国語施策・日本語教育

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T 言葉遣いに関する基本的な認識

 日本の言葉は永い歴史の中で,脈々と引き継がれて現在の我が国の文化の基礎を成し,さらに次代へと伝えられていく。また,言葉は我々にとって人間活動の中枢を成すものであり,人間の自己形成と充実,社会の成立と向上,文化の創造と進展に欠くことのできないものである。国語審議会はこのような認識の下に,国語が平明で,的確で,美しく,豊かであることを望み,これを言葉遣い全体の理想的な姿としてきた。
 しかしながら,現在のところそのような理想的な姿が十分に実現されているとは言い難く,世間一般では今の言葉の状況を「言葉の乱れ」ととらえることが多い(注)。その要因は,現代社会における価値観の多様化,情報化, 国際化の進展などに伴い,言葉の在り方や人間関係の在り方が大きな影響を受けていることにあると考えられる。いわゆる「言葉の乱れ」の中で具体的な問題として特に挙げられるのは,若者言葉,敬語などの言葉遣いにかかわるものである。 これらが相手や場面にふさわしくない形で使われた場合は,円滑なコミュニケーションばかりか人間関係の阻害にさえつながりかねない。
 ところで,いわゆる「言葉の乱れ」の中には言語変化にかかわる問題も多く,すべてを一定の規準に照らして価値判断を下すことには問題がある。国語審議会としては,言語の変化を客観的にとらえ,変化の過程で,ある語について新たに生じた別語形が従来の語形と併存する状態については,これを基本的には言葉の「ゆれ」としてとらえた上で,現時点でのより適正な言葉遣いを考えていきたいと考える。
 また,適正な言葉遣いを考えるその基盤には,国語を愛し,大切にする精神がなければならない。このことは,我々一人一人が言葉に関心を持ち,毎日の言葉遣いを大切にし,言語生活を充実させていくことにほかならない。今日,この精神を養うことの重要性は,従来にも増して切実なものとなっている。
 言語生活を充実したものとするには,一人一人を取り巻く言語環境を整えることも一方で重要である。「言語環境」とは,言語生活や言語発達にかかわる,文化的,社会的,教育的等の環境を言う。特に子供たちにとって,学校,家庭,地域社会,マスメディア等の言語環境が及ぼす影響は大きいと思われる。したがって,学校教育においては,国語科はもとより各教科その他の教育活動全体の中で,適切で効果的な国語の指導が十分に行われることが必要であろう。また,家庭においては,家族間のコミュニケーションが十分に行われるよう心掛け,発達段階に応じた言葉遣いの指導に留意することが望ましい。さらに,地域社会全体として取り組み,学校,社会教育機関,マスメディア等が連携して,言語環境を総合的に整えることが望まれる。
 言葉は個々人のものであると同時に,社会全体のものでもある。一人一人が人格を形成し,より良い人間関係を築き,より良い社会生活を営むためには,相手や場面に配慮した敬意表現の運用能力を身に付け,それを適切に用いていくことが大切である。

(注) 世論調査(平成12年1月 文化庁)によれば,「今の国語は乱れている」と思っている人の割合は85%に上る。

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