2016年11月18日
秋期特別展「地下の正倉院展 式部省木簡の世界―役人の勤務評価と昇進―」
奈良文化財研究所企画調整部展示企画室 アソシエイトフェロー 三輪仁美
1300年前の都の遺跡・平城京跡。その地下には,当時の人々の生活の痕跡が今もそのまま埋もれています。正倉院に伝わる文書や聖武天皇遺愛の品々に匹敵する価値を持つという意味合いをこめて,「地下の正倉院」と呼ばれることがあります。奈良文化財研究所では,2007年より「地下の正倉院展」を開催し,平城宮・京跡から発見された木簡の実物を展示しています。10回目となる今年は,これまでにまとまった展示をしたことのない,式部省木簡を御覧いただきます。
勤務評価に使われた木簡(表面と右側面)
奈良時代・8世紀 奈良文化財研究所蔵
展示期間:(Ⅱ期)11月1日(火)~13日(日)
式部省とは,役人の人事を主に担当する役所です。1966年に実施された発掘調査では,平城宮跡で初めて,一度に一万点を超える木簡が出土しました。その多くは,式部省内で行われた下級役人の勤務評価に使用された,側面に孔をもつ特徴的な形状の木簡とその削屑です。孔をあけるという特殊な加工は,役人一人一人の個人カードの体裁をとる木簡を並べ替え,かつ紐を通してその順序を固定するための工夫と考えられています。
考課(毎年の勤務評価)に使用された木簡の削屑
奈良時代・8世紀 奈良文化財研究所蔵
展示期間:(Ⅰ期)10月15日(土)~10月31日(月)
選叙(勤務評価を数年分まとめて昇進を決定する)に使用された木簡の削屑
奈良時代・8世紀 奈良文化財研究所蔵
展示期間:(Ⅲ期)11月15日(火)~11月27日(日)
削屑は木簡の文字を消すために,その表面を小刀で削りとることによって生まれたものです。中には20cmを超える長大なものもありますが,ほとんどが5cmにも満たない薄い細片です。消しゴムなどがない当時,紙に書いた文字は消せませんが,木簡だと小刀で削るだけでまっさらな状態にすることができます。古代の人々は木の特性を生かして木簡を再利用していたのです。
大学寮から宿直担当者を報告する木簡
赤外写真(拡大)
長屋王の変や大仏開眼など,奈良時代の主要な出来事は『続日本紀』という歴史書によって知られていますが,そこには描かれなかった事実が木簡によって明らかになることがあります。例えば,大学寮(式部省の管轄下で役人の養成を担当する)から宿直担当者を報告する木簡のなかに「破斯清道」という人名が書かれているものがあります。破斯(ふつうは波斯とも表記する)はペルシャのことで,かねてより交流のあった中国や朝鮮半島だけでなく,西域から渡来した人やその子孫が働いていたことがわかりました。
いまからちょうど50年前に出土した式部省木簡とその削屑は,日本の木簡研究史上かけがえのない発見でした。その一端を今回の展示で御紹介いたします。木簡の使い方や,1300年前に出世を目指して懸命に働いた下級役人に親しみを感じていただけましたら幸いです。
奈良文化財研究所平城宮跡資料館
(住所)〒630-8577 奈良県奈良市佐紀町
- 問合せ
- 0742-30-6753(奈良文化財研究所連携推進課)
- 交通
- 近鉄奈良線大和西大寺駅北口より東へ徒歩10分
- 開館時間
- 9:00~16:30(入館は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(10月31日は開館)
- 観覧料
- 無料
- ホームページ
-
奈良文化財研究所平城宮跡資料館ウェブサイト
館内では,ボランティアによる展示解説を行っております(無料)
秋期特別展「地下の正倉院展 式部省木簡の世界―役人の勤務評価と昇進―」
- 開催期間
- 10月15日(土)~11月27日(日)
- 場所
- 平城宮跡資料館 企画展示室
- ギャラリートーク
- 10月21日,11月4日,18日(いずれも金曜日)各回14:30~