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次第・議事要録 第1委員会における審議状況について1

清水会長

 それでは,早速,本日の議事に入りたいと思う。
 ただ今の庶務報告にもあったとおり,三つの委員会にそれぞれ2回ずつ会議をお開きいただいている。本日は,前回の会合に引き続いて,各委員会から御報告をいただき,それについて御質疑をいただくということで進めさせていただきたいと思う。初めに第1委員会,次に第3委員会,その次に第2委員会という順序でさせていただく。よろしくお願いする。
 それでは,第1委員会からどうぞ。

井出(第1委員会)主査

 それでは,「第1委員会における論議の概要」について御説明申し上げる。お手元の資料1を御覧いただきたい。早速,恐縮であるが,「(案)」と書いてあるのをお取りいただきたい。失礼した。
 第1委員会では,先回の第4回総会以降,10月18日に第5回,11月15日に第6回の計2回の会議を開催した。すなわち「第1委員会における論議の概要一2」に基づいて,これまでの論議を整理しつつ,基本となる幾つかの概念や問題点について検討を重ねるとともに,今期審議のまとめ方について意見を交換した。
 また,作業部会として設置された小委員会も,この間5回開催した。
 以下に,これまでの論議の概要を御報告する。
 まず,第22期審議のまとめの構成について,考えを一応まとめたので,それについてお話し申し上げる。
 今期の審議のまとめ,つまり答申の枠組みをどのように設けるかについてずっと考えてまいったが,以下のようなものにしようと思っている。つまり,基本的には第21期の報告のI・Uを加筆修正し,Vとして具体例を挙げることにする。
 これを図式化すると,このぺージの三つの箱に書かれているようなものになると思われる。
 Iは,昭和27年の「これからの敬語」以来初めて,世の中に対して,21世紀に向けてなぜ言葉遣いについて答申を出すのか,その意義というものを書かねばならないと考えている。そのようなものを出すに至る問題の所在はどういうところにあるかということを第Iの箱の中で書く。つまり言葉遣いをめぐる問題状況をどのようにとらえているかということである。
 最初に,都市化の進展の影響。都市と地方,言葉においては方言の問題その他も含まれる。2番目が,言葉遣いにおける性差。よく女言葉が云々(うんぬん)と言われるが,その問題。それから,高齢化に伴って世代差が大変大きくなっている。この世代差によるコミュニケーション阻害の問題。それから,情報機器の発達の影響。目覚ましい発達を遂げている情報機器の影響で,コミュニケーションの形,中身も変わってきている。それが引き起こしている問題。それから,商業場面におけるマニュアル敬語。よく過剰敬語が問題になっているが,そのことである。それから,マスコミにおける言葉遣い。テレビその他における言葉遣いが乱れていると言われている問題。7番目が,日本語における外国人との意思疎通。これからの世界では,日本語を学習する人が増加し,また,日本において生活する外国人も増えてくることが予想される。そのことに視点を置いた問題状況をとらえている。 
 以上七つが,21期の報告の中に,様々な人間関係と言葉遣いとして挙げられているものである。このような問題を踏まえて,私どもは言葉遣いについて答申を出したいと思っている。
 最後に一つ注目いただきたいのは,「その他」に下線が引いてあるが,これ以外にもまだ問題状況があるかもしれない。それについてはまだ話し合っていないが,その可能性も一応「その他」という形で挙げておいて,具体的な項目については今後考えていきたいと考えている。
 以上が,まず,答申の前文となるべき問題の把握の部分である。
 このような問題を把握した後,それではどのように問題を解決していったらいいのかをUの箱で扱いたいと思っている。そして,このような問題を解決するために,言葉遣いの基本として「敬意表現」が大切であるということをうたっていきたい。
 そこの「(注)」を御覧いただくと,「敬意表現」の名称が適当か否かについては,検討する必要がある。これは何度も申し上げているが,まだこれについては決着が付いていない。また後で,2ぺージ目で御説明申し上げる。
 敬意表現とは,コミュニケーションを円滑にするために相手への配慮の下に行う表現ととらえている。そして,その敬意表現の概念説明を21期でも行っていたが,更に具体的に詰めて,第1委員会でそのことについて話合いをした。
 そして,構成としては,Vのところで具体例を書いていこうということで,この三つの箱の骨組みを一応審議した。
 2ぺージ目を御覧ください。先ほどの2番目の箱,U「問題解決の考え方」のところの中身について,このような話合いをしたので,それについて御報告する。
 「敬意表現の概念」について,大きく分けて(1)(2)(3)の内容を話し合ってまいった。第1委員会は,発足以来,敬意表現,敬語,言葉遣いについて,大変自由にいろんな角度からいろんな話合いをしてきたけれども,それを一つずつ決着を付けるという形で話し合った結果をここにまとめたわけである。 
 (1)に書かれているのは「「敬意表現」という呼称」についてである。この「敬意表現」という呼称については,これを適当とする意見と不適当とする意見の両方があって,なお検討を継続している状況である。

井出(第1委員会)主査

 これを適当とする理由は,21期に,「敬語を中心とする言葉遣い」を検討するに当たり,円滑なコミュニケーションのための言葉遣いを考えるには敬語だけでは狭いということで,範囲を広げて「敬意表現」と称するようになったわけで,その21期の考えを尊重したいという意見がまずある。
 「敬意表現」は不適当であるという考えは,敬意,敬うということとは別の配慮を含んだ言い方をも「敬意表現」というのは良くない。当てはまらないのではないか。代わりの案として,配慮の表現又は配慮表現,尊重表現,礼儀表現,丁寧表現又は丁寧な表現などが考えられるとなっている。呼称については,具体例なども考えつつ,最後までに決めればいいのではないかと思っている。
 (2)「円滑なコミュニケーションと敬意表現との関係」についてであるが,最初のIのボックスのところから,このような社会の諸問題を言葉遣いという観点から考えるときに,なぜ敬意表現,又は円滑なコミュニケーションということが大事になってくるのかということを考えるときの大きな枠組みとして,次のように考えている。
 円滑なコミュニケーションを支える要因に,敬意表現と並んで平明,的確な表現,又は人格を表す表現というようなものが入っているという考え方である。敬意表現というのは,相手,人間に対して配慮する表現ということで「対人性」と書かれている。それから,平明,的確な表現というのは,もちろん相手のためではあるが,いかに論理的に,明確に分かりやすく言うのかという配慮である。三つ目の人格,人間性というのは,言は体を表すと言うが,どういう言葉遣いをするかということがその人に返ってくる。話し手そのもののために,自分のための自己表現であるという側面を含んでいるということである。よく言葉はその人の品格を表すと言うが,それを三つ目に挙げてある。これすべてを含めて,円滑なコミュニケーションを成り立たせる要素として考えるという考え方である。
 その一方で,「円滑なコミュニケーション」と「伝達の効率」ということが並列の関係であるという考え方も出ていて,委員会としてどちらを採るかについてはまだ決着は付いていない。円滑なコミュニケーションが対人的なもので,敬意表現で表されるということと,伝達の効率,明確な,的確な表現で論理的に言うことが大事であるということは,二つの別のものであると考えるという考え方も出ている。
 以上が,円滑なコミュニケーションと敬意表現との関係についての議論の概要である。
 「(3)敬意表現の考え方」は大変短くまとまっているが,これについては大変多くの意見をいただきながら,このような形に収斂(れん)したものである。国語審議会の第1委員会の役目として,敬意表現,言葉遣いについて,どういうスタンス,どういうフィロソフィーを持つべきかということに対して,私どもは具体的にいろいろな角度からの御意見をまとめつつ,議論を煮詰めてきた。その結果がここに書いてある。
 敬意表現は,相手を大事に思う気持ち,また相手や場に対する配慮を言葉で表すものであるということである。相手を大事に思う気持ちはお分かりと思うが,相手に対する配慮というのは,相手が一体どういう立場の人なのか,自分との関係はどうなのか,それを配慮する。それから,場に対する配慮というのは,例えば今ここは審議会の場であるが,それぞれの場によって改まりやくだけの度合いなどが異なるので,それぞれの場面における配慮を言葉で表すということである。これが敬意表現のエッセンスであるというふうに考えている。敬意表現は上下関係で使い分けるものではなくて,相互尊重の配慮に基づき,社会的関係によって使い分けるものである。社会的関係というのは,内・外の使い分けとか,そういうことも含んでいる。
 具体的には,次の七つのような考え方が敬意表現のエッセンスであるというふうに考えている。
 @相手を立てて,上位の者として扱う。A自分を低めて,へりくだる態度を表す。これは元来,尊敬語,謙譲語を支える精神であると思うが,それをこのように表現している。B下位者への優しさを示す。思いやりから丁寧な言い方をするということである。C相互に尊重し合い,丁寧な言い方で扱う。D親疎に応じた心理的距離を表す。先回の総会の時に,距離をとることがいいのか,縮めることの方がいいのかというような御意見もいただいたけれども,「(親疎に)応じた」ということで,それぞれにふさわしい距離をとるのがいいということで,こういうふうに書いてある。E場面に応じた改まりを表す。F相手に応じて情報を伝える。これは例えば道を聞かれたとき,相手が,子供であるか,それとも地方からいらしている方か,その土地を全然知らない人かに応じてどれくらい丁寧に言うかということも違うし,お年寄りや子供であるなら,それなりの丁寧さも加える。情報量も変える。そういうことを含めたことがFで言われている。
 以上が,「敬意表現の概念」として私どもが話し合ってきた概念である。もちろん,これで言い尽くせていない,落ちているものもあるかと思うか,それについてまた後で議論の時間に皆様から御意見をいただければ有り難いと思っている。
 「3 敬意表現の具体例」。具体例については,次の@,Aのような視点の下に考えていきたいと思っている。@だれもが使えるような敬意表現の在り方を整理する。若者たちが敬語を使えないという現状を踏まえ,でも彼らは使いたいと思っているということをどうするかということを考えて,だれでもが使えるような敬意表現の在り方を整理し,また,教育における扱いについてもそれを念頭に置いていきたいと考えている。Aは,双方が相互に使い合うような敬意表現の在り方を整理する。このような方針を決めた。
 次のぺージに,「参考」として,第5回,第6回の委員会で出た意見の主なものを載せておいたので,御覧いただきたいと思う。
 以上で,御報告を終わる。

清水会長

 ありがとうございました。
 ただ今御報告があったように,第1ぺージ目は大きなまとめ方についてであるけれども,次が「敬意表現の概念」ということで,まとめのところにもあるように,改めて検討する必要があるというようなことで,いろいろ御意見もあるかと思う。その辺なども含めながら,御自由な発言,御意見,御質問をいただければ有り難いと思う。

小林(第2委員会)副主査

 2ぺージの2の(3)のところについて。2行目に「敬意表現は上下関係で使い分けるのではなく」と明確におっしやっているのであるが,@,A,Bのところは,@の「上位の者として」の「として」というところにニュアンスがあるのかなというふうに思う。それから,Aの「自分を低めて」の後の「へりくだる」の方に重点があるのかなとも思うし,Bも,「思いやり」があるので,「下位者への」という言い方もそのことかなと思うけれども,「上下関係で使い分けるのではなく」というふうにおっしやっているところから考えて,@,A,Bの言い表し方の理解の仕方として,どういうふうに考えていけばいいのか,ちよっと私には問題があると思う。つまり(3)の1行目のところで,まず「相手を大事に思う気持ち」とか「相手や場に対する配慮を言葉で表すものである」と言って2行目に係ってくるところと,矛盾とは言わないまでも,言葉を使うときの意識の在り方として,@,A,Bの言い方はどうかというふうに受け取った。
 「参考」のところを拝見したときにも,真ん中の「<敬語使用>」の一つ目の○とか,四つ目の○とか,下側の「<呼称>」の二つ目の○のところにも「下位の者の」云々とある。歴史的に考えて,上下関係ではない,身分関係ではないということでの現代の言葉遣いの在り方を考えていったときの表現,言葉選びということで,少し教えていただきたいと思い申し述べた。

井出(第1委員会)主査

 御指摘,ごもっともだと思う。実際に答申を出すときには,言葉の面で,そのような点を配慮しつつ書いていかなければいけないと思っているが,この件については,松岡委員にお返事いただいた方がよろしいかと思う。

松岡委員

 最初のぺージにあるように,飽くまでも現状をどうとらえるかということと,それをどう解決していくかということだと思うのであるけれども,ここのところは私の個人的な意見でもよろしいか。
 現状から考えると,現実問題として上下関係がなくなっているとはとても言い難いので,場合によったら,「上下関係の表現に限らず」とか何か,そういうような表現にしたらいいのではないかというふうにも思うし,少なくとも私が認識している第1委員会でのこれまでの話合いで,「敬意表現」という呼称そのものを模索していることからも御推測いただけるのではないかと思うが,これまでのいわゆる敬語とか,謙譲語とか,そういうものとは違った基盤を考え,そして「敬意表現」というものがどういうふうに適用されているかということを模索していく。そして,それをどう使い,小林委員は言葉選びとおっしゃったけれども,どういう言葉を選んでいくかというところに結び付けることが目標だと思う。したがって,ここの部分は,むしろ表現そのものを考えるということでとらえたらどうかと思うのであるけれども,いかがであろうか。

清水会長

 よろしいか。敬うという言葉のニュアンスから,今のお話のように,上下関係というようなものも絡んできたという経緯だと思うけれども,委員会に御出席でない先生方,また委員会に御出席の先生方でも,どうぞ御自由な御発言をいただきながら……。

山口委員

 この敬語の問題は,第1委員会は第21期からの継続審議だと思うが,今期はVのところ,つまり三つに分けたときの具体的な敬語表現の例を出すことが中心になっていると思っていたのであるが,これは待っていれば出てくると考えていいのであろうか。皆さんが一番待っているのはこのVの部分ではないかと思うので,ちょっとお伺いしてみた。

井出(第1委員会)主査

 もちろん,そのような認識の下に私ども第1委員会は始まったのであるが,フィロソフィーの部分,スタンスの部分がしっかり固まっていなければ具体例は出せないという認識の下に,10月,11月はそのエッセンスをまとめることに時間を費やし,次からは具体例を出していく,そういう予定である。

山口委員

 とても楽しみにしている。ここのところが,やっぱり皆さんすごく注目する部分であるので,待っているのではないかと思う。

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