国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 審議状況1

清水会長

 早速,議事に入らせていただくが,先ほど来,課長からのお話があったように,各委員会における前回総会以降の審議の状況を伺って,それに対しての質疑ということで進めさせていただく。
 まず初めに,第1委員会からお願いしたいと思う。井出主査,どうぞよろしくお願いする。

井出(第1委員会)主査

 第1委員会から御報告申し上げる。
 お手元の「現代社会における敬意表現(案)」(審議のまとめ案)を御覧いただきたい。先回の総会の時以来,この目次項目の中で変わった箇所について,まず御説明する。
 「I」が付け加えられた。それで番号が一つずつずれて,「現代社会の言葉遣いをめぐる課題」は「II」となったが,内容は同じである。それから,「III 言葉遣いの中の敬意表現」は,今期私ども第1委員会が主としてやってきたことであるが,中身のところで,「2 敬意表現の概念」の(1)(2)(3)を「敬意表現とは」「敬語と敬意表現」「敬意表現の実際」とし,少し記述を修正した。分かりやすくするための努力をした結果である。新しくIVとなった部分に8を付け加えた。「敬意表現の習得の場」は,作業のプロセスでは,教育のことと思って「付」として別枠にしていたが,留意点として,このように「家庭・社会」「マスメディア等」「学校教育」「外国人に対する日本語教育」という項目についてまとめた一つの項目を作った。これが大きな変更である。
 先回の総会の議事要録を見ても,主査の説明にほとんどの時間を取ってしまって,肝心な質問にお答えしたり,みんなで考えたりする時間がほとんど取れなかった。これだけの分厚いものを追って御説明して,また,同じようなことを繰り返すことになるのを避けたいと思って,私が手元に用意しているA4で2枚の紙の範囲で,主として,この目次で言うと「言葉遣いの中の敬意表現」の中身について,かいつまんで御説明申し上げる形にしたいと思う。質問の時間をたくさん取れるようにと配慮しているので,どうぞそのつもりでお聞きいただければと思う。
 国語審議会は現代社会の言葉遣いの在り方を考える上で重要な概念として「敬意表現」を提唱する。
 敬意表現とは,コミュニケーションにおいて,相互尊重の精神に基づき,相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。
 「敬意表現とは」で始まっている文章である。これは冒頭のところに出ているが,「敬意表現とは」という文章が「言葉遣いを意味する」で終わっていて,これは敬意表現の表現集ではない,言葉遣いのことを言っているのだということを,まず御理解いただきたいと思う。
 それらは相手の人格や立場を尊重し,様々な表現から適切なものを自己表現として選択するものである。
 次に,敬意表現と敬語の関係について申し上げる。敬語はこれまで注目されてきたものだが,敬意表現は敬語だけでなく,敬語をも含む広い範囲の言葉遣いのことである。そのことを表すために「敬意表現」という新しい言い方を用いることとした。
 次に,国語審議会への諮問との関係を申し上げる。国語審議会は,平成5年11月,第20期の冒頭において,文部大臣から「新しい時代に応じた国語施策の在り方について」を諮問された。第1委員会では,そのうち「言葉遣いに関すること」について検討し,現代社会における言葉遣いの多様な様相を把握しつつ,言葉遣いのあるべき姿についての見解を示すことが重要であろうとの判断に至った。現代社会は,都市化,国際化,情報化,少子高齢化などの社会変化による価値観や暮らしぶりの多様化に平行した言葉遣いの多様化が見られる。この認識に立って,言葉遣いのあるべき姿について検討した結果,コミュニケーションを円滑にするものとして,敬意表現が重要であると考えるに至った。したがって,ここに敬意表現を中心とする言葉遣いの在り方について,答申に向けて現時点での審議のまとめ案を示すものである。

井出(第1委員会)主査

 次に,「言葉遣いに関する基本的な認識」。これは第I章のところのタイトルについてである。第20期国語審議会は,――今は22期なので,前の前の20期であるが,――平明で,的確で,美しく,豊かであることを言葉遣い全体の理想的な姿と位置付けた。しかし,現実にはそのような理想的な姿が実現されているとは言い難く,世論調査を見ても,言葉が乱れていると思っている人がかなり多いのが現状である。言葉は個々人のものであると同時に,社会全体のものでもある。人々が相互により良い人間関係を築くためには,相手や場面にふさわしい言葉遣い,とりわけ敬意表現を適切に用いていくことが大切である。
 次に,敬意表現を例でお示しする。例えば,本を借りたいとき,親しい人には「その本,貸してくれない↑」などと言うことがある。敬語は使っていないが,「〜てくれる」という恩恵を表す言葉,「〜ない」という否定の言い方と語尾を上げることで相手への配慮を表している。また,親しくない人には,例えば「御本を貸していただけませんか」などと言う。相手の本なので,「御」を付け,「〜ていただく」という敬語を使って配慮を表している。これらの言い方が敬意表現の一つの例である。例えば,こういうものを敬意表現と言うという例であって,これが敬意表現のお勧め表現として出したものではないことを申し添えておきたいと思う。
 このほか,場面や相手の状況に応じて加える配慮の言葉として,「ちょっといい↑」「悪いけど」などの予告や前置きの言葉,「図書館で見付からなかったので」などの理由を説明する言葉などがある。
 敬意表現には定型のもの,例えば敬語,あいさつの言葉,決まり文句などのほかに,非定型のもの,話し手が随時工夫する言葉遣い,先ほどの「図書館で見付からなかったので」なども非定型のものであるが,そういうものと2種類ある。そのほかに,また,音調を優しくするなども敬意表現の中に含まれるものである。
 それでは,敬意表現は何に配慮するものであろうか。敬意表現は様々な配慮に基づいて行われるが,それらは人間関係に対する配慮,場面に対する配慮,相手の気持ちや自分自身に対する配慮などがあると言うことができる。どのような言葉遣いをするかによって,話し手が相手や場面をどうとらえたかが伝わるものである。話し手の言葉遣いの選択は,結果として自分の態度,立場,人格を表すものである。
 では,敬意表現はどのように運用していったらいいものであろうか。敬意表現は,現在我々が使っているものであり,特に新しい言葉遣いについて言っているものではない。我々がふだん使っているものの中で,その良いものに注目して,それを現代社会の言葉遣いのあるべき姿としたものである。
 敬意表現は,場面に応じて過不足なく使うことが大切である。敬意表現は,言葉の形のみで決まるものではなく,相手,場面に応じているかどうかによってのみ,それが適切であるかどうかが決まる言葉遣いである。敬意表現を用いるに際しては,その場における相手の立場を勘案することが重要である。敬意表現を用いる側は適切な言葉を選び,それを受ける側は相手を思いやって寛容に受け入れる必要がある。
 以上が敬意表現の説明である。
 終わりに,今日最後に付け加えたと申したIV章の一番最後の「敬意表現の習得の場」というところの内容をかいつまんで御説明する。
 敬意表現の習得は,家庭,社会,学校,マスメディアといった敬意表現の使われている環境の中で,意識的あるいは無意識的に行われているものである。敬意表現は,人間関係の把握や場面理解を前提とするために,成人してからも日々体験的に習得されるものである。一人一人が周りの敬意表現を内省しつつ,言語感覚を磨くことによって豊かな敬意表現を身に付けていくものである。このことは,言語環境をいかに整えるかという問題とも密接にかかわっていると言うことができると思う。
 以上である。

清水会長

 第1委員会として,先ほど課長からもお話があったように,第11回を6月26日,第2回を8月23日,前回の総会から2回,総会での御意見などを踏まえながら御検討をちょうだいして,今,御説明があったような,また,お手元にお配りしたような素案とでもいうものが作られた。
 どうぞ御質問,御意見を御自由にいただきたいと思う。
 また,第1委員会の委員の方で何か補足の御説明があったら,お話しいただければと思う。

山口委員

 幾つか教えていただきたいのだが,4点お伺いする。
 まず1点目であるが,今日いただいた11ぺージの上から3行目,「異なる立場の相手に対する配慮」という項目がある。ここに「異なる立場の相手とは,例えば職場などでの役割の異なる関係,年齢などの異なる関係にある人を言う。そのような相手に対しては,一般的には,立場や役割,年齢の違いを適切に認識して接することが相互尊重の精神に立った配慮をすることになる。」とある。「相互尊重の精神」とあるのだが,その下の具体例を見ると,どうも上役だけを重んじている感じがするので,その辺りをちょっと変えていただくと有り難い。
 もう少し具体的に言うと,例に「組織の中での場合を例にとると,仕事上で指示をする上司が,「これ,ファイルしておいて」と言ったとしても,指示を受けた部下は「はい,分かりました」と丁寧に答えるなど,上司より部下の方がより丁寧な言葉遣いをすることが多いであろう。このように立場や役割が異なる間柄では,その異なりに配慮した言葉遣いが見られる。」とある。この例からは,上の人は悪い言葉でもいいけれども,下の人は丁寧に答えなさいというふうに受け取られかねないという気がする。その辺りを考えていただけると有り難いというのが第1点である。
 2点目は,12ぺージの下の方に,「話し手自身に関する配慮」とあるが,「配慮」という言葉は自分自身に対して使うものだろうか。つまり心配りであるから,相手に対して用いる言葉ではないかという気がして,ここのところが何か妙な気がした。その箇所を読んでみると「話し手が自分自身がどのような人間であるかを表す配慮がある。こうした配慮に基づいて,多様な表現の中から自分らしさを表す言葉遣いを選択している。例えば……」と書かれている。
 それと同じように,12ぺージの上の方にも「ウ 相手の気持ちや自分自身に関する配慮」とあるが,相手の気持ちに対する配慮というのは分かるけれども,自分自身に関する配慮と言われると,ひどく変な気がする。「配慮」という言葉をめぐってが,2点目である。
 3点目としては,目次を見ていただきたいのであるが,目次のIからIIIまでとIVとの間で記述の立場が微妙に異なる感じがする。例えばIからIIIまでは,敬語はこうあるべきじゃないかという感じが強いのに対して,IVの留意点になると,丁寧過ぎる言葉遣いは相手に失礼なこともあるんですよというふうに出てきて,IからIIIを述べた時の態度と微妙に異なっているような印象を受ける。この文書を読み終わった後に,なるほど敬語というのはこうやって使うものかと,全体像として分かる方がいいと思うので,記述の立場を統一していただけないかというのが3点目である。
 それから,4点目としては,記述に重出があるように思われることである。例えば3ぺージ目の「はじめに」というところの3行目に,「敬意表現とは,コミュニケーションにおいて,相互尊重の精神に基づき,相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。それらは相手の人格や立場を尊重し,敬語や敬語以外の様々な表現から適切なものを自己表現として選択するものである。」とある。同じようなことが,また8ぺージ目の「敬意表現とは」というところに出てくる。これは必要上やむを得ない重出ということであれば一向に構わないが,ぺージ数も多いから,語句の重出を除き縮めるといいように思う。以上4点を私の意見としてお伺いする。

井出(第1委員会)主査

 3点目の御質問の意味が分からなかったのであるが……。

山口委員

 目次を見ていただくと,「言葉遣いの中の敬意表現」というところでは,役割を非常に意識して言葉を使う必要があるというようなことが述べてあった。それに対して,「IV 敬意表現についての留意点」になると,丁寧過ぎる言葉は相手にも失礼になるんだという柔軟な態度に変わっていく。通読してきた人間にとって,最後になって「敬語はその場その場に応じて判断すればいい。」というふうになって,IからIIIまで読んできた印象と異なるということが言いたかったのであるが,通じたであろうか。

井出(第1委員会)主査

 了解した。4番目のことから,簡単にお答えできることからお答えして,あとは第1委員会の委員の方にお答えいただきたいと思う。
 4番目は重複ということであるが,重複はあえてそうした。なぜならば,「敬意表現」を提唱するということがこの第1委員会の一番のポイントなので,ここでも何度も指摘されたように,なかなか分かりにくいということで,冒頭に持ってきた方がいいということで,詳しい説明はIII章にあるが,何がポイントかというのを一番最初に持ってきたということである。それで,第I章は20期のことを述べ,第II章は21期で主にやったことを述べて,第III章に入って22期のことになっているので,この22期,最終の期になって出してきたものを冒頭に持ってきて重複させたわけである。
 それから,IIIの22期で出してきた「言葉遣いの中の敬意表現」が全体の中の一番のメインになっていて,それの説明の後,こういう場合はどうか,こういう場合はどうか,方言はどうなるかとか,いろいろな話があると思って,それに対して留意点として説明をしたので,山口委員がお読みになったような読まれ方をして当然であるが,その点については,表現の工夫によって,より皆様にスムーズに受け入れられるような形を考えていきたいと思っている。

山口委員

 もう一つ,重出の感じをどこから受けるかと言うと,目次の中のIIとIVのところ。わざわざこうしているのかどうか分からないのであるが,例えばIIの「7 外国人との意思疎通における言葉遣い」とあって,またIVになると,「7 外国人との意思疎通と敬意表現」と,再びここで論じられていく。IIで述べられたことが再びIVで述べられていく。これは恐らく少しずつ違うからだということは理解できるのだが,重出しているなという印象がしてしまう理由でもあろうかと思って,もう一言付け加えさせていただく。

井出(第1委員会)主査

 それについての御説明であるが,21期において,現代社会の言葉遣いをめぐる問題点を7項目について挙げたわけである。それについて,今期,敬語をどうするかという問題から「敬意表現」という概念の提唱に発展し,それぞれの問題について,敬意表現はどのように解決していくべきものかというのを次の章に持ってきた。このIV章を作るに当たっては,II章の問題点を拾い上げたということで,重複していないところもあるが,ほぼ重複しているところもある。商業場面についてもIV章で説明しているが,問題点を挙げて,そのための鍵(かぎ)概念として「敬意表現」を出して,どういうふうにその問題点に応用していくかというのがIV章なのである。それについて御指摘のような誤解のないような表現の工夫は,これから考えていきたいと思う。
 2番目の自分自身に対しての「配慮」の言葉がおかしいというのは,また考えさせていただく。
 第1の問題,11ぺージ,これについては,委員の先生方,どなたかお答えいただけるであろうか。異なる立場の人が,上司が「これ,ファイルしておいて」と言って,「はい,分かりました」と言うのではいけないんじゃないかということである。この辺りについては第1委員会で大分議論した結果ではあるが,どなたかお答えいただけるか。
 新井委員,お願いしてよろしいか。

新井委員

 私が特に代表するつもりではないが,私の印象では,例示であるから,事実こういうことは現実に見られることだし,もしそういう誤解があるならば,何かもう一つ追加するような配慮をすればいいんじゃないかと思う。

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