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次第 当用漢字音訓整理に関する主査委員会

音訓整理主査委員会委員長報告(安藤委員長)

 本委員会が当用漢字の音訓の整理を使命として組織されましてから,ここに約10か月,主査委員会を開きましたのは昨年12月24日を第1回といたしまして本年9月4日までに29回,この間委員各位の終始変らぬ御熱意と御精励とによりまて,ここにお手もとに差し出しましたような成案をうるにいたりましたことは,まことに本懐に存ずる次第でございます。
 さきに公布されました当用漢字表が,わが国民の文字生活の簡易化平明化を期して制定されたものであることは,今さらに申しあげるまでもないのでございますが,字数の制限だけでは,この簡易化平明化の目的を達成させることが困難であることも一般に認められているとおりであります。漢字の国字としての複雑性は,主としてその運用の上に存しております。一つの漢字にいろいろちがった音やさまざまの訓があることは,それをどういいわけるかを考える上からも,むずかしいこととなってまいります。1字多用は便利なようではありますが,実際において不利であります。1語多字はことばの分化が伴わぬゆえに不合理であります。漢字の国字としての使用を一般的のものとし,国民をしてとくに漢字を読ませ書かせるようにしようとするならば,今までのように漢字の音訓を野ばなしのままにしておいてはならないのであります。漢字の音訓の整理は,この意味において重要性をもつものでありますが,これはまたある程度において,従来の書記習慣をかえることになりますから,そこに少なからぬ困難が感じられます。しかしながら,これをおしきらなければ漢字の運用の合理化はのぞまれません。主査委員会が鋭意この整理案を作成いたしましたのも,もっぱらこの認識にもとづいております。
 漢字の音訓の整理を問題とするに当りまして,われわれがまず考えなければならないのは漢字の音訓の性質でありますが,これは中国におけるのと,わが国におけるのとでは多少の差異があります。まず字音について申せば,中国における漢字の字音なるものは,要するに,その漢字によって示されることばの音韻の1群であります。字音とはよばれているものの,これはことばの音訓成分であり,1語をなすものであります。このゆえに,中国にあっては,原則的にはすべての漢字には字音がことなっており,字音に古今の変,南北の差があるというのは,ことばの音に時処の相異による変化のあることを意味するのでありまして,漢字と字音とは有機的のつながりをもっております。しかるにわが国における漢字の字音なるものは,もと本土の字音をそのままにうけ入れたものではありますが,その歴史的過程において,文字と字音との有機的のつながりがようやくうすらいでまいりまして,現実においては,だいたいそれは漢字の音用の場合に即しての音に過ぎないという程度のものになっております。本邦の造字はもとより,中国伝来のものでも,その音用されないものが字音を欠いているのは,このゆえにほかならないのであります。「梅」字のバイ,「花」字のカ,「観梅」「花月」「梅花」の上において,はじめて字音があらわれてまいります。これらの文字は,単独では音用されないのであります。バイとカが結びついて,バイカという複合語ができたのではなく,「梅花」をバイカという字面に即して,バイやカが字音として認められるのであります。「国連」の場合は,「国際連合」のコクとレンとを結びつけたものでありますが,これも同様に単独では音用されません。「信ずる」「感じる」のようなものも単用とはいえません。ここに単用というべきものは忠孝仁礼のような類であることによっても,字音の国語における地位をうかがうことができましょう。「請願」「起請」「普請」における「請」字が,セイ,ショウ,シンの三つの字音をもっているようなのも,やはり音用の場合に即して考えられるべきなのであります。要するに,わが国における字音と漢字との関係は,文字そのものとは遊離の状態におかれてきたのではないかと思われます。漢・呉・唐・宋の音がならび行われ,慣用音というものや,有職よみ,百姓よみなどが行われていたのも,こういう関係からでございましょう。字音の考察に当って,そのわが国における音用のいかんに重きをおかなければならないのは,このゆえであります。
 つぎに,わが国で字訓といわれているものも,中国で字訓といっているものとは,少しくちがっているようであります。漢字は多義であります。それでその多くの字義のうちから,文章に即して,ここではこの字はこの意味であると解する,その場合に応じて与えられた意味が字訓であるとの解釈がありますが,わが国で普通に字訓といっておりますのは,漢字の多義のうちのある種類のものに相当する国語のことばの,その漢字に結びつけられたものであります。この場合の字訓の成立は,国語のことばとの結びつきの程度のいかんによって左右されます。わが国でよくつかわれている漢字で字訓を欠いているもののあるのは,このためであります。字義と字訓とをわけて考えること,字訓の今昔・死活を識別することは,字訓の整理に欠くことのできない用意であります。
 つぎに,われわれの考えなければならないのは,音訓の整理は何を目標とするかでありますが、さし当ってわれわれが解決しなければならないのは,わが国民の文字生活を平明にし簡易ならしめるための音訓の整理であります。したがってこの場合において,われわれが忘れてならないのは,われわれはわが国における漢字の音訓を対象としているのであり,わが国における漢字の運用を問題としていることであります。事が中国伝来の漢字に関するので,ややもすれば,われわれの所見が,その本国における研究の成果や慣用の歴史などにひかれて,国字としての性格を無視するような判断をくだすおそれがないとは申せません。これもまた音訓の整理に際して,注意を要する重要な点となります。

 なお漢字の音訓の整理につきましては,今までにいろいろの説がでております。まず漢字は音用のものだけ認めるという,きわめてあっさりした意見もあります。しかし,これは実行に縁が遠く,社会は容易に耳を傾けまいと思います。つぎに,漢字の音訓は1音1訓ぐらいに制限したらどうかとの説もあります。しかし,これもあまりに公式的のもののように思われます。実際についてみますと,漢字のうちには1音1訓ぐらいですむものが相当にありますが,それらはだいたい整理を要しないもので,整理を要するようなものは,そう簡単にはかたづきません。委員会におきましては,以上のいろいろの点を念頭におきまして,第1に,一つ一つの漢字の音訓の性質を明らかに認識すること,第2に,音訓のそれぞれについて一般的のものと特殊的のものとを見わけること,第3に,一般的のもののうちから基準的のものをえらびだすこと,第4に,音訓の指示に適正を期することを整理の心がまえといたしたのであります。
 右のような立場から申せば,字音については,それが漢音か,呉音か,どこの音であるかどうかは,たいした問題ではないのであります。字訓についても,それがむかしからのものか,昨今の新しい訓であるかも,しいて問うには及びません。考察の重点はそれが現代の国語のうちにどういう地位をしめているかにおかれますので,その音なり訓なりが現代において生きており,広く行われているということが採択の条件となります。しかしさらにそれが広く行われているというだけでは,採否はきめられません。文字の運用の上から,ことばの表記の上から,それを存しておくのがのぞましいかどうかの見とおしをつけ加えなければなりません。
 本委員会は,だいたい右のような考え方,右のような立場から,当用漢字1850字の音訓の整理を試みたのでありますが,その結果について申しあげますと,まず大きくわけて訓専用のもの(30)音専用のもの(844)音訓両様のもの(976)の三つにわかれてます。


(一)

 訓専用のものは,字音をみとめるには及ばないものであります。全体の漢字について申せば,訓専用のものははるかに多いのでありますが,この種のものの多くは,当用漢字選定の当時においてすでに不採用と
なっております。
 和字といわれる「峠」「込」はもとよりです。「卸」「届」「扱」も今までももっぱら訓用のもの「咲」「刈」「繰」「蚊」「芋」「芝」「畑」「沖」「滝」「瀬」「矢」「姫」「娘」「津」このうちにはたまたま「急瀬」「矢石」「美姫」「娘子軍」「要津」などのように音用の例もあるが,現代には縁の遠いものであります。
「且」「又」「但」「虞」も字音を問題とするにはおよびますまい。
 訓の整理については,後の1条に一まとめにして申しあげます。


(二)

 音専用のもの 訓用のみとめられないもので,これにはいろいろの場合がありますが,要約すれば二つになります。
 その1は,元来その漢字が訓をもっていない,すなわちその漢字の字義に相当する国語が字訓として与えられていない場合であります。
 「俳」「曜」「棒」「款」「気」「稿」「糖」「胴」「般」「賃」「隊」「題」「魔」

 その2は,その訓として与えられていることばが,あるいは古すぎたり,あるいは解釈的であったりしているために,社会的に広くみとめられない場合であります。
 音専用のもの

 音専用のものの これについては,つぎに一まとめにしてのべることにいたしました。


(三)

 音訓両様のものの字の音の整理についてはつぎのようなことが考えられました。


 (1)漢呉唐などの音の区別にかかわらないこと。
 漢呉唐などの音の区別にかかわらないこと


 (2)普通音と特殊音ある場合に,ことばとの関係に即して孤立的にあらわれるのかどうかを考えわけること。
 普通音と特殊音ある場合

つぎに,字訓の処理については,つぎのようなことが考えられました。


 (1)古訓の整理 古い時代に与えられた訓のなお今日につきまとっているのを整理すること。
 古訓の整理


 (2)解釈訓の整理
 解釈訓の整理


 (3)同訓の整理
   異字同訓のものの整理は,もっとも重要な問題であります。
 同訓の整理


 (4)かな書きの法則による訓の整理
 かな書きの法則による訓の整理


 (5)あて字訓
   今日 きょう 昨日 きのう 煙草 たばこ


 (6)特殊訓のあるものを認めること
   「日」か「重」え「路」じ


つぎに申しあげるべきは,使用上の注意事項についてであります。

     (以下略)

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