 |
私どももブロードバンドの急速な拡張という中で、テレビCMをインターネットでも流せないかという課題に取り組み、3年ほど推進や調整をやってまいりました。ここでも全く同じような問題が発生しています。当初、やはり権利問題の処理、それから技術的な問題といったところが中心になって、各業界団体さんを繋ぎながら一番いい方法は何だということで問題解決をやってきたわけです。それと同時に、広告主に実際のCMを出稿していただいて、各メディアさんにCMを流せる枠を作っていただいて流してみる。それによってユーザーがどう接触し、反応しているのか、そして広告主にどう満足していただけるかという広告効果についても検証してきました。
権利問題や技術の問題は、実は2〜3年も議論していると、当たり前ではないかというようなお話になってくるのではないでしょうか。それはコンテンツと言われる「番組」でもやはり同じことだと思います。確かに当初はそこが障害になるのですが、新しいことをやれば、そこには新しい問題が発生するわけで、その都度関係している皆さんで取り組めば、ルールは簡単にできるはずです。我々もそういった考え方で、問題をクリアしていく仕組みやルールを作り対応してきました。その辺についてはほぼ関係業界の中では落としどころは見えてきたという状態だと言えます。
ところが今お話を聞いていますと、コンテンツ、番組といわれるものは、実態として、まだ実験とか検証にすら至っていないのだなと感じます。ようやくそこに入りはじめたばかりで、今語られているのはほとんど技術の問題、あるいは送り手のビジネスモデルの問題だけで、視聴者、あるいはお金を負担していただく広告主がどう動かれているのか、どう感じられているのか、何を欲しがっているのか、これがまだ全然見えていない状態なのではないでしょうか。これは誰も経験していない新しいメディアなのですから、恐らくやりはじめないとだれも分からないのだと思うのです。
我々の場合はCMという限られた範囲ですから、やりはじめてみて、「あれ、こうではなかったな」ということが幾つもすぐに出てきました。ですから仕組みとしてはある程度できてきたのですが、これから何をしなければいけないかという点では実は大きな問題が出てきてしまいました。テレビCMをそのまま流すだけでいいのか、単なる二次利用でいいのかという問題に今ぶち当たりつつあります。今まで広告キャンペーンを実施するとなると、効果的にメッセージを伝えていくために新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネットといった広告媒体をメディアミックスというのですが、メディアの特性に合わせていろいろな組み合わせを考え、それぞれいろいろな手法を考えるわけです。当然メディアによってクリエイティブも違います。とはいえ、広告主側にもいろいろな事情があります。予算であるとか、準備の日程が短いとか。そうなりますと、例えば新聞と雑誌が同じクリエイティブだったりすることもあるわけです。しかし十分な時間と余裕があれば、本来すべてメディアによって表現が違うべきものだと考えられています。
テレビCMはもともと莫大なお金をかけて制作されていますし、CM自体は非常に効果があるということで、当然のことながらそれを二次利用したいという広告主側からの要望は強くあるわけです。従って、テレビだけで使っているのはもったいない、インターネットでも効果があるではないかということで使ってみると、ケースによりますが、やはりネット用にはここをこうしたほうがいいのではないか、クリエイティブ的にはここをこう変えたほうがいいということは沢山出てきたりします。一方では、テレビCMをそのまま使うという発想と同時に、フラッシュなどの比較的簡単な技術、映像制作の費用がかからない別の方法で動画の広告を作るという手法が生まれはじめています。これはネットという媒体特性に合わせてユーザーに対して他のメディアとは違うアプローチをしたいという要求が広告主さんからもあるということなのです。
これは今、どちらがどちらか分からない状態で進んでいます。ある部分ではユーザー自体がテレビと同じように受け身で見ています。その場合はインターネットにテレビCMを流すと大変効果的です。そうではなくて、コンテンツがインタラクティブに機能しているときにCMは邪魔だと言われるケースなど、いろいろあります。ですからこれはいろいろな戦略を立てて、メディアの特性に合わせて考えていかなければいけないというレベルに入ってきています。
同じように、コンテンツの話をお聞きしますと、その辺の検証が実はまだ始まっていないのではないかと思うのです。ようやくコンテンツが流れる、流れない、あるいは流そうと思うものが流れるか、流れないかというレベルのところで止まっている部分があるのではないかと思います。これが動きだしたら、多分いろいろなことが起こると思います。
やはり今日非常に面白いなと思って伺ったのは、第1部の吉村さんのお話で、ここにはたくさんのヒントがあったような気がします。一番近い話で言えば、メディアのシナジー効果です。同じコンテンツですが、テレビで流すときと携帯で見るときとでは全然違います。単純に言えば、予告編を見ればいいメディアと、本編を見るメディアは違うと思います。我々は生活の中で、とにかくすべてのメディアに接触しているわけですから、広告でもそれをうまく使い分け、バランスを取りながらコミュニケーションを考えなければならないのは我々広告会社も同様だと思います。そういう発想ができるから、多分コンテンツビジネスがうまく回るのだと思います。一つのメディアだけで単純に一つのことを考えていても、今は回らない時代だと思います。そこが、これからのポイントなのではないかと思います。 |