平成18年度 東海大学付属仰星高等学校中等部

研究成果の概要

(1)研究主題

知的創造サイクルを考慮した著作権教育に関する研究

(2)研究のねらい

通常、権利教育に重点が置かれる事の多い著作権教育において、本校では著作権教育を知的財産教育の一環と位置付け、知的財産の創造・保護・活用の重要性を理解し、知的創造サイクルの社会的必要性を自覚できる知的財産マインドを持った人材育成のために必要な授業のあり方を探った。

具体的には、以下の3項目の目標を設定した。

  1. 体験的な活用を通して、知的創造の楽しさやおもしろさを理解させる。
  2. 知的創造物を尊重することの重要性と知的創作に関する社会的なルールを理解させる。
  3. 知的創造物の活用が豊かな社会構築に貢献していることを理解させる。

これらの内容をしっかりと身に付けさせることで、知的創造サイクルの社会的意義を認識できる人材育成を目指した。

知的財産が、豊かな社会を構築するために必要不可欠である事は、周知の事実である。「産業財産権」に関連する成果は目に見える形として現存し易いため、豊かな社会の構築に必要な事は生徒達の実感を伴い、比較的理解させやすい。しかし、「著作権」に関しては、著作物が社会に対して貢献している成果としてわかりづらい形で現存する事が多いため、どのような形で豊かな社会の構築に関与しているかが、生徒の実感を伴いにくく、理解させにくい現状にある。このような中で、権利教育に重点が置かれた授業が展開された場合、「著作権制度」の存在に対してスキルとしての重要性は十分に理解させる事ができても、モラルと乖離したコンプライアンスの精神形成に繋がりまねない。極端な場合、著作権教育が知的創造物の独占やそれに対する権利のみを主張するといった、社会性に反する思想を培う事にもつながりかねない。

よって、はじめに「著作物」は文化の発展に寄与し、人々の心を豊かにするために必要なものと位置付ける事とした。そして、「著作権制度」は「感性豊かで文化的社会構築」に必要な制度であり、この観点から「著作権制度」によって著作物の権利が保証されなければ、豊かな社会の構築がなされないとの視点で授業を展開した。

以上のように、豊かな社会の構築には「物理的な豊かさ」と「精神的な豊かさ」の両方が必要であり、「物質文明」の発展に寄与している「産業財産権制度」と「精神文明」の発展に寄与している「著作権制度」の両制度が、バランス良く機能することで「豊かな社会」が構築されている事を理解させた。

(3)研究の概要

各学年で実施した著作権教育授業の詳細を報告する。なお、各学年とも「総合的な学習の時間」を利用して11月〜2月の期間内で10時間の授業を展開した。

【第1学年】

授業テーマ:大阪の企業家から学ぼう ー知的財産の社会的貢献を知ろうー

はじめに、大阪の著名な企業家11人から、各班に1名を割り当てて、その企業家について、
A.企業名 B.略歴 C.事業内容 D.経営倫理 E.企業の社会的貢献
をインターネット等を利用して調べる「調べ学習」を行った。続いて、本校独自で作成したワークシートに従って調べた資料をパワーポイントにまとめさせ、最終時間にその成果のプレゼンテーションを実施した。この著作権教育授業を展開するに当たり、第1学年では以下の4観点の目標を設定した。

  1. グループ活動を通した内的企業家精神の育成(グループによる知的創作活動に必要な協調性・チャレンジ精神・リーダー性・マネージメント能力等の育成)
  2. スライド作りを通した知的創作の楽しさや素晴らしさの体験と著作物の保護の基本的考え方の理解
  3. スライド作りを通した著作権に関するルール(引用の方法、出典明示の義務、著作物の使用許諾の必要性)の理解
  4. プレゼンテーションを利用したコミュニケーション能力と情報収集・発信能力の育成

次に、具体的な取り組みを表1に示す。

表1.中学1年生における授業概要

実施日 内容
11/9(木)
学年ガイダンス<視聴覚教室にて講演会形式の授業>

東海大学知的財産教育研究プロジェクト制作パワーポイント『知的財産って何?』《別紙資料1に提示》を利用して、知的財産に関する基本的な内容を理解させた。

11/16(木)
クラスガイダンス<各教室にて担任が授業>

仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作パワーポイント『大阪の企業家から学ぼう』《別紙資料2》を利用して、以下に示す4項目を説明した。

  1. 授業の目的
  2. 今後の授業の進め方
  3. スライドの例示と調べ方
  4. 著作権に関する基本的ルール説明

説明後、班分けを行い、調べる企業家を各班に振り分けた。

11/30(木)
12/7(木)
1/11(木)
ワークシートを用いた調べ学習

仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作のワークシート《別紙資料3》を用いて、以下に示す6項目についてインターネット等を用いて調べ、プレゼンテーション資料を作成させた。なお、本校では一人1台ずつノートパソコンが貸与され、無線LANによってホームルーム教室で調べ学習が可能な環境にある。

  1. 企業家のプロフィール
  2. 企業が提供している商品やサービス
  3. 企業設立の動機・きっかけ
  4. 会社の営業内容の特徴(着眼点・工夫・新規性等)
  5. 企業の経営理念
  6. 企業の社会的貢献

調べ学習が終了した時点で、生徒達で「企業の成功要因」を考えさせて、プレゼンテーション時に発表させるよう指導した。

1/18(木)
2/1(木)
2/8(木)
プレゼンテーション用パワーポイント・スライドの作成

ワークシートに記載された資料に従って発表用のスライドを作成させた。パワーポイントは「技術」の時間に履修済みであり、担任は個別に作成時の質問に答える程度であった。

スライド作成に当たり、以下に示すプレゼンテーション手法と著作権法に対する2点の内容を各担任が指導した。

  1. 効果的なスライド作成方法
  2. 出典明示と引用に関する注意
2/15(木)
プレゼンテーション準備とリハーサル

プレゼンテーションの意味・具体的な方法・留意点を説明し、リハーサルを通して具体的な指導を行った。

2/22(木)
プレゼンテーションの実施と著作権教育授業のまとめ《別紙資料CD-ROM参照》

生徒にプレゼンテーション評価をさせ、担任が講評・まとめを実施した。

【第2学年】

授業テーマ:「学校のルール」をわかりやすく表現しよう

新入生にわかりやすく学校のルールを紹介するというデジタルコンテンツ制作を実施した。新入生に伝えなければならないテーマについて、本校独自で作成したワークシートに従って内容を整理してシナリオを作り、それを元に伝えるべき内容をパワーポイントにまとめさせ、最終時間にプレゼンテーションで成果を発表した。この著作権教育授業を展開するに当たり、以下の5観点の目標を設定した。

  1. グループ活動を通した内的企業家精神の育成(グループによる知的創作活動に必要な協調性・チャレンジ精神・リーダー性・マネージメント能力等の育成)
  2. デジタルコンテンツ制作を通した知的創作の楽しさや素晴らしさの体験と著作物保護の基本的考え方の理解
  3. プレゼンテーションを利用したコミュニケーション能力と情報発信能力の育成
  4. プレーン・ストーミング法を用いた発想技法の習得
  5. デジタルコンテンツ制作を通した著作権制度とルールの理解

次に、具体的な取り組みを表2に示す。

 

表2.中学2年生における授業概要

実施日 内容
11/9(木)
学年ガイダンス<講堂にて講演会形式の授業>

昨年度、先述の『知的財産って何?』を利用して、知的財産に関する基本的な内容を理解させているため、仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作パワーポイント『「学校のルール」をわかりやすく表現しよう』《別紙資料4》を利用して、以下に示す4項目を説明した。

  1. 授業の目的
  2. 今後の授業の進め方
  3. スライドの作り方例
  4. プレゼンテーションの方法
11/16(木)
クラスガイダンス<各教室にて担任が授業>

仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作パワーポイント『プレゼンテーションについて』《別紙資料5》を利用して、プレゼンテーションに関しての基本的な手法や注意点をワークシート1《別紙資料6》を併用しながら説明した。続いて、

  1. 授業の目的
  2. 今後の授業の進め方

を再確認した後、班分けを実施して各班にテーマを振り分けた。テーマは、以下に示す6テーマである。

  1. 2年A組 1.通学マナーについて 2.校則について
  2. 2年B組 3.食道の使い方について 4.掃除について
  3. 2年C組 5.授業について 6.校内のマナーについて
11/30(木)
12/7(木)
1/11(木)
ワークシートを利用したアイデアのイメージ化

仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作のワークシート2《別紙資料7》を用いて、以下に示す4項目を考えさせる指導を行った。

  1. プレゼンテーション手法の決定
  2. プレーン・ストーミング法を用いた伝えたい内容の整理
  3. スライドの絵コンテ作成
  4. スライドのシナリオ作成
1/18(木)
2/1(木)
2/8(木)
スライド作成と資料準備

ワークシート2に記載された内容に従って、以下に示す4項目の作業を行い、発表用のスライドを作成させた。

  1. 絵コンテによるスライド校正の確認
  2. スライドで使用するビデオ・写真撮影
  3. ビデオ・写真の選定・編集
  4. 発表用原稿の作成
2/15(木)
プレゼンテーション準備とリハーサル

プレゼンテーションの意味・具体的な方法・留意点を説明し、リハーサルを通して具体的な指導を行った。特に、制作したビデオや写真が効果的に活用されているかを各担任が確認した。

2/22(木)
プレゼンテーションの実施と著作権教育授業のまとめ《別紙資料CD-ROM参照》

学年団の要望により、各クラスの発表者を3等分して3クラスを混合する形でプレゼンテーションを実施した。これは、自分達のクラス以外での活動の状況を生徒が確認することができるようにとの配慮である。プレゼンテーションの内容を生徒達に評価させ、各クラスの担当者が講評・まとめを実施した。

【第3学年】

授業テーマ:クラスのシンボルマークを作ろう −クラスへの想いを形にしようー

卒業アルバムに掲載する各クラス・オリジナルのシンボルマークを考案した。クラス内のグループで1つずつシンボルマークを作成させ、クラスの代表となるシンボルマークの選定を、プレゼンテーションを通して実施した。この著作権教育授業を展開するに当たり、以下の6観点の目標を設定した。

  1. グループ活動を通した内的企業家精神の育成(グループによる知的創作活動に必要な協調性・チャレンジ精神・リーダー性・マネージメント能力等の育成)
  2. シンボルマーク制作を通した知的創作の楽しさや素晴らしさの体験と著作物保護の基本的考え方の理解
  3. 知的創作を通した創造性や個性の重要性とその価値を尊重・保護する著作権制度の必要性の理解
  4. プレーン・ストーミング法を用いた発想技法の習得
  5. プレゼンテーションを利用したコミュニケーション能力と情報発信能力の育成
  6. 知的創作物が実際に社会へ出ることの喜びとそれに伴う責任の理解
    次に、具体的な取り組みを表3に示す。

表3.中学3年生における授業概要

実施日 内容
11/9(木)
学年ガイダンス<講堂にて講演会形式の授業>

昨年度、先述の『知的財産って何?』を利用して、知的財産に関する基本的な内容を理解させているため、仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作パワーポイント『クラスのシンボルマークを作ろう』《別紙資料8》とワークシート1《別紙資料9》を利用して、以下に示す4項目を説明した。

  1. 授業の目的
  2. シンボルマークとは?
  3. 東海大学のシンボルマーク「Tウェイブ」に込められた想い
  4. プレゼンテーションの方法
11/16(木)
シンボルマークの考案

班分けの後、仰星高等学校知的財産教育推進委員会制作のワークシート2《別紙資料10》を用いて、マークに込める想いや図案化する内容を決めさせる指導を行った。ここでは、数多くのアイデアを引き出すために、プレーン・ストーミング法を利用して、シンボルマークに込める内容の整理を行わせた。

11/30(木)
シンボルマークの決定

ワークシート3《別紙資料11》を用いて、シンボルマークに込める想いや概念を具体的に図案化し、各班でのシンボルマークを決定させた。

12/7(木)
1/11(木)
1/18(木)
2/1(木)
プレゼンテーション準備

昨年度学習したプレゼンテーションの意味・具体的な方法・留意点を復習し、ワークシート4《別紙資料12》を利用してプレゼンテーションの準備を行わせた。模造紙を用いて発表を希望する班が多かったが、図案をスキャナーで読み取ったり図形描画ソフトを用いて作成したりしたものをパワーポイントで発表を希望する班もあった。

2/8(木)
プレゼンテーション・リハーサル

以下に示す3項目について、担任がリハーサルを通して具体的な指導を行った。

  1. ポスターの見やすさ
  2. 発表原稿の内容
  3. 声量・態度・姿勢
2/15(木)
2/22(木)
プレゼンテーションの実施と著作権教育授業のまとめ《別紙資料CD-ROM参照》

クラス内での発表を通して、プレゼンテーション内容を生徒に評価させると同時にクラスのシンボルマークとして相応しい作品の投票を行った。この投票からクラスのシンボルマークを決定した。

シンボルマークを決定後に担任によるまとめを実施した。

 

(4)研究の成果

4−1.成果の検証

各学年とも授業完了後に、無記名方式による「授業に対するアンケート調査」を実施した。この結果から本校中等部における著作権教育の成果を、学年毎に考察する。

【第1学年】授業テーマ:大阪の企業家から学ぼう −知的財産の社会的貢献を知ろう−

1年生で実施した「授業に対するアンケート」設問内容を示す。

  • Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。
  • Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか。
  • Q3.あなたは知的財産授業で調べた人物に興味を持ちましたか。
  • Q4.あなたは知的財産授業によって、知的財産(創造的な活動やその価値)の大切さがわかりましたか。

これらの設問に対し、4段階の回答を用意して生徒の感想を集計した。その結果を表4に示す。

Q1およびQ2の結果から、80%以上の生徒がこの授業を楽しくかつ積極的に取り組んでいたことが判る。今回、生徒達が調べた企業家を表5に示す。なお、この表は「大阪商工会議所人材開発部大阪企業家ミュージアム」編集・発行の「大阪企業家ミュージアムガイドブック」より引用している。表5からもわかるように、生徒達がよく知っていると思われる企業に絞り込んだため、調べ学習に取り組みやすかった点が非常に高い割合でこ授業が楽しくかつ積極的に取り組めた要因であったと思われる。この結果から、著作権教育では授業テーマの設定が活動の成否に大きな影響を与えることがわかった。

次に、Q3の結果から企業家に関する興味・関心では、約70%の生徒が興味・関心を持った反面、約30%の生徒が興味・関心を持てなかった事がわかる。日常生活を送る上で身近な商品を販売している企業について調査した生徒達は、調べ学習に対するモチベーションが上昇している傾向が見られたが、KINCHOやヤンマーディーゼルのように教員側から見て有名な企業であっても、日頃から生徒の生活に密着しにくい企業に関してはモチベーションが上がりにくい傾向が見られた。以上の結果から、事前に生徒達から見て興味・関心のある企業や商品・サービスに対する調査を導入するなどの対策の必要性を感じた。

最後に、Q4の結果から90%以上の生徒が知的財産に興味・関心を持てたことがわかる。通常、著作権教育や知的財産に関する項目を投げ込み的に学習させる方法でも十分に効果が発揮されることがわかった。

表4.中学1年生のアンケート結果

Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。 グラフ
A 楽しかった。 50%
B どちらかというと、楽しかった。 35%
C どちらかというと、楽しくなかった。 10%
D 楽しくなかった。 5%
Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか。 グラフ
A 積極的に取り組んだ。 35%
B どちらかというと、積極的に取り組んだ。 46%
C どちらかというと、積極的に取り組まなかった。 18%
D 積極的に取り組まなかった。 2%
Q3.あなたは知的財産授業で調べた人物に興味を持ちましたか。 グラフ
A 興味を持った。 31%
B どちらかというと、興味を持った。 41%
C どちらかというと、興味を持たなかった。 16%
D 興味を持たなかった。 12%
Q4.あなたは知的財産授業によって、知的財産(創造的な活動やその価値)の大切さがわかりましたか。 グラフ
A 大切さがわかった。 50%
B どちらかというと、大切さがわかった。 41%
C どちらかというと、大切さがわからなかった。 6%
D 大切さがわからなかった。 4%

表5.中学1年生の著作権教育授業で調べた起業家一覧

No 起業家名 企業名 特徴
1 上山 英一郎 KINCHO 除虫菊栽培の普及に尽くし、長時間使用できる「渦巻き型」線香の開発に成功
2 山岡 孫吉 ヤンマーディーゼル 「燃料報国」をモットーに経済性に優れたディーゼルエンジンの普及に貢献
3 水野 利八 ミズノ スポーツを生活文化として確立し、その大衆化に力注ぐ。「カッターシャツ(勝ったシャツ)」考案
4 黒田 善太郎 KOKUYO 和式帳簿からスタート、事務・オフィス近代化をリード。1913年からの洋式帳簿が現在まで主流
5 鳥井 信治郎 サントリー 「やってみなはれ」の精神で国産洋酒のパイオニアに。世界に通じる「利益三分主義」を導入
6 江崎 利一 江崎グリコ 「おいしさと健康」を基本理念に子どもたちを思う心が「グリコ」を生む
7 吉本 せい
林 正之助
吉本興業 大衆演芸を組織化し、「笑い」をビジネスに。漫才の質向上を目指し「文芸部」を創立
8 松下 幸之助 松下電器産業 物作り・人作り通して、生活文化の向上に貢献。世界を視野に電化ブームを牽引
9 井植 歳男 三洋電機 鋭いマーケティング力とフロンティアススピリッツで家庭電化時代を開く。洗濯機開発が有名。
10 早川 徳次 シャープ シャープペンシルを発明。独創技術で総合エレクトロニクス企業への道を拓く
11 安藤 百福 日清食品 インスタントラーメンで新たな食文化を創る。チキンラーメン、カップヌードルの発明

<大阪商工会議所人材開発部 大阪企業家ミュージアム 編集・発行、「大阪企業家ミュージアムガイドブック」より引用>

【第2学年】授業テーマ:「学校のルール」をわかりやすく表現しよう。

2年生で実施した「授業に対するアンケート」設問内容を示す。

  • Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。
  • Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか。
  • Q3.あなたは知的財産授業によって著作物(作品)を制作する創造的な活動に興味を持ちましたか。
  • Q4.あなたは知的財産授業によって、著作権(創造的な活動による作品の価値)の大切さがわかりましたか。

これらの設問に対し、4段階の回答を用意して生徒の感想を集計した。その結果を表6に示す。

Q1の結果から、約75%の生徒がこの授業に楽しく取り組んでいたことが判る。しかし、Q2の結果から、1年生よりも約10%低い70%の生徒しか積極的に取り組めていなかったことがわかった。今回、「学校のルール」を説明する手法として、90%以上の班がパワーポイント・スライド中に撮影したビデオを挿入して活用するという方法を選択した。学校が所有するデジタルビデオカメラの台数の関係から、各クラスとも2台ずつしか使用できなかった。各クラスとも、この2台で10班分の撮影スケジュールを組まざるを得ない状況となり、撮影に関しては非常にタイトなスケジュールとなった。更に、撮影後に各自のノートパソコンへのデータ取り組みと編集作業を行わなければならず、AV機器関係やコンピュータに関するスキルの高い生徒が中心となって活動が行われたため、1/4程度の生徒が活動についてくることができない状況が生まれたことも、Q2の結果が低くなった原因と思われる。今回は生徒の希望を尊重した手法を導入したが、来年度以降はデジタルカメラの映像や自分達で書いた図案等をスキャナーで取り込む程度の活動に止め、ある程度ハードウェアに関する生徒のスキル格差に影響されにくい授業内容に改善する必要性を感じた。この内容に関する影響がQ3の結果にも反映されており、作品への創作的な活動に関する興味・関心も約60%に留まってしまい、知的創作活動の楽しさを実感させることは不十分な状況となった。 最後に、Q4の結果から著作権の大切さに関しては、80%以上の生徒が理解できたようである。これは、自分達が非常に苦労してビデオ撮影や編集作業を行ったことから、著作権に関する担任からのまとめを自分達のことに置き換えて捉えることができたためと思われる。

以上のことから、授業に関してスムーズな展開ができなかった場合でも、知的創作活動に主眼をおいた授業にを導入し、困難な作業や状況を乗り切ったという充実感と自信を持たせることができれば、著作権制度の精神や重要性を自らの問題に置き換えることができ、当初の目的を達成することが十分に可能である事がわかった。

【第3学年】授業テーマ:クラスのシンボルマークを作ろう −クラスへの想いを形にしよう−

3年生で実施した「授業に対するアンケート」設問内容を示す。

  • Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。
  • Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか
  • Q3.あなたは知的財産授業によって著作物(作品)を制作する創造的な活動に興味を持ちましたか。
  • Q4.あなたは知的財産授業によって、著作権(創造的な活動による作品の価値)の大切さがわかりましたか。

これらの設問に対し、4段階の回答を用意して生徒の感想を集計した。その結果を表7に示す。

Q1およびQ2の結果から、85%以上の生徒がこの授業を楽しくかつ積極的に取り組んでいたことがわかる。今回の授業テーマが「クラスへの想いを形にしよう」であったため、ブレーン・ストーミング法によってこの1年間を振り返ることからスタートし、自らの体験を元にした活動内容であったために活発な意見が出やすく、授業の初期段階から非常に取り組みやすかった点が、高い割合でこの授業に積極的かつ楽しく取り組めた要因であったと思われる。この結果から、著作権教育や知的財産権教育では授業テーマの設定においては、自分達の学校生活に密着した題材を厳選することが重要であることがわかった。

次にQ3の結果であるが、Q1とQ2の結果から今回の授業を積極的かつ楽しく取り組んでいた事がわかったが、知的創造に関して興味・関心を持てた生徒は約70%程度であり、約30%の生徒は充実感を持てなかった事がわかった。今回はシンボルマークという図案の制作に内容が限定されたため、オブジェやマスコット、詩や歌など、クラスを象徴するその他の表現手法を導入しなかった事が、約30%の生徒は充実感を持てなかった原因ではないかと思われる。すなわち、自分のクラスへの想いを表現する手法には、先に挙げたような色々な方法・手段が存在し、生徒一人一人の得意分野や個性を引き出せる素材は無数にあったといえる。しかし、今回はグループ活動で同一テーマにしなければならないという教員側の授業意図から、結果的に知的創作活動に制限を設けた形となってしまった。このような制限を授業で設けることなく、生徒がそれぞれの得意分野で個性を発揮できる知的創作活動に関する環境の整備が著作権教育や知的財産教育では重要であることがわかった。

最後に、Q4の結果から著作権の重要性に関しては、95%の生徒が理解できた。これは、自分達が非常に苦労してシンボルマークを作成し、そのマークには生徒一人一人の想いが込められていることから、著作権に関する担任からのまとめを真に自分達のこととして捉えることができたためと思われる。

以上のことから、2年生と同様に中学生にとっての著作権教育や知的財産教育は、著作権制度や知的財産制度の精神、重要性が自分達の日常生活に深く関わっていることを認識できるような体験型学習内容として展開することが必要不可欠であることがわかった。

表6.中学2年生のアンケート結果

Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。 グラフ
A 楽しかった。 17%
B どちらかというと、楽しかった。 59%
C どちらかというと、楽しくなかった。 23%
D 楽しくなかった。 2%
Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか。 グラフ
A 積極的に取り組んだ。 20%
B どちらかというと、積極的に取り組んだ。 50%
C どちらかというと、積極的に取り組まなかった。 30%
D 積極的に取り組まなかった。 0%
Q3.あなたは知的財産授業によって著作物(作品)を制作する創造的な活動に興味を持ちましたか。 グラフ
A 興味を持った。 11%
B どちらかというと、興味を持った。 48%
C どちらかというと、興味を持たなかった。 30%
D 興味を持たなかった。 11%
Q4.あなたは知的財産授業によって、知的財産(創造的な活動やその価値)の大切さがわかりましたか。 グラフ
A 大切さがわかった。 42%
B どちらかというと、大切さがわかった。 42%
C どちらかというと、大切さがわからなかった。 12%
D 大切さがわからなかった。 5%

表7.中学3年生のアンケート結果

Q1.あなたにとって知的財産授業は楽しいものでしたか。 グラフ
A 楽しかった。 34%
B どちらかというと、楽しかった。 51%
C どちらかというと、楽しくなかった。 11%
D 楽しくなかった。 4%
Q2.あなたは知的財産授業に積極的に取り組みましたか。 グラフ
A 積極的に取り組んだ。 37%
B どちらかというと、積極的に取り組んだ。 55%
C どちらかというと、積極的に取り組まなかった。 8%
D 積極的に取り組まなかった。 0%
Q3.あなたは知的財産授業によって著作物(作品)を制作する創造的な活動に興味を持ちましたか。 グラフ
A 興味を持った。 19%
B どちらかというと、興味を持った。 51%
C どちらかというと、興味を持たなかった。 22%
D 興味を持たなかった。 8%
Q4.あなたは知的財産授業によって、知的財産(創造的な活動やその価値)の大切さがわかりましたか。 グラフ
A 大切さがわかった。 57%
B どちらかというと、大切さがわかった。 38%
C どちらかというと、大切さがわからなかった。 5%
D 大切さがわからなかった。 0%

4−2.成功点

今回の著作権教育においては「体験型重視の授業」を導入することによって、(1)体験的な活動を通して、知的創造の楽しさやおもしろさを理解させる (2)知的創造物を尊重することの重要性と知的創作に関する社会的なルールを理解させる (3)知的創作物の活用が豊かな社会構築に貢献しているということを理解させる という知的創作サイクルの社会的意義を認識させるという、当初の目標に関しては十分に到達できたといえる。すなわち、著作権教育においては、スキルの向上を目的とした知識重視型の授業を展開するより、体験を重視して適時必要に応じた知識を織り交ぜて説明する方が、生徒の著作権制度や知的財産制度の精神や重要性の理解度が高くなり、「豊かな社会を構築する」ことに対する著作権制度の果たす役割を理解させやすいといえる。

4−3.今後の課題

今回の著作権教育においては「体験重視型の授業」を導入する際、グループ活動を通した内的企業家精神の育成も考慮して授業を展開したため、生徒一人一人の得意分野において個性を発揮できる知的創作活動の環境整備ができないままで授業を展開したといえる。よって、学年が上がるに従って高度な授業内容を展開するに当たっては、この点の考慮の必要性が高くなるといえる。

また、2年生の授業実践から、授業内容を展開するに当たっては、この点の考慮の必要性が高くなるといえる。

また、2年生の授業実践から、授業テーマ設定に当たっては、生徒の持つスキルの現状分析・調査を十分に行った上で選定しなければ、一部の生徒が授業についてこられない可能性があることがわかった。このことは、中学校における学習活動全般において、生徒の学力・能力の把握を行った上でテーマを全教員で検討しなければならないことを示唆している。すなわち、著作権教育や知的財産教育を推進する上においては、分掌や学年団という小さな集団で授業テーマ設定を行うのではなく、中学校全体で担任の立場から、あるいは教科担当の立場から等、多角的な視点で生徒の学力を把握して授業を展開しなければならない事がわかった。

4−4.今後の展望

4−3.でも述べたように、中学校において著作権教育や知的財産教育を推進するためには、担任・教科等の立場から、多角的な視点で学力を把握して授業の立案と展開しなければならない。言い換えれば、著作権教育や知的財産教育は「総合的な学習の時間」や「技術」「音楽」「美術」等の関係の深い実技系教科だけで実施するのではなく、学校における全ての教科や教育活動においてもテーマの設定が可能であり、全ての教科における学力の正確な把握とアプローチが必要不可欠であるといえる。

今後は、学校の教育活動全般について、著作権教育や知的財産教育をどう展開するべきかの議論が必要である。また、各教科における著作権教育や知的財産教育の導入も視野に入れた計画を展開したい。

次に、文化庁監修の著作権教材についてであるが、生徒全員に「インターネット時代のまんが著作権教室」を配布し、担任裁量で授業内において適時活用するように指示した。この教材は生徒自身の自学学習用としても優れたものであるが、教員自身にとっても非常にわかりやすい資料であった。生徒の著作権関係の質問に関しても、この本を提示しながら説明を行った先生方が多く、教員用の授業資料としての活用価値も高い教材であった。