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V 言葉遣いの中の敬意表現
2 敬意表現の概念
(2)敬語と敬意表現
日本語の敬語は,古代から現代に至るまで種々の変化をたどりながら,一貫して人間関係を踏まえた言葉の使い分けのための言語形式として存在してきた。したがって,敬語使用は日本の社会や文化の在り方を言葉遣いの上に反映するものであり,日本人の言語生活に重要な位置を占めている。
昭和27年の国語審議会建議「これからの敬語」は,従来の複雑な敬語を廃し,民主主義社会にふさわしい平明・簡素な敬語の在り方を示した。これは当時の社会においては画期的な提案であり,これまでの国語審議会が敬語について示した唯一の見解である。
ここに示された内容のうち,「相互尊敬」を旨とすることや,過剰使用を避けることなどは現代においても継承されるべきものとして,本答申はこの考えを受け継いでいる。一方,「これからの敬語」は,敬語のみを扱っているが,本答申では相手や場面に配慮した言葉遣いは敬語以外でも行われていることに注目し,敬語に加え,敬語を使わずに配慮を表す表現も含め,「敬意表現」として扱うものである。
敬意表現とは次のようなものを言う。例えば,本を借りたいとき,親しい人に対しては「その本,貸してくれない↑」とか「この本,貸してほしいんだけど」などの言い方ができる。これらの言い方は敬語は使っていないが,前者は「〜てくれる」という恩恵を示す言葉,「〜ない」という否定形と語尾を上げることで,また,後者は「〜てほしいんだけど」と最後まで言い切らない言い方を使うことで相手への配慮を表している。一方,相手が親しくない人の場合には,「御本を貸していただけませんか」「御本をお借りしてもよろしいでしょうか」などの言い方をするであろう。両方の言い方とも相手の本なので「御(ご)」を付け,「〜ていただく」や「ます」という敬語や,「お〜する」や「です」 という敬語を使っている。さらに,前者では「〜ませんか」と否定の質問の形,後者では「よろしいでしょうか」という許可を求める質問の形をとっているが,このように敬語だけでなく,様々な言い方を用いて相手への配慮を示すことができる。
また,場面や相手の状況に応じて言葉を加えることもある。例えば,「ちょっといい↑」,「すみませんが」などの前置きの言葉や,「ちょっと読みたいので」「図書館で見付からなかったものですから」などの理由を説明する言葉である。このような表現も相手に対する配慮を表すものである。これらの言葉には「悪いけど」「恐れ入りますが」のような多くの場面で繰り返して使われる形の決まったものもあるが,場面に応じてその都度現れる形の決まっていないものもある。
このほか,状況に応じて,相手が気持ちよく思うことを言ったり,はばかられることを婉曲に言ったり,何も言わなかったりすることもある。声を優しくしたり重々しくしたりすることなどによって配慮を表すこともできる。また,手紙にするか,電話にするか,直接会って話すかなどのコミュニケーションの手段の選択も含まれる。