやる気持ちやその表し方が年とともに分かってくる。年とともに身に付いてくる言葉遣いという側面もある。」というようなこともおっしゃっている。
 次に,字体の問題であるが,午前中にお二人の方から意見発表をしていただいた。6ぺージからそのレジュメがとじてある。
 紀田順一郎さんは,御存じの方が多いと思うが,いろいろな資料をお使いになって,明治の活字から現代のパソコンに至るまでの文字にかかわる日本語の歴史をお書きになっていらっしゃる。
 当日の意見発表は大変多岐にわたるお話であったが,幾つか挙げると,例えば,レジュメの(3)「伝統文化と旧字体」という辺りでは,「異体字の問題は煩雑であるけれども,固有名詞の表記上欠かせない。」とか, (4-b)の辺りでは,「古い世代には明朝体の向こうに筆書き文字を想像する能力が身に備わっていたように思える。現代の教育の場などで欠如しているのは,この二重性の認識ではないか。」というような御発言,あるいは,結論的な部分であるが,7ぺージの(5),「従来の国語改良の中核となったのはごく一部の知識層だが,現在は一定の教育を受けた国民の一人一人が国語の担い手となっている。そして,将来の方向としては,「多様性尊重の中の標準化」とでも言えるような方向を目指すべきではないか。」というような御発言があった。
 お二人目の小泉さんであるが,言語学が御専門で,関西外国語大学教授でいらっしゃるけれども,レジュメのタイトルにあるように,上田万年をはじめとする言語学者が国語改革に果たした役割を振り返り,そして漢字制限の意義をお述べになった。
 10ぺージ,ここからパネルディスカッションに入るわけであるが,レジュメに沿って,例えばこういうふうな意見があったということを御紹介させていただきたいと思う。
 阿辻さんは,中国語学あるいは中国文学,その中でも特に漢字の歴史を研究なさっている方だが,例えば,「異体字というものは特別の問題がない限り一つの字形に統一するのが望ましい。しかしながら,姓に使われる異体字については他人が字種の変更を強制することは困難である。そもそも漢字との接触の仕方が各人によって異なるのに,規格は一つでなければならないのか。」というような問題提起をなさっている。そして,「例えば,冒涜(とく)の「涜」という字は生理的に合わないんだけれども,これが何の前触れもなく,国による規格に基づいて,エ業製品の中に搭載されて世の中に出てきたということには違和感を感じた。」というふうなこともおっしゃっている。
 それから,日立製作所の小池さんは,「基準の相違というのは,情報処理システム,あるいは機器利用者に混乱を与えるだけである。本来,許容範囲も含む基準は一つであるべきで,その確立を期待したい。」とおっしゃっている。
 レジュメの後ろに2枚付けてあるのは,後で当課の担当者あてに小池さんからいただいた手紙である。その最後の部分辺りで,「実際に困惑している人は今の時代ではパソコンの前で漢字を入力している人ではないか,その人たちの意見を聞く必要はないかと感じています。」というふうなことも書いてある。
 12ぺージに移るが,第2委員会の副主査の小林さんからは,従前の御持論であるが,「小・中・高の漢字教育を通しながら,広がりのあるフレキシブルな文字認知ができるように,いわゆる「渡り」の知識を持つべきだ。」というような発言が繰り返しあった。
 13ぺージ,JISの委員で主要メンバーの一人である東京外国語大学の豊島さんからは,「そもそもJISの文字コード規格というのは字形の基準を与えるものではない。そういうことをしたことはない。」,そして,3「拡張新字体」関連ということで,「第2次規格が採用した新字体の類推適用は,当時の国語審議会が当用漢字字体表の表外字への類推適用を企図していたことに基づくもので云々(うんぬん)」とお書きになっている。
 私どもは,ここに2行ばかり書かれている中で,「当時の国語審議会」というのがいつの国語審議会なのかというのがちょっと理解できないところがある。考えられるのは,一つは,ここに書かれているJISの第2次規格が作られた,昭和58年当時の国語審議会の方針であるということである。しかし,国語審議会としては,昭和56年に出した「常用漢字表」の答申において,表外字の字体の問題については当面特定の方向を示さないという方針を採り,今回のワープロ等の字体の検討を始めるまで,この方針をずっと維持してきたところであるので,どうも昭和58年当時の話ではないようである。

大島国語課長

 そして,その下の方に御主張の根拠として,1977年(昭和52年)当時のJISの委員会の議事録が挙がっているが,その日付を見ると,昭和52年1月28日となっている。その議事録の日付のちょうど1週間前に第12期の国語審議会の最終総会があって,その最終総会の御報告では,「常用漢字表」の試案を作るような段階だったわけであるけれども,表外字の字体については今後の検討課題という位置付けであった。そして検討した結果,昭和56年の「当面特定の方向を示さず」という結論になったわけである。
 昭和53年にJISの第1次規格が出ているが,それは昭和58年に第2次規格が略体に変更する前の伝統的な字体を採用した規格であったので,その点からも,その「当時の国語審議会」がいつの国語審議会か,ちょっと理解に苦しむわけである。
 そのほか,豊島さんからは,それぞれの字について標準的な字体を示して,その他の異体字との関係を位置付け,字体の認識のルールを示してほしいというような,国語審議会への御要望があった。
 14ぺージに進む。日本新聞協会の堀田さんからは,最後の部分に書かれているように,国語審議会への要望として,「標準字体は常用漢字と同様に1字種1字体の形で示してほしい。」というお話があった。さらに,「常用漢字の字体と表外字の字体の不整合を解決するために,表外字に常用漢字の新字体を当てはめてはどうか。しかし,表外字すべてに及ぼすのではなく,略体を採用すると分かりにくいものは適用しない。こういう考え方の下に,できるだけ1字種1字体の形で示して,学校教育や一般の方の負担にならないような形にしていただきたい。」というようなお話もあった。
 長くなって恐縮だが,最後に,庶務報告としてもう1点ある。それは参考資料としてお手元にお配りしてあると思うけれども,前回12月の総会で江藤副会長から御紹介いただいた目木晴彦さんの「日本語が消滅する日」という論文である。これは『三田文学』に掲載され,今出回っているわけであるが,この論文について,第2委員会でも検討するようにという副会長の御指示があったもので,本日,総会に御出席の全委員の皆様にも見ていただくこととした。
 論文の一番最後に1枚紙を付けてある。ワープロ等の漢字コードの問題は,第2委員会で検討している字体の問題と直接にかかわるわけではないけれども,関連する問題である。第2委員会の委員の中にジャストシステムの浮川委員がいらっしゃって,たまたまそのような関係で,目木論文で指摘されているユニコード――これは本来は国際規格とは別のものであるが,事実上,今国際規格と重なっているものである。そのユニコードを作成したユニコード・コンソーシアムに日本から唯一参加している会社であるジャストシステムの担当者から,言わばユニコード・コンソーシアムを内側から見た御意見を伺うこともできた。それがこの1枚紙である。
 目木さんのおっしゃっていることをかいつまんで申し上げると,JISの現行のコードというのはかなり問題があるのではないかということである。それは,簡単に言えば,コンピュータが処理できるコードが振られている文字の数が不十分だということである。国際規格については,JISの規格の問題点を引き継いだ上に,同一字種については日本.韓国,中国,台湾,それぞれの字体が異なっていても,共通の一つのコードしか振られていない。目木さんの御主張によれば,これは,非漢字圏のアメリカのコンピュータ産業が中心となって作ったユニコードを,国際規格の中に採用したためであるということである。
 そして,これらの問題によって,極めて重要なインフラになりつつあるインターネット上で,文字コードがないために情報の伝達や検索ができないというふうな問題とか,あるいは日本と中国では,同じ字種でも字体が異なるものが多いのだが,同じコードが振られているために,コード上からだけでは日本と中国の字体の区別ができない。現状にはこういう問題があるんじゃないか。別の体系への切替えということについて,文筆や学術に携わる人たちが主張すべきである。――ごく大ざっぱに言えば,そのような中身だと思っている。

大島国語課長

 それに対して,ユニコード・コンソーシアムに参加しているジャストシステムの担当者の小林さんから,コンピュータ業界の現実に即した御意見として,こういうことが言えるというのが最後の1枚紙である。
 まず,ユニコードと国際規格のUCSとは別のコードセットである。UCSというのは,6万5,000字分のコードを振ることができる平面が6万5,000枚あるという非常に大規模な構想を持っていて,四十何億の文字についてコードが振れる構造が想定されている。ただし,現在は6万5,000枚のうち1枚だけ――1枚は6万5,000字のコードが振れるわけであるが,その1枚だけが実用化されていて,その1枚はユニコードと事実上完全に重なっている。
 それで,コンピュータ産業の現実を見ると,そういう国際的な集まり,団体,実質的に影響力を持っているところにむしろ積極的に参加して,我が方の提案をできるだけ反映できるように努力していくというのが現実に即したやり方ではないか。その中で,だんだんふさわしいもの,更にいいものに変えていくことが必要である。そのような御意見であったと思っている。
 庶務報告は,長くなったけれども,以上である。

清水会長

 ありがとうございました。
 この件についても,また後ほど自由な討論の中で御意見等を承れれば有り難いと思うので,議事次第に従って進めさせていただきたいと思う。
 まず,前回の議事要録の御確認をいただきたい。議事要録は既にお送り申し上げ,御覧いただいたところであるので,それをまた御確認いただければ有り難いと思う。前回議事要録については,細かい点で何かあったら,後ほど御連絡をいただくというようなことでよろしいか。それでは,御確認をいただいたことにさせていただく。

江藤副会長

 ただ今の庶務報告に関して,一,二伺いたいことがある。発言をお許しいただけるか。

清水会長

 では,先にどうぞ。

江藤副会長

 今,国語課長から,庶務報告で去る2月5日,6日に開催された国語施策懇談会についてのお話があった。特に2月6日の字体問題に関するパネルディスカッションで,豊島さんの御発言のところだと思うけれども,今,御説明があったことを,くだけた言葉で言えば,これは豊島さんが誤解をしていらっしゃる,つまり,事実の推移は,13ぺージの3に「拡張新字体」関連として書かれていることとは違うのであるというふうに理解してよろしいのか。

大島国語課長

 私どもはそのように考えている。先ほど時系列的な説明をさせていただいたけれども,あのような流れを見る限り,誤解であると言えるんじゃないかと思っている。

江藤副会長

 ありがとうございました。
 関連であるが,JIS規格ということになると,恐らく工業標準調査会という工業技術院の会議の下にあるワーキンググループの方々がやっていらっしゃることであろうかと思うけれども,私ども国語審議会との職務分掌というか,すり合わせというか,それはどういうふうに考えたらよろしいか。幸い,前回の総会から通産省工業技術院の方もオブザーバーとしておいでになっていらっしゃるはずであるので,その点,簡単にちょっとおっしゃっていただければ幸いだと思う。

大島国語課長

 日本工業標準調査会は,通産省,具体的には工業技術院に置かれているわけだが,産業振興の観点から工業製品などの規格を統一するために審議を行うという,審議会と同様の――そういう名前は付いていないが,そういう機能を担っている会議である。それから,御案内のとおり,国語審議会は文部省,文化庁に置かれている審議会であるので,文化・学術・教育の観点から,国語の問題について必要な審議をしている。そのように役割分担しながら仕事をしているというところである。

江藤副会長

 ありがとうございました。

清水会長

 また,何か御意見があったら,後ほど伺うことにさせていただく。

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