研究成果の概要
(1)研究主題
情報モラルや著作権感覚の向上を図る指導法の工夫・改善
〜豊かなコミュニケーション能力の育成を目指して〜
(2)研究のねらい
本校は,平成元年度より情報教育に関する研究を継続している。ICTを活用することで,人との関わり合いが広がり,新しい学びの姿を創造できるようになってきた。しかし,ネットワークを通した人との関わり合いが増えたことによって,より重要な課題となってきたことは,情報モラル教育や著作権教育の充実である。
昨年度は,「豊かに生きる力を育む情報モラル教育・著作権教育のあり方」を研究主題とし,全学年,全学級が情報モラル教育・著作権教育に関する授業を展開した。学年や児童の実態に応じ,様々な指導内容や指導方法を試みたため,情報モラル教育や著作権教育に関する全体的なイメージをつかむことはできた。しかし,より具体的な場面での指導内容や指導方法については課題が残った。
そこで,今年度は,昨年度の研究を深化させ,情報社会の一員として適切に活動していくために欠かすことのできない,情報モラルや著作権感覚の向上を図るための指導法を工夫・改善することを目的とした。各教科や道徳,総合的な学習の時間,学校生活の様々な場面を通じて,高度情報社会で適切な活動を行うための基となる考え方や態度を育てるための指導法について,実践を通して探っていく。そのうえで,一番大切にしたいのは,情報機器を使ってのコミュニケーションであっても,人と人とのコミュニケーションであることを常に意識させ,思いやりの心を育てることである。そのため,「豊かなコミュニケーション能力の育成を目指して」をサブタイトルとした。
また,文化庁や柏市教育委員会の研究指定校として,公開授業研究会を行ったり,実践事例を冊子にまとめて配布したりすることで,情報モラル教育・著作権教育の普及・促進を図りたい。
(3)研究の概要
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学年の発達段階に応じた指導計画の見直し
- 情報機器利用に関する段階表を見直す。
- 情報モラル教育・著作権教育に関する段階表を見直す。
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授業実践と評価
- 全学級で情報モラル教育・著作権教育に関する校内授業研究会を行い,実践に基づく成果と課題を共有する。
- 公開研究会を行い,外部評価を取り入れる。
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ゲストティーチャーの活用
- 専門的な知識を持つ外部人材を授業に活用する。
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デジタルコンテンツの活用
- 文化庁作成教材に加え,様々なデジタル教材の有効性を探る。
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実践事例集を発行する
- 本校の実践事例を冊子にまとめて市内に配布することで,情報モラル教育・著作権教育の普及・促進を図る。
(4)研究の成果
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学年の発達段階に応じた指導計画の見直し
年度始めに,本校の「情報機器利用に関する段階表」及び「情報モラル・著作権指導に関する段階表」を見直し,1年生から6年生までの体系的な指導内容を検討した。機器利用に関するスキルと情報モラル・著作権教育のタイミングを合わせることで,学ぶ目的や必然性を明確に示すことができたと考える。
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授業実践と評価
教科や道徳の中で,情報モラル教育や著作権教育が必要な内容(場面)をピックアップしたり,総合的な学習の時間の活動に応じて効果的な指導の場面を設定したりすることで,子どもたちにとって必然性と切実感のある学習を設計することができた。高学年では,自分の身を守るための知識にとどまらず,情報の発信者となり,よりよい社会作りに主体的に参画する態度を育てるための実践も行えた。
全学年,全クラスで情報モラル教育・著作権教育に関する授業研究を行ったが,ここでは,高学年の授業について報告する。
- 第6学年 総合的な学習の時間(※概要は別紙3を参照)
「修学旅行で訪れた会津のよさを伝えよう!」
修学旅行で訪れた会津の自然や歴史,それまでの取り組みや当日の様子等についてWebページにまとめる活動を行った。著作権や肖像権等に関する問題点を話し合う活動を通して,情報の発信者としての正しい知識と判断力を身につけることができた。授業では,デジタルコンテンツ(提示用)を活用した。
- 第5学年 図画工作(※概要は別紙4を参照)
「GIFアニメーションを作って自分らしさをあらわそう」
自分の作品とそうでないものとについてのこだわりを持つようになった高学年の子どもたちに焦点を当てることにした。日ごろから,オリジナルというこだわりを持っている子どもたちなので,従来の自分の手を使っての表現方法では,必ず自分の個性が現れることを感じている。ただ,デジタル機器を使うことで完全なコピーができることを知り,その際に「著作権」の考え方も,他の人が先に作ったから,もうまねしてはいけないというのではなく,制作した人に許可を取ることの大切さにも目を向けさせた。そのなかで,著作権を守るのは,誰なのかを考えることもできた。授業では,ゲストティーチャー(プロの画家)を活用した。
- 第6学年 総合的な学習の時間(※活動案は別紙5を参照)
「身のまわりの著作物を探そう!」
本校の高学年児童は,「著作権」という言葉について理解している。しかし,「身のまわりの作品にも,著作権があること」は見落としがちな傾向がみられた。そこで,「自分の作品も,他人の作品も大切にしようとする態度を養う」ことをねらいとした。身近なものについて考えることや,それを作った友達の気持ちを聞くことなどから,作者の作品に対する思いについてあらためて考えることができた。
- 第6学年 総合的な学習の時間(※概要は別紙3を参照)
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ゲストティーチャーの活用
プロの画家や携帯電話会社,新聞社等の方にゲストティーチャーとして協力してもらうことができた。専門的な知識を持つ人からのアドバイスは,子どもたちの意欲を高め,学びを深めるうえでたいへん有効であった。
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デジタルコンテンツの活用
昨年度から利用している文化庁作成教材に加え,ネットで無償提供されているものや,市販の教材の活用も試みた。数が増え,内容も充実してきているので,利用しやすくなってきており,授業の中でも活用場面が増えてきた。
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実践事例集を発行する
昨年度の実践(10実践)に加え,今年度の12実践を冊子にまとめて,柏市内の学校や教育機関に配布することができた。著作権教育や情報モラル教育を実践する際の参考にしてもらいたいと願っている。
<今後の課題>
- 昨年度からの2年間で,著作権教育や情報モラル教育に関する実践を20事例以上行ってきた。その成果をまとめ,どの学年のどの教科でどんな内容を扱うことが効果的であるか等について,体系的な指導計画作りを進めていきたい。
- メディアの進展は著しく,次々に新たな問題が発生している現状にある。時代の要請や児童の実態を考慮して,今後も研究を継続していく必要がある。