国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 −国際社会における日本語観−発表(前半)

清水会長

 今日は,総会としては2回目であるけれども,前期の引き継ぎ事項として,既に挙げたように,言葉遣いの問題,漢字の字体の問題については引き続き審議を行う予定であり,前期の二つの委員会で大体方向付けというか,それぞれの問題点について基本的には共通理解ができてきたかと思うが,第3番目の国際化の問題については,ここで初めての委員会を作っての議論ということになる。この点について少し現状把握――日本語が国際的にどのように評価され,どのような位置付けになっているか,そういったことについて少し勉強する必要があるんじゃないかということで,委員の皆様方にお話をいただける方がいらっしゃればということであった。ちょうど水谷委員がその関係の研究を5年間進めていらっしゃって,今おまとめに入っているということである。これは確か科学研究費でやっていらっしゃるものである。そういったことでいろいろ御調査もいただいているので,今日はこれからそのお話をちょうだいして,今後の審議の進め方や,委員の皆様方のお考えをいただく上での参考にしていただければ有り難いと思う。
 大変恐縮であるが,水谷委員,お願い申し上げる。

水谷委員

 それでは,御指示に従い,30分ほどお時間をいただいて,私どもの方で進めてまいった調査研究の成果の一部分について御報告させていただく。
 お手元に資料2があって,1ぺージから最後9ぺージまであるかと思うが,「国際社会における日本語観―「日本語観国際センサス」実施の概要―」という題で始まっている。冒頭の部分に4行ほど書いてあるが,「平成6年4月より5年計画で,文部省科学研究費補助金(創成的基礎研究費)の交付を受けて,国立国語研究所を中心とした約150名の研究者からなるプロジェクトチームにより「国際社会における日本語についての総合的研究(略称『新プロ「日本語」』)――創成的基礎研究というのは「新プログラム」という言い方もされているので,「新プロ」と略称したのであるが――が行われている。この研究の目的と意義は以下のようなものである」。従来,文化系の研究は創成的研究には余り参加していないが,非常に大型のプロジェクトである。
 枠の中もまた読ませていただく。

 国際社会及び国際化した日本のなかで日本語が現在どのような範囲で,いかに使用されているかを浮き彫りにするための研究を中核にすえて,将来における日本語使用の発展動向に関する研究も試みる。さらに,日本人と外国人との言語習慣の差異に起因する文化摩擦の問題や,日本語による海外への情報発信の問題について,関連諸科学を総合して研究を推進する。この研究は,ただ単に今日の日本語使用の広がりとその未来を見通すためだけのものではなく,もう一段踏み込んで日本語を国際的にさらに普及させるための政策的観点をも射程に入れているという点に特色がある。


 この国語審議会でも,2期前には「国際社会への対応」に関する委員会もあった。前期の場合も,第1委員会の中で,敬語に関する追求が中心であったけれども,国際化の波の中で揺れ動いている日本人の言語使用,そういったような国際社会化を見据えるという視点が話題に出ていたし,第2委員会が扱った文字の問題の中でも,インターネットをはじめ,国際的な視点というのは常に問題になっていた。
 これから始まっていくであろう今期の審議の進行の中でも,国際社会から見て,あるいは国際社会において日本語は一体どのようにとらえるべきなのか,日本人の中だけでの日本語ではないという視点を用意しなければならないだろうということが根本的にはあるわけだが,外国を含めた地球という枠組みの中で日本語を考えるという習慣が意外に過去になかったので,客観的な調査というものがほとんどない。国際交流基金が頑張って,5年ごとに,世界の日本語学習者について教育機関を中心に調査をして数が出てきている。今よく報道などで扱われている160万人学習者がいるといったような数字は,その調査に基づいているわけであるが,それくらいで,ほかには見当たらないというのが現実である。
 そこへ野心的に切り込んでいく。しかも,日本語そのものだけではなくて,日本語と日本について,あるいは日本人についてどう見ているかという観点,もう一つは,日本語だけを話題にするのではなくて,一つ一つの国にとって英語と比べて日本語はどうであろうか,その国の人々の母語と比べて日本語はどうであろうかというような,少し欲張った形での総合的な意識調査を展開するということがねらいで,四角の枠の中のおしまいのところにもあるように,何が必要で,何が求められてということまで入り込んでいかなければ,政策を立てるためには役に立たないであろうということで始めたわけである。
 そういった目的を達成するために,1ぺージ目の下のところにあるように,総括班以外に四つの研究班を立てて進めてきた。
 研究班1の「日本語観国際センサスの実施と行動計量学的研究」。これは今日御報告する世界調査をするチームとして用意したわけである。調査期間は5年間であったが,最初の2年間は予備調査等で,3年目,4年目,5年目の3年間に本調査を実施した。その中身については後ほど申し上げる。

水谷委員

 周辺にある研究班2,研究班3,研究班4についてであるが,研究班2の方は「言語事象を中心とする我が国をとりまく文化摩擦の研究」ということで,文化的な要素を取り込んだ形で調査研究を進めた。一つは理論的な柱を用意し,理論を中心に調査もしたのであるが,そのチームが見付け出してくれた成果の一つに,例えば従来日本の文化を論ずるときには,画一的であるとか均一性という言葉が使われるけれども,これは疑問である。古い時代の文献の中から確認していっても,多様な文化に支えられているという見方を用意しなければ,事実の解明はできないであろうというような一つの提言が出てきている。多分それは当たっているだろうと思うが,そのような知見が生まれてきている。
 もう一つは,これは文献調査ではなくて,言わば実験調査的なやり方で,9か国の人たちを対象にして,例えば日本人の行動――廊下で肩が触れ合ったというような場面を見せて,それに対してどのような評価をするか,どんな反応をするかという具体的な事例に対しての考え方・見方というものを調査した。これもかなり野心的な,実験的な段階での研究ということになるが,一般的に,日本人はよくこういうことをするとか,アメリカ人はこうだということを言われているけれども,これから先は,客観的な事実としてとらえるような手法で調査を展開する必要がある。その可能性を追求したという点で,勉強することが非常にたくさんあった。例えば,ベトナム人とブラジル人と日本人では,肩が触れ合ったときの反応にかなり違いがあるという結果が出てきているなどである。
 研究班3は「日本語表記・音声の実験言語学的研究」。これは実験研究に徹したチームである。文字について,表記については,例えば漢字仮名交じり文を書くときに,実際には漢字をどのように使っているだろうか。表記の基準が今あるわけであるが,必ずしも基準に合わせて使うわけではない。我々が日常の生活の中で漢字で書くか,平仮名で書くかというのは,基準どおりでなくても罰せられるわけではないので,一人一人違いがある。その辺の事実をどう追求するか。その意識は何だというようなことを表記のチームの人たちはやってくれた。その周辺のところでは,文字自体の認知の仕方,認識の仕方で,きれいに書かれた文字とごみがくっついている文字とではどのような受け止め方の差があるかというような心理実験的な研究,認知科学的な研究というのも進んだ。
 音声の方では,例えば音声の韻律,イントネーションのような音の高さの変化といったものを形としてとらえていき,それを判断するカを分析するというところから,機器を使った学習のためのプログラムを作るという予想以上の段階まで進んでくれた。こういった類の成果は,きっと最終報告で皆さんに御提供できるだろうと思うが,そういった形で周辺を固めた。
 第4の研究班は,「情報発信のための言語資源の整備に関する研究」となっているが,これは大変欲張りな班で,これらの実験的研究,実証的な研究だけにとどまらないで,将来,どのような形で現実社会,言語コミュニケーション活動に応用できていくかということを基本に置いたものだったわけである。
 例えば,一つのチームは「言語教育の統合的な研究」というテーマで進めた。英語教育,国語教育,日本語教育――ただ,非常に広過ぎて全部追求するわけには行かなくて,最終的には,学校教育の中で,国語教育にとどめずに,周辺の理科とか,ほかの学科との関係の中での言語の問題というところに焦点を当てて研究した。これも,本来,この5年間で終わり得るものではない大きなテーマであるから,先行き発展していくだろうと思われる。
 この言語資源の第4のチームは,通訳,翻訳の問題も課題として取り上げた。通訳について,日本の社会の中でどんな問題があるか。通訳の技術的な問題に関しては焦点を絞っていくのが大変難しくて,実証していくことが本当に困難であった。それでも,NHKの放送文化研究所の御協力も得て,外国の報道番組などを同時通訳するときのスピードを手掛かりにして,分かりやすい通訳というのはどういうものかということを客観的な形で調査した結果が生まれてきている。
 大きな課題としては,その前の段階で調べていた結果から見ても同じであるが,日本の通訳,翻訳に関する学術的な位置付けの低さということにはやはり問題があるのではないか。通訳,翻訳に関する大学院レベルの専門の研究科というものが日本にはない。各国にはある。――これをどう考えるか。それぞれの国の言葉を普及するとか外国の言葉を受け止めるということ以外に,翻訳や通訳における母語と異言語との変換過程についての問題を明確にしていくということは,国際化に対応する姿勢としては本当に大事だと思うが,
 そういった今後の課題について幾つかのことが目に見えてきている。そういった仕事を周辺の2班以下ではやってきている。1班は,その周辺の守りを受けながら世界調査に入っていったわけである。

水谷委員

 次の第2ぺージ,「日本語観国際センサス」ということで,繰り返しになるが,「センサスの目的」を読ませていただく。

 日本の経済的発展を背景に,日本語の国際化が進展しつつある。その進展度合いは一時の勢いを失ったように思われるが国際化が進展していることに違いはない。そのような中,日本語学習者の数は100方人あるいは200万人におよぶとも言われている。日本語が日本国内だけでしか使われていなかった時代に比べ,世界のあちらこちらで日本語が聞かれるようになってきている。こんな状況にもかかわらず,世界各国における日本語あるいは日本語学習に関する情報はそれほど多くは見あたらない。現在もっとも必要とされているのは,世界各国および日本国内の,国際化した交流場面における日本語の実体を客観的な情報として把握することである。日本語の様態を科学的に押さえた調査研究が必要となってきているのである。
 そこで,海外諸国での日本語学習の実態とともに,日本語,日本人,さらには日本がどのように見られ,思われているのかを知るための「日本語観国際センサス」とよぶ調査研究を実施することにした。


 日本語の国際化の進展が一時の勢いを失ったと書いてしまっているが,現状認識では,これは少しずれてしまっているかもしれない。外国で行われている日本語能力試験というのがあって,先週確認したところ,その受験者の数は確実に増え続けているからである。日本の国内では日本語を学習する人の数がちょっと減っているが,世界的な規模で見れば,間もなく国際交流基金の新しい調査結果も出るであろうが,今の予想では,恐らく増え続けているという形で出てくるであろう。その意味では,この表現自体ちょっと誤解を招くかもしれないが,雰囲気としては,留学生が減ったりしてというふうに世の中では思われているんだろうということである。
 そんなような趣旨を繰り返すことになったけれども,それを実現するために,どんな項目について調査をすることにしたかというと,1-1「調査項目」では,調査票は,言語等の内容に関する質問項目(56項目)――言葉そのものについての調査である。それから,被調査者の属性に関する調査項目(フェースシート項目)とで構成されているわけである。その言葉に関する調査の内容も,先ほど申し上げたように,内容に関する項目は,以下で詳述するように,言語環境に関する項目,母語に関する項目――それぞれの国の調査を受ける人たちの母語に関する項目である。次に,コミュニケーション言語に関する項目,外国語に関する項目――中国なら中国で中国の立場から外国語として見る外国語という意味である。それから,英語に関する項目。英語の問題は特定して浮き上がらせる必要があって,英語についてはという項目。それから,日本語に関する項目,日本語学習者に関する項目,日本に関する項目,日本人に関する項目,個人の価値観に関する項目等で構成されている。
 具体的に,その下の方に,質問項目――この調査自体は全部面接調査で行ったのだが,その調査をするための質問の言わば元の原稿というか,そういうものをここでは全体に内容を御覧いただくために,質問項目だけ列挙する形で示してある。
 具体的な例文にはなっていないけれども,「母語,普段の生活で話す言語,子供の頃(ころ)に父母と話していた言語」というような言語環境。
 母語については,そこにあるような形で聞く。
 コミュニケーション言語については,「今後のコミュニケーションで必要となる言語」。世界で必要となる言語はどんな言葉か,自分の国ではどうか,その裏付けとして,子供に習わせたい言葉はどうか。これは少し具体的な例を取り上げて,後で御報告する。
 外国語について,「思い浮かぶ外国語,外国語学習」。どんな外国語を習ったかとか,どんな外国語を習いたいかというような形で設問を用意した。
 英語については,英語の優位性がどの程度のものであるかということが知りたかったので,英語の問題を確かめていった。
 日本語学習については,「学習経験の有無」など,そこにあるような内容についてである。
 日本語そのものについては,それぞれの国の中での日本語への接触の経験あるいは識別能力,知っている日本語など。知っている日本語については,後でまた触れさせていただく。
 日本そのものについては,日本との関係はどうなのか,訪問したことがあるか,日本のイメージはどうか,経験はどうかというようなことを用意した。
 そして日本人については,「日本人のイメージ,日本人との接触に関する賛否」など。
 価値観については,イソップ物語(アリとキリギリス)を用意して,それに対する価値観を問うていく。あるいは上司,例えば課長についてどうか,一緒に仕事をしたい課長はどんな人かとか,そういった形での価値観を探していく項目。

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