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次第・議事要録 第2委員会における審議状況について

清水会長

 ほかにどうぞ。
 後ほどまた時間があれば御質問いただくことにして,次に,第2委員会の樺島主査から御報告をいただきたいと思う。

樺島(第2委員会)主査

 それでは,第2委員会における審議状況について御報告申し上げる。
 「論議の概要」の冒頭に枠で囲んであるように,第2委員会は,2回の委員会の論議を通して,前期試案に対する論議を深めるとともに,同案に対して寄せられ各界からの意見を整理し,今期は,以下に掲げる検討の観点について更に論議を重ねることとした。
 新しくお加わりになった委員もいらっしゃるので,第2委員会は,前期の審議経過報告で報告した「表外漢字字体表試案」について,第1回の委員会で小林一仁委員から解説をしていただき,それを受けて質疑応答を行った。
 「論議の概要」に出ていることは,この試案に対するいろいろな御意見を整理したものになっている。2回の委員会で話し合った内容というよりも,これから第2委員会が解決していかなければならない問題がそこにまとめてある。
 <1基本理念にかかわること>,(1)基本認識として示すべき内容について。「表外漢字の字体基準を示すことにした理由」や「戦後の字体簡略化の理念と実践についての総括」を更に書き込む必要があるか。
 この表外漢字の字体基準を表の形で具体的に示すことにした理由というのは,表外漢字すなわち常用漢字以外の漢字の字体は康熙(き)字典体を本則とし,簡略化された字体が使われている文字については,その一部を許容するという20期の方針があったが,文字によってはその康熙字典体の字形が,はっきりせず分かりにくいからである。21期の委員会では,常用漢字と同じような頻度で使われる文字を978字ほど選び出して,その中の215字に関して,そこに含まれる簡易慣用字体を併せて示したわけである。それから,戦後の字体簡略化の理念については,一応説明はしてあるが,なお,平成10年度の国語施策懇談会などで,もう少し明確に述べる必要があるという意見が出ているので,それを更に書き込む必要があるか――そのことについて少し考えようということである。
 (2)「「いわゆる康熙字典体」を標準字体とすることについて」。これは20期からずっと続けて方針としてきたわけであるが,それに関して,常用漢字は略字体でありながら,表外漢字は康熙字典体にするというのは二重基準だという新聞の論説などがある。いや,そうではないという意見もあるが,それについても,もう少し考えよう。
 それから,表外漢字の印刷標準字体を康熙字典体にするということについては,印刷業界などからは大変好意を持って迎えられたわけであるが,ただ,「1点しんにゅう」とか「食へん」を「」の形にするのは,表外漢字に及ぼしてもいいのではないかという御意見もあるし,また,委員の中からもそういう意見が出ているので,これについて検討していこうということである。
 (3)の「表外漢字字体表の性格について」。「印刷標準字体」が及ぶ範囲の明確化。これは難しいことが書いてあるが,今はパソコンとかテレビ,電子メディアの上で文字を見ることが多いが,そういうところで表示される文字の字体を印刷標準字体という言葉でくくることができるかという問題で,これは適当な表現が見付かりさえすれば解決する問題だと思われる。
 それから,内閣告示・訓令という位置付けを想定するのか。表外漢字の字体表を出したときに,それが内閣告示・訓令というような形になれば,それに従っていいというJISの方の意見も出されているので,委員会として希望するかどうか。委員会としては,そういうことを決める権限はないけれども,そういう形を希望するのかどうかという問題である。

樺島(第2委員会)主査

 (4)の「簡易慣用字体について」。これは最初のうちは標準字体以外に許容する字体ということを考えていたのであるが,「許容」というのはいかにも上の方から言っている言葉のように聞こえるので,許容という言葉はやめて,簡易化された文字と言おうとした。
 ところが,これらの中には簡易化された文字でないものもあるので,康熙字典体以外の字体については「簡易慣用字体」という名前で呼ぶことにしたわけである。「(ア)簡易慣用字体の必要性」のところに「印刷標準字体だけの方が分かりやすいか」とあるのは,簡易慣用字体は要らないという意見もあるが,どう考えるかということだと思う。
 (イ)の方は,簡易慣用字体というものを印刷標準字体以外に設けるとすれば,それはどういうふうに位置付けるのかということである。「例えば」というところに「深淵」の「淵」は,同じ字の異体字,小渕総理大臣の「渕」で書いても構わないということなのかという問題,また後で出てくるが,学校教育の中で印刷標準字体と簡易慣用字体とをどう位置付けるのかという問題などである。なかなか大変な問題だと思われる。
 それから,簡易慣用字体として(ウ)のところに書いてあるように,試案では38字種,39字体――1字体増えているのは上にある「臈」と「」を二つ認めたからであるが――が示されている。また,「おそれ」という字は,「恐懼(く)」のときは「懼」,「危惧(ぐ)」のときは「惧」を使うというふうに,言葉によって文字の使われ方が違う。と臈・についても,「上臈」という場合には「」ではなく「臈」を使うというように,使い分けの意識がある。このような別字意識が生じていると思われるような異体字を簡易慣用字体として他と同じ位置に置いていいのかどうか,別の文字とするのかといったような問題が起こっている。
 それから,「簡易慣用字体の数について」。簡易慣用字体を設けるとすれば,その数を更に絞り込むか。試案では38字種認めたわけだが,もっと厳密に考えて減らすか,それとももっと増やすかという問題である。この簡易慣用字体については,それをどういうものとして位置付けるか,もっと増やすか,それとも減らすか,極端に言えばなくしてしまうか,そういうことが問題になるということである。
 2の「手書き字形にかかわること」は,実は,当用漢字字体表の「まえがき」には,「印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることを建前とした」とあるが,常用漢字表については,答申の前文に「字体は文字の骨組みと考えた上で,主として印刷文字の面から現代の通用字体について検討した」とあって,当用漢字では筆写,手書きと印刷文字の字形を近づける方向だったが,常用漢字になって,その立場は捨てて,印刷文字を中心に字体を考えるというように変化している。21期の表外漢字字体表試案でも,これは印刷の文字であって手書きの文字は問題にしない――問題にしないと言ってよかったのかはともかく,扱わないということにしたわけだが,なお,どうしても手書きの問題は気になる方もあるようで,実際に文字を書く場合,特に教育の場合に,常用漢字以外の文字を略字体で書いたときに,それは正しいとしていいのか,それともそのままほうっておくのかという問題が出ている。「印刷標準字体に限る」というふうにしてしまえばそれで済むことではあるが,やはりもう少しは考えなければいけないだろうということである。
 3の「字体差・デザイン差の示し方」は,字体が違っているのか,それともデザイン上の違いで,字体の差ではないとするのかということである。これは報告にもデザイン差の問題を取り上げたのであるか,1字1字について,どこまでかデザイン差になるか,どこから先はデザイン差ではなくて字体の差になるか,はっきりさせてほしいという意見もある。これは困難な問題だと思われるが,それが問題になるということである。特に画数が変わる場合は,デザイン差ではなくて字体の差だとするのか,やはりデザイン差とするのかという問題もある。画数というのは,教育の上でも,辞書の上でも,見出しなどを作るときに重要な役目をしているので,これは簡単にデザイン差としてしまうわけには行かないのかもしれないが,それをどうするかという問題である。
 4は「その他」で,今期の作成資料について。作成資料としては「明朝体の活字字形の一覧」。これは,1820年から1946年までの23冊の活字見本帳をずらっと並べて,明朝体活字字形の変遷が一目で分かるような資料を作っていただけるということである。それから,前期は凸版印刷などの漢字出現頻度数調査を基礎資料にして報告を出したわけであるけれども,書籍における漢字出現頻度数について,もう一度調査してより確実なものを出していただくということになっている。それ以外に,新聞の方の「漢字出現頻度数調査」も出していただく。したがって,今後これらの資料をこの字体表にどう反映させていくかが問題になるわけである。

樺島(第2委員会)主査

 その他,JIS規格に審議会の報告内容がどう反映されるか。これは前から言われているように,内閣告示などになれば,JISの方はそれに従うことになるだろうというようなことと関係していると思う。
 それから,例示字形の示し方,字体表の示し方。これは実際に表を作った場合,例示字形というものが非常に重要な働きを持ち,例示が例示で済まなくなって,一般にその形のとおりに従ってしまうということがあるので,このようなことについても検討することが必要だろうということである。
 大体,今説明申し上げたことが,今期の重要な課題になっていくと思われる。
 以上で報告を終わるが,第2委員会の委員の方からの訂正とか補足があればいただきたいと思う。

清水会長

 一応問題点を整理していただいて,更にこれを深めるということかと思うけれども,第2委員会の委員の皆様方はもちろん,委員の皆さん方からどうぞ御自由な御質疑,また御意見をいただければ有り難いと思う。

徳川(第1委員会)主査

 手書きのことであるが,常用漢字表の時に,印刷の方に重点を移すというか,そういう方針があったということを今も引き継いでおられるのではないかと思うけれども,それはどうしてか。常用漢字自体のことは余り御存じないかもしれないけれども,教えてほしい。
 なぜそういうことを申すかというと,例えば新しい子供が生まれて戸籍に登録するようなときには,必ず手書きで登録するんじゃないかという気がするのである。そのときに,親が書いた字と印刷字体として出てくるのとが違うとか何とかいうことが非常に気になる方が世の中にいらっしゃるんじゃないか。そのことを印刷字体だけで決めていって乗り切れるかという,その辺はどんな議論をしていらっしゃったのであるか。

樺島(第2委員会)主査

 第2委員会の主査としては,今の御質問にはちょっとお答えしにくいので,責任をどなたかに押し付けたいと思う。常用漢字の方で,なぜ手書きから離れていったかということは私はよく分からない。むしろ事務局の方からでも説明していただかなければいけないんじゃないかという気がする。

浅松主任国語調査官

 常用漢字表においては,先ほど樺島主査の御説明にあったように,印刷字体を中心に考えるという考え方である。ただし,「字体についての解説」というのを設けていて,筆写の字形と印刷文字の字形との齟齬(そご)というと語弊があろうか,違い,ずれについて解説してある。したがって,昭和24年の当用漢字字体表では筆写の字形と印刷文字の字形をできるだけ一致させるということが方針であったわけであるけれども,その後,一種の規制緩和というか,41年の諮問以来の表記の見直しにおいて,印刷字体は印刷字体として,筆写の場合には厳密に印刷文字そのものの形を書かなくてもよいという,そういう考え方に変わったというふうに理解している。

樺島(第2委員会)主査

 今,御説明があったけれども,明朝体を用いて常用漢字表も出されているが,「明朝体活字の形と筆写の措書の形との間には,いろいろな点で違いがある。それらは,印刷上と手書き上のそれぞれの習慣の相違に基づく表現の差と見るべきものである。」ということが常用漢字表の「字体についての解説」に出ているので,ちょっと付け加えておく。

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