「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 1. (2)

(2)契約の内容

<1> 講演等の特定
日時、場所、テーマ等についてについて取り決めておきましょう。

 講演等の依頼を行う場合は、講演等の利用の有無にかかわらず、講演等の日時、場所、テーマ等について取り決めておく必要があります。

基本的な事項の規定例

 【講演者名】(以下「甲」という。)と【主催者名】(以下「乙」という。)とは、【講演会名】に関し、以下の通り契約を締結する。

第○条 (参加依頼)

 乙は、甲に対し、乙が主催する以下の講演会において講演することを依頼し、甲はこれを承諾した。

(1) 日時:
(2) 場所:
(3) 講演会の名称:
(4) テーマ:
(5) その他特記事項:

<2> 講演等の利用
(ア) 講演等の利用については、講演等の依頼時に併せて了解を得るようにししょう。
  • 紙に書かれたものだけが著作物となるのではなく、講演等の話も著作物となります。会場で話してもらうだけでなく、講演等(講演者等の著作物)を別に利用することが予定されている場合には、講演等の依頼の際に、その利用について説明し、了解を得ることが必要です。
  • 主催者が講演等を録音・録画することがよくありますが、たとえ主催者が記録のために録音・録画するものであっても、講演者等の著作物を複製することになりますから、講演者等の了解が必要になります。
  • 講演等の利用としては、講演等の録音・録画のほか、別会場等への同時中継など講演等と同時の利用と、講演録等の印刷などの講演等の終了後の利用があります。終了後の利用については、利用する段階で別途契約することもできますが、合意が得られず利用できなくなることもあり得るため、講演等の依頼時に契約することが望ましいと考えられます。
  • パネルディスカッションや座談会のように複数の人が参加しているものを利用する場合は、参加者全員の了解が必要となります。そのため、契約書に記載する利用方法は、統一しておく必要があります。
    注:講演などの様子を写真撮影することがあります。講演者等を写真に写すことは著作物を利用しているものではありませんが、肖像権等の問題が生じることがありますから、講演者等の了解を得るようにしてください。
(イ) 講演等と同時に利用(リアルタイムで利用)するかどうか検討してください。

 講演等と同時の利用(リアルタイムでの利用)としては、講演等の録音・録画のほか、たとえば次のような利用が考えられます。どのような利用を行うかよく検討した上で了解を得ることが必要です。
〈リアルタイムでの利用の例〉

  • 講演等を別会場(副会場)へ中継する
  • 講演等をインターネットにより配信する
  • 講演等を放送または有線放送する

規定例

第○条 (利用の許諾)
甲は、乙(たは乙が指定する者)が次に掲げる方法で前条の講演を利用することを許諾する。
(1) 講演中の甲の写真撮影
(2) 講演の録音および録画
甲は、乙(たは乙が指定する者)がリアルタイムで次に掲げる方法で講演を利用することを許諾する。
(1) 講演を【副会場名】に中継すること
(2) 講演をインターネット(http://www・・・)により無料で配信すること
(3) 講演を【放送局名および番組名】)で放送すること

【留意点】

  • 主催者(上記規定例の場合は「乙」)が他の者に講演等を利用させる場合(たとえば主催者が別の者に録音・録画させたり、別の放送事業者が放送する場合)は、契約書にその旨明記しておくことが必要です。
  • 同時中継の副会場が多数ある場合は、副会場名を「別添の○○箇所」とすることも考えられす。
(ウ) 講演等の終了後の利用についてもよく検討してください。

 講演等の終了後の利用としては、講演等の内容の文章化(講演録、講演要旨、これらの翻訳物の作成)をしたり、講演等の録音物・録画物を編集・加工し、次のように利用することが考えられます。どのような利用を行うかよく検討した上で了解を得ることが必要です。

〈講演録、講演要旨、これらの翻訳物を作成し利用する例〉

  • 印刷物に掲し、配布する
  • ホームページに掲載し、配信する

〈録音物・録画物を編集・加工して利用する例〉

  • コピー(複製)して配布する
  • ホームページに掲載し、配信する
  • 放送たは有線放送する
  • 上映する

講演後の利用に関する規定例

第○条 (利用の許諾)
甲は、乙(たは乙が指定する者)が次に掲げる方法で講演を利用することを許諾する。
(1) 講演録を作成すること
(2) 講演録および甲が使用した資料、[これらを英訳したもの並びに]甲を撮影した写真(以下「講演録等」という。)を「『○○○』○年○月号」に掲し、複製、譲渡たは与すること
(3) 講演録等を○年○月○日での間インターネット(http://www・・・)に掲し、無料で配信すること
(4) 講演要旨を作成すること
(5) 講演要旨、[講演要旨を英訳したもの、]甲を撮影した写真(以下「講演要旨等」という。)を「『○○○』○年○月号」に掲し、複製、譲渡たは与すること
(6) 講演要旨録等を○年○月○日での間インターネット(http://www・・・)に掲し、無料で配信すること
(7) 講演の録音物を編集・加工すること
(8) 講演の録音物を編集・加工したもの、甲が使用した資料および甲を撮影した写真(以下「録音物等」という。)を複製し、譲渡たは与すること
(9) 録音物等を○年○月○日での間インターネット(http://www・・・)に掲し、無料で配信すること
(10) 講演の録画物を編集・加工すること
(11) 講演の録画物を編集・加工したもの、甲が使用した資料および甲を撮影した写真(以下「録画物等」という。)を複製し、譲渡たは与すること
(12) 録画物等を○年○月○日までの間インターネット(http://www・・)に掲載し、無料で配信すること
(13) 録画物等を○○○○で放送すること
(14) 録画物を上映するとともに、甲が使用した資料を複製し、視聴者に配布すること
甲が講演で使用した資料のを利用する場合(講演録たは講演の録音物・録画物を編集・加工したものとあわせて利用しない場合)は、前項の規定にかかわらず、別途甲の許諾を得るものとする。

【留意点】

  • 上記規定例における(1)〜(3)は講演録を作成し利用する場合、(4)〜(6)は講演要旨を作成し利用する場合、(7)〜(9)は講演の録音物を作成し利用する場合、 (10)〜(14)は講演の録画物を作成し利用する場合の例です。
  • 許諾内容の記載方法は特に定まったものがあるわけではなく、当事者間で合意していればどのように記載してもかまいません。部数、有償・無償の別などが未定の場合は掲載する冊子名のみ記載することもありますし、発行や放送の時期や利用期間などを記載することもあります。利用期間については、個々の利用方法ごとには明記せずに、契約期間として別の条項を設けることもあります(契約期間について別の条項を定める場合については、第1章1.(2)<1>(カ)の「契約期間は必要に応じて規定ししょう。」を参照してください。)。ただし、なるべく具体的にわかりやすく記した方が望しいことはいうでもありせん。
  • 主催者(上記規定例の場合は「乙」)が別の者に講演等を利用させる場合(たとえば主催者とは別の放送事業者が放送する場合)は、契約書にその旨明記しておくことが必要です。
  • 講演録や講演の録音・録画物の利用にあたって、講演者等が会場で配付した資料やスクリーン等に表示した資料などの講演者等が講演等のに使用した資料や、講演等の様子を撮影した写真も併せて使用する場合(たとえば、印刷物やホームページに資料や写真も併せて掲したり、録音・録画物のパッケージ等に写真を使用したりする場合、資料をインターネット上でダウンロードできるようにする場合など)は、契約書にその旨明記し、それについての了解も得るようにしてください。
  • 講演録等を他の言語(たとえば英語)に翻訳して利用する場合は、その旨明記するようにしてください。
  • 著作権法では複製する権利(複製権)とは別に複製物を譲渡する権利や与する権利(譲渡権、与権)が定られていす。そのた、印刷物への掲や録音・録画物の配布等を行う場合には、「複製し、譲渡たは与する」というように記した方が正確といえす。
  • 講演録・講演等の要旨、これらの翻訳物について、掲載する印刷物やホームページが異なる場合は、それぞれ何に掲載するか明らかになるようにしてください。
  • 講演等で使用した資料は、講演等を行う者が講演内容等の理解を増すたに用意したものであり、資料のを単独で利用することは想定されていないこともありす。規定例では、講演録等や講演の録音・録画物と一緒に利用せずに、資料のを単独で利用する場合は、講演等との契約とは別に、講演者等の許諾を得るようにしていす。
<3> 著作者人格権
著作者人格権についても明記するようにしましょう。

 講演録等への著作者名の表示や、著作者による内容の確認についても記するようにししょう。著作者は、著作者人格権として、著作物を公表する場合、著作者名の表示をどのようにするか決ることのできる権利(氏名表示権)や意に反して改変されない権利(同一性持権)を持っていすので、著作者名の表示や議事録等の作成のに著作者(講演等を行った者)に確認の機会を与えることを明記しておくことが望しいと考えられす。

著作者人格権に関する規定例

第○条(著作者人格権)
第○条の利用を行う場合には、乙(または乙が指定する者)は、合理的と認められる方法により甲の氏名を表示しなければならない。
乙(たは乙が指定する者)が、講演録および講演要旨の作成、これらの翻訳並びに講演の録音物・録画物の編集・加工を行うときには、あらかじ甲に対して内容確認の機会を与えなければならない。

【留意点】

  • 上記の規定がない場合であっても、講演等の利用にあたっては、原則として著作者名を表示するとともに、講演等の文章化、要旨の作成、それらの翻訳、録音・録画物の編集・加工を行う際には、著作者の意に反した改変が行われていないか確認してもらう機会を確保することが必要となります。この規定は、このことを両者が確認しておくために設けるものです。
<4> 対価

 講演等およびその利用の対価は明確にしましょう。
 講演等の終了後の利用などに関する追加報酬の有無も明らかにしておきましょう。講演等にあたっては、報酬が支払われる場合が多いと思われますが、その報酬が会場で話してもらうことのみの対価なのか、講演等の利用も含めた対価なのかが不明確であれば、トラブルの原因になります。そのため、報酬は何に対する対価なのか明らかにするとともに、報酬とは別に追加報酬が支払われる場合は、何に対する対価としてどのように支払われるか、契約に明記しておくことが必要です。

追加報酬がない場合の規定例

第○条(対価)

 乙は、甲に対し、講演および第○条に掲げる講演の利用の対価として、○○○○円(消費税込)を、○年○月○日でに支払う。

追加報酬がある場合の規定例

乙は、甲に対し、講演および第○条に掲げる講演の利用(△△を除く)の対価として、○○○○円(消費税込み)を、○年○月○日までに支払う。
乙は、甲に対し、△△の対価として、○○○○円(消費税込み)を、△△を行った日から○○日以内に支払う。

【留意点】

  • 複数の利用について追加報酬がある場合は、追加報酬のある利用ごとに規定することを想定していす。
<5> その他
(ア) 他人の権利を侵害しないことや他人の著作物を利用するの取扱いも明らかにしておきしょう。

 講演等において、第三者の著作権などの権利が侵害された場合、講演等を行った者だけでなく、主催者側も責任を問われることが考えられます。そのため、講演等を行う者に対し、講演等において、第三者の権利を侵害してはならないことや、第三者が著作権を有している著作物を使用する場合は、事前に主催者に、その使用が第三者の著作権等を侵害するものでないことを説明し、主催者の了解を得ることを定めておくことがあります。

規定例

第○条()
甲は、講演の内容が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害するものでないことをする。
甲が、第三者が著作権等を有する著作物等を講演において使用しようとする場合は、事前に乙に対してその内容を明らかにして、その使用が第三者の著作権等を侵害するものでないことについて乙の確認を得なければならない。

【留意点】

  • 講演等で第三者が著作権等を有する著作物等が使われる場合は、講演等の利用にあたり、原則として、第三者の了解が必要になりす。そのた、第三者が著作権等を有する著作物等を使用する場合は、事前に主催者とその扱いについて協議しておくことが考えられす。さらに進んで、使用する著作物の利用について第三者から利用の了解を得る責任を負うのは誰か(講演等を行う者か、主催者か)を予定ておくことも考えられす。
(イ) 契約書に記されていない利用に関して規定することもありす。

 契約書に記されていない利用を行う場合は、改て講演等を行った者の了解を得る必要がありす。このことを確認するた、このような場合は別途協議する旨の条項をけることがありす。

規定例

第○条(その他)

 本契約に定めのない利用態様については、甲乙別途協議の上、利用の可否、対価等につき決するものとする。

(ウ) 利用の了解を得るのではなく、講演等の著作権を譲渡してもらうことも可能です。
  • 著作権は譲渡できる権利です。そのた、理論上は、講演等の利用について了解を得るのではなく、講演者等から、その講演についての著作権を譲渡してもらうことも可能です。
  • 著作権が譲渡された場合は、講演等を行った者はその講演等についての著作権がなくなるた、似の講演等が行えなくなる(本講演等の主催者の了解が必要となる)ことも考えられす。そのた、講演等の著作権が譲渡されることはとんどないと思われすが、特別な事情等により著作権が譲渡される場合は、後でトラブルが発生しないよう、講演等を行った者と十分協議し、両者が納得した上で契約する必要がありす。なお、著作権を譲渡する場合、似の講演等を行うことについて、併せて(著作権の譲渡を受ける)主催者から許諾を得ておく等の方法も考えられす。