文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第1部:特別講演

「音楽著作権等を活用した資金調達の事例と問題点」

朝妻 一郎(株式会社フジパシフィック音楽出版代表取締役社長)

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朝妻 一郎

 それでは、今までの買収、ファンド、債権化に関してアメリカではどういうふうに値段を決めているかというと、基本的にはひとつのスキームがあります。音楽出版社が受け取ったものから作家に支払う分、共同出版者に支払う分、それ以外のしなければならない支払いが全部終わった後、純粋に音楽出版者の手元に残る数字がNPS(Net Publisher's Share)ですが、基準数式は過去の3〜5年の平均NPS×倍率です。この倍率は著作権の重要度などとシンクロしており、1980年代前半までは大体6〜8倍で売買されていました。1990年代になると10〜15倍になっています。1995年以降は12〜18倍と上がってきています。理由はメディアの増加、CM、映画などにおける音楽の使用頻度が増えているため、著作権の重要性が高まっているからです。
 例えばCMなどは日本でも全く同じ現象が起きています。CM自体は50年ぐらいの歴史だと思いますが、少なくとも約20年前まではCMの音楽は基本的にはCM用に新たに作曲家が作曲するというのが大部分でした。それが、既成曲を使う形が増えてきて、現在ではCMの7〜8割が既成曲を使っており、重要度が増しています。なおかつCMの使用料はかなり高額な金額が払われています。ビートルズの楽曲などでは最低3〜4000万円の基本使用料が払われます。中には億近い金額が支払われるケースもありますので、音楽の使用形態、あるいは使用頻度が増えていることがこの倍数を増やしています。ただし、ロックやポップス以外のカントリー&ウェスタン、ラップ、ヒップホップなどは、ロック・ポップが12〜18倍なのに対して、2〜3ほど少ない倍数になっています。
 最初に著作権の資産価値に関する研究会や今回のシンポジウムが画期的だとお話をしたことと関係しますが、まだ日本では著作権の評価に関してマーケットが定まっていませんので、時々起こっている著作権の売買などでは一応5〜8倍という数字が一般的です。後でご説明しますが、例えば銀行などに「著作権を担保にお金を貸してください」とお願いしても、この5〜8倍でさえ少し難しいかなという状況です。

 私が今日、ここでお話をすることになったのも、2004年に当社が著作権を担保としたFGMファンドという資金調達を行なったことが大きな理由だと思います。これはファンドと呼んでいますが、実質的には著作権を担保にした借入です。ただ、ともかく著作権を担保にした融資を実行し、著作権がもたらす収入が如何に安定した流れになっているのかということを理解してもらい、なおかつノンリコース、要するに、対象となった著作権の収入だけを返済に充てることを銀行に認めてもらうという2つの大きな目的があって、この資金調達を行いました。結果、その2つを認めてもらったことは、非常に大きな進歩ではないかと思います。最初にお話をしたように、「おたくには資産がありませんね」と言われたときに比べると、著作権というものが資産として評価できるというスタンスを取ってもらったという事は大きな進歩だと思います。

 では実際はどうなのかというと、(スライド資料最終ページ)左側がファンド・スタート以前の数字です。A氏が約180曲、B氏が約200曲です。AさんとBさんの作品を全部バスケットに入れて、Aさんの作品が生み出したNPSが1993年に3000万、1994年が2200万円、1997年に大きく下がって941万円、2002年にはずいぶん上がって7100万と変化しました。これを年間平均に直すと2400万円で、JASRACからは3カ月に1回支払いが
行われますので、1期平均で割ると616万円という感じになっています。Bさんのものは1993年で1089万円、ずっと1000万平均でいっていましたが、2001年に4700万円、2002年に6500万円に収入が上がり、年間平均では2200万円。1期平均570万円となります。
 これがファンドをつくるまでの基礎の数字でしたが、実際にそのファンドができた後はどういう数字になっているかというと、右側がその数字です。2004年8月でAさんは1000万円、Bさんは539万円となりました。例えば2005年だけ見ますとAさんの年間で2800万円、Bさん3700万円ということで、左側の表のAさんの過去9年の平均の2400万円を400万円ぐらい上回り、Bさんは平均を1500万円以上も上回っています。これは全部1970〜80年代初期までの曲であり、新曲は加わっていません。ですから、過去の曲がどれだけコンスタントにしかもステディーな収入を上げるかということを銀行に理解していただくためにはとても良い結果になったと言えます。
 今回は倍率をほぼ4.5で銀行に認めてもらいましたが、今後我々としては、この数字をもとに倍率をもっと上げてもらう努力をしていかなければいけないと思います。また、その倍率を上げるためには、当然、音楽出版者として継続的に自分のところが管理している楽曲をプロモートしていく不断の努力が重要なことです。しかし一方では作家との契約年数が短ければ当然、銀行から借入出来る額の限度も少なくなりますので、作家との契約年数をなるべく長くしてもらうことが必要になります。今後の資金調達のいろいろな傾向によっては、作家と出版社が大きく手を組んで運命共同体として努力していくことが資金調達をする上で非常に重要になると思っています。そしてまた。こうした試みはまだほんの端緒についたばかりです。今回のシンポジウムをきっかけにして音楽出版社、金融機関の双方で積極的にトライを重ねて行き、音楽著作権による資金調達が広く行われるようになることを切に願っています。私の用意した原稿はここまでです。後ほどパネルディスカッションでご質問がありましたら、お受けします。どうもありがとうございました。

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