国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第3委員会における審議状況について

清水会長

 御発言があればどうぞ。また後ほど,l,2,3をまとめて,御質問,御意見をいただくということで,時間を取らせていただくことにする。
 次に,第3委員会の水谷主査。

水谷(第3委員会)主査

 それでは,第3委員会について御報告申し上げる。
 第3委員会の課題は,日本語の国際化をめぐる問題ということになっている。日本語の国際化対応という問題は,実は前期,第21期には全く審議が行われなかったが,その1期前の20期には,取り上げられていた。ただし,この時には一つの委員会の中で「情報化対応」と「国際化対応」という2本の柱を立てて扱われていた。その前の19期には,現代の日本語の諸問題を総点検するという趣旨でやっていた中で,国際化対応の課題というのは取り上げられていたわけである。今期第3委員会が発足して,これを再び検討することになり,第1回の会合を3月30日に行った。この会合の冒頭で,まず,19期以来の審議経過を振り返ってみたわけである。20期に出された報告書の中に,「国際社会への対応」という形でレポートが出ているが,それの中身を確認すること,もう一つ,今年の3月19日に出された「今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議」の「今後の日本語教育施策の推進について−日本語教育の新たな展開をめざして−」という報告書の内容についても確認しようということで事務局から説明を受けた。
 2年間にわたっての空きがあったので,今までに行っていたことの復習から入った。そして,それらの説明を受けた後,フリートーキングの形で委員の皆さんからいろいろな御意見を出していただいた。その第1回の会合で出てきた様々な御意見を整理して,まとめて柱立ての形にしたのが資料1ぺージ目から2ぺージ目にわたる1から9までにまとめた内容である。こういうふうにまとめた形のものを2回目の委員会で確認し,更に論議を進めるという手掛りにしたものである。
 この第1回のフリートーキングで出てきた事柄のうち何をこれからの検討課題とするか,検討範囲はどこまでとするかということについての中身がそこにあるので,恐縮であるが,読ませていただく。


I 第3委員会の検討範囲について(第3委員会(第1回)の論議から)
(第3委員会(第2回)提出資料)

1 今後の国際社会における言語の在り方
 (1)異文化間コミュニケーションの意義と言語の役割
 (2)国際語としての英語と,日本語など他の諸言語との関係


 国際社会における日本語の問題を取り扱うときに,日本語だけではなく,ほかの言語の問題に対してもちゃんと見ていくようにしようということで,これが一つ取り上げられている。

2 今後の国際社会における日本語の在り方
 (1)国際社会における日本語の意味付け,位置付け

<関連> ・海外諸地域における日本語の評価
・海外の日本語学習者の学習動機

 (2)日本語を海外に普及することの,国際社会にとっての意味
 (3)日本語を海外に普及することの,日本にとっての意味

<関連> 日本語の普及と相手国の言語を学ぶこととの関係

3 国際化時代に求められる日本人の国語能力
 (1)本当に必要な基本的な国語能力とは何か

<例> ・自分の考えを自分の言葉でまとめ,発表できる能力
・国際化時代を生き抜くためのコミュニケーション能力

4 国際化時代に対応した日本人の言語教育の在り方
 (1)国際化時代を踏まえた,国語教育の在り方についての総点検

<関連> 韓国における自国語教育の体系

 (2)第1言語習得能力の体系から考える国語教育と英語教育の関係

<関連> 世界各国では外国語教育をどのように行っているか

5 国際化時代に求められる日本語の在り方
 (1)国連公用語としての使用に堪えるような成熟した日本語とは

6 通訳の問題
 (1)通訳についての見方,通訳の位置付け

<関連> ・大学院に「通訳研究科」がない現状について
・「日本語⇒外国語」と「外国語⇒日本語」における通訳の在り方
・通訳の文化史的意義

 (2)通訳の養成

<関連> 「法廷通訳士」のような専門職の必要性

7 言語や言語教育に関する国民への情報提供の必要性

(1) TOEFLの意味付けや,日本人の不得意分野について
(2) 外来語だけでなく外行語(他言語に取り入れられた日本語)も多いことについて

8 外来語増加への対応
 (1)不適切な外来語使用を避けることについて

<関連> ・省庁や自治体その他諸団体等における取組の実例把握
・公文書,自然科学等,分野別の実態調査
・専門用語としての外来語についての考え方

9 日本人の姓名のローマ字表記
 (1)「姓一名」と「名一姓」のどちらの順に表記するのがよいか


 以上は先ほど申したように,第1回の委員会で出てきた委員の方々の御意見を柱立てにするという目的で整理したものである。したがって,実はもっといろんな御意見も出ていて,ここに挙がっていないのももちろんある。この柱立て自体,これでいいのかどうかということは,なお今後の課題であって,もしかすると,もっと増やすか,あるいは整理し直すかという再吟味の努力も必要かと思っている。そして,その柱立ての枠組みが,最終的な報告書の形に移行していく土台になるだろうと考えている。

水谷(第3委員会)主査

 それから,柱立てを中心にしたものであるから,今の項目の中に(1),(2)とか<関連>,あるいは<例>として挙がっているものが,項目の主な見出しにきちんと対応しているとは限らない,不十分なもの,説明不足のものも挙がっているが,メモ的な役割としてそこに付いているものである。「U 第1回,第2回委員会における意見の概要」に入っていくと,これがさっきのことかというふうに思い付いていただけることもあるかと思うので,そちらへ入らせていただく。
 Uには,1から9までの柱を整理して掲げているが,具体的な審議に関係するような情報を外から取り入れていくという活動を今後続けていくということが最初に決められて,4月15日に行った第2回の委員会では,二つのレクチャーを受けた。一つは,昨年の12月17日に国立国語研究所で行われたシンポジウム「国際社会における日本語」の概要について,国立国語研究所の米田言語教育研究部長から,もう一つは,今年の3月26日に行われた文化庁主催の国際シンポジウム「国際化時代の日本語教育支援とネットワーク」の概要について国語課事務局から,それぞれ説明を受けた。
 そのレクチャーを受けた後,さっきの柱立てを整理したもの(I)を出発点として,皆さん方から御意見をちょうだいした。そして,1回目と2回目の会議の内容を併せたものが,3ぺージ,4ぺージ,5ぺージの内容となっている。
 Uは論議の概要について中身をどう拾っておくか,言わば発言の記録という性格が強いものであるから,整理という点では行き届いていないけれども,こんなことが話されたということをお分かりいただくのに役立つかと思っている。結論ではなくて,いろいろなお考えがこんなふうに出てきているというふうにお受け取りいただければ有り難いと思う。
 もちろん,この作業をしながら,枠組みについてもやはり考えていく。Iに出ていた九つの枠組み以外のものも,可能性としてはこの中に出てきている。そういった枠を考え,中身を掘り下げて,外から情報を受け止めながら進めるということで,今後も続けていくつもりである。
 「U第1回,第2回委員会における意見の概要」も朗読させていただく。


U第1回,第2回委員会における意見の概要
 1 検討範囲について

 第3委員会の任務は,第1に国際社会における日本語の在り方についての理念・哲学を確立すること,第2にその理念・哲学をどう実現するかについての具体的な指針を打ち出すことであると考える。
 20期の審議経過報告に挙がっているローマ字の姓名表記と外来語の2点について,例えば外来語の言い換え集のようなものを出すようにしたい。

 「したい」というのは決定したということではなくて,さっき申したように,そういう御意見が出ていたということである。

水谷(第3委員会)主査

2 国際社会における日本の在り方について

(1)国際社会における英語と日本語との関係について

 「国際社会における日本語についての総合的研究」(新プロ日本語)での調査によると,ほとんどの調査対象国で「今後世界のコミュニケーションで必要になると思われる言語」として英語が第1位に挙げられた。「英語と自国語との関係」について議論する必要がある。
 新プロ日本語の調査で,今後世界のコミュニケーションで必要になると思われる言語として,アメリカで日本語が23パーセントもの人に選ばれた。これは,一般に余り認識されていないが,日本の進出企業の努力の成果が大きいのではないか。

(2)海外における日本語の需要と日本語学習の動機について

 日本語の国際化は各国における日本との関係の必要性や日本への関心と平行していると思う。国際社会における日本や日本語の意味付けをする必要がある。
 現在の日本語学習動機の多くは就職や仕事上の必要性に関係していると考えられる。
 外国人の日本語の学習事情については,英語国とインドネシアやタイなど英語国以外の国とに分けて考えるべきである。

(3)国際社会における日本語の位置付け及び国際機関などにおける日本語の使用について

 国際シンポジウムでカイザー氏などが述べた「日本語はマイナー言語だ」という考え方があることを見詰めるべきである。フランスのように,国際機関などで自国語が使用されるよう強く主張する行き方がすべてではなく,日本語には日本語の在り方があると思う。
 日本語に対する日本人の認識と外国人の評価との間には大きなずれがある。このずれを議論することから,世界における日本語の位置付けについて一つの結論が導けるのではないか。第3委員会に外国人を招いて意見を聞くことも考えられるかと思う。
 日本語の国際化のために日本語を国連の公用語にするということには反対である。多言語への翻訳にかかわる資源消費などを今以上に増やすべきでない。また,公用語化されても日本語学習者がそれほど増えるとは思えない。
 国立国語研究所の国際シンポジウムでは,「日本語が国連公用語になると,条約などもきちんとした日本語で書かれるので有利だ。」という話も出ていた。
 EUの中の言語問題についても考える必要がある。15か国がEUに加盟し,11言語が公用語になっている。

(4)言語と文化について

 「言語あるいは言語表現そのものが文化である。」とか,「日本語を教えるのは,日本語そのものでなく文化を教えるのだ。」と言う人もいる。言語と文化の関係について整理する必要がある。

(5)情報化とのかかわりについて

 21世紀には情報機器が更に発達する。情報機器上で日本語がどう扱われるかも考え,さらに機械翻訳についても目配りしておきたい。

(6)通訳について

 日本社会が持っている,通訳は補助的なものだという見方には問題がある。近年,大学院に通訳の講座が置かれ始めているが,通訳研究科はまだない。
 本来,日本語を外国語に訳すのは日本語を習得した外国人が行うべき仕事であり,現在,外国語から日本語への通訳も日本語から外国語への通訳も日本人が行っているのは望ましくない。これは外国人に対する日本語教育の普及の問題にもかかわっている。

水谷(第3委員会)主査

3 国際化時代の日本語及び日本人の言語教育の在り方について

(1)「日本語の国際化」のとらえ方について

 多くの人に学ばれることも日本語が国際的になることの一要素だが,日本人による日本語の表現自体が国際的なコミュニケーションに堪えるものになることも,日本語の国際化の重要な点である。
 「国際社会」を「外交関係が行われている社会」ととらえることもできるが,「日本語が分からない人が大勢いる日本社会」ととらえることもでき,その中で日本語をどう考えるかという問題もあると思う。

(2)国際化時代における日本人の言語教育の在り方について
 @国際化時代の日本語像

 国語教育においても日本語教育においても,本当に必要な基本的な日本語能力とは何かが見いだせていないのではないか。
 日本人全体が論理的な話し方を目指すのか,欧米にない伝統的な文化を守るのかという,大きな方向性の問題がある。
 伝統的なものを捨てる必要はない。国際的に通用するカを身に付けることがもう少し広く浸透するような方向を追求したい。

 A国際化に対応する日本人の言語教育の在り方

 国際社会の中の日本語あるいは日本語の国際化という観点から,国語教育がどう行われており何が問題なのかを総ざらいしたい。
 国際化に向かってのコミュニケーション能力を中心とした国語能力育成を考えたい。
 大学生が,授業の場で日本語の本を大きな声で読めないという現実がある。外国語能力を付けさせることの前に,明晰(せき)に発音したり抑揚を付けて読んだりする基本的なカを養う必要がある。
 日本人のTOEFLの成績が低いことがよく取りざたされるが,日本人の点数が低いのは,リスニングではなく長文読解においてであり,これは速読の訓練をすれば改善できる。もっと大事なことは,自分が何を言いたいのか,言葉でうまくまとめられないという問題である。英語以前の問題として,母語の教育をもっとしっかりすべきだと思う。
 新プロ日本語の研究で,中学からの英語教育をより良く行うためには,小学校で,自分の考えを自分の言葉でまとめる能力や日本語で発表できる能力を育成することが大事だという方向が出ている。
 「9歳,10歳の壁」という言葉があり,それ以前とそれ以後とでは身に付く言語能力が全く違っている。言語教育は,人間が持っている第1言語習得能力の体系から考えることが大切である。他言語を知ることを通して自言語の習得がより良く行われ,自文化・自言語を意識化できるなら,小学校で外国語に触れさせることも良いと思う。
 小学校の新学習指導要領には国際理解教育の一環としての英会話が例示されているが,小学校への英語導入については,英語教育の入門期から大学まで一貫した全体像を把握した上で行わなければならないと考える。
 日本語が外国で教えられている場合を考えると,小学校は他文化の紹介,中学・高校は他言語の体系の教育,大学は他言語を使っての研究という趣旨で行われている。初等中等教育に選択科目として日本語を導入することが広がっているが,その指導者は教える内容だけの特訓を受けた人が多く,日本人と会話ができる人は少ない。世界中で外国語教育をどうやっているかの調査が必要かと思う。
 韓国では小学校3年生から英語を教えることを決めている。その前提となる良い条件の一つは,韓国の自国語教育が,言語の教育として非常に優れた体制になっていることだ。それがTOEFLの成績向上にもつながったのではないか。韓国の言語教育の関係者にこの委員会で話をしてもらえればと思う。

4 外来語増加への対応について

 外来語については分野別の実態調査が必要だと思う。一般の会話等に専門用語の外来語が流出することが問題だと考える。
 外来語・外国語などのいわゆるカタカナ語使用の現状について,審議会における審議の基礎資料として,国立国語研究所に様々な分野における使用の実態調査をお願いしたい。
 外来語に関連して,他の言語に取り入れられている外国語も視野に入れたい。NEDに入っている外国語はフランス語に次いで日本語が2番目に多いということも,日本人全体が認識すべきだと思う。

 先ほども申したが,以上が,言わば発言の記録である。非常に断定的に書かれていることもあるが,個人の発言に基づいてまとめられているので,これから中身の確認のための調査,更に深く突っ込んだ議論を展開していくことになるかと思う。こういった形で具体的にお示しすることが,中身を御理解いただくのに役立つだろうということで,用意したものである。
 そして,次回,第3回以降は,第3委員会の各委員がそれぞれのテーマで発表するということを持ち回りでやっていただくことにしている。委員だけではなくて,その先には,先ほど韓国の人にも来てもらってというのがあったけれども,外の専門家も招いてのヒアリングも続けていく。そんな形で,半年あるいはもう少し掛けて基本的な土台作りをきちんとして,その次の問題点を絞る。それは今のところ何になるか分からない――例えば外国語の使用,外来語の問題というようなことに絞ることになるかもしれないが,議論の基礎段階を踏み固めていく中で,テーマを絞っていく方向を見付け出していきたいと考えている。
 以上である。

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