2014年10月2日
平城宮跡資料館 平成26年度秋期特別展
「地下の正倉院展-木簡を科学する-」
奈良文化財研究所 展示企画室アソシエイトフェロー 中村 玲
木に墨で文字を書きつけた「木簡」。私が初めて木簡を知ったのは,平城京内にあった皇族・長屋王の邸宅跡から発見された木簡について,小学校の国語の授業で勉強したことがきっかけでした。アワビの荷札からわかる食事の様子など,古代の皇族の暮らしぶりを伝えてくれる木簡の存在を知り,こんなものがあるんだ!と,ときめくような気持ちで教科書の写真を眺めていたのを今でもはっきりと思い出すことができます。
もちろん長屋王邸以外にも,平城宮・京跡では発掘調査によってたくさんの木簡が出土しています。奈良文化財研究所では,平成19年から秋期特別展「地下の正倉院展」を継続的におこない,年に一度,本物の木簡を皆さんにご覧いただいています。奈良国立博物館で開催される「正倉院展」の時期にあわせていますが,同じ奈良時代の品でも,こちらは奈良の都の地下に眠っていた木簡についての展覧会となっています。
これまで木簡は,およそ1300年前の貴重な出土文字資料として,そこに記された文字や内容に強い関心が寄せられており,「モノ」としての側面についてはあまり注目されることがありませんでした。そこで,今年の「地下の正倉院展」は「木簡を科学する」と題し,木製品や考古遺物という視点から木簡について取り上げてみたいと思います。
例えば,木簡がどんな種類の木からできているのか,どんな木取りをしているのかという,木製品としての特徴を分析するための,顕微鏡などを使った詳しい観察の様子をご覧いただきます。また,木簡は長い間土の中に埋もれていたため,光や乾燥に弱く,丁寧に扱わないとすぐに腐ったり壊れたりしてしまいます。このような弱い考古遺物である木簡を後世に伝えていくための,高級アルコール含浸法や真空凍結乾燥法などの科学的な保存処理の方法についてもご紹介します。さらには,X線CTや3Dプリンターを使った木簡の調査技術の発展の可能性にも迫ります。保存上の問題から普段は公開が難しい木簡ですが,この「地下の正倉院展」は,年に一度だけ皆さんに本物の木簡を多数ご覧いただける貴重な機会となっています。木簡の「モノ」としての特性,科学的な見方にも触れていただくことができれば幸いです。
また,今年は,保存科学や年輪年代学,古環境の復元などについて調査研究をおこなっている,当研究所埋蔵文化財センターの設立40周年にあたります。今回は,当センターのこれまでの歩みや,各研究室の最新の研究成果などを写真パネルで紹介する「埋蔵文化財センターの40年」も同時に開催します。こちらもあわせてぜひご覧ください。

顔の絵が描かれた柾目材の木簡
奈良時代・8世紀
奈良文化財研究所蔵
展示期間:
(Ⅰ期)10月18日(土)~31日(金)

板目材の木簡(長屋王家木簡)
奈良時代・8世紀
奈良文化財研究所蔵
展示期間:
(Ⅲ期)11月18日(火)~30日(日)

鹿肉に付けられた木簡
奈良時代・8世紀
奈良文化財研究所蔵
展示期間:(Ⅱ期)11月1日(土)~16日(日)
奈良文化財研究所平城宮跡資料館
〒630-8577 奈良県奈良市佐紀町247-1
- 問合せ
- 0742-30-6753(奈良文化財研究所連携推進課)
- 交通
- 近鉄奈良線大和西大寺駅北口より東へ徒歩10分。
- 開館時間
- 9:00~16:30(入館は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(祝日の場合は翌日休館。ただし11月4日は開館)
- 観覧料
- 無料
平城宮跡資料館 平成26年度秋期特別展
「地下の正倉院展-木簡を科学する-」/「埋蔵文化財センターの40年」
- 開催期間
- 10月18日(土)~11月30日(日)
(Ⅰ期)10月18日(土)~31日(金)
(Ⅱ期)11月1日(土)~16日(日)
(Ⅲ期)11月18日(火)~30日(日) - 場所
- 平城宮跡資料館 企画展示室
- ホームページ
- 奈良文化財研究所平城宮跡資料館ウェブサイト
http://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/ - 研究員による
ギャラリートーク - (Ⅰ期)10月24日(金)
(Ⅱ期)11月7日(金)
(Ⅲ期)11月21日(金), 各回14:30から - 展示解説
- 館内では,ボランティアガイドによる解説を行っております(無料)