2014年12月3日
博物館に初もうで~ひつじと吉祥~
特別展室研究員・金井裕子
平成27年は干支で乙未,未年にあたります。東京国立博物館では毎年お正月に「博物館に初もうで」と題して,その年の干支についての展示を行っておりますが,今年はその12年目として,地中海から東アジアまでの遺物を通じてヒツジ(羊)とお正月にふさわしいおめでたい作品の数々を御紹介いたします。
羊は紀元前より人類にとって最も身近な動物の一つとして,東洋,西洋の別を超え,神への最適な捧げものとして考えられてきました。古代メソポタミア文明ではすでに紀元前7000年ごろから羊を家畜化していた跡がありますし,古代中国ではそれ以前から羊とともに暮らしていた痕跡もあるといわれています。肉や乳,脂肪は人々の大事な栄養源になりましたし,皮や毛は衣類だけでなく羊皮紙などにも加工され,人類発展の歴史においてなくてはならない存在でした。
羊頭部形垂飾 地中海東岸又はカルタゴ出土 紀元前7世紀
ユダヤ教,キリスト教,イスラム教においてもっとも重要な動物と認識されていた羊は,やがて「よきもの」の意を備えるようになり,このうち古代中国では,青銅器などに羊文が表わされたほか,「美」「善」「祥」といった言葉にも羊の字が使われるようになります。
青玉筆洗 中国 清時代・19世紀 東京国立博物館蔵 神谷傳兵衛氏寄贈
羊に対する吉祥イメージはアジア全域に広がり,日本でも『日本書紀』によれば推古天皇7年(599),百済より「羊二頭」が贈られたとあるのをはじめとして,『百練抄』ほか,異国からの献上品としての記載が散見できます。正倉院宝物にも,羊文を表わした白綾や,羊を描いた臈纈屏風が存在しています。
一方で,羊の生息しない日本では,十二支のひとつや異国の動物としては認識されていました。
重要文化財 十二神将立像 未神 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
しかし羊自体を吉祥図様として扱うことは定着しなかったようで,現代人がその姿をみるとまるで山羊。明治時代に実物などが持ち込まれるまで,日本人は羊と山羊の区別はついておらず,いずれも半ば想像上の動物に近い存在として表現されていたことがうかがえます。
今回の「博物館に初もうで」では,Ⅰ「アジア各地域の羊」,Ⅱ「十二支」,Ⅲ「日本人と羊」,Ⅳ「吉祥」という4つの切り口から,地中海から東アジアまでの遺物を通じて,羊と人との関係を探ります。併せてお正月にふさわしい作品の数々を御紹介いたしますので,新年はぜひ上野のお山へお越しください。
東京国立博物館
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