2014年11月5日
天皇皇后両陛下傘寿記念 第66回正倉院展
奈良国立博物館 学芸部長・内藤 栄
正倉院宝物と聞いてどのような宝物を思い浮かべるだろうか。多くの方は,シルクロードを伝わって来たペルシアのガラス器や,天平美人を描いた屏風,唐風の楽器,美しい装飾の鏡などだろうか。どれも歴史の教科書でなじみある宝物である。そのいずれかが正倉院展に出陳された年は,ポスターのデザインになり,展覧会の目玉になるなど話題を集めることになる。天皇皇后両陛下の傘寿をお祝いして開催される今年の正倉院展は,そのいずれもが出陳されている。

鳥毛立女屏風 第5扇(北倉)
6扇のうち4扇が出陳される鳥毛立女屏風は,古代の美人画として名高い。ふくよかな女性が樹下に坐り,あるいは立つ様子を描いたものである。顔は彩色されているのにもかかわらず,髪は白く,服も大まかな文様を墨描きしただけで,意外と素っ気ない。実はこの部分が名称の「鳥毛」の由来となった部分で,日本の野山にいるヤマドリの羽を貼っていたのである。ヤマドリは茶色の羽をベースに黒の斑が入るから,この屏風の当初の姿は全体に茶系であったのかもしれない。古代の工芸品には,玉虫の羽を金具の下に敷き詰めた玉虫厨子(奈良・法隆寺,飛鳥時代)のような作品もあるから,美しいと感じた自然の材料を画材に用いることは珍しいことではなかったのかもしれない。きっと,豪華な毛皮を思わせる衣装は,絵の具とは違う艶やかさを見せていたことであろう。

鳥毛立女屏風 第5扇(部分)
ところで,この屏風は日本の鳥の羽を使っていることが示すように日本製である。しかし,それにしても唐風である。奈良時代,遣唐使が唐の文化を日本に伝えたことは知られているが,単に品物を輸入するだけでなく,美術品の手本となる図柄や見本を持ち帰っていたことを物語っている。遣唐使は日本で作ることができる品物は日本で作るべく,図柄だけ持ち帰ったのだろう。
それと対照的な関係にあるのが,ガラス器の白瑠璃瓶である。これは西アジア(おそらく現在のイラン)で作成され,陸路と海路を経て遠く日本にまでやって来た。なぜ,割れやすいガラス器を日本に運んだのか。答えは簡単である。日本で作ることができなかったからである。遣唐使や遣隋使たちは,日本の職人の技量を知っており,何を持ち帰るべきか,何は不要か(日本で作ることができるか)を判断し,輸入品を厳選していたのであろう。
正倉院宝物を見ていると,そのような先人たちの労苦,奈良朝の美術工芸のレベル,奈良朝の人々がどのような海外製品に憧れていたか,などが見えてくる。美しい宝物に接しながら,その裏にある先人の想いにも想像をめぐらしてみると,また違う面白さを発見できると思う。

白瑠璃瓶(中倉)
奈良国立博物館
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- 午前9時30分~午後5時まで(入館は各閉館の30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日。)
- 観覧料
- 一般520円(410円),大学生260円(210円)
※()内は20名以上の団体料金
※高校生以下及び満18歳未満,満70歳以上の方は無料です(年齢のわかるものが必要です)。
※障害者の方とその介護者各1名の方は無料となります(障害者手帳が必要です)。 - ホームページ
- http://www.narahaku.go.jp/
「天皇皇后両陛下傘寿記念 第66回 正倉院展」
- 開催期間
- 10月24日(金)~11月12日(水) ※会期中無休
- 開催時間
- 午前9時~午後6時
※金曜日,土曜日,日曜日,祝日は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで - 観覧料
- 当日 一般 1,100円(1,000円) 高校生・大学生 700円(600円) 小学生・中学生 400円(300円)
オータムレイト 一般 800円 高校生・大学生 500円 小学生・中学生 200円
※( )内は責任者が引率する20名以上の団体料金です。
※オータムレイトチケットは,閉館の1時間30分前より入場できる当日券です。(販売は当館当日券売場のみで,閉館の2時間30分前から販売します。) オータムレイトチケット購入者には,記念品を進呈します。
※障害者等とその介護者1名は無料です。
※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は,当日券を400円でお求めいただけます。観覧券売場にてキャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出,学生証を御提示ください。 - 展覧会詳細
ページ - http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2014toku/shosoin/2014shosoin_index.html