研究成果の概要
(1)研究主題
体験を通して、生徒の著作権への意識を高める実践
(2)研究のねらい
急速に情報化が進む社会、教育現場において、生徒および教職員のメディアリテラシーが注目されている。当校生徒の各種情報機器操作スキルの向上はめざましいが、それらを活用する上で必要不可欠である情報モラルの現状は決して満足できるものではない。例えば、現在ほとんどの授業においてインターネット検索を中心とした調査活動が行われているが、そこにある文章や画像を安易に用いてしまう生徒も見られる。自分が何の気なしに行っている行為が、他者に害を及ぼす違法行為であることを自覚させる必要を強く感じる。
しかし、情報モラルは、単に「○○してはならない」という理論だけを学んでも身につけることはできない。そこで、実際に「してはならない」とされていることをしたり、またはされた場合にどのようなことが起こるのかを、具体的事例を取り上げたり、疑似体験をしたりすることで、単なる知識理解だけではなく、実際の場面で生きてはたらく力を育成したいと考えた。
(3)研究の概要
当校では、平成16〜18年の文部科学省研究開発学校指定を受け、再編8教科を新設している。その一つ「情報活用科」の授業を中心にして研究に取り組んでいくことにした。著作権学習に関する3学年の取組の概略は下記の通りである。
【第1学年】
- 資料の活用の仕方(検索、コピー、引用の仕方を中心に)
- 著作権への導入(著作権テキスト〜初めて学ぶ人のために〜、悟空の著作権入門ビデオ、著作権教育用ソフトウェアを活用)
- お気に入りを紹介するプレゼンテーション作り(著作権や肖像権への配慮)
【第2学年】
- 学校現場で行われがちな著作権侵害行為の確認
- 引用と剽窃の理解
- 著作権についての疑似体験(生徒作文や感想文を使用)
- 著作権を侵害していると思われるウェブページ閲覧
【第3学年】
- モーションピクスをつかった動画番組作り(著作権や肖像権への配慮)
(4)研究の成果
今年度の実践を振り返っての成果と、次年度への課題を紹介する。
まず、成果としてあげられるのは、当然のことながら、生徒が著作権や肖像権についての理解を深めることができたことにある。特に、生徒は「権利保持者である」ということはほとんど意識していなかった。そこで、2年生で行った「著作権についての疑似体験」では、国語の時間に提出させた感想文を題材として取り上げ、数人分をつなぎ合わせたり、一部を改変したりしたものを提示した。また、生徒の顔写真にレタッチソフトで加筆したものを挿絵代わりに用いた。それらを見た当事者生徒の感想発表を通じ、著作権や肖像権を侵害することの問題点に気付くことができた。さらに、インターネット上に数多くあるアイドルの応援サイトや、キャラクター愛好サイトを閲覧し、そこの掲示板で交わされている議論(肖像権違反を指摘する閲覧者と開設者)を読み、「自分だけではない」「知らなかった」ではすまないということも確認できた。現にプレゼンテーションやポスター作成などの際も「画像はフリー素材を使わなくては」とか「出典元を明記しなくては」という声が多く聞かれるようになった。
一方、課題としてあげられるのは、教官や保護者の著作権や肖像権に対する意識の高揚である。自分自身も、著作権教育を実際に行う立場になってから知ったことは多い。学校現場では普通に行われている録画したテレビ番組の視聴、昼の放送などで流すBGM、体育祭などで作成するキャラクターマスコットのようなものについても、取り扱いを間違うと違法行為になってしまう。生徒に指導をする立場の大人たちは、生徒以上に深い知識と厳しい審査眼をもっている必要がある。次年度以降の課題として、教官や保護者を対象とした著作権や肖像権に対するアンケートや講演会の実施を検討したいと考えている。