文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第1部:特別講演

「音楽著作権等を活用した資金調達の事例と問題点」

朝妻 一郎(株式会社フジパシフィック音楽出版代表取締役社長)

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 音楽著作権の資金調達には、「a.同業の音楽出版社に売却する」タイプ。「b.音楽出版社がパートナーとなったファンドに売却する」、つまり、ファンドと音楽出版社がひとつのチームになって音楽著作権を買って、それを大きくしてどこかに売却して売り抜けるタイプ。「c.証券・債券化する」タイプの3種類があります。先ほどご説明したのはだいたい同業の音楽出版社に売却するか、あるいは音楽出版社がパートナーとなったファンドに売却するタイプのものです。

 今、世の中ではBMG SongsというBMGが持っている音楽出版社が売られるのではないかと話題になっています。それはBMGの親会社であるベルテルスマンというドイツの会社が自社の株の20%弱をベルギーの会社に持たれているのですが、そのベルギーの会社からベルテルスマンの株を買い取ってくれという要求が出て、ベルテルスマンとしては大きな、資金を必要とすることになりました。それに対して最初に簡単に現金化できるのは音楽出版社なので、傘下のBMG Songsを売りに出したのです。最初に売りに出された時は16億ドルぐらいの値段であろうと言われていましたが、ここに来て19〜20億ドルの価値があるのではないかと5社ほどの候補者がBMG Songsの買収をめぐって争っています。(結局2006年9月の上旬にヴィヴェンディ・ユニヴァーサルが20億5千万ドルで買収することが決定しました)
 しかし、買収ということで言えば、今までで一番話題になったのはマイケル・ジャクソンが買ったATV音楽出版、要するに、ビートルズの著作権です。

 ビートルズの著作権は、ノーザン・ソングスという会社が持っていましたが、そのノーザン・ソングスをイギリスのATVが買いました。そして、ATVが1985年にビートルズの著作権を含む所有している楽曲を全部売りたいという意向を示した結果、ポール・マッカートニーやコカ・コーラ社などを含めて数多くの人達が、その著作権を買いたいという買収合戦になりましたが、結局はマイケル・ジャクソンが4700万ドルで買収しました。当時の4700万ドルはけっこうな値段で、投資を回収するにはかなり時間がかかると言われていましたが。しかし、買収した翌年の1986年に音楽フォーマットがアナログからCDに切り替わったことによって、アナログで出ていたレコードが全部CDで再発されました。当然ビートルズの曲はビートルズ本人によるものもたくさんありますが、それ以外にいろいろなアーティストによってレコーディングされていたので、そのレコードが全部再発されるという思わぬ収入を生み出し、マイケル・ジャクソンはこの1年で投資のかなりの部分を回収することが出来たのです。
 その後1994年にEMIとATVが管理契約を結びましたが、その契約時に3000万ドルを受領しています。当然その3000万ドルは作家分も含めてと解釈されますので、それを差し引いても、少なくとも1500万ドルはそのままマイケル・ジャクソンの懐に入ったのです。1986年のCDフォーマット登場の時点でかなりの部分を回収し、その上に1500万ドルを積み上げています。
 翌年の1995年には、ソニーにATVの半分を売る代わりにソニーが持っていた音楽出版社のソニー・ミュージックパブリッシングとソニー/ATV音楽出版社をつくることで合意しました。その時にATVの資産価値の半分の金額とソニーの持っていた音楽出版社の資産価値の半分との金額の差額が約1億1000万ドルということで、マイケル・ジャクソンはソニー/ATVの半分の権利、プラス1億1000万ドルの現金を貰っています。ですから、彼は1994年の段階で最初の4700万ドルは全部回収していたと思われる上に、1995年には新たに1億1000万ドルの現金を手に入れているのです。
 今年2006年、マイケル・ジャクソンは、ソニーとマイケル・ジャクソンが50%ずつ持っていたソニー/ATVの自分の持分50%の半分を2億5000万ドルでソニーに売却しました。25%で2億5000万ドルということは、ソニー/ATV全体としては10億ドルの価値があると考えられますので、最初の4700万ドルの投資からここに至るまで約20倍の伸張率です。もちろんこれはATVだけではなく、ソニーが独自に獲得した著作権も入っていますので、ATVの著作権の占める割合がソニー/ATV全体の半分としても5億ドルになりますから、1985年の投資が10倍以上になっていると言えます。なおかつ、つい最近、ビートルズ関係者が「iTMS(アイ・チューンズ・ミュージック・ストア)にビートルズの楽曲を配信する許可を出す」と発言していますので、また新たな収入が確実視されています。そういう意味で、マイケル・ジャクソンのATVの買収は、今までの著作権買収の歴史の中では一番目立ち、すばらしい実績を示しているといえます。

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