国語施策・日本語教育

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次第 議事

安倍会長

 音訓表について質問はないか。

春日委員

 異字同訓の整理には賛成だが,異字同訓すべてにわたっての精密な調査表ができていたか。

安藤委員長

 相当にしらべてある。

春日委員

 正確にしらべてあればよい。

委員長

 欠陥のないように調べるとなると,相当の時を要する。

春 日

 使用上の注意に,自他両様につかってさしつかえないとあるが,表のかかげ方に一定のきまりを決めた方がよい。

会 長

 意見はあとにして。今は質問のみにとどめたい。

春 日

 自他のあげ方にきまりがあるか。

委員長

 だいたいある。普通に多く使われていることを目安にした。

春 日

 わたくしが見たところ,あまりきまりよくでていないように感じられたものがある。熟字の場合,1字1字の訓でない読み方については考えられたか。

委員長

 考えた。こういうふうな使い方は望ましくないという方針である。

春 日

 その方針がはっきり表わされていないようだ。

会 長

 別表について質問はないか。なければ議事に移りたい。

倉 石

  1. 別表中にみえている漢字の中に,まだへらしてよいものがありはしないか。たとえば,天の「あめ」などのような旧訓がとってある。また,新しい訓と思われるもの,たとえば,怒の「いかる」をとって「おこる」がすててある。
  2. つぎにあて字の問題として,不必要なものを採らないことは賛成である。はっきりあて字といえる柄の「がら」などがとってあるが,これはすてるべきではないか。
  3. 異字同訓もまったくはぶかれたのではないとすれば,善にも「よい」という訓をとったらどうか。善と悪などのように対照的なことばは,覚えやすいものである。
  4. 特殊なものとして,普請(フシン)は,多少古くなっていることばであるし,漢字をあてる必要はないと思う。
  5. 副詞的なものをはぶくのは当用漢字表の方針であるが,ここに「全く」が訓としてとられているとすれば「専ら」「先ず」などは,今日の状態として認めてはどうか。

委員長

 新旧の間に一線を画することは,なかなかむずかしい。
「おこる」をとるかどうかということは,危の「あぶない」をすてるかどうかというのと伯仲する問題であると思う。御意見は将来の参考としたい。

石黒委員

 当用漢字の音訓を整理されたのは,仏に魂を与えたものである。
音訓の整理は,わたくしも持論として,かつて調査したものがある。
それを比較して,この表がよくできていることを感ずる。一,二こまかい点で,自分の考えを申しのべたい。

  1. 現在として候文は,公用文としては用いられなくなってはいるが,なお一部では実際に相当に行われている。この音訓表の発表によって,候文を認めないとするのでないのならば,候に「そうろう」到に「いたす」仕に「つかまつる」の訓を一応認めてはどうか。
  2. なお,憲法に使われているため採用されたものがいくつかあるが,但(ただし)再(ふたたび)又(また)且(かつ)などを認めるとすれば,或(あるいは)例(たとえば)即(すなわち)も認める。これらを認めないとすれば,前のものも認めないことにした方が,この際よくはないか。
  3. つぎにへらしたらどうかと思うもの,穂の「スイ」渋の「ジュウ」,これらは語いとして多少あるにはあるが,ほかとのつりあいで,なくてもよい。
  4. 当用漢字が,国民常用の漢字の標準となるとすると,名前もそれによってつけることになるが,名前のつけ方の指導的なものが,発表されるならばとにかく,忠に「ただ」義に「よし」定に「さだ」博に「ひろ」をあたえることを考慮する必要はないか。

委員長

 固有名詞に関しては別途に考慮することになっている。

会 長

 音訓表について,ほかに御意見があればうかがいたい。他にないようだから,これについてはだいたいみなさんの同意を得たと了解してよろしいか。

前田委員

 これは非常によく調べてあって結構だと思う。将来なお時々これを再整理されるつもりか。

委員長

 そのつもりである。

前 田

 趣意書きにはなるべく世間にひろめて使用するものとあるが,一例をあげると,役のエキという音は広く使っていない。かような例がだんだん見られるようである。後に整理されたら結構だと思う。

木下委員

 生と産との区別は,医学関係では困った問題で,先月の学界でも新生児と新産児との間に議論があった。婦人科としては死んで生れても,新生児という。この際,生児とはいい難いのである。産にもうまれるという訓をとって,視・聴などと同時に二つの使いわけをはっきりさせる方法が別に考えられるように望む。この音訓表はだいたいにおいて非常に結構であり,この趣意に賛成する。

春日委員

  1. 異字同訓の整理はたいへんよいことだと思う。徹底的に異字同訓のものを集めて,しっかりと決められた方がよい。
    異字同訓の表が別にあってもよいと思う。
  2. 訓の書き方がまちまちすぎるようだ。詞の自他も一定の方針で掲げられた方がよい。
  3. 「今日」「煙草」のような熟字としてもまれで,訓でよまれないものは使う主義か使わぬ主義かをはっきり示した方がよい。

委員長

 漢字のいろいろのことに関する研究は,もっと大きな規模の研究機関によって遂行されねばじゅうぶんな自信を持ちうるような仕事はできかねる。音訓整理や義務教育用漢字の制限は,当用漢字表のまず字数を制限した後をうけての応急の方策処置であって,本当に漢字の整理を円満ならしめるためには,もっと大きな調査機構ができなければならぬというのが,われわれの懸案である。そういう意味で案の将来の整理に対し,いろいろ御注意御批判をいただいたことを感謝する。なお,発表の場合,当然整理さるべきものがあれば,御注意により処置したいと思う。

石 黒

 若は「もしくは」とあるのは「もし」と使わせないためと思うが,更(さらに)並(ならびに)に,「に」までつけることについては,使用上の注意事項にも書いてない。

委員長

 これらは,普通に使用されている形を掲げたのである。

会 長

 そのほかの意見はないか。

木 下

 医学の方面では,当用漢字の範囲で,術語を改めることに努力しつつあるが,いいかえられないものがある。産ジョクのジョクがないが,衣ヘンあるいはクサカンムリどちらでもよいから活用されたい。

委員長

 それは当用漢字表にもない。専門用語では,各界ではさような問題があると思う。

西 尾

 現代かなづかいと当用漢字表に対しては,発表以来時がたつにつれて使用し協力するという方向で国字問題の解決に進んでいるように見受けられる方面もあるが,また反対の意見も発表されてきている。反対意見の中には,審議会の意向に対する誤解としか考えられないものがある。今度の案も,別表のまえがきには,「義務教育の期間に読み書きともにできるよう指導することが必要であると認めたものである。」とあり,音訓表のまえがきには「今後使用されるべき漢字の…」とあり,両者の間に心持ち,心構えが違うように思う。「認めたものだ」とするか,「すべきだ」というか,どちらかに統一すべきではないか。強制されることはいけないという意見に対して,発表の仕事が大事である。

国語課長

 この案が答申された場合には,発表は慎重にしたいと思う。新聞発表については,前もって記者諸君と打合せをするはずで,明日または明後日正式の発表に先立って記者クラブに説明し,解説の材料も用意する。1日正式に新聞発表。全国いっせいにまちがいなく発表されるようにするつもりである。

西 尾

 この文句は今日強制されるもののように感じられる。具体的な強制法を明示しないで,文句だけで強制するのはよくない。強制するのかしないのか,真意をはっきりさせる方がよい。

会 長

 ほかに意見はないか。――なければ,音訓表は御賛成を得たものとする。今までの御意見は,発表の際に考慮したい。さような運びにゆかぬものは将来の改善に資することにする。つぎに別表について意見をうかがいたい。

竹 村

 義務教育の9年間に正しく教えておきたい漢字がいくつかあるわけだが,当用漢字の中の簡単なものはぜひいれていただきたい。別表に刻の字がないが,時刻として正しく義務教育期間に教えておいていただきたい。われわれ時刻と時間の区別をとかくまちがえがちである。

委員長

 時間と時刻とについてはしばしば論議されたが,刻は応用の範囲が狭いというので,第1段階では入れないことにした。お話の点は将来の参考としたい。

石 黒

 別表の中でいらない,はぶいてもよいのではないかと思うのを2,3あげると,創・似・厳,この三つは使われている状態をみると,はぶいてもよい。反対に入れたいのは割で,使用の状態は創にくらべると比較にならぬほど多い。湖・池ははいっていて湾がはいっていないが,これもよく使われるのではないか。現在としていれたいものは,他に裁警などがある。

委員長

 創は創造などの使用上から,似は1音の語として採り,割などはかな書きでよかろうというのではぶいた。要するに,漢字でよく目にふれるものではぶいたのもあるが,読み方を教えないというのではなく,読むことも一方に考えているから,これらは読ませる方にいれたのである。御注意はじゅうぶんに承っておく。

石 黒

 音訓が整理されるとともに,送りがなの整理が自然行われることになるが,この機会に審議会としても一応の標準をたてることを考慮されないか。

幹事長

 送りがなについては,国語課の方で,先般来成案をねっている。いずれ近く審議会で御審議願うつもりである。

松坂委員

 わたくしはこの前当用漢字表制定の時に,これらは単にきめただけでは,円滑に実行されぬから積極的に各方面の支援を得るよう努力することを提案したが,結果をみると予算の関係もあろうが,ほとんど実際努力がされなかったように思われる。今日の文壇の一部の反対も,当局の積極的方策が講じられていないからだと思う。かように不満の声のある際に,ちょうどこの総会が開かれたのであるが,別表なども,当用漢字をさらに制限し,統制を強化するものと単純に誤解する危険が多い。側聞すれば,相当額の国費をさいて国語研究所が設けられる由であるが,これが活発に活動することは,なお,時間を要し,急の間に合わない。真意を一般に理解させるという方面にじゅうぶん考慮をはらうことを当局に要望するように,付帯決議をしていただきたい。

国語課長

 普及徹底の努力の不足については,そっちょくに申して責任を感ずる。しかし文部省としては,答申されたものを施行するのは,一般に強制するのではなくて,政府部内でまず実行してみせるべきだという見解のもとで,かなり努力したつもりであり,また努力したいと思う。民間の普及徹底については,主査委員各位もいっしょに御協力願いたい。具体的には,近く主査委員会関係者と文芸家とのこんだんの機会をつくる計画もたてている。役人としての立場には一応の限界,段階があり,普及徹底には委員の御協力を願いたい。

会 長

 松坂氏の提案は文部当局に対してか。

松 坂

 そうである。

会 長

 それに対して御意見はないか。別表について御意見はないか。それでは異議のないものと認めてよいか。異議のないことと認める。
 いま松坂氏から提議のあった点は,みなさんの御希望だと思う。審議会の各位も協力していただきたいが,当局に対して要望することもたいせつであるから,これを付帯決議としてよいか。(賛成の声)それでは文案は別として,これを付帯決議とする。
 委員長報告の最後にあったが,漢字整理はこれで終ったのではなく字体整理の問題も残っている。ひきつづき今までの委員の方々にやっていただきたいが異議はないか。
 異議のないものと認める。御多忙中おいで下さって種々御意見御審議をいただきありがたく思う。
 こういう仕事はいろいろ御注意があったように,なかなか客観的に衆人のみとめるものを作りあげることはむずかしい,さらに研究の要がある。生きている現代語の整理合理化をはかるとともに歴史的研究をして,その上に国語問題のしっかりした政策・方策を立てなければならない。そのために国語審議会としては,国会に国語研究所の設立を請願している。当局も賛成して千万円の予算を立て,明日参議院文化委員会でわたくしが代表として説明することになっている。現代日本が連合国ことにアメリカの指揮のもとに万般のことをやっているのはやむをえないが,文化は一朝一夕にできたものではなく,他国人にはまかせられぬ微妙な問題がある。特に国語がそうである。アメリカ人がちょっと日本語を習ってむずかしい,もっと簡単な日本語に改造したらなどというと,それを原因に迎合する日本人もあるが,そういうことなくみずからしっかりした研究の上に問題を解決していきたい。その意味で国語研究所の設立を希望するのである。しかし研究所が設立されても実行機関としてはこの会はつづくものと考えるので,なお御協力を願いたい。

委員長

 くわしい御指導御意見は文書でお送り願いたい。

会 長

 どちらへ。

幹事長

 審議会へ。

 答   申

昭和22年9月29日

 文部大臣    森 戸 辰 男 殿


国語審議会会長  安 倍 能 成

 第10回総会および第12回総会の決議にもとづき,調査中でありました義務教育用漢字と当用漢字の音訓の整理については,別冊「当用漢字別表」「当用漢字音訓表」のごとき成案を得ましたので,慎重審議の結果,これを議決いたしました。右答申いたします。

安部会長

 なお,次の付帯決議が採択されたので申し添えます。
 本案の実施にあたっては,当局において極力その普及徹底に努力せられるように望みます。

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