国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 −国際社会における日本語観−発表(後半)

水谷委員

 それから,フェースシート項目として,「性,年齢,学歴」等々である。
 こういった内容についての調査をどんな国に対して行ったかということであるが,調査対象国は,6行ほど下にゴシックで挙がっている。第1次調査15か国,第2次調査12か国,第3次調査1か国。
 第1次の調査は,アメリカ,ブラジル,アルゼンチンなど15か国であるが,これらの国は比較的全国調査が――調査の方法はその下に書いてあるように,ランダムサンプリング(無作為抽出)で――一般によく行われるような方法でやれる国を対象にしたものである。
 それから,第2次の調査国は12か国である。当初の予定では,もうちょっと欲張って30か国はやりたい,できれば35ぐらいと思っていたが,予算の都合もあって,この辺りで断念せざるを得なかった。
 そして,第3次は日本についてである。
 3年次と4年次,そして今年度,この3年間にやったわけであるが,今つくづく感じているのは,調査を実施すること自体と並んで,その後始末が大変だろうとは思っていたが,予想以上に難しい問題があるということだ。例えば,現場では調査をするが,その調査した結果が日本に戻ってこない。エジプトの場合などは,調査票に基づいて調査をした一番基になる資料は国外不出という法律があって出せない。出てきた調査結果について,すべての国について数字として届いてきているものと元の調査の資料になったものを今全部突き合わせて転記していくときに,間違いはないかというチェック,確実に押さえるという形でやってきているので,すごく時間が掛かるが,そのことさえできない状況も起こっている。そういうこともあったりして,国の数は少なかったけれども,もっと多かったらもっと大変だったろうという思いもしている。
 調査の方法は,先ほどから少しずつ申し上げているけれども,無作為多段層化抽出で選び,それぞれの国に市民権を持っている15歳から69歳の男女約1,000名以上ということで実施した。1,000名は確保するということで,後ほど数字が出てくるけれども,千何十人とか,そういった数で結果は集まってきている。
 ただし,例外として,中国は3,000名,日本は4,500名を対象として個別に面接して調査するという方法で行った。
 調査の実施は,原則として各国の調査会社を使ったが,中国とモンゴルは例外で,中国の場合は中国人民大学新聞学院世論研究所,モンゴルの場合はモンゴル国立大学社会学部が担当してくれた。
 この調査を進めるに当たって,外国とのかかわりの中で調査研究をするということについて,そのこと自体について学んだことも一杯あった。中国の場合は,一番最初は実施できないのではないかとも思われた。それ以前に聞いていた話では,外国の政府関係のところからの依頼に関しては全部拒否されたということである。今でもそのようであるが,そういう実態がありそうだったから,実施できるかどうか不安だったが,結果としては,中国の場合は都市地域に限って調査をすることになった。100か所,3,000人を対象としてやってくれたのだが,それを補うための農村地域でのケーススタディ調査をやって,これもほぼ終わっている。そういう形で補う形を採ったが,少なくとも中国全国にわたっての意識調査をしたのは中国では初めてだということである。これができたということは本当にうれしかった。一方的に依頼していくのであれば実現できなかったと思う。しかし,両者にとってプラスになるという前提があれば調査研究は進むし,そのこと自体が両国の交流に役に立つんだという実感が得られたことは大きな収穫であった。
 そんなようなことがあったが,1-4に書いてあるように,こういった調査研究全体についての指揮を執り,責任を取ってくれていたのは,江川清,米田正人,この二人の部長である。
 具体的な結果についてであるが,この結果に,実はちょっと心配なことがある。というのは,先ほどもちょっと申したように,まだ確実に数を押さえ切っていないところがある。転記の段階で間違いが起こったり,ポルトガルの所を御覧いただければ分かるのだが,どう考えても数字がおかしい。何か途中でずらしてしまったというような問題があったのではないか。それをつかみ切っていない。そういう状況にあるので,今日御報告するのは少しまだ早いかなという気もするけれども,それでも分かっている部分については少しでもお伝えすべきであろう。公費を使ってやる研究としては,そういう責任があるであろうということで,御報告することにした。
 例えば,3枚目までくらいのところについては,ここに挙がっている数字は恐らく大きな変化はないであろう。最後の1けた,それ以下についての変化は起こり得ると思う。それ以後の4枚目以降の資料について言うと,これはまだまだ順序が変わったりする可能性もあるという,非常に流動的な状況がある中での中間報告であるので,その辺りだけはちょっと御配慮いただけると大変有り難いと思う。
 さて,この調査の結果で,私どもというか,私個人として予想していたことが裏切られたというか,外れたことが幾つか出てきた。例えば,4ぺージの表1「今後世界のコミュニケーションで必要になると思われる言語は何か」というような質問に対しての答えであるが,御覧いただくと,アメリカから始まって一番下の日本まで国が挙がっているが,その右の方へ1位,2位,3位,4位と挙げられた言語名と支持するパーセンテージを出している。

水谷委員

 1位の所を縦にさっと御覧になると,ポルトガルの調査でポルトガル語が挙がっているのを除いて,あとは全部英語である。英語に対する「必要であろう」という意識がこれほどあるということだと思う。多分そうなるであろうと思っていたのだが,ポルトガル語が1位になっているのは,統計としてちょっと心配な部分である。
 それから,その次の2位の所を見ると,アメリカはスペイン語,ブラジルはポルトガル語,アルゼンチンはスペイン語,韓国は韓国語。日本の場合も,英語が第1位で,第2位が日本語となっている。
 オーストラリアの所を御覧いただくと,1位は英語である。日本語が2位に入っている。しかも,支持する人のパーセンテージが50%。これは予想もしない数字であった。オーストラリアでは日本語の学習熱が盛んであるということが言われていた。私もそうだと思っていた。でも,これほどの支持率が出てくるとは思わなかった。ランダムサンプリングでやったものであるから,大学の関係者や日本のことに関心がある人だけではないわけである。そういう人たちの意識の中にこれだけの数字で出てくるというのは,10%前後したとしても,非常に大きな数値だと思う。これは予想外であった。
 アメリカについても実はそうである。一番上にあるアメリカの場合も,1位が英語で,2位がスペイン語,これはよく分かる。3位に日本語が挙がっているけれども,日本語については最近駄目だという話ばかり聞いていた。中国語に負けてしまったということをしょっちゅう聞かされていた。大学でも学習者が減った。でも,中国語は13%で5位に挙がっている。昨年度の調査であるから,そんなに古いデータではないはずである。一般の人々の意識の中でこれほど多く,23%の人が,日本語が世界の中でコミュニケーション上重要な言語となるだろうという気持ちで見ていてくれる。十数%は行くかなと思っていたが,実際はそれよりはるかに高いということは,これも学ばされたことである。
 韓国については,日本語が3位で43%の数字で挙がっている。この数字の大きさは,一方で日本の所を御覧いただくと,日本人の場合には,英語,日本語,中国語,フランス語,スペイン語とあるが,韓国語は一切出てきていない。こういう情報が数字で表れてきているわけである。
 2位,3位辺りの所をずっと御覧いただくと,日本語に対する期待が結構あるというのが推定される。中国も3位に日本語が挙がっていて,21%という数字で出てきている。逆に,右の方の欄に7位以下という形で日本語が出ているのは,ヨーロッパの国々が多い。日本語について6位,7位以下という位置付けになっている国に対してどう考えるかということについては,また別の宿題が出てくるだろうという気がする。現在,日本語に対して期待していないから応援の必要はないということではなくて,どれだけ必要を感じてもらえるようにするかという課題も当然あるはずだと思うので,ただ単純にこの数字だけを見て,低いから駄目,高いからいいというふうにも言えないだろうと思うのである。
 この重要だと考える度合いを調べることの裏付けとして,次のぺージの表2にあるように,「子供に習わせたい言語」の調査をしている。その結果を見ると非常に興味深いのだが,アメリカの場合は,比較してみると,英語が1位,スペイン語が2位で変わらない。日本語は「習わせたい」となると,フランス語にその席を譲る。フランス語は30%で,日本語は11%。こういう移動が少しずつ起こっている。でも,それほど大きな変化はない。オーストラリアの場合,例えば「必要になると思われる」が50%に対して,「子供に習わせたい言語」としての日本語も43%ある。ということは,非常に表層的なところだけで日本語は重要だと言っているのではなくて,「子供に習わせたい」というところまで下げても高いんだということが言えるだろうと思う。
 細かいことはいろいろあるけれども,時間の関係もあるので,後で御覧いただくことにして,次の「好き?,嫌い?」。円筒の図形で,ちょっと見にくい表になっていて申し訳ないが,質問の項目では,「英語は好きですか,嫌いですか。」,あるいは「日本語は好きですか,嫌いですか。」,そういう項目をつなぎ合わせた形に整理してある。
 小さな字になっているが,上の段の2行は1次国で,一番左がアメリカ,二つ目がブラジル,三つ目がアルゼンチン,四つ目がオーストラリア,五つ目が韓国,一番右がフランス。下の段の2行が,夕イ,シンガポール,ロシア,モンゴル,中国。上の段の2行のうち上の行が英語のイメージ,下の行が日本語のイメージである。アメリカの場合だと,英語に対して「好き」というのが真っ黒に近いほど大きい。日本語については4分の1ぐらいで,白いところは「嫌い」ということであるから,好き嫌いが相半ばしているというようなことである。黒いところを見て,随分差があるということもあるが,白いところに注目すると,結構嫌われているのも分かる。その「嫌い」の原因はまだ分からない。今後の課題になるかとは思うが,支持率が大きいということだけでは決して楽観はできないという様々な問題をこの中には含んでいると思う。どうやって関連する項目等々の中で事実を見極めていくか,あるいはこの先新しい調査研究を展開して確認をしていくかということが,今後の宿題として残っているかと思う。これも後で見ていただくことにしたい。
 そのほかに3枚あるが,7ぺージの「日本語学習経験の有無」は割合客観的なデータである。韓国から始まってイタリアまで,学習者の多い順に並べてある。韓国は,49%の人が習ったことがある。未学習者が51%。49%というのは非常に大きい数字である。さっき申したけれども,日本で韓国語の勉強をするということにもう少し関心を持つ必要があるかもしれない。今のこの段階でそういうことを言い出すことはできないけれども,そう感じさせられる数字だと思う。2位が台湾,3位がシンガポール,4位オーストラリアと続いている。

水谷委員

 学習経験の割合,パーセンテージは,中国では7.1,アメリカは5.2,夕イは3.8,こんなふうに下がっていく。それを下の「日本語学習意向・継続の有無」という表と比較していただくと,表の右の方に「習いたくない」とあるが,その左側に「習いたい」という数字がある。この「習いたい」が,韓国の場合は49.4%で,学習している人の数と「習いたい」の数が非常に近い。台湾の場合は,習っている人の数以上で,「習いたい」が49%ある。オーストラリアは,11%しかと言うか,11%の「習っている」に対して「習いたい」という希望が35.7%ある。夕イは,「学習者」が3.8%だけれども,「習いたい」は34.6%ある。こういう見方でこれを見てみると,非常に面白い状況としてとらえていけるのではないか。この先,更にこれを確認するという調査をすれば,何か今後の方策を考えていくのに有効なものになっていくのではないかなと思っている。
 先ほども申したが,この辺りの数字になると,ちょっと順位が変わってくる可能性があるので,御配慮いただけたらと思う。特に,今の7ぺージ,次の8ぺージの部分はまだいいが,9ぺージが問題である。
 8ぺージにちょっと触れておくと,8ぺージの場合は「日本語学習が役立つ程度」。これもよく言われているが,日本語の学習が学習している人にとってどれだけプラスになるのだろうか。日本の企業は日本語ができることに対して正当な評価を与えているかどうか,与えていないのではないか。だから,日本語を学習することを奨励することにならないということが言われたりする。この点を明らかにしていくためにはもう少し深めていく調査が必要であるが,ここの部分に表れている意見,考えとしては,「役立つ」と「役に立たない」という割合が,ちょっと面白い形で出てきている。韓国は「役立つ」が60%,台湾もこれに近い。中国辺りからその割合が逆転して,「役に立たない」が増えていく。
 そして,一番最後の紙であるが,9ぺージは「どんな日本語を知っていますか」という質問に対して出てきた答えを一覧にしたものである。このままの形でどれだけの意味があるかというのは大問題であるが,ちょっと御覧になると,国によっても随分差がある。しかも,国の数で9以下はここに挙がっていない。出現度数として19以下も挙がっていない。だから,そういうものも含めて考えないと,この表にあるものだけを見ていても,非常にばらつきがあって,結論めいたことを言うのは危険な状況にあると思う。
 ただ,全体でざっと42単語が挙げてあるが,この42の単語の中には,昔から言われていた「たいくん(大君)」とか,「ふじ(富士)」といったレベルの言葉が入っておらず,そうでない言葉が入っているということについては,ある程度想像がつく。幾つかのグルーピングが可能なわけであるが,あいさつ言葉としての「さようなら」「ありがとう」,一つ飛んで「こんにちは」「もしもし」「はい」「こんばんは」といった類の言葉が結構多く外へ出ていっている。知られている。それらの国はどんな国かということの手掛かりを探し始める出発点にはできそうである。
 それから,食べ物関係では,「すし(寿司)」とか「てんぷら」,「さしみ(刺身)」というものも確かに外国へ行っているらしい。それから,伝統的なものとして「さむらい(侍)」「はらきり(腹切り)」「げいしゃ(芸者)」「かみかぜ(神風)」「ぼんさい(盆栽)」「ばんざい(万歳)」「にんじゃ(忍者)」。「ばんざい(万歳)」辺りがどういう背景で知られているのかということは大問題だと思うが,こういった類の言葉が行っている。あるいはスポーツ関係のもの,よく分からないのは,数字の「いち(一)」「に(二)」「さん(三)」「し(四)」「ご(五)」というのが入っているけれども,これが何なのか,まだまだこれから解明していかなければならない。
 前の統計数理研究所長の林知己夫先生がこのプロジェクトに加わって力を貸してくださっているが,先生のお言葉では,まとめにはあと2年は掛かるよとおっしゃる。何とかして1年くらいでと思っていたのであるが,大ベテランの言葉であるから,2年間苦しみが続くのかなと思っている。しかし,ここから何かを作り出せばどこかでお役に立つ可能性もあるのだからと,関係者,担当者たちは歯を食いしばりながら頑張っていることはお伝えしておきたい。
 やや時間が延びてしまったけれども,以上で報告を終わらせていただく。

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