国語施策・日本語教育

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W 敬意表現についての留意点

[具体的な留意点]

8 敬意表現の習得の場

 敬意表現は,人間関係の把握や場面理解を前提としているため,年少のころだけでなく,成人してからも日々習得されるものである。
 敬意表現の習得は,家庭,社会,学校や,毎日のように接するマスメディアといった敬意表現の使われている環境の中で意識的あるいは無意識的に行われている。これらはいずれも敬意表現習得にかかわる場としてとらえることができる。一人一人が周りの敬意表現を内省しつつ,日々言語感覚を磨くことによって豊かな敬意表現を身に付けることができるものである。その際,敬意表現が言葉遣いの一環を成すものであり,言葉遣いそのものについての感覚や能力が敬意表現の習得を大きく左右することを再確認する必要がある。そして,このことは言語環境をいかに整えるかという問題とも密接にかかわっていると言えよう。
 外国人にとっての敬意表現の習得は,母語とは違う日本語を学ぶ中で,その使用方法を新たに身に付けることになる。このことに留意した教育が求められる。


(1)家庭・社会
 家庭は,敬意表現習得の最初の場である。大人が子供の前で敬意表現を使っていることが,子供にとっては言葉遣いの環境となっており,その中で無意識の習得が行われている。また,大人は意識的に相手や場面に応じた言葉遣いを教えたり,不適切な言い方を指摘したりすることによって子供の意識的な習得を促すことになるので,子供に接する大人は良い言語習得環境を作ることを心掛けることが望まれる。子供にとってこのような環境,相手を思いやる心,相手を尊重する気持ちを身に付け,お互いを尊重しつつ意思を通じさせる表現を自分のものにするための土壌となる。
 社会人にとっても,現実の社会生活の中で様々な場面を経験することが敬意表現の実践の場であると同時に,敬意表現習得の場である。


(2)マスメディア等
 新聞・雑誌・小説・漫画などの印刷物,テレビ・ラジオなどの放送,映画などのマスメディアや,ゲーム,インターネットもまた,敬意表現の習得の環境となっている。この環境は不特定多数の人が対象であるため,その影響の大きいことは改めて言うまでもないが,制作する側はそれを十分に自覚し,注意を払うことが望まれる。
 一方,マスメディア等の受け手の立場としても注意が必要である。マスメディアの中の言葉遣いには,敬意表現の観点から見て,場合によっては適切とは言えないものもあるので,受け手としてはそのことを十分に認識する必要がある。特に判断力の十分でない児童生徒に対しては,親や教師などの大人が指導することが望まれる。


(3)学校教育
 学校教育においては,これまでも敬語に加え,相手や場面に応じた言葉遣いなどを取り上げてきている。それはここに提唱する敬意表現と重なるところがある。敬意表現の習得は,児童生徒が相手や場面にふさわしい言葉遣いとは何かを考えることなどによってなされるであろう。このようにして習得される敬意表現は,人間と人間との関係の中で,互いの立場や考えを尊重しながら言葉を通して適切に表現したり理解したりするカを育成し,社会生活を心の通ったものにするための基礎となるものである。
 以上の趣旨を踏まえ,敬語を含む敬意表現を習得するための指導を充実させることが期待される。


(4)外国人に対する日本語教育
 日本語教育においても,いわゆる敬語の枠組みにとどまらず,敬意表現という観点からの教育が望まれる。その際,敬意表現のような言葉遣いは他の言語にも見られるものであることを学習者に示し,日本語と他の言語との異同を十分に把握して教えることが望まれる。学習者が敬意表現を適切に使う能力を身に付けるには,具体的使用の場面に即して学習することが大切である。そのための教育上の工夫が必要である。

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