文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第1部:特別講演

「音楽著作権等を活用した資金調達の事例と問題点」

朝妻 一郎(株式会社フジパシフィック音楽出版代表取締役社長)

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 パターンb.の「音楽出版社がパートナーとなったファンドに売却」というものとしては、ひとつはポリグラムがCDの開発にお金を使いすぎて、キャッシュフローが悪くなったのでチャペル/インター・ソングを売ったケースです。音楽出版社のフレディ・ビエンストックはエルビス・プレスリーやドリフターズなど1950〜60年代のヒット曲をたくさんつくっていた音楽出版社の人ですが、1984年にポリグラムは、フレディ・ビエンストックとアメリカの投資銀行のボストン・ヴェンチャーに1億900万ドルでチャペル/インター・ソングを売りました。フレディ・ビエンストックは約3年間、チャペル/インター・ソングを一生懸命にプロモーションして、これをワーナーに2億ドルで売りました。要するに、この3年間にチャペル/インター・ソングが持っている楽曲の価値を増したわけです。この3年間にフレディ・ビエンストックはそれらの楽曲の新しいコマーシャルを決めたり、大きなアーティストによるカバーをつくったりと、1984年に買ったときより大きな収入を上げるように努力して、出版社の実質取り分を増やし、1987年にワーナーへ2億ドルで売り、3年間で9100万ドルの利益を得たのです。
 もうひとつは、CBSがどうしても株の買収に対抗するために現金が必要だったので売ってしまったCBSソングス/Big3です。これは1986年にスティーブン・Swid、マーティン・Bandier、チャーリー・Kopplemanの3人のラストネームの頭文字を取った「SBK」というチームに1億2500万ドルで売却しています。マーティン・Bandierはもともと弁護士で、チャーリー・Kopplemanはもともと作曲家であり、アーティストであり、音楽出版社であり、レコード会社の重役だった音楽業界にとても顔と経験のある人で、スティーブン・Swidは実業家で、銀行と共に買収資金を出しています。要するに、スティーブン・Swidはお金を出した人、マーティン・Bandierはビジネス・アフェアー、チャーリー・Kopplemanがクリエイティブという3人です。お金とビジネスとクリエイティブの組み合わせでチームをつくり、CBSソングスとBig3を買ったわけです。
 彼らは買って、そのままどこかに売るのではなく、買った上に、すぐSBKレコードというレコード会社をつくって、ウィルソン・フィリップスや、ヴァニラ・アイスというラップのアーティストなどヒット・アーティストを持つホットなレーベルに仕立て上げたり、SBKパブリッシングでトレーシー・チャップマンという黒人フォーク歌手などを発掘して、他のレーベルと契約し、ヒットを放つなど、ともかく買い取ったCBSソングス/Big3に加えて、もっと新しいコンテンポラリーなアーティストや作家を加えて中身を充実させ、3年後にEMIに3億3700ドルで売却しました。ですから3年で2億5000万ドルぐらいの差益を上げたことになります。途中レコードの制作やプロモーションなどにお金を掛けていますから、差額が2億5000万ドルですがNETの利益がそれだけあるかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、かなりの利益を上げていることは確かです。

朝妻 一郎

 パターンc.は、ある時期から比較的有名になったので皆さんもご存知かと思いますが、著作権を証券化・債券化するというものです。一番有名なのは1997年にできたデヴィッド・ボウイ・ボンドです。ボウイ・ボンドと呼ばれていますが、デビィッド・プルマンという金融業界の人がそのような証券化を考えて、債券化しました。デビィッド・プルマン自身は「皆はボウイ・ボンドと呼んでいるけれど、本当はプルマン・ボンドと呼んで欲しい」と言っているそうです。1997年には、ボウイ・ボンドが5500ドルの資金をデヴィッド・ボウイの著作権とレコードのアーティスト・ロイヤリティを担保として調達しています。これが非常に話題になったので、デビィッド・プルマンは「どうですか、あなたの著作権を証券化しませんか?」と音楽業界中を走り回りました。
 ブライアン・Holland、ラモンド・Dodger、エディ・Hollandは、「Holland― Dodger ―Holland」という呼び名で知られ、モータウンというレコード会社のヒット曲の半分以上をこの3人が書いているというぐらい有名な作家チームです。例えばフォー・トップスの「ベイビー・アイ・ニード・ユア・ラヴィング(Baby I Need Your Loving)」や、シュープリームスの「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ(Stop In The Name Of Love)」などのヒット曲をご存知の方もいらっしゃるでしょう。ボウイ・ボンドの翌年の1998年にこの3人の作家チームの著作権を担保に3000万ドルのボンドを発行しています。これもデビィッド・プルマンがつくったものです。
 同年にニコラス・Ashfordとヴァレリー・Simpson、我々は「Ashford&Simpson」と呼んでいますが。彼らの作った曲の中で一番有名な曲はダイアナ・ロスが歌った「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナーフ(Ain't No Mountain High Enough)」ですが、やはりヒット曲は他にもたくさんあります。この曲を書いたチームと彼らの音楽出版社を担保に2500ドルのボンドをデビィッド・プルマンが発行しています。
 また、SESACというアメリカの演奏権の管理徴収団体があります。アメリカの演奏権市場の8割〜8割5分ぐらいを非常に大きいASCAPとBMIが占めており、SESACは非常に小さいものでした。1999年に、先ほどSBKでご紹介したスティーブン・Swidが、SBKをEMIへ売って大きな利益を出したことから、“音楽著作権関係の投資は非常に効率が良い”という教訓を得て、SBKの売却資金の一部を投じてSESACを買収しました。そして、彼はSBKで取ったのと同じ手法を使うのです。つまり、買収した会社にお金をつぎ込み今まで以上に魅力的な存在にするということです。彼は、ニール・ダイアモンド、ボブ・ディランなどの有名で、放送局でこの人の曲なら絶対にかかるというアーティストにSESACと契約させ、それまでASCAPやBMIの専属であったニール・ダイアモンドやボブ・ディランをSESACに変えさせました。この結果、SESACは放送局に対して「あなたの所はニール・ダイアモンドの曲をかけないわけがないでしょう」「あなたの局はボブ・ディランの曲は絶対にかけますよね」という申し入れをして、SESACに対して放送局から払わせる放送使用料を大幅に値上げすることに成功しました。そして、それまでに比べると大きな力を持つようになりましたが、もっと大きな資金があればもっといろいろなアーティストを自分のところに持ってこられるということで、放送局などから受け取る演奏使用料を担保にボンドを発行しました。面白いことにSBKのKにあたるチャールス・Kopplemanがクレディ・スイスとファースト・ボストンという投資銀行とそれぞれ組み、金額は分かっていませんが、ボンドの発行主になっています。
 後は、レコード会社からスタートし、放送会社まで事業を拡大していたイギリスのクリサリス・ミュージックが、現在放送会社の経営が苦しいが、少しの資金があれば放送会社も良くなるから、ということでクリサリス・ミュージックの著作権を担保にロイヤルバンク・オブ・スコットランドから資金調達をしています。
実はデビィッド・プルマンはボウイ・ボンドの成功の後、ジェームス・ブラウン、ボブ・マーリーなど有名なアーティストや作家のほとんどに声を掛けていて、あの人もこの人もボンドを出すのではないかと言われましたが、その後は出ていません。
 このデヴィッド・ボウイ、Holland― Dodger― Holland、Ashford&Simpsonはムーディーズ格付けで「A3」になっています。SESACは「Aaa」の格付けになっています。ムーディーズでは「Aaa」が一番高く、信用力が最も高く、リスクが限定的であると判断される格付けということで、債権を発行するときに大企業が取るのが「Aaa」です。要するに、SESACに対するムーディーズの評価が非常に高いということがわかります。一方、デヴィッド・ボウイ、Holland ―Dodger― Holland、Ashford&Simpsonに関しては「A3」です。「Aaa」「Aa」「A」と落ちてくるのですが、「A」は中級の上位の信用力でリスクが低いと判断される格付けです。その下は「Baa」になります。「Baa」は信用リスクが中程度と判断される格付けで、中位にあり、一定の投機的要素を含むということです。「Baa」になると少しギャンブル的な要素がありますが、プルマン・ボンドは全部「Baa」よりは上なのでムーディーズは著作権担保のファンドに対して、ギャンブル的な要素はなく、リスクも低く、そこそこの信用力であるという判断を下していたことがわかります。

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