研究成果の概要
(1)研究主題
中高一貫校としての情報教育6ヵ年カリキュラムの中で、体系的な著作権教育を実施するためのカリキュラムを作成し、実践する。
(2)研究のねらい
本校は、中高一貫校としての情報教育6ヵ年カリキュラムを実施している。著作権教育は中学では、技術・家庭科が、高校では情報科が中心となって学習を進めているが、国語科、社会科、公民科と連携を図りながら実施したい。
著作権については、中学1、2年生で実施している情報基礎講座、中学3年時の技術家庭科の「情報とコンピュータ」で学習している。中学生にとって特に関わりの多い音楽やゲームソフトウェアを例に著作権についての正しい理解を身につけさせることと、生徒一人一人が正しい行動がとれることを目標に指導している。
高校では、高校1、2年で情報科「情報C」を全生徒が履修しており、著作権に関する学習はこの科目が中心となる。高校生となれば、音楽や画像、映像といったメディアコンテンツを制作することが多くなってくる。よって知的所有権に関して、他者の著作物の扱いと、自らが著作者となって公的な場で発表する場合についても学習する。
(3)研究の概要
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学校の取組み
学校全体で著作権に関する意識を高め、教育実践として生徒を指導していくためには、学校自体が著作権に対して厳しく対応していかなければならない。平成17年度より、日本文芸家協会(http://www.bungeika.or.jp/top.htm)の著作権利用等に係わる教育NPO会員となり、入試問題等に係わる著作権利用に関する点を明確にすることとなった。特に国語の作問に関して文学作品を活用する際には許諾をとる形をとっている。国語科はもちろん他教科においても教員に対して、著作権に関する知識を高めるために講習会や連絡会を実施している。
また、中学生を対象に8年前からリソースティーチャーという制度を実施している。これは本校生徒の保護者が講師となってキャリア教育、進路指導の一環として保護者の仕事や人生観について授業を実施している。この授業で映像関係の仕事をしている保護者を講師に招き、音楽業界、映像業界の全体的な話とともに著作権問題についての授業を実施した。この試みは大変好評で次年度以降も実施する予定である。
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体系化した著作権教育
本校は中高で展開している情報教育の一環として、著作権教育を中学1〜3年生で実施することとなった。実施体制は技術家庭科、情報科が中心となってカリキュラムを作成し、学年担任会と協力のもと実施している。
中学1年生総合的な学習の時間の中で6時間のカリキュラムで「情報入門講座」という形で安全にコンピュータとインターネットを活用するための講座を行った。中学2年生でも同じく総合的な学習の時間の中で6時間のカリキュラムで「情報入門講座 2」を実施し、身の回りで起きている著作権問題に対して興味関心を持ってもらうために、ケーススタディー形式で学習を行った。教材としては、文化省Webサイトにある小学生用と中学生用の著作権教育教材を活用した。
中学3年生では、技術家庭科の「情報とコンピュータ」の中で、情報モラルを学ぶ中で、著作権をケーススタディー形式で学習した。教材としては、文化庁監修「まんが著作権教室」と文化庁Webサイトにある高校生用の著作権教材を中心に展開した。まとめにDVD教材として「情報モラルとセキュリティ」(一橋出版)、「情報社会の光と影」(実教出版)を活用し、これらの著作権に関する部分を視聴させた。また導入では自作プリントの「著作権クイズ」を実施し、基礎知識のチェックをした。
高校1年生では、情報Cの「情報化社会と生活「著作権とネットワーク」「画像処理実習」で著作権を扱った。教材としては検定教科書、情報倫理ガイドブック(神奈川大学)、文化庁Webサイトにある高校生用の著作権教育教材を中心に展開した。中学で学習した基礎知識のもと、著作者の立場として保護されることの意味や対策についても学習した。
高校2年生では、情報Cの「総合実習グループ研究」でテーマを設定し、研究内容をWeb作品として完成させた。教材としては学校用ポータルサイト、情報倫理ガイドブック(神奈川大学)、文化庁Webサイトにある高校生用の著作権教育教材、まとめにDVD教材として「情報化社会の光と影」(実教出版)を活用した。研究Web作品を制作するさいには参考文献、画像などの著作権処理について学習し、実際に許諾を取る作業を高校生が実施した。生徒によっては国内の場合もあれば海外の場合もあり、メールでのやりとりや英訳など苦労しながらも実施した。
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保護者へのサポート
子供たちが携帯電話を持ち歩き、自由にインターネットを活用する中で、子供たちに正しい知識と正しい対応を教えることは大変重要である。と同時に保護者に対して正しい情報と対処方法、子供とネットの付き合い方について指導する必要がある。今年度は、外部講師を招かずに、保護者会の議題の一つに各学年で担任教師が講師となって、講習会を開いた。
(4)研究の成果
今年の研究は、情報教育6ヵ年カリキュラムの中で、体系的な著作権教育を実施するためのカリキュラムを実践することであった。著作権問題を個別の問題として捉えず、インターネット社会にはさまざまな利便性と危険な落とし穴があることを体系的に教えることを目標とした。
中学生には講義が中心となってしまうが、高校ではケーススタディーで場面場面の対応を考えることや、研究活動の中で実際に著作権の許諾をとることや、著作者として心がけることを実践で学ぶことができた。ただ、他教科との連携はうまくいかなかったのが現状で、総合的な学習の時間との連携のみとなってしまった。
保護者に対しては、子供たちにネットワークコミュニケーションの問題について講義するとともに著作権の問題も扱い、理解を深めてもらった。
今年度は中学、高校、教職員、保護者の著作権教育、講座を計画し体系的なカリキュラムを考えた。次年度はカリキュラムの評価を行うために、学習効果がいかなるものかを研究してみたい。著作権教育の事前、事後の知識理解、行動など、調査をしながら評価したい。そうすることによって、中学、高校といった中等教育での体系化された著作権教育カリキュラムが完成するとともに、他校への汎用性が生まれると考える。