平成16年度 千葉県柏市立逆井中学校

研究成果の概要

(1)研究主題

著作権の意識を育てる教育活動は、どうあるべきか。

  • 学校が著作権を持つ学習素材を保管する
  • 積極的に文化庁提唱「自由コピーマーク(学校間)」を推進する
  • 日常の学習の中から著作権や情報管理、個人情報保護を学ぶ

(2)研究のねらい

情報機器の設置が充実し、学校教育の中で情報機器の利用が高まりました。また、家庭での普及率が飛躍的に進み、家庭での利用がさかんになっています。一方で、家庭での情報機器の利用やネットの利用、映像ビデオや音楽CD等のレンタルコピーなどについては、家庭での教育が充分追いついていない状況があり、また、学校教育の中でも遅れています。

本校では、現代的な課題でもある情報機器とその利用を含めた情報教育、情報モラル、そして、経済的な視点や著作者の考えなどを含めた情報を取り巻く課題について、学びを深めようと考えました。

とくに、安易な姿勢を持ちやすい「違法コピー」をしないことや「個人情報の保護」について、日常の学習活動や学校生活の中で具体的で実践的な作業を通じて、学んでいきます。

  • 情報機器の扱い方を知ろう
    〜技能(スキル)と情報倫理(モラル)
  • 著作権を保護する考え方、生徒の生活に関わる具体例で学ぶ
    〜音楽CDのコピーと法律、JASRACサイトで学ぶ
  • 文化庁提唱の自由利用コピーマーク(学校間)を推進する
  • 自分史を作成することで、個人情報の保護について学ぼう

(3)研究の概要

  1. 学校webを日常的に取り扱うことで、情報に対する概念構成を確立する。
    〜学校web、毎日更新、学習コンテンツ、終われば撤収〜

    1. 毎日更新

      学校webを本校では運営しています。学校情報を広く地域に公開するとともに必要な支援を得るとともに、地域からの信頼を得ることで学校への支援体制や学校の安全への協力を仰ぐための一助になりたいと考えています。

      そのため、地域の信頼に応えるべく「毎日更新」「毎週新コンテンツ」「美しい地域の四季風景を特集」「学校のできごとをお知らせ」することを実行しています。その中では、当然、守るべき個人情報の保護やweb維持の概念構成、地域のニーズに合う報道姿勢が求められます。

      生徒の目にも、また、保護者や地域の多くの方々に見られるわけですから、安全第一、情報事故を起こさないことがまず必要です。本校では、顔写真や本人が嫌がるような画像を載せることはありません。また、画像のクオリティは極めて高く、毎日更新される画像は感動した1枚でなければ掲載しませんので、美的にも鑑賞に堪えうるレベルを維持しています。

    2. 学習教材としての学校webのあり方

      学校では様々な教科での学習追求の目標があり、美や真実を求めたり、ことばの使い方、ものの名前を正しく知ることなどの活動があります。学校webでの報道も教科の目標にそって、正しいものを美しく描くことが求められています。生徒の学習の目標をさらに発展させていくための学校webという位置づけで取り組んできました。

      画像を編集したコンテンツは、学習素材としての位置づけを持っています。国語科での歳時記への利用が可能であったり、社会科の地域学習の素材集、理科の植物等の画像集もあり、百科事典のような学習コンテンツをめざしています。

      著作権を本校自らが持つことにより、生徒の著作権違反をなくし、利用しやすくすることや、先生自らが自作教材を用意することで生徒への学習過程や学習意欲を喚起することができます。学校webを学習のためのホームページとして利用し始めています。

      ◆逆井中web http://www.sakasai-j.kashiwa.ed.jp/

    3. 時節により必要な学習素材を用意、終われば撤収する。
      〜不要なデータはすぐに廃棄、ユーザーの動向を分析する〜

      学校では、学期や時節により必要な学習素材があります。また、学習が終わったり、生徒が卒業して必要がなくなった場合には、相応しく撤収したり廃棄します。いつまでも、過去の古いデータを公衆にさらすことをしません。情報をコントロールすることは極めて大切な仕事でもあります。

      必要な情報は、必要な時期に適切に提示し、不要になれば廃棄するという当たり前の姿勢が、学校情報への信頼感の醸成につながります。

      また、自校の学校webは担当者や管理職相当の方が、毎日見て異常の有無を確認することが必要です。毎日、見続けることで新しい方向性に気づいたり、お客様ユーザーの動向の把握は必須です。こまめに管理し、丁寧にサイト運営している姿は、必ずや、生徒や保護者、一般のユーザーに伝わりますので、作りっぱなしにすることは避けたいです。一般ユーザーの動向を分析し、学校webであっても社会のニーズに応えていかなければなりません。

  2. 音楽に関する著作権について学びながら、著作権全般について考え深める。
    〜Jasrac来校、授業展開、取材〜

    生徒には、レンタルCDやDVDの利用が多く見られます。しかし、必要なマナーや最低限の法的な知識を学ばせておかないと、知らないうちに犯罪を生徒自身が引き起こすことがあります。したがって、学校教育の中では著作権について学ぶ必要性があります。中高生の違法コピー販売等の事件が全国では摘発されていますので、専門的な知識を持たない先生でも、学級活動や日常の学習活動の中では触れておかなければなりません。

    本校では、著作権の学習は専門的な知識が必要であることから、JASRACのwebサイトに設置されている学習コーナー「JASRAC PARK(ジャスラックパーク)」を利用し学習しています。「音楽をつくる人・つかう人」という副題が付いていますが、専門機関が小中学生でもわかるような、平易な表現を用いて著作権について解説しています。誰でも自由に利用できる学習コースになっています。

    本校では、社会科公民的分野に位置づけて、著作権者の経済的な権利や人格権について注目し、実際に授業展開を行いました。また、JASRACからも取材に来て頂き、JASRACのwebサイト「JASRAC SCHOOL REPORT,第14回」として特集して頂きました。

    ◆JASRAC SCHOOL REPORT 第14回、柏市立逆井中学校「著作権」
    http://www.jasrac.or.jp/school/14/index.html

  3. 個人情報保護を積極的に意識し、情報モラルや道徳心を育てる。
    〜情報機器や情報通信の便利さと危険さ、情報の光と陰〜

    2005年4月から個人情報保護法が施行されました。また、柏市では2004年6月から柏市個人保護条例がありますので、学校としても個人情報の扱いには、慎重にしなければなりません。情報事故を起こさないことは、当然、必要なことです。

    同時に、生徒自身にも「自分で自分の個人情報を守る」という意識を育てていく必要があります。それは、現代的な教育課題のひとつに位置づけられます。私たちは自分で自分の身を守ることや自らの個人情報を守ることに、もっと、注意を払う必要があります。自分自身で防御することは、極めて重要な第一歩になります。個人情報の多くは自分自身から発せられていることが多く見られるからです。

    個人情報を守る学習は、社会科の公民分野での扱いとともに技術家庭科や学校生活全般を通して生徒の意識を育てていきます。また、学校webでの実践は、実は、生徒の身近に起きたできごとを素材として扱っているわけですから、生徒の理解がしやすい部分でもあります。逆に生徒からの指摘を最も受けやすい部分でもあります。

    私たちは、こどもを守るという視点で、徹底して個人情報や学校の安全を守るという意識を持ち、日常的に学校webを実践していきます。生徒が学校webを見るうちに、どのような内容は避けなければならないのか、どのように表記したり、写真画像の撮影にはどのような配慮をしなければならないのかを学んでいきます。学校webそのものが、生徒の学習素材=教科書としての機能を果たしています。

    【 生徒のプライバシーを保護した形での画像工夫な何でもできます 】

  4. 何が大切で、どう守っていかなければならないのかを体験的に学ぶ

    本校では、総合的な学習の中で「自分史づくり」を行っています。生まれてから今までどのように育ってきたのか、両親の温かい思いや周囲の人々の応援、学校の先生との関わりや友達への感謝などを、家族と話し合ったり、想い出の写真を見つめ直したりしながら、自分史を作成していきます。極めてプライベートなできごとの表記などもありますので、先生方も温かく見守りながらも、口外せず、全体への発表もしない約束で実施しています。今までの生い立ちを見つめ直すことで、未来への確かな礎を築くことができます。

    さて、生徒の側からすると、他の人には今は見せたくない資料やデータがありますので、個人のプライバシーを守ってほしいという願いが作成当初から発生します。家族のことや出生のこと、母子手帳の記載内容等で、微妙な問題をたくさん含むからです。学校側では、十分に生徒の気持ちを尊重しプライバシーを守るとともに、生徒自身にも「表現することとしないこと」、「知られたくないことと書きたいこと」「もし、何かの事情で情報が流れてしまったときのことを考えさせる」などの授業を展開します。

    作り上げた自分史は、CDRに焼き直し原本は破棄します。自分の情報を自分で作成し、自分でコントロールする体験を実際に学ばせます。作業中のパスワードの保護や変更などについても学んでいきます。

    中学生という発達段階を考慮に入れると、体験的に学ぶ手法がよく、また、それから発展させて自分自身が開発し伸ばしていく未来形の新しい権利や考え方が、多く内包される可能性があります。耳学問として教授されることよりも、多くの学びが得られる可能性があります。

(4)研究の成果

  • 学校教育の中での情報教育はどうあるべきか、何が必要でどのようなことをしなければならないのか、学校として担うへき情報教育には限りがあり、最先端を学ぶのではなく、普遍的な課題を意識し、こどもたちが未来社会の中でどうしても必要な生きる力をなるべき課題について取り組む必要があります。

    本校では、学校webの中で徹底して未来的課題に気づき実践することで、日常的に生徒に気づかせる視点を提供していきました。また、写真画像等の利用では、どのように撮られるのか、そしてどのように利用されるのかを日常的に具体的にweb上で知ることができ、生徒の学びの提供ができました。

  • 地域の教材を特集する「定点観測」の方式が、学校webとしての存在意義を持ちます。画像の撮影方法や美術的なレイアウトなどは専門家には負けてしまいますが、学校でしかできないことは地元密着の情報発信にあります。

    その地域特有のものを、できるだけ季節や時間の経過を追いかけて、連続的に提供していきます。

  • 著作権については、緊急の課題として認識し、どの先生もどの教科の中でも、さらに、学校生活のどのような場所でも学んでいく必要であります。中学生という発達段階を考えると、耳学問としてではなく、日常生活の中で体験的に学ばれるのがよいです。とくに、キャラクター権やCDのコピー、インターネットでの画像や文章等の流用については、真摯に学ぶ必要があり、かつ急務です。生徒の意識としては、インターネット上でスキル的に「画像を右クリック保存し、使用する力」が力量が高いと考える風があり、意識の改革は極めて急務です。技術家庭科の情報基礎部分での学びも必要ですが、社会科公民からの支援が必要となります。

    現状では、技術家庭科の学習の中でスキル中心に傾きがちな生徒の傾向がありますので、社会科公民分野での法律的な学習や著作権、経済的な保護についても学び直し、補強することができました。

    また、社会で起こったできごとやニュースのなかで、情報教育や著作権教育に関する話題を適宜、取り入れて具体的で日常的な素材として理解を図る必要があります。アイドルタレントの盗作盗用事件は生徒の話題にもなり、理解しやすく取り組めた素材です。現代的課題については、すぐに取り組める体制をもっておきたいです。とくに、ネット事件として大きな事件が発生したときには、周辺概念をまとめた資料を作成し配布したり、学級活動の中で学び直すなどの積極的な姿勢をもつことができました。

  • 学校webが多くの学校で稼動し始めた状況にありますが、web内での著作権の順守や個人情報の保護については、徹底して実践する必要があります。また、学校を危険から回避し安全な学校を保守するための学校webのあり方も、考え深める必要があります。

    安易な月行事予定の発表や、下校時刻のお知らせ、学校安全管理体制の公開などが全国に多数、散見できる現状があります。学習の中で学ばせていく項目は教員自身が縛られなければならず、また、実践していく必要性があるでしょう。学校の情報管理という視点は極めて大切だと考えています。