国語施策・日本語教育

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次第 庶務報告/部会の審議経過報告について

前田会長

 第64回国語審議会総会を開会する。まず庶務報告がある。
 (国語課長から本日の配布資料等について説明。)

前田会長

 次に,前回(第63回)の議事要旨について,ご確認いただきたい。
 (国語課長 「第63回国語審議会総会議事要旨」を朗読,確認。)

前田会長

 引き続いて本日の協議に入るが,まず漢字部会の審議経過報告をお願いし,次いで,かな部会の審議経過報告をお願いする。
 (国語課長が,資料「漢字部会審議経過について」および「かな部会審議経過について」〔総−9〕を朗読。)


 (以上に関して岩淵漢字部会長,久松かな部会長から,それぞれ補足説明を行なった。)

前田会長

 ただいまの漢字およびかなの両部会の報告について,各部会委員から,訂正あるいは補足説明の必要があれば伺いたい。なければこれらの報告について総会としての意見・要望があれば,ご発言願いたい。

志田委員

 かな部会では,「送りがなのつけ方」を詳細に検討しておられ,得るところが多い。その中で「送りがなを活用語の活用語尾に限定するとどうなるか。」として,いろいろな問題の指摘が行なわれているが,これについてはもう一つの考え方ができるように思われる。それは,「送りがなのつけ方」の第1の方針,つまり「活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る」という中には,「活用語」だけでなく,さらに「これ(活用語)を含む語」という規定があるのだから,これの適用のしかたによっては,できるだけ送るという方向で徹底して考えることもできるというわけである。たとえば「脅かす」というごも「脅やかす」と「や」から送るとする考え方もありうるということである。次に「黄ばむ」「春めく」の類については,報告にも述べてあるように,「実際にはこれ以外の表記は考えられない。」というのには同感であるが,これらは,たとえば「春」という漢字の音訓は,現在普通には「シュン」と「はる」だけだというように,漢字の日本風の受け取り方に即して送るという考え方で処理できるのではないかと思われる。

中田委員

 わたしは,前期の国語審議会から,常に指摘していることがらであるが,現在の「送りがなのつけ方」は,当時漢字音訓表によるということが一つの大前提になっている。ところが,このことが「送りがなのつけ方」のまえがきにはっきりと書いてないために,ともすれば再検討の際に誤解を起こすことが多い。たとえば,「横」という漢字は,当用漢字音訓表によれば,「オウ」と「よこ」の音訓が認められているだけで,「よこたわる」という訓は認められていない。だから,「横(よこたわる)」について,どういう送りがなをつけるかということは問題ではないのである。同じように「黄ばむ」,「春めく」なども,これらはすでに送りがなの問題ではなくなっているのである。ただ,明治のころの送りがなの用例集等をみると,「横たわる」という用例が出てくるが,これは,明治時代に「横」の漢字に「よこたわる」という訓が許されていたために,その送りがなが問題となって,用例にも出ているのである。だから,これを今日の「送りがなのつけ方」にもあてはめて考えようとすると,誤りを犯すことになるので,注意してほしい。

久松かな部長

 そのことについては,かな部会でも問題になって,音訓表が決まらなければ,送りがなが決められないという意見もあった。今後は,この点について漢字部会とも意見を交換しながら,じゅうぶんに考慮していきたいと思っている。

西尾委員

 わたしは,漢字部会については,当用漢字表音訓表をもっと自由にしてほしいという希望をもっている。現在のように,1音1訓を基準にして整理すると,日本語の発達を妨げることになる。次に,かな部会については,以前から指摘していることがらであるが,やはり「送りがなのつけ方」のまえがきにある3か条の方針を並列させたところに問題があった。そのために,許容や例外が多くなり,極端にいえば,使いものにならなくなってしまっている。あれは,(1)の方針,つまり「活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る。」を原則にして,あとの,(2)と(3)の方針は,そのただし書きにすべきものであった。わたしは,このただし書きをも1本にまとめて,「活用語尾を送る」という原則に「ただし,誤読・難読のないかぎり,なるべくいままでの慣習にしたがって送らない。」というようにつけ加えて一語一語整理していけば,現行の「送りがなのつけ方」の不適切なところが,よほど解消されていくのではないかということを申し述べておきたい。なお,漢字部会では,当用漢字表を「範囲」とするか,「基準」とするかということが,詳細に検討されているようで,けっこうなことであると思う。この点について,わたしは義務教育では,これを「範囲」として決めていくのには無理があると思っている。というのは,現在の小学生は漢字に対する興味が深く,入学以前からいくつかの漢字を覚えている傾向にある。それに,児童は周囲の環境から,社会生活に必要な人の名まえや地名などを学校で教えなくても自然に覚えていくものであるから,これらを制限することはできない。だから,義務教育で,少なくともこれだけは教えなければならないという漢字があれば,それを当用漢字表として決め,「基準」としていくのが実際に即したやり方ではないかと思われる。

大野委員

 誤読・難読のおそれがあるということが,しばしば送りがなの問題を論じるときに出てくるが,もし誤読・難読ということを,漢字を読む力が少ないという面からだけ考えるなら,全部かなにしてしまえば問題はなくなってしまうはずである。しかし,国語の表記は,漢字かなまじり文をもって正則とするという基本的態度に立って考えるなら,漢字を使う以上は,当然漢字の意味,読み方を身につけなければならないし,そして教育ではそれを教える任務があるわけで,これは文字生活を行なううえでたいせつなことである。あまりにも誤読・難読ということをもち出して送りがなを多くするのは,漢字を使ううえの,ある便利さを削りとってしまう結果になる。今日はその傾向が強いが,今後,かな部会ではこの点に留意して審議を進めてほしい。

前田会長

 ほかに意見がなければ,わたしからおはかりしたいことがある。それは,前回の総会で木内委員からいくつかの提案があり,そのうちの一つを文書で提出していただくようお願いしてあったが,最近,それを受け取った。それでこの際,近く部会の合同会議を開催して,その席上,木内委員の考えを聞いてはどうか。

木内委員

 それについて説明したい。わたしは前回,別に小委員会でも設けて,次の二つのことを検討してみてはどうかと申した。一つは,表記の簡素化ということを訓令,告示でもって達成しようとしたことの当否についてであり,もう一つは,漢字かなまじり文を正則とする日本語の性質についてである。しかし,そのときは,特別な小委員会でなく,部会の合同会議で審議するにしても,いちおう現在の両部会の審議の成り行きをみようということで終わった。そこで,わたしはその後の部会の審議状況を拝見してきたけれど,いまの様子では,部会で具体的な改善策がまとまるのは,いつのことかという気がしてならない。やはり,先にわたしの述べたようなことがらを部会と並行して検討するのが,部会で結論を出す場合にも役だつのではないかと思ったので,さっそく会長あてにわたしの考えを提出したわけである。その内容について,少しふえんして,こういうことを検討してもらったらと思うことを,以下に7項目ばかり申したい。

  (1) 国語表記の簡素化を訓令・告示という手段で達成しようとしたことは誤りであったのではないか。
(2) 漢字制限は教育の場では「いちおうの基準」として是認できるけれども,他の分野にまで拡大するのは,おかしいのではないか。
(3) 戦後の国語施策は,どういう見方,考え方に立って行なわれたものか。その哲学に誤りがあったと思われるが,現在,再吟味する必要があるのではないか。
(4) 戦後の国語施策に対する見方,考え方の中には,@漢字はむずかしいもの,A漢字は不便なもの,B漢字が少なくなれば,児童・生徒の学習負担が軽くなり,他教科の教育に役だつ,C一つの漢字に多くの読み方があるのは不合理である,D表意文字は不合理であり表音文字は合理的である,といった見方,考え方があったのではないかと思われるが,これは大部分まちがっているのではないか。
(5) 戦後の国語施策の推進者は,そもそも日本が漢字かなまじり文を正書法とするにいたった歴史的事実に対してもつべき理解をもっていなかったのではないか。そして日本語がローマ字表記になれば,それにこしたことはないというように考えていたのではないか。
(6) 最近,アメリカの言語学者の間では,日本の漢字かなまじり文という表記法こそ,最高の能率をもつものであるという考え方があるけれど,これは研究に値するのではないか。
(7) 漢字の教え方の研究がふじゅうぶんである。これを開拓すれば新生面が展開されるのではないか。

 以上の7項目について,みなさんに考えてほしいと思うわけである。ただ,念のために申しておくが,わたしがこのような根本的な考えを提出するのは,けっして問題を紛糾させるためではなく,それによって国語表記の簡素化をはかるのだという考えのものに行なっていることをご理解いただきたい。各委員の中にも,それぞれの考えをおもちなら,それをご提案になって,ひとしく小委員会等で検討していきたいと思う。なお,以上申し述べた意見の中には,だからこうしろというようなことは一つも言っていないが,それについてはこの10月頃に述べさせていただくつもりである。

前田会長

 ただいまの発言に関しては,近く部会の合同会議を開いて,より詳細な意見なり説明なりを木内委員からうかがう方向にもっていきたいと思うがどうか。異議がなければそのように運ぶよう事務当局に一任しておきたい。

金田課長

 昭和42年度の今後の国語審議会の開催予定を別表のとおり予定している。これについて各委員のごつごうを事務当局に申し出てほしい。なお,次回は7月24日(月)に国際文化会館で開く予定である。

前田会長

 本日はこれで閉会とする。

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