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次第 議事
会 長
ただ今の説明につき御質問御意見をどうぞ。
前 田
使用上の注意事項「(6)その他」の項の文字はどちらを標準とするのか。「襲」などは「瀧」を「滝」とした例から「」のように簡易化する必要はなかったか。
安 藤
上にある方の字体を標準とする。
「襲」を「」,「懸」を「
」などとすると,形がおちつかず,今までに用例もないので,これらのものは原形を保存した。
前 田
「(6)その他」にあげてある文字のうち,下の形の方が世間では多いようであるから,下の形を標準とした方がよい。「危」なども「巻」「圏」ではを己になおしてあるから,同様に己にしたらよい。
「」,「
」も用例がないというが,活字が小さくなるゆえ,略したら読みよいと思う。
安 藤,林
「」(フシヅクリ)がもとのままのものは,危のほかに,範,犯,腕などがある。
前 田
巻,圏はどうして残さなかったのか。
安 藤
部分が全体に対してどの程度大きいのか小さいのかを考えて決定したのである。また,襲,懸を,
としなかったのは,先ほども申しあげたように用例のない新しい字体を作ることは,この際さけた方がよいという考え方からである。
は,令の形の方が活字関係から要求が強かったのでそうしたのである。
石 黒
新字体のために,今までの部首にあてはまらないものができたが,部首整理についてはこの字体表を発表する時に考えているのか,それとも部首は従来どおりとしておくのか。
安 藤
部首については,当用漢字発表の時から問題となっていた。これは根本的に考えるべきものであるから,急に改めるのはこの際むずかしいと思う。
井 手
主査委員のひとりとして御意見を伺いたい。※印のもののうち,こうして議案となってみるとどうかと思われるもの2,3を申しあげたい。
――間がつまった方がよい。
夢――くっつけて下までのばした方がよい。
蔵――もの足りない。ただし,臓の時はよい。
木 下
脈は読むときはよいが,書くときはこまる。医家でも通用する「脉」を採用したらと思う。歯は,米でなくメと書いたらいかが。
安 藤
その意見もあったが,主査会では脈の方がよいとの意見が多かった。歯もでは前進しすぎるという意見だった。
池 上
文部省当局にお願いしたい。新字体がきまれば,新しい教科書などに出てくると思うが,このために便利な学習辞書を考えてほしい。
保 科
国語課研究部で研究準備中である。
釘 本
学習辞書についても部首整理についても,目下研究を進めつつある。
佐久間
略字は,まだ世間に使われているものや,シナで使われている簡易字体の中からえらんで,もっといれたらよいと思う。また,網,綱はまちがいやすいが,アミは対角線を使う糸ヘンのない字を使ったらよい。権は学生などはと書く,観も筆写には
を使ってもよいという示唆があってよいと思う。価・芸は形がおもしろくない,芸は
の用例がある。
安 藤
今度の決定は行きすぎだとの非難があるのではないかと思われる。略字についてはどれが適当かは,主観的であるが,みんなの意見でこの辺でよくないかということにきまった案がこれである。しかし,当用漢字表の修正の時期が将来あると思うが,字体についてもそのときに,そういうことがあると思う。
佐 野
教養ある人でもウソ字を書くことがこれまで多かった。これは不勉強のせいではなくて,日本字がわるいからである。今回の提案はまことに喜ばしい。ぜひ,さっそく広く行われるように手配をねがいたい。もっとかんたんな案が後日示されたら,そのときも賛成したい。この案の成立の機会に委員として賛成する機会を得たことを喜ぶ。
安 藤
御賛成を得てありがたい。
会 長
反対意見はないか。この案について新聞・印刷関係と当局と話しあったことについて釘本氏から。
釘 本
御参考までに。この案の基礎としては,まず,活字字体協議会があって,印刷技術関係のエキスパートの意見がじゅうぶんはいっている。実施の点では,新聞社は採択されたらさっそく実行したいとのことである。
だいたい3年で大小の活字全部が改まる。印刷業界では,この字体の活字が全国にゆきわたるには15年ぐらいかかるが,やりたいと熱心に支持されている。
会 長
国語審議会における諸問題もひとまず片づいたとはいうものの,それはまだ第1歩にすぎず,根本的な研究審議の必要なことはいうまでもない。国語研究所を設けることについては,このたびだいたい財政当局から了解を得た。それについては稲田局長から。
稲 田
国語研究所の設置については,衆参両院でも熱心な支持を受け,予算審議でも約1000万円が計上され,近く国会に提出される。構成は,総務部,第1,第2の3部で所員50余名のほかに,外部にも調査を依頼する人を置く。
佐久間
略字はトーシャ版をかく人の書きかたから始まるのが多い。こういうものに対して,あらかじめ方向を示すことができればよいと思う。
(議)
(機)斗(闘)仂(働)などに対しても統制し,根拠ある考案を募集することを考えたらと思う。なお,この表で,礙は碍子と使っているから,碍と使ったらどうか。
会 長
個々については,いろいろの御意もでたが,全体としては御賛成を得たと認めてよいか。
(異議なしの声あり。)
原案を認めて下さったことと存じ,実行につきいかんなきように期したい。
松 坂
せっかくこのように字体をきめても,世間には,これをはばむものがある。人名についてもであるが,地名の書きかたについては,急にはできぬであろうが,ある期間を定めて,何か指示するようにしてほしい。最近「磐田市」という新しい地名ができた。また横書きは左書きとすることに前にきまったが,横書きの決定は実行されていない。ここに決議したらと思う。
保 科
国語審議会では横書きにする場合は左書きするときめたのであって,すべてを左横書きすることにきめたのではない。地名については,この総会後の仕事として,その準備をすすめている。
次 官
各官庁で使うことば文章をやさしくする協議会が内閣にこんどでき,その仕事の一つとして地名をやさしくすることも考えている。
会 長
小川鉄道大臣,教科書では岡部文部大臣当時,右横書きのことがあったが,いまは左となっている。
松 坂
小川氏のは昭和2年のことであり,昭和17年の国語審議会の決定以前のことである。ところが岡部氏はその後に,この決定を無視されたのである。また,左横書きのことは,当用漢字表や現代かなづかいのような公式の発令はないままになっている。
釘 本
当時は手続きとして内閣に持って行くような行政的な選びかたは行われていなかったのである。だから,当用漢字表などのような発表のされかたはされなかったので,当局がにぎりつぶしたのではない。今は,「横書きするなら左から」は実施されている。近くできる公用文改善協議会でも審議されることと思う。
有 光
まことに恐縮ながら,大臣がお礼かたがた,ごあいさつ申し上げるはずのところ,6・3制の予算のことで議会につかまっていて時も移るので一応わたくしからごあいさつ,お礼を申しあげたい。
各位の熱心な御協力によって,10数年来の懸案が,ことごとく解決した。おいそがしい時に,熱心においでを願ってこの結果を得たことは,文部省としてまことにありがたい。厚くお礼を申しあげる。しかし,一応片づいたとはいうものの,これらは当座の解決で,最後的なものではない。今後は科学的実証的に文化の将来を見とおして,慎重な研究をやって行かなければならないのである。熱意と御協力に対して心からお礼申しあげる。
会 長
大臣のおいでも,はかりがたいゆえ,これで散会する。次官のお話のとおり10数年来の懸案が一応解決したが,国語に関心をもつ教養ある人,専門家を集めて,これらのことを決定したことは,日本の今の文化のありさまと,将来にとって,ふさわしい仕事であった。
これで応急の地ならしはできたが,国語問題は長い文化的な意義をもち,生きた問題ゆえ,生はだから血をだすこともあり,議論もでる。それらの事情を考えつつ,さいわいに研究所もできるので,根本的な生きた研究をして,後世の国民から感謝されるような仕事をしたい。それがわれわれの任務であろうと思う。
それについて,わたくし自身としてごあいさつしたい。21年のなかごろ,審議会長として3,4回にわたって重大問題にあった。これらのことについては,現世と後世について責任を負わねばならないが,多忙のため,しっかりした信念にもとづいてやることができず,たえず良心に対して不安を感じていた。それでこれを機会に審議会長をごめんを願うことにした。不適当の身でありながら,重大問題を処理し,いろいろとごやっかいになったことをおわび申しあげる。
安 藤
代表してごあいさつ申しあげる。安倍先生には,いろいろな御都合で会長をやめられることになった。わたくしどもとしては,もっと長く,本会のめんどうをみていただきたかったのに,まことにおなごりおしい。先生は文化人として視野広く常に啓発していただいた。感謝にたえない。
深じんの敬意を表する。(拍手)
保 科
ではこれで散会とする。
答 申
昭和23年6月1日
文部大臣 森 戸 辰 男 殿
国語審議会会長 安 倍 能 成
さきに,本会に御諮問になりました事項のうち,漢字の字体整理を目下の急務と認め、慎重審議の結果,別冊「当用漢字字体表」を議決いたしました。
右答申いたします。