国語施策・日本語教育

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次第 議事

〔議  事〕

(記録 武宮)

(林幹事から国語審議会令案の条文について説明があったのち)

会 長

 御質問なり御意見なりがありましたらどうぞ。

金田一

 専門調査員は委員の中からえらぶのか。

会 長

 別である。

金田一

 国語研究所との関係は。

会 長

 研究所は学術的調査,審議会は方策の審議を目的とし,限界をはっきりする。しかし審議の必要が生じた場合,むろん連絡は保たれる。

時 枝

 研究所は審議会の改組を考えにいれて立案したが,専門調査員は,研究所の調査研究とは別個のものか。

会 長

 しかり。

時 枝

 実際には密接な関係があるはず。

会 長

 国語審議会は,研究所の研究をとりいれ,それを材料として方策をたてる。しかし,方策に関して特別に審議の必要のある場合,専門調査員を置きうる余裕を残しておかないと,実際の仕事の運営に不自由不便を生じる。

紺 野

 審議会自体が,改組の問題を審議し,案を作ったりするのは,自分のことを自分でおぜん立てをしたり,意見を述べたりするわけでおかしい。外部から何か議論がでたか。

釘 本

 第3国会で国語研究所設立の審議の場合,国語審議会の改組を希望する論がでた。最近は朝日新聞の記事(4月10日)がある。

会 長

 これから令案について逐条審議に移りたい。

(第1条)

前 田

 方策という点を具体的に説明願いたい。

会 長

 たとえば,国語研究所で片かな平がなの優劣を学術的に調査する。その結果に基いて,平がな1本あるいは片かな1本にするようなことは,審議会でとりあげることである。仮に平がなにきまっても,社会的事情を考えて時期を決定するなどが方策である。また,ローマ字がよいとの結論がでても,国字をローマ字1本にするのは早いとか,おそいとかいうのが,この審議会の仕事ではないかと思う。第1条について御異議がなければ決定したこととする。

(第2条)

佐 伯

 国会との関係はどうか。文化委員からも政府に対する勧告がでると思うが,国会の勧告は強制力はあるが,審議会のは単に文部大臣に対する勧告程度か。

会 長

 政府に勧告というのは,文部大臣以外をも含める。

稲 田

 国会の意志が法律となれば,各省大臣は忠実に実行しなければならぬ,勧告については,各省大臣はその意志を尊重しなければならないが,実施に当っては,法律で与えられた権限内で適宜処理していくものと思う。
 (C.I.E.Mc.Grail氏来会,安藤会長から紹介。)

会 長

 第2条可決と認める。

(第3条)

滝 口

 原案の「産業」を「経済」と修正し,委員の順序を政治・経済を第1とし,報道をいちばんあとにして「など」を入れると,この項目以外のものも含まれて範囲が広くなる。

佐 野

 このままでもよい。これだけ並べればたいていのものが含まれる。修正意見についてもなんら不賛成はない。原案を作られた時の法律的意見を稲田委員から承りたい。

稲 田

 どちらでもさしつかえない。

佐 野

 原案に賛成したい。

松 坂

 産業としたのは,勤労大衆を含んだのである。報道などはでき上がったものを報道するのであるから,下でもいいという意見はどうか。原案は,報道関係を尊重したい考えであった。

会 長

 原案をお認め願いたい。(賛成の声,可決)

(第4条から第7条までも異議なく可決。)
(第8条)

時 枝

 研究所の任務機能と重複しないか。できるだけ異なった機能をもって補ってはどうか。「国語研究所に委嘱する」を加えてはどうか。

会 長

 委嘱する場合もある。審議会には下部組織がないから,必要を生ずる場合がある。

時 枝

 調査員をおくのは例外的で,原則的には国語研究所を通すべきだ。

稲 田

 研究所の仕事として貴重な資料がでた場合,文部大臣に報告し採用する。しかし,たとえば字体の審議の場合,学術上でない(印刷・出版等の)専門調査員が必要ではないか。お互いに尊重し合って審議会の規定を考えなければならぬ。

時 枝

 改組の目的が今までの審議会の機能を批判していくのであるから,研究所との関係を考えなければならぬ。了解ずみといっては,将来に禍根を残すのではないか。

関 口

 時枝氏の意見に賛成。専門調査員の任期がない。「臨時委員の任命は委員の場合に準ずる」とあるが,何に準ずるのか。

会 長

 第3条に文部大臣が命ずるとある。細部については,各界代表から推薦していただいて文部大臣が任ずる。

稲 田

 わたくしは原案者ではないが,第3条に準ずるものと思う。

関 口

 関係官吏の中から任ずるというのではないか。

 専門の関係官吏の中からも,もちろんはいるが,ある専門分野からと了解する。

釘 本

 審議会で当用漢字字体表を採用したが,前の会では,特別の委員(書家,印刷技術・活字の専門家など。)がなかったため,特別の機構を作らなければならなかった。

関 口

 第3条にじゃまをさせられることさえなければ結構。

釘 本

 条文をはっきりせよという御意見か。

時 枝

 釘本氏のはなしは,第6条第8条に通ずることである。審議する意味で専門調査員をおくのはよい。「必要あるときは臨時に専門調査員をおく」としてはどうか。

釘 本

 国語課の能力に限りがあるので,審議会に必要な議案を作るための準備に専門調査員をおく。ただし,発言・投票はしない。

関 口

 国語研究所の人がはいることもありうるか。

釘 本

 ありうる。

古 垣

 「専門の事項を調査させるために」とすると,国語研究所と衝突する。「専門の事項を準備させるため」としたらどうか。

佐 伯

 国語研究所の官制は知らないが,審議会から委託されたことを調査する義務があるというような条文があるのか。

会 長

 ない。

滝 口

 「国語研究所に依頼することができる」とつけ加えてはどうか。

会 長

 条文に入れることはどうかと思う。「専門の事項を調査させるために」という文句がでているが,審議会の機能である国語政策決定に必要な審議をする場合に限られているから,このまま承認を願いたい。

時 枝

 それは通らないと思う。

会 長

 国語研究所は立案の資料を調査するテクニックの問題になると審議会でとりあげる。したがって人手が必要になる。

松 坂

 研究所は短日月に急いでまとめることは不可能。とりあえず急ぐ問題が次々と起ってくる。研究所のスタッフの能力は限られている。字体・タイプライタ・公用文横書きなどの問題に,ただちに対応する態勢ができていない。とっさの場合,研究所スタッフの持っていない要求に応ずるために,専門の人手がいると思う。

時 枝

 早急を要するから研究所にまかせられないというのはどうか。いくら急いでも研究所という立派な機関を通すべきだ。スタッフがなければ充実すべきである。早急にやることが今まで審議会のあやまちを犯した点である。

石 黒

 時枝氏に賛成。松坂・時枝両氏とも研究所の能力をよくわかっておられるはずだ。専門調査員をおくことはあってもよいが,研究所との関係をはっきりさせる条文をどこかに入れてはどうか。

会 長

 マック・グレール氏の時間の都合により、ここで同氏のお話を伺うことにしたい。

Mc.Grail氏の話の概要

「本日の会に出席したことをうれしく思う。通訳を通して皆様の話をきくと,わたくしのかねがね思っていたことが多い。本日は二つの重要な問題がある。一つは国語研究所と審議会との機能をはっきりさせること。一つは新しい令案が民主主義的に考えられているということである。日本の国語問題は日本人の手にゆだねられている。わたくしは日本の国語について何の知識もないが,審議会のお手つだいには喜んで当りたい。審議会の過去の業跡を立派だと思う。将来もその尽力を信じて有望のものと思う。どこの国の国語もその国の文化と密接な関係がある。国語と文化との間に変更をきたすことはむずかしいが,審議会で危険のないように健全な審議を希望する。会長・副会長・その他皆様の将来の活動を大いに期待している。」

会 長

 マック・グレール氏のお話に感謝し,再び条文の審議にもどりたい。「専門の事項を調査させるために」はいろいろ問題になったが,「必要あるときは」としてはいかが。

土 岐

 時枝氏の発言があったが,小委員会ではじゅうぶん議を尽したもので,両者の運営がうまく書いてあると思う、46人の委員はそれぞれ各界の代表者であるがなおそれでも必要のあるときは臨時委員をおく幅をおいてある。たとえばライノタイプの可能性を調べる場合,委員ではわからないとき,専門調査員は審議会の同意を得て,文部大臣が命ずるとあるが,運営上よいと思う。国語研究所の研究は,学術的に信用をおけるものであって,実際に行えるかどうかは審議会独自の調査を必要とする。審議会の権威のためにこのような下部組織が必要。国語研究所にすべてを任せてしまうのは,あまりに研究所にかたよりすぎる。原案を妥当と認める。

会 長

 「専門の事項を調査させるために」の文句が,いかにもよその範囲を犯すように誤解されるのであろう。

土 岐

 臨時委員以外のもっと専門的な調査を必要とする場合もあるという大事をとったのである。産業・報道と密接な関係がある。政策を実際に移す場合,学者だけに任せておかないという考えである。今までは実際的な問題に行き当った場合に行きづまるという傾向があった。

松 井

 「専門」というのが国語の専門と抵触する。専門を「特殊」とすれば和らげられる。

時 枝

 国語研究所の仕事は学術研究と同時に,もっと広い見地に立っていくべきである。専門調査員はむしろ国語研究所の中におくべきである。

石 黒

 土岐氏の説は納得できない。審議会の使命は国語および国語教育改善の審議をするにある。調査の方は委託すればいい。同じような調査機関を設けて,同じ問題についてちがった結果がでることもある。両者の関係を条項の中にいれることがむずかしければ,付則にでもして関係を明らかにしてはどうか。審議会は審議機関とすべきである。

古 垣

 修正案「国語審議会はその審議に当って専門の調査を必要とするときは専門調査員をおく。

藤 森

 大体賛成。ただし,審議会と研究所との機能が混同されている。国語教育の方策を審議するに必要な場合に,古垣委員の修正案をいれてはいかが。

佐 野

 国語研究所は審議会の下部組織ではない。審議は研究所の範囲をおかしてはいけないという制限もいらない。専門の事項についての疑義も何とかしたらいいと思うが,第8条の趣旨は必要。文字上の疑義は副会長の修正意見で疑義がない。

土 岐

 「審議に当り」の文句はいわなくてもわかる。

古 垣

 原案のままだと研究所と重複する。

土 岐

 両者の結果が対立することも予想される。研究所をうのみにするなら審議会は不必要。

古 垣

 対立は結構だが重複は避けたい。

時 枝

 うのみにするのではない。審議するのである。

佐 伯

 運営の面で調節すべきで,条文に書くのは不必要。あらゆる研究所で横の連絡がないのが今までの欠点。国語の研究が国語研究所の一点に限られ,他に研究機関を設ける必要はないということはない。土岐氏に全面的賛成。

滝 口

 土岐氏に賛成。研究所で方針がきまって,審議会との関係がはっきりしていればいい。

会 長

 審議会の令案に,国語研究所のことをうんぬんするのはおかしい。「審議に当って専門の調査を必要とするときは」とし,副会長の提案を承認願いたい。(賛成)

会 長

 副会長の修正案を承認することとする。

(第9条)

会 長

 第2項削除。文部省がわの意見は。

釘 本

 結構。

会 長

 第2項削除して承認。

(第10条から第13条まで,異議なく可決)

会 長

 以上で令案全部承認を得たことと思う。
 次に御協議願いたいことは,改組案実行の準備として,新委員会をどういう組織にするかの問題である。

  1. 今までの委員会を継続して,新たに国会の方に参加してもらうか。
  2. 今までの委員会を解散して,新しく委員を選挙し,それに国会の方に参加してもらうか。

会長,副会長,委員10名,衆参両院から2名,計14名ぐらいではどうか。

藤 森

 時期を急ぐのか。

会 長

 急速を要すると思う。国会からの参加はどうか。
 (結構の声)

会 長

 御異存なければそうきめる。委員の選定は選挙にする。会長,副会長を除いて10名選出していただきたい。

稲 田

 文部省の者が委員に加わらないように願いたい。
(選挙は10名連記で無記名投票,佐野,時枝両氏中途退席のため投票者総数25名。次の10氏当選。)

1  時枝  委員 2  佐野  委員    
3  有光   4  金田一 
5  松坂   6  石黒  
7  池上   8  藤森  
9  原(富) 10  土岐  
  (名簿順)

会 長

 令案につき多少字句(意味を変えないていどの)の修正はお認め願いたい。

松 坂

 昨年6月1日総会決定の第2次簡易字体が先日閣議決定になったと聞くがどうか。

釘 本

 3月25日に正式に決定。内閣告示訓令で官報に発表のため,目下印刷局で印刷中。

会 長

 委員会の開会は追ってお知らせする。委員会の名称は何とするか。これも適当に考えさせていただく。

4時半閉会

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