文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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研究報告
Aグループ研究報告 座長:佐々木 隆一
Bグループ研究報告 座長:森田 貴英
Cグループ研究報告 座長:久保田 裕
Dグループ研究報告 座長:斎藤 ようこ

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Dグループ研究報告 座長:斎藤 ようこ
斎藤 よろしくお願いいたします。電通アカウントプランニングソリューションの斎藤ようこです。

Dグループは、この研究会が、「次々世代」ということでしたので携帯ビジネスに帰着するだけではなく、「次々世代」のコンテンツということを考えることにし、思いっきりどこまで議論を飛ばすことができるかに挑戦をさせていただきました。

Dグループのメンバーは、ネットワークメディアマーケティングコンサルタントの面川真喜子さん。面川さんとはデジタル時代のマーケティングと流通をテーマに約10年以上一緒にレポーティング作業をしています。前のグループの先生方もマーケティングと流通の必要性を語られていましたが、デジタル世界におけるマーケティングの困難さということについてはともに苦労をしてきました。

それから、後藤富雄さんは現在は中川特殊鋼株式会社の理事で、NECにいらっしゃった頃、神戸で開催された「TED4神戸」(テクノロジー・エンターテインメント・デザイン)のフォーラムでご一緒させていただいたご縁から、今回はものづくりの現場からアーティストを支援する活動をずっと続けてこられた方としてご参加いただいております。

アーティストで帝塚山学院大学人間文化学部助教授でいらっしゃいます椿 昇さんにもご参加いただいています。実は椿さんは先般まで女子校の先生をしてらして、私とすると新しい文化の牽引役の女子高生をどう教え、どういうふうに情報収集されてきたのかということをお聞きしたいと思って、椿さんにお入りいただきました。

それから、(株)スタインバーグジャパンの村井清二さんですが、当然音楽の世界というところでオーサリング作業を通じてどのようなマーケティングと流通があるのかということで、お話をお聞かせいただきした。音楽の世界にかぎらず、芸術家のおかれている環境についても詳しくお聞かせいただいています。

それから、森脇裕之さんですが、多摩美術大学助教授でいらっしゃいますけれども、有限会社モリワキットジャパンという会社をつくられて代表取締役をされています。既にアーティストも会社を起こし契約をもとにして作品づくりをしないといけないという、その苦労話をお聞かせいただいています。

このメンバーは、それぞれに業界をみながら、この苦境に、痛みを分かち合うというようなDグループでした。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
私自身の最近のお話をさせていただければ、テーマとして『IT』を追いかけるというよりも、『中国』の方へ興味をシフトさせています。携帯ビジネスひとつをとってみても、中国市場における日本の携帯ビジネスの限界というようなことをちょっと感じていまして、その次に何があるだろうと思ったときに、エージェント機能とかサーバント機能ということを考えまして、それで日本の国力、日本のソフトという観点で、日本のソフトパワーを発揮できるものはないのかを模索しています。そのときに、人型ロボットというところに行き当たりまして、実は昨年パリの国際交流基金でロボット展があったことにすごく興味を持ち、そこで作品を出されている椿さんら、アーティストが発想する新しい視点に救いを求めたい気持ちになり、この研究会の機会を得たという次第です。

日々、携帯のビジネスモデルとかコンテンツというところに集約し、携帯で課金をするビジネスモデルをいかに超えられるかということをずっと考えているんですけれども、そのときに携帯に集約される「五感」とかというだけではなくて、いかに感覚を別に移植することによってそこに新しく生まれるコンテンツは何なのかということを模索してみたいという自分自身の目的もありました。

このDグループのセッションは、どの方も気概に満ち、映画「ラストサムライ」ならぬ、渡辺謙がここにもあそこにもいるぐらいの話し合いになりました。

このDグループの検討事項マッピングを書かせていただいておりますが、個々のクリエーター自身への還元ということにおいては、『マネジメント力の向上』ということで、クリエーター、アーティスト自身が自ら自分をマネジメントして高く売らなきゃいけない、そこで自分のコンテンツをいかにN対Nというところで売るかという循環型のコンテンツビジネスを考えなければいけない。それがポイントになりました。

けれども、一部有名アーティストに集中されていくだけで、それに続くアーティスト、クリエーターの方たちには悲惨な環境しか与えられていない・・・。

その次の世代の人たちに活躍の場を与えるためにも、みずからが名前も出し、活躍をされている人たちがどういうふうにして底上げをするかというようなお話まで至っております。

ただ、そこでまた行われた話が『契約』という話でして、森脇さんの例をお話ししましたが、アーティスト自体が契約書を取り交わす、また判を押すということまでしないと相手に理解してもらえない、資金を調達できないという状況に、本当に残念だねという話になりました。

クリエーター育成の話は、今、お話ししたとおりですが、実はすごく村上隆さんの存在がずっと気になっています。彼のヒロポンファクトリーという名称のごとく、ファクトリーというところで自分の目をかけるアーティストたちを育てています。そういう制作現場というか、そういう考え方というのはこれから必要になるだろうというふうに思ってまして、‘途中段階のクリエーター’の存在を可能にするというシステムは他にないものか、またその裾野を広げる動きというのがないのかを、ずっと議論しました。

それから、個人の業績、収益が個人に還元されるシステムということですけれども、当然アーティストは自分が得た収入を次にまた作品をつくるために使うという習性のある人たちなので、何としても彼ら達が豊かになるというのはめったにないことだと思いますけれども、そこに甘えちゃいけないなというのが私たちの議論でした。

さらに、『日本の文化戦略』というところに話が及んだのですが、先ほどもちょっと触れましたが、中国における日本の携帯ビジネスの苦労を肌身で感じてまして。日本のコンテンツは欲しい、だけどコンテンツだけね、と。あなたたちのコンテンツを持ってきてねぐらいな勢い。ましてやアメリカ帰りのIT系オーナー企業たちがよく使う手が、本社はケイマン諸島やアメリカのカリフォルニア州の隣にある法人税の安い州・・・。あの中国ビジネスマンたちとどれだけ話ができるのかなと不安があります。できることならば、日本の文化戦略という視点で、政府の支援などがあったらいいなと、すごく感じているんですが・・・。特に日本コンテンツの海外進出戦略では、コピー問題など、行政が主導的役割を果たしてほしいという期待はすごく大きくなっています。

それから、将来性のある分野への『投資的視点』ということでお話をさせていただきたいのですが。今回、まさかと思ったのですが、村井さんにしても、それから椿さんにしても、それぞれに音楽を小口証券化するですとか、それからアーティストに対して、作品に対してそれを投資の対象にするという言葉がスラスラと出たことに対してはすごく驚かされました。私たちは作品を楽しむとかアートを楽しむ、またその活動の環境整備を語るだけかと思ったのですが、既にそういうアートをも、金融資本主義の視点で語っていくということが当たり前になっているということに対して、当たり前というのは私の感覚だけかもしれませんけれども、びっくりしました。そういうことをも何なく受け入れるアーティストたちが既に出ているということはすごく心強い気持ちになりました。

以上が主な論点とアイデアです。さらに付け加えると権利管理団体の役割についてはものすごくみんなで模索をさせていただきました。我々がどのように守ってもらえるかということだと思いますけれども。ここに対する動きに関しては政府や文化庁さんに期待しています。

最近、経済産業省さんとか総務省さんたちの審議官クラスの交流とか、お互いの情報交換の環境も変わっていますし、ODAにおけるIT領域への資金提供というような話ですとか、国的なレベルの会話も随分と昔とは違ってきたな思っています。そういう動きがある中、日本国内における権利団体、管理団体の組織強化については、本当に期待したいです。

日本の文化戦略・ソフトパワーということを求めるにあたって、先ほど濱野先生のお話の中でも、日本を代表するというか、日本をコンテンツにしたヒット映画ということで、「キルビル」や「ロスト・イン・トランスレーション」とか話題の作品を紹介されていました。実は私たちの話の中ですごくきわどかったのは、日本の魅力って?という話になったときに、日本人でも足を踏み入れにくい新宿歌舞伎町やあの渋谷道玄坂に、あえてアジアやヨーロッパの人たちは行きたいと言う・・・。でもその危なさって日本人の不安、社会的不安というところだよね。なぜそんな危険や不安、混沌が日本のコンテンツになるかというところってあるよねって。平和ぼけとか言われるけれども、でも逆にそういうところが魅力になってしまうギリギリのところに日本の魅力があるということが、特におもしろいという話になりました。

濱野先生からフランスの都市計画における文化政策というお話が出てましたけれども、私はいわゆる『感覚を研ぎ澄ますというプロジェクト』というのがあると思っています。例えばコミケですとか、いろいろと町中における集まりというのはそういう意味では目に見えない仕掛け。サイバー上での集まりというよりは、リアルに五感が刺激される場。タンジブルとインタンジブル。ビジブルとインビジブル。そういうところの研ぎ澄ましが次のコンテンツを生むというふうに私は思っています。椿さんが紹介くださったフランスのナント島にあるイベントなんかをなぜ日本でできないのかと、本当に残念に思い、開催への期待は大きかったです。作品が美術館の中に入ってしまうとそこで作品は死ぬということを言われますけれども、それがオープンになる環境を得られたらと期待します。

「次々世代コンテンツ」というのがサイバー上でのコンテンツでしかないみたいな語り口ではなくて、ある意味ではアーティストの目や、五感の体系も次々世代コンテンツだと思っていただきたいと思っております。

先ほどアートの証券化ということをお話ししましたし、金融商品の対象になるということをお話ししましたけれども。実はこのDグループの共通する友人で有限会社 クールステーツ・コミュニケーション研究所 岡田智博さんという方がいます。彼はコンテンポラリーアートウェブサイトを運営しています。先ほどもお話ししたみたいに、一部の人たちが証券化されるとかということではなくて、いかにそこにクリエーターとして大きく世界にはばたき、アジアにはばたいていけるかという支援策というのが必要かと思います。そのことに関しての活動ということでは、唯一岡田智博さんみたいな方がいらっしゃるということぐらいしか私は聞き及んでいません。今年の2月にアートデモ相談会で「アーティスト/クリエーターとしての起業と企業運営会計、知らなきゃならないこと知って得すること」セミナーを開催していますが、こうした支援活動がまだまだ不足しているのは確かです。

次に、ゲストとしてお迎えしたTGA今福英次郎さんのコンテンポラリーアート情報ウェブサイト:アートプライスドットコムを紹介します。だれの作品がどのくらいの金額になるかというのがもう既に数字としてあらわれるということです。こういうサイトがコンテンツの善し悪しを決めるという時代なっているということと、今福さんのように既に3社も起業され、そのうち1つは上場も果たしているような方が、アートコンテンツに着目するというのも、時代でしょうか!?

私自身がこの、例えば村上さんの作品が何千万で売れたというような話だけじゃなくて、ある人の作品がこのサイトで売れていくということも話題づくりとなり、コンテンツを底上げするということでいいことではないかと思っています。

では政策としてみたオリジナル文化産業マップをご紹介しますが、まだまだ精緻化する余地のあるものでして、今回のこのコンテンツ流通のこのDグループでさせていただいた作業においては、この第3象限、第4象限のワンソースマルチユースのところのコンテンツという語り口だったと思います。ただ、今までいろいろな政策、文化政策という話になりますと、第1、第2ぐらいの保護、整備、利用とかに力点がおかれ、なかなかデジタルコンテンツ政策立案や、アーカイブ化という話には本腰を入れてなかったというのが現実だったかと。せいぜい、先ほど濱野先生のお話にもありました、映画のロケ地が観光地になるというようなお話なんかが、少しずつ皆さんにも理解されるようになったと思います。国土交通省のビジットジャパンキャンペーンにおけるその観光コンテンツ。こんな話題ででも、文化の底上げを期待すると‘とば口’にでもなればと思うわけです。

それから、『文化の向上を政治課題に』ということを思っています。実は6月21日〜22日まで日中米女性経営者会議『傑出女性企業家フォーラム』を北京人民大会堂で開催してきたのですが、そこで最後の日に、日本大使館の方たちといろいろなお話をさせていただいたならば、大使館の方たちが口々にこのジャパンコンテンツを、特に日本のアニメとかマンガというコンテンツを、どう著作権保護をしながら日本のパワーにするかということを考えていますと、熱く語ってくださいました。これはすごくうれしい話で、特に中国における日本の立場を考えた時に、まさか、アニメやマンガを、相互理解のツールにしようと考えているなんて、想像もしなかったので驚きでした。

電通総研の「価値観国際比較調査」によるとイギリス、フランス、ドイツは「新たな市場が開拓され、新たなビジネス機会が生まれる」と同等に「新たな文化に接する機会が増え新たな文化が創造される」という目標がグローバリゼーションへの道だと考えています。日本もこのぐらいにまでなっていただきたいなと思いますし、例えば小泉首相が歌舞伎を見に行きます、オペラに行きますというのが変人と言われることなく、自分たちの国の首相がそういう文化に精通しているということに拍手を送るぐらいの寛大さが欲しいなというのが私の個人的な意見でした・・・。

日本でこれといって、国をあげて文化キャンペーンをはるのは、せいぜい「関西元気文化圏」プロジェクトが聞こえてくるくらいですが、イギリスのクールブリタニカ政策は文化産業を中心に国家ブランディングを推進するキャンペーンですが、これを横浜市の中田市長が自分の地元に引き寄せて、その実現化の方向性に向かわせています。こんな新しい市長たちが文化育成を自分たちの政策、市の政策に生かしているという動きは嬉しいことだ思っています。

長くなってはいけないので、このぐらいにしたいと思いますが。

文化価値を構成する3要素では、「文化資本」とか「経済資本」とか「社会資本」というのがあるかと思います。なるべくならば資本主義社会の中にアートとかコンテンツ、コンテンツというよりはクリエイティブコンテンツというところの話がもう難なく引き寄せられるというのを期待したいと思っています。

私自身、アーティスト支援をずっとし続けているのですが、何としても彼らたちが楽になれないのはどうしてって思うわけです。でも、ものをつくる究極のところまで追いやられているところから、また彼らの身体からわき出るというか、DNAとか感覚とかが次の新しいものをつくっていくエネルギーになるのですが、いつまでも自虐的行為を好まなくてもいいわけでして。そういう状態が長く続いてもアジアの中では戦えないわけです。

私自身、すごく好きな言葉があります。アーティストの姿にほれる理由でもありますが、イギリスの詩人で画家のウィリアムブレークの「感覚の窓が開かれるとき、万物は永遠の実相をあらわにするであろう」という言葉です。このフレーズがすごく好きで、感覚の窓を求めてさまようことをしています。単純にさまよう行動で言えば、例えば原宿、例えば新宿。感覚をみんなで競い合う場所がどんどん少なくなって、地方に行けばどこにだれが歩いてるの?という場所ではアートのアの字もなければ、コンテンツのコの字もない。せめてネット上でコンテンツを見、それを楽しむというクローズな中でのコンテンツビジネスを考えるという、この閉塞感というのを何とかしたいなというのが私自身の意見であり、参加してくれたDグループのメンバーの結論でした。どうもありがとうございました。
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