国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第3委員会における審議状況について1

清水会長

 まだいろいろ御意見がおありかと思うけれども,時間の都合上,次の御説明に入らせていただきたいと思う。それでは,水谷主査, 申し訳ないが,第3委員会の方からお願いしたい。

水谷(第3委員会)主査

 報告の順序を変えていただいて大変有り難いのであるが,御迷惑をお掛けしたかと思う。どうぞお許しいただきたい。
 第3委員会は,先の第4回総会以降, 10月22日と11月11日, 2回開催されて,第3委員会の検討課題である「日本語の国際化をめぐる問題」について論議を重ねた。 この間の委員会は,第3回,第4回と引き続いてきたやり方で,所属する委員が専門分野から問題点の指摘や提言を,各自が報告の形でしていただいて,それをめぐって論議をした後,今までに出されていた論点の整理を行ってきた。その整理したものが下の四角の中に「構成」として書かれている枠で, これは前回の枠と余り変わっていないが, こういった枠を用意しながら,具体的な事実についての我々の共通理解,何をこの報告で提言しなければならないかということについての考え方の共通化を図ったものである。
 この2回でもかなりの事柄が新しく出てきた。 1から6までに挙がっている柱立ての中で,前回までと違ったものは,2の(2),あるいは3の(3)(4),4の全体,5の全体で,これらについて新しい情報が入っている。
 第3委員会自体は,実は第1委員会,第2委員会に2年遅れて出発した。最終ゴールは同じように持っていかなければならないので,事実関係をきちんととらえるという仕事と,もう一つは報告のためのまとめをきちんとしていくという二つの仕事を兼ねながらやっていく必要がある。今回半年がかりでやってまいった各委員からの報告を終えて,次の段階へ入って,改めてまとめるべき内容,現代の日本社会にとって必要な事柄は何かということを枠組みを立て直して考える。そのための作業に掛かることと,今までに一応用意してきたこの1から6の枠の中でも,情報集めが足りなかった部分についてもう一度ヒアリングをするとか,外部の人などから情報を得るための仕事をするとかといったことで, 内容そのものをより固めることと全体の構成を考え直すという作業に入っていくつもりである。
 11ぺージのところに,これからまとめ直しをしていくとすると,例えばこんな形で整理をしていく可能性がある,そのモデルの一つがある。ほかにも幾つかあったが,こういったような形で,11ぺージをちょっと御覧いただくと有り難いのであるが,「日本語の国際的な広がりの理念」を支える基本的な考え方というのは何であろうかというようなことが大きな内容となるはずだと思うし,ーつ下の枠,「日本語の国際的な広がり」の理念そのもの,何のために,なぜということを明確にする必要がある。そして,それを明確にするために,背景についてもきちんと述べなければならないであろう。前回御報告したが,歴史的な状況,地域的な状況についても私たちは話し合ってまいったが,これも述べ立てるべき事柄を支えるようなきちんとした背景情報を用意する必要があるだろう。いずれにしても,理念をきちんと構築して,それを実現する方法,例えばそこにあるように,日本語話者の量的拡大をどう考えるか,日本語そのものの質的改革をどう考えるかといったような枠組みを考えていく。
 下の方に,更にまた枝分かれして,「日本語による情報発信・受信の促進」 というのが一番下にあるけれども,これは日本語話者の量的拡大とある意味では共通部分があるが,メディアを使ってというようなことを考えるとやはり違う点から考える必要がある。この辺りの問題を, このような形で大きな枠組みを用意しながら検討する。その中で,恐らく今までやってきたことの欠陥がよく分かるであろう。例えば,情報発信・受信のような問題については,その下の方にある通訳の問題については私たちは議論を進めたけれども,そのほかの情報発信に関することについては, まだ情報獲得が足りない。こういったことをはっきりさせた上で,次の情報収集と検討の機会を用意していきたいと考えている。次回は,恐らくこういった新しい枠組みを立てて, どこまで進んだかということを御報告することになるかと思う。
 今回は, 1ぺージの「構成」の中にある目次に従って,新しく出てきた情報――2ぺージを御覧いただくと,それぞれ1, 2と書かれている一番左に○が付いているが,○が付いているのは前回御報告したものである。冒頭にある「第3委員会の検討範囲」 ということで,そこに挙がっている「第3委員会の任務は」云々とか,「20期の審議経過報告に挙がっているローマ字の姓名表記と外来語増加等の問題の2点について,具体的な方針を示す」ということなどが,ーつの仕事として我々に与えられていることは前回にも御報告した。それはそのままこういった形で入っている。
 今度新しく入ってきた情報は, 2ぺージにはないので, 3ぺージを御覧いただくと, 3の「(1) 日本語の国際化」のところには入っていないが, (2)の「海外における日本語学習の動向」の部分から新しいものが入ってきている。今日は,私たちの委員会の中でどんな新しい話が出てきたか, どんな議論がされたかということについてお分かりいただけるように,御報告したいと思っている。読ませていただこうと思う。

水谷(第3委員会)主査

 (2)海外における日本語学習の動向

 国際交流基金の最新「海外日本語教育機関調査」(1998)の仮集計によると,日本語教育は世界114か国・地域――最終的には115か国・地域に増えるかと思うが――で行われ,教育機関で学ぶ学習者数は209万人余りと,前回(1993。162万人)より約29%増加し,機関数,教師数も大幅に増加した。国別では韓国(約95方人),地域別ではアジア(約150万人)が最多で,スリランカ,モンゴルなどで特に高い増加率となっている。

    スリランカ,モンゴル,それからベトナムが高い率になっている。


 上記の国際交流基金の調査によれば,オーストラリアには韓国に次いで多い30万人余りの日本語学習者がいるが,その9割以上が初等中等課程の児童・生徒であるところに特徴がある。同国における日本語学習の普及は,日本の経済力やそれに伴う国際的位置付けの反映であるほか,同国が標榜(ぼう)する多文化主義とそれに呼応した外国語教育政策に支えられている。
 中国においては,北京日本学研究センターが設立された1980年代の日本語学習者は非常に熱心だった。その後,社会的な関心が相対的に英語に移り, 日本語学習熱は冷めてきている。中国の大学では, 1990年までは4割を超える学生が日本語を第1外国語として学んでいたが,現在では第2外国語として学ぶ学生が圧倒的である。また,北京市の中学・高校で日本語コースを設置する学校は減少し,1995年現在, 全日制では月壇中学のみになった。これらは英語学習熱の急上昇による影響と考えら れる。ただし,台湾では大陸に比べて日本語重視の傾向が強い。

 前回にも申し上げたが,これは委員の発言等を基にしているので,かなり主観的な判断の加わった文章になっているけれども,最終的にはもちろんそれをきちんとした報告書の文体に変えていくことは考えている。
 以上が(2)で新しく出てきた項目であるが,(3)「日本語に対する需要の多様性」というところでは,そのぺージの一番下。

 新しい流れとして,アメリカニズムが世界を席巻している中で, もっと違う行き方があるのではないかという考えから日本に注目する見方がヨーロッパにも東南アジアにもあるが,それに最も気付いていないのが日本人自身である。日本語の教育・普及については,そういう世界の動向も意識した上で,理念を考え, また教材も作成すべきである。

 それから二つばかり飛んで,カザフスタンに始まる部分である。


 カザフスタンやウズベキスタンでは,現在, 日本のシルクロード外交の浸透や,脱社会主義の国づくりの過程で日本を一つの目標あるいは鏡ととらえていることにより,日本や日本文化,さらには日本語への関心が高まっている。ウズベキスタンの人が,自分たちは日本と同じように長い歴史を持っており,長幼の序を重んじ,言葉も相手への配慮を表す面が強いなど,メンタリティーが日本人と共通していると言っていた。その意識が,日本を自国の鏡と考え,いつかは自国も日本のようになれるので はないかと考えることにもつながっている。
 旧ソ連の傘下にあったエストニアとルーマニアの人から言われたことは,共産圏の良かった点は貧富の差がなかったことで, 日本には平等の精神があり,アメリカと違って貧富の差が小さいので, 自分たちの目標になるということであった。
 今後は,各国の事情をよく押さえた上で日本語の広がりを支援する計画を作る必要がある。

 この項はこれだけであるが,次の「(4) 日本語の国際的な広がりへの支援の現状と問題点」, この辺りの内容もこの2回で新たに得られた中身である。


 青年海外協力隊において,日本語教師はこの10年来最も応募者が多い人気分野となっており,平成11年8月現在,派遣中の協力隊員2460人のうち160人を占 めるが,彼らへのアンケート調査によると,@何のために教えるのか(日本語教育の意義,目的),Aそもそも自分は日本文化や歴史について理解しているのか, といった根源的な問い掛けが見られる。日本語を学ぶこと,教えることは, 日本文化・日本社会・日本人といったトータルなものを学ぶことの入りロであり, 出口であることを痛感する。
 なぜ日本語を普及するのかが問われないできたのは,需要に応じて供給してきたからだという側面があり,特に実利的な目的を持つ学習者側の要求が先行していたのだと思われる。しかし,例えば西アジアの人で,日本語を学ぶことの社会的有効性を信じて学んだのに日本社会に受け入れてもらえなかったと言う人もいる。本当の日本の情報を知ってもらうことが大切である。日本人もイスラムに対する誤解を持っており,その意味でも互いの言語を学ばなくてはならない。そういうことを踏まえて日本語教育の理念を構築する必要がある。
 オーストラリアにおける日本語教育について報じた新聞記事によれば,問題点として教師の不足や教師のレベルアップの必要性が指摘されている。

水谷(第3委員会)主査

○ 中国の人が日本語を学ぶ利点としては,次のことが挙げられる。
(ア)中国側が意識しているもの。

  • @ 日本との交流に有用である。
    A 最新の科学技術や情報を(米国よりも近い場所で)身に付けられる。
    日本語は特に科学技術を専攻する学生にとって有用であるとの湖南大学日本文化研究所長の発言や,山西大学で科学技術用語の授業を要請されたとの日本語教師の報告があり,この分野での中国側の需要の高さがわかる。
    国内で模索されているビジネス関係者向けのカリキュラムを早急に充実させ,それを海外でも援用する必要があると考える。

(イ)中国では余り言われていないが,日本側が宣伝できると思われるもの

  • @ 日本は治安や環境がいいので安心して留学できる。
    A アジア人同士で外見が似ているので.留学生が溶け込みやすい。
    B 世界の諸言語で書かれた著作を,日本語訳を通して読むことができる。

 この辺りのところはかなり個別の情報・意見があるので,報告段階で偏ってはいけないということで,取扱いは重々気を付けようと思っているが, こういった形で具体的な意見として出ていると,見ている方あるいは聞いている方としては,心も動くし,考えやすいので,皆様方にもこの形で見ていただくことにした。


 日本への中国人留学生が中国に帰国して痛切に感じているのは,「日本語を学ぶ利点」を生かすための日本側の支援がないということである。
 中国では日本語に「侵略者の言葉」とのイメージも強くあるが,若い人の間で「歴史は過去のこととして追及せず,新しい世代として前向きに友好関係を考えていった方がいい。」 とする人が6割近くいるとの報告もある。また,大陸に比べて台湾では日本語に対するプラス評価のイメージを持つ人の割合が高い。

 日本語に対するイメージの違いは,国によって随分ある。韓国の場合でも,中国のところで触れているような大きな問題が存在するという例をたくさん存じている。


 日本語のイメージは日本のイメージと強く結び付いている。イメージ是正の努力を行うことが必要である。これについては,政府が相手政府に申し入れるなどの形で「国家」が行うのは逆効果であり,「国民」あるいは「社会」が間接的に行うのがよい。ジャーナリズム,学校教育,NPOなどが,その役割を担うことができるであろう。

 (5)の「日本語の国際的な広がりと日本文化」は,余り新しく出てきたものはないが,次の2項目は新出である。


  欧米的な哲学が壁にぶつかったときに,それを救えるものを日本文化は含んでいると考える。

 こういった発想は,骨組みを作っていく上で非常に大切なものだと思う。


 日本人の学生や日本語を教える若い人たちが, 日本の文化や歴史を知らないのは残念なことである。中国からの留学生は自国の歴史などに詳しく,自分の国のことは知っていて当然だという意識を持っている。もっと教育の中で日本の歴史などを教える必要があるということを,日本語教育の観点から我々が言う必要があるかもしれない。

 次の6ぺージ,「(6)国際社会における日本語の使用」は,新しいものはない。
 中ほどの「4 国際社会における言語情報の交流」,「(1)国際社会における情報発信の重要性」の枠の中では,新しいことが一杯出てまいる。読ませていただく。


 国際社会に向けて, 日本語による情報発進を促進することが重要である。 これを実行することにより,結果として日本語学習者の増加なども実現していくと考える。
 この問題についてはこれまで余り議論がなかったが,アメリカでの「ポケットモンスター」の人気などを考えると,相手になじみやすいものを発信することにより, 日本語や日本人との接点を増やしていくことは有効だと思われる。
 輪出用のゲーム機の使用説明書に必ず日本語の説明を付けて,使用者が日本語になじむよう配慮している例があるとのことである。 日本製品には必ず日本語を伴わせるのがよい。
 「相互依存」や「相互理解」という言葉があるが, これからの国際社会では「相互主張」ということを考えるべきだ。自国の文化を主張し,他国に伝える努力を積極的にすることがすべての国家の権利であり義務であると提唱したい。私たち日本人も,「言うと失礼」ではなく「言わなければ相手に分からない」と考え,日本語・日本人について世界に伝える努力をしていく必要がある。

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